起業もITも知らない現役医師が事業化に成功——Onlabサポートの裏側

「世界に通用するプロダクトを作り上げるスタートアップの育成」を行うOpen Network Lab(以下、Onlab)。その第12期生であり、「小児科オンライン」を立ち上げた橋本直也さんは、起業やITとは無縁だった小児科医でした。Onlabがどのように彼をサポートしたのか、その裏側をご覧ください。
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「社会的に必要だ」小児科外来の現場で感じた課題が起業の第一歩

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創業者の橋本さん

自宅に居ながらLINEやSkypeを使って小児科医に直接相談ができる「小児科オンライン」を立ち上げたのは、株式会社Kids PublicのFounder&CEOを務める橋本直也さん。現役の小児科医として8年間診療の現場に携わるなかで、ある違和感を持つようになったそうです。

橋本さん 「インターネットが普及し、これだけ便利な世の中になっても子育てをしている親御さんたちの、“子どもの健康に対する不安”は、まったく解消されていない」

現代の親御さんは自分自身が核家族で育った世代。これまでの人生で幼い子どもと触れる機会が少ない傾向があり、わが子が初の子育て体験という人も少なくありません。だからこそ、子どもの病気に関する怖い記事を見つけると本当に不安で、鼻水や虫刺されひとつでも心配になります。そのため、小児科外来が軽症者で溢れているというのが医療現場の実態です。

橋本さん 「たとえ軽症でも、親は本気で悩む。かといって診療所を開放して『病気になったら、いつでも来てください』という体制を構築することは現実的に不可能。だからこそ、自宅で行える親御さんの不安を取り除く解決策が社会的に必要だと感じました」

この想いは日に日に強くなり、橋本さんはついに起業を決意。そのとき知人から「起業家支援が手厚いプログラムがある」と紹介されたのがOnlabだったのです。

さっそく橋本さんは、2015年11月のOnlab説明会に参加します。開催会場はOnlabが運営する代官山のインキュベーションセンター。ここはプログラム期間中、参加者にオフィスとして無料貸し出しされるスペースでした。

橋本さん 「まず会場がかっこよくて(笑)。ここをオフィスとして使えるのも決め手のひとつで、それに、Onlab卒業生の方々が 『すごく充実した時間だった』と言っていたのも印象に残りました。同時期に起業した仲間と切磋琢磨できる環境は魅力ですから」

しかし、医療業界一筋できた橋本さんにとって、スタートアップの世界は“シビアな人たち”が多いという先入観があり、不安もあったそうです。

橋本さん 「投資家のイメージを勝手に決めつけていました。でも社会的意義も認めてくださったうえで、『ぜひやろう』と賛同してくれる方がいることもわかりました。Onlabメンバーの皆さんは、同じ方向を見ながら本当に親身になってくれる。説明会を受ける前の印象とは、全然違いました」

ビジネスの世界という大海原を、自分で進んでいく力を身につける

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株式会社DGインキュベーション取締役猿川雅之(左)とOnlabマネージングディレクター松田崇義(右)

3カ月に及ぶプログラム期間中は、活動資金やインキュベーションスペース(代官山・鎌倉・サンフランシスコ)の提供、経験豊富な国内外のスペシャリストがメンターとしてアドバイスを行うなど多方面からサポートする機会を設けています。

例えば、オフィスアワーと呼ばれる定期的に行われる報告会。各チームとOnlabメンバーが集まり事業の進捗報告を行います。

橋本さん 「当時、集客に苦戦していた私はITの知識がないのでビラ2,000枚を配布しました。でも、まったく反応がなく……。それでもオフィスアワーがあるので、ひとつでも報告できるネタを用意したいと、様々な方法を試行錯誤しました。これが数カ月続くのですが、その都度、着実に成長できたと思います」

Onlabマネージングディレクターの松田崇義は、この“本人がトライアンドエラーを徹底して体験すること”がスタートアップでは重要だと考えます。

松田 「スタートアップは10回失敗して1つ有効な方法を見つければいいと考えているので、あえて具体的なアドバイスは言いません。橋本さんにも、まずは10回失敗して貰おうと思っていました(笑)」

Onlabが大事にしているのは“自分でなんとかする力”。なぜなら卒業後のステージでは、常に自分で考え、自分で行動できる“力”が必須となるからです。

一般的なスタートアップ支援の取り組みでは、具体的な事業やサービスについてのメンタリング等のソフト面にフォーカスされがちです。その時に常に心のどこかに持っていて欲しいのは、「メンターは最悪会社が潰れても何も困らないし、罪悪感も無い」ということです。ーー。Onlabの運営母体である株式会社DGインキュベーションの取締役であり、おもに資金調達面での相談などのサポートを行う猿川雅之は、そう考えています。

猿川 「当たり前ですが、スタートアップは簡単ではありません。立ち上げ時にチームに亀裂が入ったり、資金がショートしたり、アイデアレベルでは良さそうなサービスであってもうまくいかないことの方が圧倒的に多いです。サービスを伸ばす小手先のテクニックよりも、自分でなんとかする力を身につける手伝いをするのが私たちの使命だと考えています」

