日本流の安心・安全な保育を、世界に──。 インドネシアで始まった新たな挑戦

ヒューマングループは2018年7月、インドネシアの首都ジャカルタで0~5歳児対象の保育園「スターチャイルドインドネシア」を開園しました。唯一の日本人スタッフとして同園を立ち上げた松橋 希は、保育事業も海外赴任も初の経験でした。開園から1周年を迎える今、松橋のこれまでの想いと今後の夢をご紹介します。
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大学院と外資系企業を経て、「介護」と「海外」につながる仕事へ

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▲介護職から離れざるを得なかったことが、逆に自分の居場所は介護だと気づくきっかけに

松橋のキャリアの中心には、常に「介護」がありました。

介護専門学校を卒業後、介護施設に就職。ところが4年目にアトピー性皮膚炎を発症し、ドクターストップがかかり離職。療養後いったん介護職に復帰したものの、再び症状が悪化して現場を離れざるを得ませんでした。

そこで松橋は介護の業界団体に転職し、介護職員向け研修の企画・運営や、調査研究に携わります。

松橋 「業界団体で働くうちに『介護についてもっと学びたい』という想いが強くなり、仕事をしながら国際医療福祉大学大学院に入学しました。大学院では『自立支援介護』を学び、衝撃を受けました。
要介護状態になった人でも、水分摂取や食事、自然排便、運動をきちんと行うことで、寝たきりだった人が自力で歩けるようになったり、認知症の症状が改善したりする。介護には、人の可能性を広げるとても大きな力があると感じました」

しかし大学院を修了後、松橋は「介護の外の世界も見てみたい」と考え、外資系IT企業に就職。マーケティングの仕事に就きます。

松橋 「海外とのやりとりを経験できたのは収穫でしたが、介護の情報・話題を聞くうちに、介護の仕事に戻りたいと思い直しました。海外とつながる介護関係の仕事をしたくて、『介護』と『海外』をキーワードに転職活動を始めたんです」

そして2015年5月、介護・介護教育や子育て支援事業を展開するヒューマンライフケアに入社。海外事業部で、海外における介護事業のリサーチなどに携わります。

ところが2017年の秋、松橋に思いも寄らぬ話が舞い込みます。「インドネシアで保育園をつくる計画があるから、その責任者としてインドネシアに赴任してみないか?」と、当時所属していたヒューマンホールディングス海外事業本部の上司から打診を受けたのです。

インドネシア保育事業──そこで感じたのは、大きな可能性と将来性だった

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▲海外で経験を積みたい――。保育は専門外ながらも、松橋は大きなミッションにチャレンジする

海外で仕事をしてみたい、という希望はあったものの、松橋にとって保育は専門外。当然ながら、保育園の立ち上げや運営はまったくの未経験でした。

松橋 「実は私は学生時代、介護福祉士か保育士、または看護師になりたいと思っていました。ご高齢の方が好きだったことと、少子高齢化で介護職のニーズが高まるだろうと考えていたからです。
ですが、もともと子どもも大好きで。高齢者も乳幼児も『助けや見守りが必要な人』という意味では共通していますし、介護の現場での経験やこれまでの仕事で得た知識は、保育とつながる部分も多いはず。海外で経験を積みたかったので、保育は未経験でしたが、思い切って挑戦することにしたのです」

海外新規事業としての可能性の大きさも、松橋の心を捉えました。

インドネシアでは女性の社会進出が急速に進んでいますが、産休は3カ月間という日本よりも短期間の企業がほとんどです。日本の保育園に相当する『デイケア』のニーズが高まっているものの、圧倒的に数が足りないのが現状です。

松橋 「インドネシアのデイケアは一般的に『子どもを預けるだけの場所』と位置づけられており、幼児教育はおもに『プレスクール』で行われています。プレスクールは日本でいう幼稚園にあたるため、 3歳から小学校入学までの子どもが通い、午後の早い時間で終わってしまいます。
保護者の仕事が終わるまで子どもを安心して預けることができ、子どもの発達段階に応じた教育を受けられる日本の保育園のような場が、インドネシアでも求められているのです」

決断からインドネシア赴任までの期間は、わずか半年。松橋は、ヒューマングループが日本で運営する認可保育所「スターチャイルド」や「ヒューマンアカデミー保育園」で日本流の保育のやり方を学んだり、情報収集のため現地へ何回も飛んだりと慌ただしく準備を済ませ、2018年4月からインドネシアでの生活を始めたのです。

日本式だからこそできる。安全・安心・衛生にこだわった保育サービス

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▲現地保育園の園庭。子どもの健全な成長には体を動かす機会は必須なため、園庭を活用した日中活動を取り入れている

