「ダイバーシティ推進」は、イオングループの成長エンジン

「2020年までに、女性管理職比率50%にする」――。2013年5月に開催した株主総会における、イオン株式会社グループCEOの岡田元也による宣言を受けて生まれた「ダイバーシティ推進室」。女性活躍を目指す取り組みによりメンバーに起きたのは、ダイバーシティの必要性に対する"疑問"から、"確信"への変化でした。
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「男女平等であるはずの組織」の女性管理職が1割という"矛盾"

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▲ダイバーシティ推進室のメンバー(左から渡辺香織、田中咲、威廉、白柳智香)

「なぜ、女性管理職の比率を高めるのか?」――ダイバーシティ推進室に配属されたメンバーが最初に直面した問いです。室長の田中咲を含む子育て世代の3人の女性で構成されたメンバーは、手探りで取り組みをスタートしました。

田中 「株主を前に社長が宣言をしたわけですから、大きな責任を感じましたが、一方で私自身が女性活躍の必要性を十分理解できていなかったんです。何から取り掛かかるべきかわからず、先が見えないスタートに不安を感じていました」

そこで、まず田中らがはじめたのが"現状分析"。

約3か月にわたるリサーチの結果、想像を超えた事実が明らかとなります。イオンのグループ会社のなかには、採用時の社員の6割が女性であるにもかかわらず、数年後に男女比率が逆転し、管理職では女性が1割という状況の会社もあったのです。

田中 「イオンでは、これまでも女性活躍のための施策は行なわれていましたし、制度面、とくに結婚や育児に関する制度は整っています。それにもかかわらず女性管理職の比率が明らかに低い……。私たちは原因を把握するため、女性社員の声を聞くことにしました」

聞き取った結果を分析した結果、「管理職に上がりたくない」という女性社員が多く、その割合は実に9割を超えるほど。さらに女性社員の意見を深掘りすると、長時間労働への不安や、経験知識がない不安など、複数の要因が浮かび上がってきました。

イオンでは、前身となるJUSCOの設立当時から「性別、国籍、学歴、出身企業、年齢等によって差別しない」という人事ポリシーがあります。このため、田中はイオンのダイバーシティへの意識は高いと認識していただけに、女性社員の声を受け、問題の深さをあらためて実感しました。

「ダイバーシティ推進はすでにできている」ーー。そうした思い込みを捨て、田中をはじめダイバーシティ推進室のメンバーは行動をはじめます。

「従業員のため」「顧客のため」ーーダイバーシティを本気で進める意味を理解

「女性を管理職にすれば本当に業績が伸びるのか」「女性というだけで優遇するのか」。ダイバーシティ推進室の取り組みを進めるなか、このような疑問をぶつけられることもあった田中。男性だけでなく、女性からの反発を感じることも少なくありませんでした。

田中 「誰もがダイバーシティについて総論としては賛成なんです。ただ、具体的な取り組みをはじめようとすると、反対意見が出てきました。女性社員の場合、『管理職になって目立ちたくない』であったり、『女性だから管理職になれたと思われたくない』といった意見は根強くありましたね」

こうしたやり取りを続けるなか、田中は、「なぜダイバーシティを進めるのか」という理由を言語化する必要性を強く感じます。そこで、ダイバーシティ推進室として、あらためて定めたミッションが、以下のものです。

「アジアにおけるリーディングカンパニーとして、アジアで最も従業員を大事にする会社にする。そのためのミッションとして、WORKとLIFEにおけるこれまでの日本、イオンの常識をこわし、新しい常識をつくりあげる」

田中 「『イオンのダイバーシティとは何なのか』ということを考えると、決して女性社員だけのためではないんです。女性が活躍できれば、会社全体、さらにはお客様にまで良い効果が波及しますよね。イオンがこれからの時代に生き残るためにも、ダイバーシティを進めることは必要不可欠なものという意識を言葉にしました」

ミッションを定め、進むべき方向性を定めたダイバーシティ推進室では、具体的な施策づくりに取り掛かります。そこでまず過去の施策の失敗要因を分析したところ、「イオン本社だけ」「人事部門だけ」「男性だけ」という共通する要素が浮かび上がってきました。

田中 「イオンには国内でも80を超えるグループ会社があるんですが、過去の施策は、グループ本社の人事だけで行なわれていたんです。私たちはあえて逆を行こうと考え、グループの各社がそれぞれに動き、営業を巻き込み、そして女性社員が中心となった取り組みに変えていこうと決めました」

