医療が社会に行き渡るために、求められる技術革新〜第10回NEDOピッチレポート~

NEDOピッチには、優れた技術と発想力を持った起業家たちが集まっています。そんな起業家と、長らく日本を支えてきた産業が結びつき、次の時代を創っていく。第10回目となるテーマは「医療」。高齢化などにより医療負担が今後増加することが予想される中で、技術の力はどのように未来を変えていくのでしょうか。
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「医療」分野に技術革新が求められるワケ

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医療機器・医療用ソフトウェアベンチャーマップ(作成:トーマツベンチャーサポート)
1970年代に指摘されるようになった「高齢化社会」。そして、現代病とも呼ばれる生活習慣病など、健康、ヘルスケア分野の注目度は年々高まっています。注目の高まりに比例して増大しているのが医療費。

厚生労働省の医療費の動向調査(※)によると、毎年2〜3%ずつ負担が増えており、平成26年には国民ひとり当たりの医療負担は年間31万円の公費が投入され、合計で40兆円にもなります。

特に75歳以上はひとり当たり年間93万円、合計では全体の約3割を占める14.5兆円。2025年には団塊世代が75歳を越えるため、医療負担がさらに重くのしかかることも予想できます。一方で、医療の働き手は人数が横ばい、職種によっては減少傾向。一人ひとりが担当する患者が増え、現場が疲弊していく悪循環が起きることも容易に予想できます。

政府が決議した「日本再興戦略改定2016」では、医療・介護分野のICT(Information and Communication Technology)の技術開発を進めていくことを発表しています。医療分野では、医療機器同士のネットワークを構築するほか、画像診断データの分析を自動化、遠隔治療など、病院だけではなく在宅医療や地方の医療現場を支援できると期待されています。

ICTやIoT(Ineternet of Things)を医療に取り入れていくことへの期待度は、薬事法の改定からも感じ取れます。いままで薬事法で認定されていたのは医療機器(ハード)だけ。改訂後はソフトウェアも認定対象になりました。

薬事法に認定されることは大変ですが、患者などエンドユーザーが保険適用範囲内で利用できるようになるため、他業種で技術・開発力を磨いてきた企業、そして発想力を持った起業家たちが新たな市場として次々に挑戦をしています。

2016年7月に開催した第10回NEDOピッチのテーマは「医療機器・医療用ソフトウェア」。医療現場の従業者、受診者、医療機器や医療用ソフトウェアに携わる人たちが協力し社会をより良い方向に進めるための技術、アイデアを4人の起業家が熱をこめて語ってくれました。

※厚生労働省プレスリリースより引用:
http://www.mhlw.go.jp/topics/medias/year/14/dl/iryouhi_data.pdf

患者にとって治療がベストな選択とは限らない

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最初に登壇したのは「いびき」に着目したセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ(以下、7D)。同社では「世の中にないモノを創り出す技術集団」として、テクノロジーで生活をより良い方向に進めていくことを目指しています。

「現在、いびきは国民の2000万人以上が潜在的に抱えています。そのうち、治療を行っているのは50万人以下、治療を続けている人はさらにその約半分です。弊社が開発した『ナステント』は、就寝時に鼻に入れるだけでいびきを防ぐことができます。ナステントだけで完治はできませんが、気軽に装着することで、いびきを防ぐことができる。そのため、いびき対策の選択肢のひとつとして考えてもらいたい」(7Dヘルスケア事業部 平田裕美氏)
いびきを防止する機器はすでに世に出ていますが、鼻や口を覆う機器を装着するなど負担が大きい。負担が大きいため、治療をはじめても続かないことも……。そのため、ナステントは気軽に装着できることを特長にしています。医療機器ではなく、ライフスタイルとして取り入れてもらいたいと考え、医療機関、調剤薬局とも連携を深めていきたいと語りました。

続いて、角膜矯正コンタクトレンズ「オルソケラトロジーレンズ(以下、オルソレンズ)」を開発、提供しているユニバーサルビューが登壇。オルソレンズは就寝時に装着することで、眼の角膜を矯正し、朝レンズを外したあとは一日裸眼で生活ができる視力が回復する特殊なコンタクトレンズです。

「視力矯正はこれまでメガネやコンタクトレンズが一般的。最近ではレーシック手術が現れましたが、第4の矯正方法としてオルソレンズを使ってほしいです。例えば、お子様など活動的でメガネは不安、レーシックが受けられない世代には最適な選択肢だと考えています。承認まで平均2年半かかると言われていた薬事承認も1年半で取得することができました」(ユニバーサルビュー代表取締役 鈴木太郎氏)
同社ではオルソレンズのほか、“度数がない”ピンホールコンタクトレンズを開発中。これは眼球に光が入る量を調整し、レンズひとつで近視や遠視、乱視、老眼にも対応することを目的にしています。実現すれば検査が必要なくなり、途上国にも対応可能。適用範囲が広いため、今後は医療機器や電気メーカー、医薬品、半導体、光学分野などと連携していきたいと締めくくりました。