松橋が立ち上げに関わったスターチャイルドインドネシアは、さまざまな面で、従来のインドネシアの保育園にはない特色を備えています。見学に来た保護者の多くがまず驚くのが、インドネシアの保育園では珍しい園庭があることです。

松橋 「子どもたちが思い切り体を動かして自由に遊べる環境を提供するために、私たちにとって園庭の設置は絶対条件でした。インドネシアの都市部では、子どもを外で遊べる場所と機会が日本以上に少ないんです。休日の過ごし方も、家族でショッピングモールに出かけるのが一般的。
ですが、 0歳から 5歳までは、子どもの脳や運動神経が発達するゴールデン・エイジ。体を動かす遊びを通じていろいろな体験をすることで、園児たちの可能性や能力を広げていきたいと思っています」

スターチャイルドインドネシアでは、スポーツやダンス、クッキング、センソリー(五感を刺激する遊び)のほか、子どもたちの発達・成長段階に応じて、読書の習慣づけや英語教育など早期教育にも力を入れています。

加えて重視しているのが、安全面での対策です。0歳の子どもも預かるため、現地で産婦人科などがある病院を運営する企業とタッグを組むほか、看護師や助産師の経験者も保育スタッフとして従事しています。

松橋 「日本同様、園児がケガをしないよう床はクッション性のある素材にし、家具の角には丸みを持たせ、コンセントには感電防止のカバーをつけています。園内の危険度チェックリストをつくり、現地スタッフには『ここでこんなことをすると危ない』という情報を周知徹底し、常にスタッフの見守りの目が行き届くよう指導しています」

日本では当たり前のことですが、インドネシアの保育施設で唯一、玩具の消毒を定期的に行っていることも特色のひとつ。イスラム教徒の多いインドネシア向けに、ハラール認証を受けた消毒剤を使用しています。こうした日本ならではの、安全・安心・衛生にこだわった保育サービスが、教育意識の高い保護者の間で注目を集めているのです。

現地スタッフと同じ想いを共有することで生まれるベストな保育園

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▲インドネシアの保育スタッフ。国は違っても「よりよくしたい」という想いは同じ(右が松橋)

日本とインドネシアでは、さまざまな面で文化や風習が違います。海外で日本式の保育サービスを実現するため、松橋には気をつけていることがあります。

松橋 「それは、スタッフとのコミュニケーション。日本人とインドネシア人では考え方や感覚が違い、日本人にとって『当たり前のこと』が、相手にとっては『思いもよらなかったこと』だったりします。
私はまだインドネシア語が片言で、コミュニケーションは英語と、インドネシア語の通訳を介して話すことがほとんど。自分が本当に言いたいことの 2割くらいしか伝わっていないと思い、大事なことは何度も繰り返し、粘り強く伝えること、相手にとってできるだけわかりやすく具体的に伝えることを心がけています」

「私はこう思う」「あなたはどう考える?」「どのようにしたらいいと思う?」という丁寧なやりとりを日々スタッフと繰り返すなかで、松橋自身にも発見があったと言います。

松橋「スタッフから『何のためにそれをやるの?』と質問されて、業務の意味や必要性をあらためて自分に問い直すこともあります。日本を離れてみて『日本の商品やサービスは行き過ぎていて過剰なものも多いな』と感じることもあります。
日本流のやり方をただ押し付けるのではなく、現地の人たちのやり方や意見を参考にしたうえで、この地に合ったベストな保育のスタイルを、スタッフと一緒につくりあげていくことが大切だと思っています」

言葉が思うように通じない苦労はありますが、それ以上に大きな喜びとなっているのが、「スタッフと想いを共有している」という感覚です。

松橋 「スタッフたちの表情や言葉の端々から『子どもが好き』『この保育園が好き』『もっといい場所にしていきたい』という想いが伝わってきます。園児たちが成長していく姿を目の当たりにできるのも、私にとっては嬉しいこと。
同じ目標に向かって頑張るスタッフと愛らしい園児たちから、パワーをもらう毎日です」

松橋の次の目標は、スターチャイルドインドネシアを多店舗展開していくことです。

松橋 「インドネシア国内はもちろん、将来的には東南アジアで多国展開していくことも視野に入れています。日本式の保育サービスを軸に、そのエリアや国に合った保育事業を展開していきたいです。
そのためには、今ここでフルに経験を積み、直面する課題をクリアして、自分のなかでノウハウを確立することが必要だと考えています。今いるスタッフたちには、いずれ新しい保育園のリーダーやマネジャーとして活躍してほしい。そのためにも、スタッフの研修や教育に力を入れています」

日本流の保育サービスをインドネシアから世界に拡げていく。開園から1年という節目を迎え、また新たな夢の実現に向けて松橋は走り始めています。

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