クラシックアーティストを支えるACIで、マネージャーを務めるふたり

エイベックス・クラシックス・インターナショナル株式会社(以下、ACI)は、2011年10月に設立されました。コンサートの企画・運営やコンテンツ制作など、クラシックアーティストの活動に関わるすべてをマネジメントしています。

社員数は、本社とロンドン支社を合わせて20名ほど。少数精鋭で、ピアニストの辻井伸行をはじめとするアーティストのサポートをしています。チーフマネージャーの中村は、ACI設立の背景には辻井のサポートを強化したいという想いがあったと振り返ります。

中村 「2009年6月のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝してから、辻井はものすごく忙しくなりました。当時弊社のクラシック部門に所属していた縁もあり、エイベックスでマネジメントをすることになったんです。

当初は2003年に設立されたクラシック部門にレーベルアーティストとして所属していましたが、会社としてはもっと辻井のサポート体制を強化したいという想いがありました。

その後、現ACI社長の中島が、2011年に行われた社内新規事業コンペティションに応募したんです。中島は、クラシック専門会社の設立を目指していました。

辻井をよりサポートできる体制を整えるとともに、世界でも活躍するクラシックアーティストを輩出したい。エイベックスとしてもそのような想いがあったため、ACIが設立されたのでした」

中村と佐藤は、辻井のマネージャーとして活動をサポートしています。世界各国から依頼がくる辻井のスケジュールは、常にギッチリと詰まっています。コンサートの予定はすでに2年先まで埋まり、急遽世界的指揮者から依頼がくることも珍しくありません。

予定を調整しても、国内外を飛び回る日々が続きます。そんな辻井をいつも近くで支えるのが、マネージャーふたりの仕事です。

中村 「僕たちは辻井の視覚をサポートすることも担っているから、朝昼晩ずっと一緒にいることが多いですね。普段の移動はもちろん、ステージ上のエスコートも僕たちがしています。あくまでもわれわれは現場の担当者ということであって、ACIでは協力し合いみんなで辻井のマネージャーをしています」

そんなふたりはマネージャーになるまで、それぞれ異なる経緯で着実に実力をつけてきました。

コンサートスタッフへの興味がきっかけとなり、縁をつないでマネージャーへ

設立当初から9年間、ACIで辻井のチーフマネージャーを担当している中村。高校生のころは、地元の鹿児島でバンドを組んでいました。音楽業界で働きたいと考えるようになったきっかけは、コンサートスタッフの仕事を目にしたことでした。

中村 「よく地元でコンサートを見に行っていたのですが、あるとき会場がワーッと盛り上がっている中でコンサートを支えるスタッフに目がとまったんです。

音響や照明を担当しているスタッフが、とても格好良く見えました。それがきっかけで音楽業界で働いてみたいと思い、上京して音楽の専門学校に進学したんです」

専門学校を卒業した後は、BMGファンハウスの制作部でA&Rアシスタントに携わりました。その後縁もあって、2004年12月にエイベックスへ転職することになります。

これまで宣伝部でのメディア担当、アーティスト担当といった幅広い業務に携わってきました。

中村 「宣伝部でメディアの仕事をしていた当時、辻井がコンクールで初優勝したんです。そのとき空港でぶら下がり取材のマスコミを整理したり、帰国した本人に花束を渡したりしたのが辻井との初対面でした。その直後にテレビで生演奏をしてもらって、初仕事をしたんですよね」

2009年に辻井がエイベックスに所属してから約2年後、中村はACI社長の中島からマネージャーをやらないかと声をかけられました。

中村 「僕はクラシックをあまり聴いたことがなかったのですが、『マネージャーをやってみないか?』と誘われまして。やらせていただけるのであればやりたいですと返事をしました。

高校生のころに辻井が天才ピアニストとしてテレビに出ているのをたまたま見たことを覚えているのですが、そのときはまさか将来マネージャーになって家族以上に長い時間を一緒に過ごすとは思いもしなかったですね」

