就任2年でV字回復。介護に一生をかけた元商社マンが描く、日本と海外の介護の未来

2019年、創業20周年を迎えたヒューマンライフケア。介護事業を担う同社代表取締役・瀬戸口信也は、2016年より取締役として事業戦略の見直しと経営改革に取り組み、現職就任後2年で赤字から大幅黒字へのV字転換を果たしました。自身も介護事業に携わって20年目となる瀬戸口の、介護に対する想いと同社の未来像とは──。
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まったく無縁だった介護を一生の仕事に。そう決意するに至ったある出来事

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▲商社マンだった瀬戸口。ひょんなことから、これまで関わりのなかった介護分野に携わることに

瀬戸口は、商社マンとして社会人生活をスタートしました。1993年に総合商社に入社し、金属部門に従事。アルミやニッケルなどの金属資源を海外から調達して国内メーカーに卸すことが主な仕事で、海外駐在も経験しました。

そんな瀬戸口に転機が訪れたのが、1999年のこと。勤務先の商社が新規事業として介護分野への参入を決め、出向というかたちで介護サービス企業にて働くことになったのです。

仕事でもプライベートでも介護とはまったく無縁だった瀬戸口ですが、介護の世界に入って1年目で、自分に何ができるかわからないながらも、一生の仕事として腰を据えてやっていこうと心に決めたと言います。いったい何が瀬戸口の心を動かしたのでしょうか。

瀬戸口 「とくに印象的だった経験がふたつあります。ひとつは、デンマークの介護事情を視察したこと。デンマークは当時、施設介護から在宅介護へ転換していた時期でした。
事故で両腕両足を失った人も、ヘルパーの介助を受けながら、自宅で生き生きとした生活を送っていました。集団処遇型の日本の介護ケアとは対照的で、『介護の関わり方次第で人の暮らし方はこんなにも変わるのか』と衝撃を受けたのです」

もうひとつの経験は、実際に介護の現場で働くスタッフたちと接し、彼らの仕事に対する姿勢や考え方を知ったことだと言います。

瀬戸口 「ご利用者様一人ひとりの心身の状態、ケアの方針について、介護に携わるスタッフがチームで話し合いながら統一のとれたケアを行っている現場を見て、素直に『すごいな』と感動しました。
介護スタッフは『要介護者の世話をする家族の代わり』と見なされがちですが、彼らは介護のプロであり、それとはまったく違います。当時は介護保険制度が始まったばかりの時期でしたが、『介護の技術やノウハウをうまく体系化できれば、日本でも質の高いケアが実現できるはずだ』と、大きな可能性を感じました」

その後瀬戸口は、夜間対応型訪問介護サービスや定期巡回・随時対応型訪問介護看護サービスの立ち上げなど、24時間型の在宅介護事業を幅広く経験し、取締役として経営にも携わります。

入社前から「絶対に黒字化できる」自信はあった

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▲「V字回復は社員の頑張りで実現できた」。瀬戸口は、社員の姿が一度に見渡せるフラットな位置に自席を設ける

2016年6月、瀬戸口は事業戦略担当の取締役としてヒューマンライフケアに入社します。瀬戸口に与えられたミッションは、当時赤字にあえいでいたヒューマンライフケアの経営を健全化すること。ですが、入社前から「絶対に黒字化できるという自信はあった」と言います。

瀬戸口 「当社の主軸事業であるデイサービスの稼働率は当時 65%くらいで、これは業界的に見ると高い数字です。つまりサービスの内容や質は利用者から評価されている。ということは、オペレーションの効率性に問題があるとの見当がつきました。
また、介護事業の中でも小規模多機能型居宅介護(通い・訪問・泊まりを組み合わせ、在宅での生活をワンストップで支援するサービス)は収益を出すのが難しい事業とされていますが、当社では利益を出せていました。たとえ今は赤字でも、収益改善の見込みは十分ありましたし、将来性を感じる部分も多くあったのです」

収益改善のために瀬戸口が最初に着手したのが、現場におけるオペレーションの改善でした。

瀬戸口 「介護ではオペレーションを複雑にするほど、スタッフの働き方に無理や無駄が生じますし、ご利用者様に目が届きにくくなります。
そこで、ご利用者様一人ひとりの違いに配慮しつつも、オペレーションは極力シンプルにして、1日のひな形をつくりました。各拠点でバラバラだったオペレーションを標準化することによって運営が安定し、業績も良くなっていきました」

また、瀬戸口は人事評価制度やキャリアパス確立の手段として、以前から社内に導入されていた「ケアテクニカルマイスター制度」に着目します。これは、介護の知識や技術を認定するヒューマンライフケア独自の社内資格制度で、介護スタッフが正しい知識と技術を身に付けているかを、シルバー、ゴールド、プラチナの3段階で認定するものです。

