大企業がイノベーションのためにできること ~第4回JOIC異業種交流会レポート~

オープンイノベーション協議会(JOIC)はオープンイノベーションの情報交換を目的として、異業種交流会を開催しています。第4回目のテーマは「オープンイノベーションのハブ役になるには」。長い歴史を持つ大企業は、どのようにしてオープンイノベーションを取り入れ、革新的なビジネスをはじめたのでしょうか。
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誰もが手探りのオープンイノベーションを推進させるには

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自社内だけではなく、外部のアイデアやサービスなどを組み合わせて、革新的なイノベーションを起こすーー。日本政府においても、大企業の新規事業担当者やベンチャー企業を選抜してシリコンバレーに派遣するなど、「オープンイノベーション」を生む気運が高まっています。

そして、オープンイノベーションを推進するために必要不可欠なのが”ハブ役”。社内の部署間や、自社と他社など、多くの調整が必要となるからです。様々な当事者の利害を調整してオープンイノベーションを起こし、具体的なビジネスにつなげる。ハブ役にはそうした調整能力が求められます。

とりわけ大企業の中でハブ役を担うことは困難を伴うもの。関係する当事者が多いため、調整が複雑になるのです。時には、大規模の顧客に合わせたビジネスを作るために、複数のベンチャーのビジネスをつなぐことも。既存事業とのバランスも考える必要があります。

そうした状況にあって、これから新たにハブ役を担おうとする人は、オープンイノベーションを推進する前の段階で、必ず多くの疑問にぶつかります。まずは何からはじめればいいのか?

メリットやリスクは? 自社のリソースをどのように活用できるのか……? 先進的な事例がまだ少ない現在、こうした疑問に答えてくれる場が求められます。

JOICの異業種交流会は、こういった疑問を抱える人がつながり、情報交換によりオープンイノベーションを進めてもらうことを目的としています。オープンイノベーションは一足飛びに実現できるものではありません。一つひとつの問題点を解決し、その積み重ねにより実現できるものなのです。

2017年2月に開催した第4回異業種交流会では、歴史ある大企業の中でオープンイノベーションのハブ役となった担当者に注目。これまでの意識を変え、イノベーションを生み出してきた2社のゲストスピーカーにより、活動内容や工夫した点などが紹介されました。

大企業が感じたベンチャーとの圧倒的な意識の差

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最初に登壇したのは、森永製菓株式会社。同社は、顧客の嗜好やライフスタイルの変化に対応するため、2014年4月に新領域創造事業部を起ち上げました。チョコボールやハイチュウといった知名度のある商品を多数扱う同社ですが、新領域創造事業部の部長の大橋啓祐氏は、新たな事業の芽をまかなければならないと言います。

大橋 「世の中の変化に対応できない企業は淘汰されます。昨年をなぞるような仕事をしていては、昨年と同様な業績にはならない。既存事業だけでは立ち行かなくなる時代が、すぐそこに来ているんです」

新しいビジネスを創造するために何をすべきかーー。大橋氏は模索する中でオープンイノベーションという言葉を知ります。そこで開催したのが「アイデアソン」。この取り組みは、森永製菓の社員とベンチャー企業がチームを組みビジネスプランを組み立てるというもの。ここで大橋氏が痛感したのが、自社とベンチャー企業との意識の差でした。

大橋 「我々が『こんなことをやりたい』と言うと、ベンチャーの方は『すぐにやればいい』と返すんです。圧倒的な意識の差を感じました。ビジネスプランを考えるにしても、ベンチャーと一緒に考えることで、既存の製品やプロモーションを超えた、まったく新しい発想が出てくるんです」

オープンイノベーションの重要性を認識した森永製菓が次に打ち出したのが、「森永アクセレレーター」。起業家や事業家を一般公募し、同社と共同して事業開発を推進させるものです。さらに、社員をベンチャー企業に出向させる取り組みも開始。同社の事業は、徐々に外に向かって開いていきました。

