時代の潮目が訪れ「買取・販売台数」以外の目標や働きがいが必要になった

変化を感じ始めたのは約5年前、2014年ごろからでした。

私たちオートベルは静岡県内で14店舗を展開する車の買取・販売の会社です。変化は主に「競合環境」と「若手の働く意識」、このふたつで起きていました。

競合環境の変化の背景にあったのはWebでの相見積もりサイトの台頭です。引っ越し業者や結婚式場選びなどにも同様のサービスがありますが、複数の競合に見積もりを取って価格や条件を比較することで、価格競争が以前にも増して激しくなりました。

一方、若手の働く意識にも変化が現れていました。1989年〜1995年生まれのミレニアル世代は、ちょうど今の20代の若手社員に当たります。彼らは、「働くことで社会に貢献したい」「働く意味を持ちたい」「働くことで自分を高めたい」といったことを重視し、よりワークライフバランスを尊重する傾向にありました。

部署をまとめるマネージャーたちも、競合環境と若手の働く意識が変わってきていることを肌で感じるようになりました。これまでのように営業会社然として「買取・販売台数」のみを目標数値として掲げているだけでは、人がどんどん辞めていってしまうという危機感。働き方のあり方を根本的に変えていく必要がありました。

改革の第一弾として労働時間の短縮に取り組むなどしましたが、それだけでは何かが足りない……。労働時間が短くなればたしかにプライベートの充実にはつながりますが、仕事が必ずしも充実するとは限りません。

私たちは社内で起きている問題にきちんと向き合えているのか。もっと本質的な視点で課題を探る必要があるのではないか。そう考えた、当時企画室チーフだった大金 剛は若手や中堅の社員にヒアリングを行うことにしたのです。

大金 「私の所属する企画室はいわゆるマーケティングの部署で、主に集客活動を担っています。人材育成などは人事部の担当ですが、当初のヒアリングの目的は、現場の最前線で何が起こっているのかを確認し、競合環境の変化による価格競争から抜け出すヒントを得るためでした」

成績のいい営業の共通点は「得意なことでお客様を喜ばせる」ことにあった

営業社員70名ほどのうち「とくにお客様からお褒めの言葉をいただく15名」の社員から約2時間ずつヒアリングを行いました。すると、ある共通した特徴が浮かび上がってきました。この15名は全員、自分で何かお客様を喜ばせようとする行動を自然と行っていたのです。

たとえば音楽好きのある社員は、お客様の納車の際におススメのプレイリストをプレゼントしていました。また、お酒好きの社員はお客様の運営している居酒屋さんに納車後も通って関係を深めていました。

おのおのの興味や趣味、特技を使いながらお客様と良好なコミュニケーションを築いていたのです。もともと、人や応対の良さがオートベルの良さでもあった一方で、それをどう表現していけばいいのか悩んでいたところに一筋の光明が見えました。

大金 「一人ひとりの特技がお客様からの感謝の言葉となって戻ってくる。社員の個性を生かしたお客様とのやりとり、関係構築は、ご契約後のお客様とのお付き合いにつながるだけでなく、社員個人の仕事のやりがいにまでつながっているとの意見が社員の多くから挙がりました。
そこで、社員の個性や興味関心を拡張することが接客サービスの向上につながり、ひいては社員一人ひとりのやりがいにまでつながるのではないか、と考えたのです」

営業社員が一人一芸を持つ会社になればお客様の満足度を高められ、会社の差別化ができ、社員の働きがいにもつなげられる。そう考えて2016年、大金は一人一芸プロジェクトをスタートしました。

大金 「ただし、いきなりやりましょうと言っただけでは社内に広まらないことは、これまでの経験からわかっていました。ただでさえ営業活動で忙しいのに、会社から言われた施策にまで手が回らないのは目に見えていました」

そのため、営業メンバー一人ひとりが納得して主体的に取り組んでもらえるようになる仕掛けが必要でした。

トップダウンではなく主体的になる工夫を施したプロジェクトの導入部

一期生としてまずは8名、興味を持ってくれて協力的な社員を選出。階層は新卒からエリア長まで、男女比は半々ずつ選ぶことで会社全体への影響力がまんべんなく行き渡るように工夫しました。