瀬戸口 「介護職員の離職を防ぎ、働きやすい環境を整えるには、人材評価・育成の仕組みをつくることが必要です。そこで、ケアテクニカルマイスター制度を社内のキャリアパスや人事評価制度の中に組み込むことにしました。2017年から常勤の介護職員に資格取得を推進した結果、離職率が大幅に低下。今後は非常勤職員にも対象を広げていきたいと考えています」

こうした改革が功を奏し、ヒューマンライフケアの2019年3月期決算では、営業利益が前年同期に比べ4億3000万円増加。見事黒字化を達成したのです。

認知症予防・認知症ケアを推進し、「良くする介護」を目指す

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▲「安全に過ごせる場の提供だけでなく、ご利用者様の生活自体をより良いものにしたい」と、さらなる高みを目指す

創業20周年の節目を迎え、ヒューマンライフケアが今もっとも力を入れているのが「認知症予防・認知症ケア」。脳の活性化と足腰の筋力強化を図るオリジナル体操「ヒューマン体操」を、2019年1月から全国の直営デイサービスで実施するなど、独自の認知症予防プログラムを展開しています。

瀬戸口 「デイサービスは、ご利用者様が安全に過ごしてさえいただければ、ある意味何もしなくても成立するサービスです。しかし、私たちが目指す介護は、ただ安全で快適に過ごしていただければ良い、というものではありません。
ご利用者様の生活をより良くするために何ができるかを考え、実践していかなくてはならない。そのひとつとして、認知症予防にはとくに力を入れています」

近年の研究で、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)は適切な対策を取れば認知症への進行を防げることや、たとえ認知症になっても、適切な治療や介護を受けることで進行を遅らせることが可能なこともわかってきました。

日本の認知症患者は2025年に700万人を突破すると推定され、高齢者の多くは認知症に対する不安を抱えています。認知症予防プログラムの提供を通して、ヒューマンライフケアはそうした高齢者の不安に応えていこうとしているのです。

加えて、ヒューマンライフケアが推進しているのが、地域に根ざした認知症ケアの拠点づくりです。ひとつの建物に、小規模多機能型居宅介護施設と認知症グループホームを併設した拠点を、積極的に開設しています。

瀬戸口 「デイサービスでは介護予防に取り組み、小規模多機能では在宅生活を継続するためのケアを提供し、認知症が進んで自宅での生活が困難になった人にはグループホームでケアを行う、という具合に、ご利用者様の状況に応じた認知症サポート体制の構築を目指しています」

この20年で培った「質の高い介護サービスと技術」を海外へ広げていく

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▲まだ介護産業が成熟していないアジアのマーケットで、「この先何が登場するのか注目したい」

介護業界では、団塊世代が75歳以上の後期高齢者を迎える2025年以降、需要が爆発的に増えると見られています。瀬戸口はそうした時代に対応すべく、この先5年、介護業界こそ生産性の向上がカギになると見ています。

瀬戸口 「この先は、スタッフの人数をしっかり確保するだけでなく、いかに一人ひとりの能力を高められるかが重要になります。当社が力を入れている介護教育の分野が、これまで以上に社会で求められる時代になっていくでしょう」

さらに次の20年に向けた展望について、瀬戸口は「これまでとこれからの20年は、まったく違う」と表情を引き締めます。

瀬戸口 「日本の高齢者人口は、2040年ごろをピークに減少に転じます。65歳~ 74歳の人口に関しては、それよりも早い今がピークです。
今、介護業界では人材確保が大きな課題ですが、長期的なスパンで見ると、介護を必要とする高齢者の数は確実に減少していきます。その局面に、私たちはどう対処するか。縮小する国内市場でシェアの拡大を目指すのか、海外に出て新たな市場を開拓するのか。私の答えは後者です」

ヒューマンライフケアは2018年12月から外国人技能実習生の受け入れを始めましたが、これも将来の海外展開を見据えてのことだと言います。

瀬戸口 「 2019年 7月現在、インドネシアから 3名の技能実習生を受け入れており、今後もインドネシア、ベトナム、ミャンマーなどから受け入れ予定です。来日中の 3年間でケアテクニカルマイスターの資格を取得してもらい、母国に帰った後技術指導ができる人材に育てていく考えです。
彼らには将来、私たちが海外で介護事業や介護教育事業を立ち上げる時、指導者やマネージャーとして活躍してくれることを期待しています」

中国や東南アジア諸国はこれから急速に高齢化が進んでいきますが、まだ介護産業は育っていません。この20年間で確立した、ヒューマンライフケアならではの質の高い介護サービスと介護技術のノウハウを、日本国外にも展開し、世界の介護を変えていく──。

瀬戸口の視線の先には、そんな未来像がくっきりと見えています。

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