こうした取り組みを通じてユニークなサービスが生まれました。ひとつは、「おかしプリント」。スマートフォンで撮影した写真を使って、オリジナルのお菓子をつくることができるのです。さらに、スマートフォンで決済できるオフィス向けの置き菓子サービスも開始。これらのサービスは、他社と提携しオープンイノベーションを推進した結果生まれました。

大橋氏は、オープンイノベーションにより新規事業を生み出すために必要なことは、第一に社員のマインドセットを変えることにあると考えています。「今すぐに動く」という意識を持つことが重要だと語り、締めくくりました。

オープンイノベーションが生み出す“金銭以上”の価値

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次に登壇したのは、西日本電信電話(NTT西日本)。同社は、オープンイノベーションによるサービスを既に実現しています。たとえば次世代STB「光BOX+」。テレビを用いて様々な体験ができるサービスです。このサービスにつながったのがベンチャー企業との提携。同社のビジネスデザイン部で事業開発を行う中村正敏氏は言います。

中村 「大企業はブランドや資金、販路を持つため、1を10にするのは得意。ところが0から1という領域は不得手。そこで、スピードやアイデア、行動力で勝るベンチャー企業とつながることで、それぞれの不足を補い合うことができるのです」

オープンイノベーションを生み出すには、まずは人のつながりを作ることが大切。同社では、ハッカソン、ビジネスコンテスト、アクセレレータープログラムなどの取り組みにより、垣根のないオープンな環境でつながりを生みだしています。オープンな場からはじまり、少しずつ緊密な関係を築いていく。そのためのきっかけづくりをしているのです。

こうした取り組みについて、同社は、時にはテレビを用いて大々的に社外に発信しています。この発信により、面白い取り組みをしているということで、同社に興味を持つ人が増えてきました。ビジネスを社内で閉鎖的に進めるのではなく、外に出していくことにより、思わぬ効果もありました。

中村 「新しい取り組みを進めたことで、ある調査では就職ランキングが300台から100台まで上がりました。いい人材が来れば、さらに社内でオープンイノベーションのマインドが育っていくことになります。この価値は途方もないものです」

同社はさらに、「リチャレンジ制度」として、転職した社員が戻れるように社内整備をしました。画期的なのは、社外に出ていた期間を除外せずに、同社での待遇を与えるという点。同社のビジネスを知り、さらに他社でも仕事をしてきた人材が戻ってくれば、オープンイノベーションを進める上で大きな活力となってくれることでしょう。

最も必要なのは、当事者の意識を変えること

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2社の活動紹介のあと、参加者を交えた座談会が行われ、参加者から登壇者に対し多くの質問が投げかけられました。質問の中で目立ったのが、オープンイノベーションを進める上での社内の調整について。企業には、さまざまな考え方を持つ人がおり、中にはオープンイノベーションに積極的ではない人もいるのです。

しかし、NTT西日本の中村氏は「反対をおそれていては何もできない」と断言します。

中村 「誰しも、新しいことをはじめるには不安が伴うもの。金銭的な利益の見通しを聞かれても、確実な答えを出すことはできません。しかし現代の大企業であっても、事業をはじめたときには不確実な状況にあったのです」

森永製菓の大橋氏は、同社の1899年の創業時のことを語りました。和菓子の文化が根付いていた当時の日本に洋菓子を持ち込んだ同社。まさに不確実な環境の中でイノベーションを起こしてきたといえるでしょう。と言います。

大橋 「当時のことを社内の人に考えてもらうことで、納得を得られることもあります。ハブ役を担う人は、社内にオープンイノベーションの必要性を認識させる立場にあるのです」

そのときにヒントになるのが、登壇した2社がたどったプロセスです。既存事業への危機感をきっかけとして、社内にオープンイノベーションの意識を浸透させ、ビジネスを具体化するというプロセスは、どの企業にも共通するものです。

JOICの異業種交流会は、このように参加者の疑問を解消するとともに、さまざまな示唆を与えます。期待されるのは、この交流会によりハブ役を担う人が育ち、オープンイノベーションを推進していくこと。将来、大企業とベンチャー企業がつながることによって、ダイナミックかつユニークなビジネスが生まれることを、楽しみにしています。

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