これまでにない”素材”で世界に挑戦する ~第17回NEDOピッチレポート~

NEDOピッチには、最先端の技術や新しいアイデアを持った起業家が集結。こうした起業家たちが企業と結びつき新たなビジネスを生み出しています。今回のテーマは、「素材」。独自の技術を持つベンチャーがどのように、ものづくりの根本となる”素材”に着目したビジネスを仕掛けるのか、各起業家たちが展望を語りました。
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日本には、画期的な素材ビジネスが生まれる土壌がある

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ビジネスを”素材”から考えるーーそんな発想をもつ人は、少ないかもしれません。しかし、あらゆる製品の製造工程の上流には、金属や繊維、木材など、さまざまな”素材”が存在しているもの。ですから、製品の質に直結する素材には、大きなビジネスチャンスが眠っているといえるのです。

日本は、世界でもトップクラスの知見や技術を有しています。建材や衣服、食品、さらには医療など、幅広いビジネスへ展開する可能性を秘めた”素材”だけに、画期的な新素材を開発することができれば、世界に先駆けたビジネスに成長させることも可能となるのです。

このような素材を扱うベンチャーに、日本の政府や行政も注目しています。2017年5月に、”素材”をテーマとして開催した第17回NEDOピッチにおいても、行政の担当者から期待の声が寄せられました。

経済産業省 製造産業局 素材産業課 課長補佐 辻井翔太氏
「世界の論文の引用数から見ても、日本は、材料化学、つまり素材の分野ではかなり上位に位置しており、優れた知見があるといえます。画期的な独自技術をもつ素材メーカーはすでにたくさんありますし、有望なベンチャーもどんどん出てきているんです」

素材ベンチャーのビジネスを成長させるためには、大企業の連携が効果的。ベンチャーが開発した有用な素材を、大企業がビジネスで活用したり、ベンチャーと大企業が共同して新素材を開発するなど、両者にとってWin-Winな結果が期待できるからです。


経済産業省 技術振興・大学連携推進課 課長補佐 下司剛生氏
「日本には、多くの研究開発の成果がありますが、61%の企業は成果を事業化せずに死蔵していると答えています。さらに、共同研究開発において、企業がベンチャーを相手に選ぶ割合も1.3%にとどまっています。こうした状況を改善し、事業会社とベンチャーの連携がもっと活発になれば、迅速かつ低コストで世の中にサービスを投入することができるんです」

たとえば、素材ベンチャーである株式会社Spiberは、タンパク質を発酵プロセスを経て、「人工クモ糸繊維」とする技術を持っています。この技術に目をつけたのが、スポーツウェア大手の株式会社ゴールドウイン。両社は現在、人工クモ糸繊維を用いた、高機能アウタージャケットなどの共同開発を進めています。

このように、さまざまな展開が期待される”素材”をテーマとした、2017年5月の第17回NEDOピッチ。最先端の技術とアイデアを持ち、未来のものづくりを変える事業を手がける5人の事業者が、プレゼンテーションにより語ってくれます。

分子レベルのこだわりが、モノの常識を変えていく

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最初に登壇したのは株式会社U-MaPです。名古屋大学の研究者が中心となり設立された同社は、スマートフォンやタブレットといったデバイスに使用される絶縁樹脂に充填して、放熱性を高めることのできる「AINウィスカー」を開発。デバイスの高熱化による性能劣化を防止することを可能としました。

株式会社U-MaP  代表取締役社長 前田 孝浩氏氏
「これまでも、絶縁樹脂にセラミックスを充填することで放熱性を高める方法はありましたが、どうしても製品が硬く、重くなってしまうんですね。ところが、AINウィスカーはヒゲ状の繊維なので、充填しても柔らかさや軽さを保つことができるんです」

AINウィスカーの長所は、従来から使用されている素材に2%程度充填するだけでも、高い効果を発揮できる点にもあります。つまり、これまで使用していた素材の特性を活かしながら、熱伝導性を高めることができるため、ウェアラブル端末や車の冷却システムなど、幅広い分野で活用することができるのです。

U-MaPは2017年現在、名古屋大学と共同し、AINウィスカーの大量生産に成功し、商業販売をはじめています。前田氏は、今後、放熱剤や樹脂のメーカーなどとコラボレーションして、さらに新しい製品を開発していきたいと語り締めくくりました。

続いて登壇したのはアドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社です。「技術革新の原動力として、社会に大きな貢献を果たす」ことをビジョンとする同社は、分子構造のレベルから物質をコントロールすることにより、”柔らかさ”と”強靭さ”を両立するという、これまでにない素材「スライドリングマテリアル」を開発しました。

アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社 代表取締役 野田 結実氏
「私たちは、スライドリングマテリアルを使った人工筋肉『誘電型アクチュエータ』の共同開発を進めています。将来は電動義手や介護ロボットなどへの応用を考えています。これまでのものより静かで軽いものが作れるようになるんです」

スライドリングマテリアルは、「柔らかさ」と「へたりにくさ」や、「硬さ」と「耐衝撃性」といった、これまでは両立が難しい性質を兼ね備えることを可能としています。その独自の性質は、スピーカーに塗布することによって、高周波数のノイズを除去する塗料といった、想定外の製品も生み出しました。

野田氏は、スライドリングマテリアルがもつ可能性はまだまだ計り知れないため、新しいアイデアをもつ企業と一緒に、さまざまな可能性を追求していきたいと語り、いずれは、日本全国の多くの産業界で使っていただきたいと意気込みを語りました。