一芸は、けん玉やアロマテラピー、写真、バリスタ、イラストなど、商談の際のコミュニケーションツールになりうるものを大金がチョイス。

たとえばけん玉の場合は、日本チャンピオンのけん玉名人を見つけ出して制度を説明。師匠になってもらい、社員に修行してもらいました。けん玉だった理由は、おじいちゃんから小さい子どもまで、幅広い世代に受け入れてもらえるコミュニケーションツールになると考えたからでした。

修行期間は約6カ月間。全10回ほど時間をつくって修行に打ち込んでもらいました。

大金 「もちろん、最初は強引に巻き込んでいった側面もあります。ただ、一度取り組み始めるとみんな楽しんで主体的に取り組んでくれるようになりました。
一方、私がこのプロジェクトの費用対効果を示しきれなかったこともあり、会社全体としては当初後ろ向きでした。半ば強引に見切り発車したところもあります」

また、会社や上司への説明だけでなく、プロジェクトに関わっていない社員やお客様へも取り組みの意義を浸透させる必要があり、大金が最も苦労した点でもありました。最初から3カ年計画で中長期的にじわじわと雰囲気を醸成していく予定だったものの、当然、初年度からある程度の結果を出す必要がありました。

そのため企画室の大金は、このプロジェクトを社内活動にとどめず、チラシやWeb、SNS、ローカル局のテレビCMなどの広告や営業社員の名刺、リクルーティング活動など、社外への情報発信にも積極的に活用していったのです。

芸を身に付けたメンバーは会社の忘年会で初お披露目しました。忘年会をひとつのゴールに設定することも大きなポイントでした。この取り組みの効果はわかりやすく数字に現れるものではありません。だからこそ、楽しげで前向きな雰囲気を社内外でつくっていくことが必要でした。

来店客数が毎年107%増加しお客様からの感謝の言葉と社内共通語が増えた

社外への情報発信の同時展開のかいもあり、店舗への来店数はプロジェクト発足後、年々107%ずつ増加していきました。一芸習得社員たちによる自主的な企画により、店舗イベントの開催数は着実に増加し、お客様との新たな接点を生む機会も増えています。

バリスタ修行を行った社員がお客様にお出ししたコーヒーがとても好評で、それをきっかけに各店舗で挽きたてのコーヒーを飲めるようにしました。お客様からはおいしいコーヒーが飲めると評判です。

愛車の買取の際のプロ顔負けの記念写真撮影や、お店の駐車場に設置している自家農園などもお客様から喜んでいただいており、好評を得ています。

また、新卒採用の面談での入社動機に「一人一芸プロジェクトがおもしろくて、当社に興味を持った」との声が聞かれるようになったことも大きな変化のひとつです。

2年目には会社全体の正式なプロジェクトとして進めることになり、それまで企画室の予算内でなんとかやりくりしていたものが、一芸手当として会社から予算が降りるようになったのです。

当プロジェクトが発足してから2019年現在、3年目に入りました。2年目以降は、1年目に一芸を習得した社員を師匠とした社内師弟制度をスタート。また、これまでは運営側が用意していた芸の内容も、今では「自分たちがやりたい芸」のプレゼンから採用する方式に変更しました。

当初は競合環境と若手の働きがいの変化に合わせた改革だった当プロジェクト。社内師弟制度によって横のつながりが生まれ、社内のコミュニケーション量が一芸の会話により増えました。

スタート時の想定以上の成果を得られた一方で、現在の課題は、この取り組みを形骸化させないためにいかに継続できるようにするかだと大金はいいます。

大金 「どんなプロジェクトも始まりは勢いがいいのですが、だんだん壁にぶつかりますよね。今後はいかに一芸への社員のモチベーションを高く保てるかが課題です」

これからもオートベルでは、「お客様のために感動創造企業」を体現する一人一芸プロジェクトに磨きをかけ、お客様に喜ばれ、感謝される地域のお店づくりを目指してまいります。