“自身の挫折”を糧にベンチャーを支える。起業家が支持するトップメンターの生き様

「貢献度が最も高いメンター」――そんな声が集まるのは、クックパッド株式会社で事業開発に携わり、東京都が手がけるアクセラレーション施設「ASAC」のメンター住朋享(すみ・ともみち)氏。その武器は、かつて経営者だった過去を生かした深い共感力。多くの起業家に慕われる、彼のベンチャー支援を追います。
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世界を変えるイノベーターに共通するのは、原体験にひもづいた“志”

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▲シリコンバレー駐在時の住氏

「彼らのことを、ある意味でチームメイトだと思っている」

自身が支援するベンチャーについてこのように語る住氏。「チームメイト」と語る背景には、自分自身も会社経営をしていた過去にありました。

高校時代から、「インターネット」という、大きな変化をもたらすものを武器に、何かをやり遂げたいと考えていた住氏は、卒業後に会社経営に乗り出します。ところが、そこで直面したのは自身の知識や経験の不足でした。

住氏 「いろいろな方にチャンスをいただいて、私なりに応えたいと必死だったんです。でも限界が来て……結局挫折してしまいました。あのときの『このまま人に迷惑だけかけて終われない』という思いは、今でも原動力になっている気がします」

その後、できなかったことを勉強したいと大学で経営学を学び 、複数の事業会社で経験を積みながら、住氏はイノベーションを起こすためには何をすべきかを模索し続けます。そんな彼の転機となったのは、2014年、当時勤めていたIT通信会社からシリコンバレーへ派遣されたことです。住氏は、スタートアップの活気に包まれながら4ヶ月間駐在することに。

UberやSpotifyなどの世界的な成功企業を輩出したコワーキングスペース「ロケットスペース」にデスクを置きながら、活動の範囲を広げていった住氏。現地のベンチャーキャピタルに一週間常駐したり、スタンフォード大学でオープンイノベーションについて講義を受けたりするなか、積極的に現地の起業家や新規事業に関わる人々とネットワークを構築していきました。

住氏 「向こうでは休日も含め、毎日4人くらいと新たに出会っていましたから、合計すると相当な人数ですよね(笑)。彼らと話していて、世界を変えるようなイノベーターに共通するのは、原体験や絶対に解決したい課題があるということを感じました。僕は、ビジネスで世界を本気で変えたい人たちの後押しをするのが自分の生き方だと思っているんですが、その原点はシリコンバレーの出会いにあります」

帰国した住氏は、シリコンバレーでの学びを生かし、社内で新規事業を生み出すために、自分に何ができるのかを探りはじめました。注目したのは、未来のビジネスとして期待されるIoT分野。ところが当時の会社では、保有するデータの量や質の観点から、住氏が構想するIoT事業を進められる環境にないという事実に直面します。

そんなタイミングで知人から紹介されたのが、クックパッドでした。「多くのユーザーを抱えるクックパッドなら、未来のビジネスを作れるかもしれない」と感じた住氏は、転職を決意します。

イノベーターを育てるためゼロから作った「クックパッドアクセラレーター」

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▲クックパッドの社内合宿の様子

シリコンバレーから帰国した約1年後の2015年11月、住氏はクックパッドに転職します。ところが、入社して間もなく、予期せぬ経営方針の転換が。経営陣が変わり、まだ今後の事業の方向性が定まらぬなか、住氏は自ら身の置き場を作る必要に迫られます。

住氏 「当時、これからのクックパッドのビジネスに、人工知能やIoTは大きなインパクトを与えるという確信がありました。そのことを社長に話して、当時所属していた研究開発部のなかで新規事業につながるコンセプトやアイデアを考えることになったんです」

さらに住氏は、2日間の社内合宿にも参加。社長や役員も一緒になって、料理にまつわる課題や、クックパッドとしてどこまで解決するのかを議論しました。

住氏 「クックパッドのValuesのひとつに、『生活者の課題解決』というものがあります。私たちができるのは、料理のレシピを提供するだけではありません。環境や健康の問題など、派生する課題にもクックパッドが解決できることがあると気づきました」