こうした想いから、ダイバーシティ推進室が生み出したのが、3つの新規施策でした。

グループ各社の取り組みをつなげることで生まれる"シナジー"

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▲"ダイ満足"カレッジの様子

大きな組織のなかで変革を起こすためには、横のつながりが欠かせません。新規施策のひとつである「"ダイ満足"サミット」は、イオングループ各社のダイバーシティ推進責任者が一同に会し、情報交換をしたり、横の連携を作ったりする場。2014年4月にキックオフし、以来1年に4回開催されています。

田中 「私自身もそうでしたが、ダイバーシティ推進の責任者になると、必ずしも周りに味方ばかりというわけではないので、気持ちが萎えてしまうこともあるんです。そんなとき、同じような問題を抱える社員と情報交換するだけでモチベーションが上がりますよね。そうした場として企画したのが"ダイ満足"サミットです」

続いて、若年層の女性の離職を止めるべく、30歳までの女性を対象に集め、"自分自身のキャリアを考えてもらう"場として開講したのが、「"ダイ満足"カレッジ」。

田中と同様、ダイバーシティ推進室の設立時からのメンバーである渡辺香織は、"25歳"というピンポイントの年齢と考え、30歳までに設定した理由を、このように考えます。

渡辺 「一般的に、結婚したり妊娠したりしてから人生や働き方を考え直す人が多いと思いますが、タイミングとしては少し遅いんですよね。そうしたライフイベントがはじまる前の25歳から30歳の時点で、結婚や育児がはじまった後にどうキャリアを築くのかを考える機会を作ることで、離職者を減らしたいと考えたんです」

このほか、渡辺は"ダイ満足"カレッジを通じて、女性社員ならではの"孤独感"を解消することも目指しています。店舗数が多いため、配属された店舗に女性社員がひとりきりという状況がどうしてもあるので、ほかの女性社員とつながる場を設けることで、キャリアの先行きが見えやすくなる効果を期待しています。

3番めの施策である、「"ダイ満足"アワード」とは、1年に1回、イオングループ各社のダイバーシティ推進の取り組みを審査し、表彰するというもの。第1回目となる2014年度には50社がエントリーし、そのうち3社のアクションプランが表彰を受けました。

田中 「各社の取り組みを競わせることで、各社の経営トップやリーダーの競争意識を生まれているようです。『発表された事例について、もっと話を聞いてみたい』と各社の横断的なつながりが生まれているのも、大きな変化です」

ミッションの達成を目指して、変わり続ける取り組み

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▲“ダイ満足”サミット、キックオフ(2014年4月)

ダイバーシティ推進室の取り組みは、徐々に実を結びつつあります。取り組み前に約1割であった女性管理職比率は2018年1月現在、3割に迫る勢いにまでなりました。さらに成果をあげるための改善はいまなお続いています。

たとえば、"ダイ満足"アワードの選考方法を2年目から変えました。

1年目はプランに対してトータルで審査をしていたところを、「経営層のコミットメント」「働き方」など、6つの重要項目を設置し、各項目に対してもっとも成果をあげたところを表彰することにしたのです。

田中 「ダイバーシティ推進といっても、取り組みの優先順位は各社それぞれです。そうしたポイントを絞って全社で情報共有すれば、ダイバーシティ推進のスピードがより加速すると考えました。たとえば、女性の意識変革に取り組んでいる会社が、次に働き方を変えようとしたときに、すぐに参考事例にアクセスできるようにしています」

取り組みの結果、田中はグループのなかで起きている変化に気が付きました。取り組みが進む企業では、経営陣が自ら現場に降りて女性社員の声を拾ったり、下から意見を積極的に意見を言ったりと、ダイバーシティをきっかけとして風通しの良い組織に変化しています。

ただし、ダイバーシティ推進室の取り組みは、まだ終わりません。目標とする50%を達成し、さらにイオングループが成長するため、田中は"次なる担い手"への期待を寄せています。

田中 「私も、いずれダイバーシティ推進室から異動するでしょう。でも、それでいいと思ってるんです。自分のやってきたことは否定しづらいですからね。新しい人たちに、新しい発想で変化させてもらいたい。ただ、ミッションを大切にして、『ダイバーシティが会社を強くするんだ』という信念はブレずに持っておいてもらいたいです」

変化の大きな現代において、イオンが成長を続けるため、あらゆる社員が存分に力を発揮するーー。そんな未来を見据えて、チャレンジは続きます。

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