日本の産業に「オープンイノベーション」を生み出す――JOIC設立の背景

日本の産業にイノベーションを創出し、競争力を強化させる――そうした目的のもと、JOIC(オープンイノベーション協議会)が2015年2月に誕生しました。今回は、JOICがどのようにして日本におけるオープンイノベーションを生み出す起点となってきたか。設立の背景とともにお伝えします。
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日本の産業をイノベーションから遠ざけてきたジレンマとは

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オープンイノベーションとは、端的にいうと「自社内だけではなく、外部のアイデアやサービスなどを組み合わせて、革新的なイノベーションを起こす方法」を表す言葉です。シリコンバレーなどの成功事例から、注目度が高まっているオープンイノベーション。しかし、これまで日本では十分に浸透していませんでした。

その理由のひとつに、大企業がイノベーションそのものに積極的ではなかったという点があります。大企業は既に多くの顧客を抱えているため、どうしても既存顧客を失いたくないという意識が働くもの。そうなると当然、新規事業によるイノベーションを狙うより、既存のサービス改善に優先度が高くなるのです。

そこで期待を集めてきたのが、ベンチャー企業でした。大企業がフォローしていない新規事業を積極的に狙うことができ、イノベーションを起こす可能性が高まるためです。

ただ一方で、ベンチャーにも特有の課題がありました。人材や資金などのリソースが十分でないことから、アイデアをビジネスとして実現させ、多くの人に届ける力が不足しがちなのです。

イノベーションの重要性を認識していても、大企業とベンチャー、双方がジレンマを抱えているためビジネスとして広がらない――この課題を解決するのが、“オープンイノベーション”に他なりません。

1を100にするのが得意な大企業と、0を1にするのが得意なベンチャー。この二者がつながることで、0が100になる。つまり、新たな顧客の価値を生み出すイノベーションが生まれ、そこから形づくられたサービスが、より多くの人に届くようになるという考え方です。

日本においても、オープンイノベーションの重要性が少しずつ認知されてきました。だからこそ今、私たちJOICには、オープンイノベーションの起点となる役割が求められています。

しかしそれは、今まで私たちが行ってきた企業支援と何が違うのでしょうか?

必要なのはビジネスを生み出すだけではなく「持続させる」支援

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JOICは、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が事務局を務めています。そのNEDOが1980年の創設以来掲げているミッションは、「エネルギー・地球環境問題の解決」と「産業技術力の強化」。もともと国家プロジェクトを推進する組織であったのですが、近年は中小企業やベンチャーなどに対する支援にも力を注ぐようになりました。

ただ、これらの支援は、オープンイノベーションという観点からみると十分なものではなかったのです。NEDOの設立当初から事業に携わり、現在はJOICの業務を担うイノベーション推進部長の久木田正次は、「JOICの事業は、NEDOが掲げるミッションの大きな柱となる」と考えていました。

久木田 「従来のNEDOによる企業支援を縦軸だとすると、JOICはそこに横串を通して、日本に革新的なイノベーションの種を作っていくイメージなんです。これまでNEDOとして個別に支援してきた企業同士をJOICがつなぎ、分野を超えて新しいビジネスを生み出していく。それはとても重要な仕事だと感じています」

新規事業をはじめる企業にとっては、当然ながら、補助金交付も重要な支援のひとつになります。しかしそれを行うNEDOの立場からすると、交付先が一度決まれば、次の交付先の審査に目が移ってしまう……。つまり、既に補助金を交付した企業の支援を、なかなか継続できないという課題があったのです。

さらに久木田が問題だと考えていたのは、支援先の経営者と1対1で顔を合わせる機会がなかったこと。事業計画書などの書類だけでは、経営者の覚悟や想いにまで触れることができません。

久木田は「事業を持続させるために本当に必要な支援とは何か?」と自分自身に問い続けました。その問いに対する答えが、JOICが目指す企業支援のあり方につながっていったのです。