両社とも、新しい選択肢をひとつ増やすことで社会をより良い方向に進めることを目的にしていました。続いて紹介する登壇企業は医療の現場を助けることを目的としています。

医師と患者に生じる「人」不足を、ソフトウェアで解消したい

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株式会社情報医療は、創業者みずからが医師として感じた課題とその解決方法をカタチにしています。慢性疾患を持つ患者は、健康を維持するために服薬に頼っていることが多い。しかし、飲み忘れる、「良くなったかも」と勘違いをしてしまうなどを理由に1年間で半数以上の患者が服薬をやめてしまっている。同社代表取締役の原氏はそのように指摘しています。

「私たちが開発した『CURON』によってスマホがあなたの診療室になる。自宅にいながら受診でき、必要に応じて処方箋の配送、薬の決済までがスマホ上で行えます。患者にとっては通院の負担が少ない。医師にとっては対面診療の時間を増やすことができます。医師と患者の双方向のコミュニーケーションを改善していきたいと考えています」(情報医療代表取締役 原聖吾氏)
CURONは機械学習、深層学習技術を用いて使われれば使われるほど洗練されていきます。現在、収集しているデータを使って、京都大学と共同研究し、受診・処方継続率の効果検証も実施。CURONに搭載している疾患マネジメントの人工知能エンジンを製薬企業や医療機器メーカー、デバイスやソフトウェア、システム開発の現場にも役立てていきたいと原氏は語りました。

最後に登場したLPixel(エルピクセル)は、国立がん研究センターなどと共同で、人工知能を用いた画像診断ソフトウェアを開発しています。レントゲンをはじめCT・MRIなど、医療現場では多くの画像が利用され、技術の向上に伴い画像の精度も高まっており、がんの早期発見につなげるケースも増えてきました。しかし、テクノロジーの進化により新たな課題も……。

「いま、がんを画像から発見できる読影医が減少傾向にあります。医療器具の性能が上がったことでこれまで気づけなかった病気に気づけるようになりました。しかし、10年前に比べて一人ひとりの作業量は3倍に増えてしまい、命の現場でありながら効率性を求められるようになっている。こうした悩みを解決するため、弊社では医療画像診断の自動化を目指しています」(LPixel代表取締役 島原佑基氏)
技術の向上が「人」の限界にぶつかってしまう……。しかし、人工知能が “兆候”を見つけ出すことで、読影医の作業量を減らすことは可能となります。さらに能動・深層学習を取り入れることで、年々診断の精度を高めています。こうした画像診断データを活用した細胞の検索エンジンも視野に入れて、より多くの医療機関や病院などと協力していきたいと意気込みを語りました。

医療現場で利用されるソフトウェアと聞けば難しいイメージを持ってしまいますが、実際は遠隔と繋いでいく、違和感を発見していくなど、身近な問題意識を改善に結びつけていくことだと感じさせるプレゼンでした。こうした技術がどのように医療を支援していけるのでしょうか。

医療には喫緊の問題がある=チャンスの多い黎明期である

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左から、LPixel島原氏、ユニバーサルビュー鈴木氏、情報医療原氏、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ平田氏
現在医療で利用されている機器の市場は、治療に関わる分野が全体の50%、続いて診断に関わる分野が25%と大きな割合を占めています。LPixel島原氏が語ったように、機器の性能は年々向上しているものの、それを使用する人の数、能力に限界が出てきています。

政府機関が期待を寄せているソフトウェア分野は、治療と診断も含めて医療に関係する機器を繋げていきます。今後、“穴”を埋めていく存在になっていくのではないでしょうか。

また、7Dやユニバーサルビューは、両社とも「選択肢のひとつになりたい」と語っていました。これは、本当に治療が必要な人に医療現場が集中できる「新しい概念のひとつ」にもなる。例えば、転倒して膝をすりむいたとき、水で洗って絆創膏を貼っておけばいいかもしれません。

しかし、「もしかしたら大変な怪我かもしれない」と病院に行けば、それだけ医療現場の負担になっていきます。気軽に医療に触れられることも大事ですが、それぞれが症状に合わせた治療方法を選択できるようになることも医療現場を助けることになるのではないでしょうか。

今後、医師の数に比べて、医療費とともに増える患者数が医療現場を圧迫していきます。株式会社情報医療が目指す遠隔診断など、患者側だけではなく医療現場の負担も随時減らしていくことが求められていきます。

そのために、医療現場の医師や患者などに最新技術を正しく知り、利用してもらう啓蒙活動が重要。「なぜ必要なのか」「どのように活用すれば良いのか」、医療機器や人がソフトウェア、ネットワークを通して交わっていくことで相乗効果を生みだしていく。今回のピッチでは、いま医療機器分野は黎明期に突入していることも強く感じさせられました。

NEDOピッチは、さまざまな産業で起きている課題に対する解決手段をなりえる技術を持つ企業を知り、聞き、話すことで大企業やベンチャーキャピタル等の事業担当者とつながる場所です。問題がさしせまった医療分野に新たな選択肢が、どのような価値を生み出していくのか、私たちも楽しみにしています。


【第11回NEDOピッチのご案内】
- テーマ: ドローン/モビリティ特集 - 日 時: 9月27日(火)18:00~20:00(受付開始:17:30~) - 場 所:NEDO川崎本部5F
- 参加費:無料
- 申込み:https://www.joic.jp/news/news_i21_u1.htm

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