切磋琢磨と横の繋がりが、自分にないものを満たしてくれる

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Open Network Space鎌倉にて合宿の様子。プレゼンテーションを徹底的にブラッシュアップします。

3ヶ月のプログラム終了時に開催されるプレゼンテーションイベント“Demo Day(デモデー)”に向けて、1週間前に実施する合宿では、各チームが事業のプレゼンテーションのブラッシュアップを行います。1泊2日の合宿中、発表の機会が計4回ありました。

橋本さん 「発表毎にOnlabメンバーからフィードバックをもらえるので、『自分が伝えたい内容が聞き手に伝わったかどうか』が生の反応で得られます。他のチームのプレゼンテーションの完成度を実際に見ることも、良いプレッシャーになりました」

合宿の目的はふたつ。同じ場で作業することで、お互いに切磋琢磨できるということ。そしてもうひとつは、同期の仲間同士の横の繋がりが強くなることです。

橋本さん 「合宿では、プレゼンテーションの伝え方次第で、聞き手からの捉え方が大きく変わることを学びました。聞き手がどういう人かを常に想定する大切さ。自分にとっては当たり前でも、相手にはそうではないケースもある。“どう伝えるか”という視点は、合宿でより強くなりました。本当に密度が濃かったです」

合宿でサポートとして参加していた猿川は、自分たちの事業内容を客観視する機会が重要だと考えます。

猿川 「どうすれば伝わるか何度も試行錯誤しながらチューニングしていくうち、次第に自分の言葉で話せるようになってくる。本当に腹落ちした内容だからこそ、プレゼンテーションの言葉に重みが生まれます」

合宿後、橋本さんはOnlab の薦めでTech Crunch Tokyo2016のピッチイベントに参加しました。そして見事優勝を飾ります。

松田 「外部のピッチイベントで、他のスタートアップと対峙しても自分たちの方がうまく伝えることができるという自信は、発表時の表情からも伝わってきました。このプレゼン能力を身に付けられることも、Onlabの強みです」

そして、IT業界とかけ離れた医療業界にいた橋本さんにとって、人材採用の観点でもOnlabのサポートが必要不可欠でした。

橋本さん 「弊社のサービスにはエンジニアは必要不可欠な存在。でもWeb業界は私の専門外で、まったく人脈がありません。事業に必要な人材を紹介して貰えたこともとても助かりました」

Onlabを卒業しても、まだまだ伸び代があると思える自信がある

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Onlab卒業後、Techcrunchスタートアップバトル2016にて最優秀賞受賞!

Demo Dayを終えると、事業内容に賛同してくれた企業や投資家と一対一で面談する機会が訪れます。それは、本格的にビジネスの世界に足を踏み入れるということーー。橋本さんは「まるで大海原に出ていくようだった」と例えます。

橋本さん 「プレゼンテーションとは違って、『会話の内容は?どういう付き合い方をすればいい?資金調達はいつがベスト?』など、ビジネスの具体的な進め方で悩む時期がありました。ここが最初の難関でしたね。その都度Onlabに相談し、ベンチャーキャピタル側の「考え方」や「都合」を聞くことは非常に有益でした」

Onlabが他のベンチャーキャピタルと違う点は、ゼロから一緒にサポートしているので、“投資家”というより“身近な相談者”という感覚を支援先企業から持ってもらえることです。

松田 「この感覚はOnlabに入った人しか分からないので、伝えづらい。でも、この投資家の視点を持つ“身近な相談者”という関係を活用してくれるスタートアップ企業は伸びていきます。その点において、橋本さんはうまくOnlabを活用していますね」

2016年の夏には、小児科オンラインと同じ志を持つチームメンバーも集まりました。

橋本さん 「応援してくれる仲間の存在は大きな支え——。利用者アンケートの反響もよく、これは必要とされる事業だと確信できました。まだまだ未熟な部分もありますが、経営という視点は半年前に比べたら自分の中でしっくりきていますね。さらに伸び代があると思ってワクワクしてます」

Onlabスタートから7年。今後の展開については、実はあまり参加者数の規模を広げすぎてはいけないと松田は考えています。どれだけ寄り添ってサポートできるかが重要だからです。

ここ数年、国内の起業家レベルは上がっていますが、世界的視点では見劣りする部分もあると私たちは考えています。だからOnlabは、積極的に外国籍の起業家を受け入れています。

松田 「Onlabの活動を発信し続け、起業家集団や業界全体の底上げをできればいいと思っています。そして日本語だけでなく、いろんな言語が飛び交うような環境をOnlabから発信したい。それこそがグローバルに活躍するスタートアップの育成を目的に設立されたOnlabの本来の姿ではないかと思っています」

起業やITの知見のなかった現役医師が、社会に求められる新しいサービスを構築するーー。株式会社Kids Publicのような社会を変えるスタートアップを、Onlabはこれからも支援し続けます。


◆小児科オンライン◆
https://syounika.jp/

◆Open Network Lab◆
https://onlab.jp/

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