料理にまつわる幅広い課題を解決するには、シリコンバレーで出会ったような、本気で課題解決を目指す人たちの力を借りなくてはならない――そうした住氏の考えから生まれたのが、起業家を育成し新規事業を生み出す「クックパッドアクセラレーター」でした。(http://cookpad.01booster.com/

住氏は、他社が行なっているアクセラレータープログラムを参考にしたほか、シリコンバレーの経験を思い返しながら、ゼロからプログラムを作り込んでいきます。住氏の取り組みが実り、2017年8月、クックパッドアクセラレーターの参加者募集がはじまりました。

このように、クックパッドで新規事業を生み出すために尽力する住氏ですが、同社に転職する前から、ベンチャー支援の取り組みをはじめていました。話は再び、シリコンバレーから帰国したころにさかのぼります。

頭のなかに蓄えたイノベーション事例が、ビジネスコンセプトを磨き上げる

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▲ASACでのメンタリングの様子

帰国して間もない2014年当時、住氏は、シリコンバレーで構築したようなベンチャーとのコミュニティを日本国内でも作りたいと感じていました。そこで、ベンチャー企業と大企業の事業提携を生み出す場として開催されている「モーニングピッチ」に参加することに。

住氏 「もともと、『人と人をつなぐと何が起きるだろう?』と想像してネットワークを作るのが好きなんですよ。モーニングピッチには毎週のように通っていて、ベンチャーの人とだんだん仲良くなっていきました」

そんなある日、住氏はモーニングピッチで、東京都主催の起業家育成アクセラレーションプログラムASACをはじめるべく準備をしていた運営担当者と出会います。「メンターをやってみない?」と声をかけられた住氏は、その申し出を承諾しました。

2015年11月に第1期がスタートしたASAC。住氏はメンターとして、手探りでベンチャー支援に取り組みます。徐々にコミットを深め、受講するベンチャーとディスカッションをするなか、住氏が感じたのは「コンセプトをきちんと設定しきれていないベンチャーが多い」ことでした。

住氏 「自分でビジネスをしていると、目の前のことにのめり込んでしまい、本来の自分たちの良さを見失いがちです。外から見てみると、短期的な利益目標や、目の前に起きていることに引きずられてターゲットがずれていたり、サービスのデザインが見当違いになっていたりするんですよ。そこを軌道修正してあげるのは、メンターの役割だと思っています」

普段から海外などのベンチャービジネスに関心をもつ住氏は、さまざまなビジネス事例を頭のなかに蓄積していきます。海外の事例と照らし合わせながら、支援するベンチャーが顧客にとって価値あるサービスを生み出せるように、起業家とともにコンセプトを考え抜いていきます。

すると、厳しい意見であっても正直に伝える住氏の姿勢に、受講生からの支持が集まっていきました。その結果、約100人にのぼるASACメンターのなかで、「もっとも貢献度が高い」との評価を受けるまでに至ったのです。

ベンチャーにフルコミットできるのは、同じ志を持つ仲間だからこそ

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▲ASAC第3期デモデイにて。「ベストコミットメンター賞」を受賞したときの住氏

ASACでは、期ごとに、もっとも貢献度の高いメンターを「ベストコミットメンター賞」として表彰しています。受講生や運営スタッフにより総合評価した結果、住氏が2017年3月に、ASAC第3期のメンターとして表彰を受けることになりました。

受賞した理由のひとつは住氏の本気の姿勢にあるでしょう。「受講生はチームメイト」というスタンスをとる住氏は、ひとりの人間としてベンチャーと向き合っています。

住氏 「ベンチャーの人たちは、真剣に“課題”を解決しようとしています。僕も同じく世界の料理にまつわる課題を解決するつもりですから、いわば同じ志をもつ仲間ですよね。だから、僕の行動が彼らの役に立ったのであれば、すごく嬉しいんです」

ベンチャーの成功を共に喜ぶ背景には、会社経営に挫折した当時から抱えている想いもあります。

住氏「あのころに感じた『自分は世の中に対して何ができるんだろう?』という気持ちは、ずっと持っていたいと思っています。そして、自分が死ぬときが来たら、『自分はこういう思いをもって、行動してきた』って胸を張って言えるようになりたいんです」

高い志をもつベンチャーが、既成概念を越えたビジネスで世の中に大きなインパクトをもたらすーー。そんな未来を目にする日が楽しみです。

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