このように、両社はいずれも、物理学や化学の知見を応用し、素材の機能をアップデートしています。続いて登壇する企業は、どのようなビジネスを生み出しているのでしょうか。

社会的な課題を、優れた機能をもつ素材が解決する

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3社目に登壇したのは株式会社五合。愛知県に所在する同社は、完全無機塗料「ゼロクリア」を製造販売しています。ゼロクリアは、壁面やガラス窓に塗布することにより、汚れを水だけで簡単に落とすことを可能としました。しかも強い耐摩耗性をもっていることから、たとえば10円玉で擦っても傷つかないのです。

株式会社五合 代表取締役 小川 宏二氏
「メカニズムとしては、従来の水性塗料と変わりありません。しかし、耐久性がまったく違う。ですから、現在は東京メトロの二重橋駅の壁面や渋谷駅前の喫煙所など、20年のレベルで耐久性を求められる場所にもゼロクリアが使われているんです」

当初は新潟の洋食器のコーティング剤として使用されたゼロクリアは、その後、白物家電や建材、超高層ビルのガラスなど、活用の幅を次々と広げています。同社は、すでにアジア進出を果たしており、さらにはヨーロッパやアメリカにも展開していこうとしています。

小川氏は、ゼロクリアによって、危険な高層ビル清掃による事故がなくなる未来を思い描いています。社員とともに世界に感動を届けられるようにビジネスを成長させ、いずれは世界中から優秀な人材が集まってくるような会社にしたいと意気込みを語り、締めくくりました。

4社目は株式会社クロスエフェクトが登壇。設立依頼、「高速試作技術」の向上を追求し、さまざまな製品の試作品をオーダーメイドで製造・提供する同社は、その技術を用いて、オーダーメイド型の「3D心臓モデル」を作成することに成功しました。

株式会社クロスエフェクト 代表取締役 竹田 正俊氏
「先天性の心臓疾患をもつ赤ちゃんを手術するとき、医師の先生はCTのデータを見て、一発勝負で手術をされています。ですから、もし手術の前に練習できるようなモデルが手元にあれば、手術の成功率が上がるんじゃないか……そんな仮説をもとに、わたしたちのプロジェクトはスタートしました」

同社は、病院から預かったCTスキャンのデータから、3Dプリンタで型をつくり、そこに特別な柔らかい素材を流し込み、心臓を再現することを可能としました。実際の心臓と同様、針や糸を通しても切れず、しかも超軟質なため、医師は実際の手術を想定した試行ができるようになったのです。

竹田氏は、今後、大手医療機器メーカーや、CTスキャンのメーカーなどと連携するとともに、医師への教育機関のような場でも、同社の技術を活用してほしいと語り、手術の事前シミュレーションが当たり前になるよう、世界に先駆けて事業展開していきたいと語りました。

これらの2社は、他にはない技術により、社会インフラの向上や、社会課題の解決を実現しています。続いて登壇するベンチャーは、これまでの素材が抱えていた問題点を解決しています。

世界的に広がる課題を、素材が解決させる

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最後に登壇したのは株式会社インキュベーション・アライアンス。同社は、ダイヤモンドよりも硬いとされる炭素原資結合素材「グラフェン」について、これまで不可能とされていた量産化に成功しました。同社の実績は、産業革新機構からの7億円の資金調達など、社会的な評価を受けています。

株式会社インキュベーション・アライアンス 代表取締役社長 村松 一生氏
「これからの時代は、世界中で自動運転が実現し、ネットの通信速度もどんどん早くなります。そうすると、機械の発熱の問題がより深刻化してくるはず。弊社が量産するグラフェンは、非常に高い熱伝導性を持っているため、発熱の問題を解決することができるんです」

機械の熱を放熱するためには、熱伝導性の高い素材でカバーし、熱を外に逃がす必要があります。これまでは、そうした役割を銅などが担ってましたが、金属のため、どうしても重くなってしまいます。ところが、グラファイトの場合、厚みを確保しても軽さを保つため、取り付けても本体の重さに影響を与えません。

村松氏は、放熱を必要とする市場は大きいため、今後はパソコンや通信など、熱対策に課題をもつ企業と提携していきたいと語ります。これからも原料から製品まで自社でつくる気構えで、ビジネスを成長させるべく努力していきたいと語り、締めくくりました。

以上登壇した5社は、消費者が認識しないレベルの”素材”に着目し、独自の技術によるビジネスを展開しています。今後、彼らの手がけるビジネスが、私たちの身の回りにある製品のクオリティを向上させ、生活をより豊かにしてくれることでしょう。

NEDOピッチは、このようにさまざまな技術を持つ企業同士が、それぞれの技術や展望を語り、互いを知ることで、新たなアイデアを生み出す事業パートナーとつながる場所です。今回のNEDOピッチを通じて生まれたつながりが、どんな未来を創りだしていくのか、私たちもとても楽しみです。

【第17回NEDOピッチの映像】
- NEDO Channel:素材特集

【第18回NEDOピッチのご案内】
- テーマ:人工知能
- 日 時: 2017年6月27日(火)18:00 ~ 20:00(受付開始:17:30~)
- 場 所:NEDO川崎本部5F
- 参加費:無料
- 申込み:https://www.joic.jp/news/news_i45_u1.htm

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