オープンイノベーションを生み出すためのきっかけづくり

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2015年2月にJOICが設立。JOICは創設から間もなく、ベンチャーの個別支援だけではなく、大企業との連携を通じたオープンイノベーションを生み出す取り組みを次々と打ち出していきます。

まずJOICが実施したのは、ベンチャーと大企業をつなぐ取り組みでした。その名も「NEDOピッチ」。毎回テーマを決め、それに関連する事業を行う経営者などがプレゼンをしていくというものです。今までに設けられたテーマは、人工知能やドローン、VRなどさまざま。どれも、未来の社会に影響を与える新しいビジネス分野ばかりです。

未開拓の分野に果敢に取り組むベンチャー企業のプレゼンは、ワクワク感に満ちています。プレゼンを聞く企業の中には、東証一部上場の大企業も少なくありません。

さらに毎回、プレゼンに負けず熱気のこもる名刺交換会も行われます。ベンチャー企業の経営者と、さまざまな企業が次々とつながっていく――今まで双方の間に立ちはだかっていた壁が、少しずつ取り払われているのです。

JOICの取り組みは、他にもあります。そのひとつが、2016年7月に公開した「オープンイノベーション白書」。1年以上かけてその作成を担当したのは、イノベーション推進部総括グループ主幹の小栗和行です。彼は、この白書に大きな意義を感じていました。

小栗 「オープンイノベーションの必要性を理解していない経営者も多いですし、経営者の理解があって新規事業の組織が立ち上げられた場合でも、何からはじめたらいいのかわからない担当者が多いんです。そこで私たちはデータを集めてオープンイノベーションの現状を明らかにした上で、試行錯誤を繰り返しながら一定の成果を挙げている企業に取材して成功事例を集め、白書としてまとめました。実際のビジネスで役立つものを作ることができたという自負があります」

そもそもオープンイノベーションとは何なのか。実際はどのように進めればいいのか……。この「オープンイノベーション白書」では、企業経営者や実務者の疑問に対する答えを提示しています。現在は一般に公開され、企業研修の場などで活用いただくことが増えてきました。

こうした取り組みを通じて、JOICは日本の産業に対し、地道にオープンイノベーションの種をまき続けてきたのです。

オープンイノベーションの支援を、さらに拡大・深化させていく

設立当初は約200名だったJOICの会員数も、現在は約670名と、3倍以上に増えました。これは、これまで私たちが行ってきた取り組みの成果でもあり、オープンイノベーションへの社会的な関心の高まりを示しているともいえるでしょう。

2016年末、第13回目の開催を迎えたNEDOピッチについても、回を重ねるごとに参加企業が増え続けています。NEDOピッチを通じて行われた企業間の面談は160件以上におよびます。

その中から事業提携を視野に入れた秘密保持契約が15件締結され、大企業とベンチャーの具体的な事業提携まで進むケースも生まれており、今後の具体的なビジネス化が期待されます。

JOICとしては今後も、さらなる取り組みの充実を検討しています。まずは経済産業省に事務局を置くベンチャー創造協議会を吸収合併し、さらに規模を拡大させていく予定です。そうした施策により、日本の企業からオープンイノベーションが生まれる可能性をどんどん高めていきたいと考えています。

久木田 「規模の拡大だけではなく、支援もさらに深化させていきたいと思っています。大企業とベンチャーの連携のために、もっと直接的な支援ができるのではないか、と。たとえば、個別の企業に合わせたピッチイベントの開催や、公共調達への企業のマッチングなどですね。さまざまな支援の形を、公的機関としてのあり方を踏まえながら模索していきます」

JOICは今後も、さまざまな取り組みを通じて、企業にとって価値ある支援を実施し続けていきます。オープンイノベーションの取組を推進することによって、日本の産業におけるイノベーションを創出し、企業の競争力強化に貢献していくために――。

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