中村は、毎日共に過ごしているからこそ、辻井のすごさを誰よりもよくわかっています。

中村 「すばらしいピアニストは世界中にいて、その中には辻井より技術が勝っている人もいると思います。でも、辻井にしか出せない音ってあるんですよね。純粋なところやひたむきにピアノに向かう姿勢がにじみ出ているからこそ、お客様も感動してくれるんだと思います」

縁に導かれ、音楽業界へ。リアクションを大切にするマネージャー

制作アシスタントのアルバイトから始まりACIでマネージャーとなるまで、縁をつなぎながら仕事をしてきた中村。そして中村と共に辻井のマネージャーを務める佐藤もまた、縁に導かれてACIにたどり着きました。

昔からの夢でいろいろな世界を見たいと海外へ渡った佐藤。帰国して居酒屋で働いていたとき、高校時代の友人が偶然店を訪れます。そしてその友人が「会わせたい人がいる」と佐藤を連れて行った場所こそ、エイベックスだったと振り返ります。

佐藤 「友人を紹介されると思っていたら、そこはエイベックスでした。その友人はエイベックスで働いていて、人が足りずアルバイトとして動ける人を探していたんですよね。履歴書もないまま社員の方と面接をして『明日から来て一緒に仕事をしませんか』と言われました(笑)」

突然の展開にとまどったものの、中学生のころからダンスミュージックを好んで聴くなど音楽が好きだった佐藤。これをきっかけに2006年1月から、エイベックスで働き始めました。

佐藤は居酒屋の仕事も宣伝部の仕事も好んでいましたが、そこにはリアクションが直で見られるという共通点がありました。

佐藤 「居酒屋ではお客様に料理を出すとき『わあ、おいしそう』といったリアクションを見られます。そして宣伝部では、アーティストに対するファンのリアクションを近くで見ることができます。反応が直に伝わるのが楽しくて、現場の仕事を続けたいと思っていました」

しかし、その後佐藤は管理部門(契約部)へ異動となり、内勤業務に携わることに。いつしか再び現場に出たいという想いを抱えていたときに、宣伝部で知り合っていた中村から声をかけられ、ACIへ異動することになったのです。

中村 「マネージャーとしてのさまざまなサポートで本人といる時間も長くなりますので、信頼できる人がいいなと思っていたんです。佐藤は宣伝部や契約部での経験もあり、以前から人柄も含め信頼できると思っていたので声をかけました」

佐藤が初めて辻井の生演奏を聴いたのは、宣伝部で働いていたときのこと。クラシックにはあまりなじみがありませんでしたが、辻井の演奏を聴くと自然と涙があふれてきました。

佐藤 「すごく感動して、辻井の演奏が不思議に見えたことが印象に残っています。そのため、中村から辻井のマネージャーに誘われたときも、自分が良いと思える本物の音楽に関わる仕事ができることを嬉しく思いました」

再び現場仕事に携わることになった佐藤は、今もお客様のリアクションチェックを欠かしません。

佐藤 「ステージ上で辻井をエスコートするときも、舞台袖に控えているときも、お客様の生のリアクションを確認するようにしています。ずっと辻井と一緒に歩んでサポートしているからこそ、お客様の反応から得られる感動もありますね」

共に成長し、感動を届けられることがマネージャーの醍醐味

コンサートツアー中は就寝時を除いてずっと辻井と一緒にいる中村と佐藤。休日にも、仕事仲間やアーティストに声をかけ一緒に遊びに行くことがあります。

中村 「忙しいからこそ、オフにできるときはオフにしてみんなでバーベキューしたり、温泉に行ったりしています。訪れた地方で出会った方と仲良くなって、一緒に飲みに行ったこともありました。プライベートではマネージャーとアーティストではなく、友達や家族のような関係です」

仕事だけでなく遊びも一緒にすることで、信頼関係が育まれるとともに辻井のアーティスト活動にも良い影響をもたらします。

中村 「コンサートで地方に行くとき、僕たちはパッと見たものがその地方のイメージになります。でも辻井の場合は、地元の方とコミュニケーションを取ったり地元のものを食べたりすることで、その場所のイメージを感じやすいと思います。

彼は作曲家としても活動しているので、そうした仕事以外の経験がクリエイティヴに生きることもありますね」

仕事でもプライベートでも、変わらず辻井をサポートする中村と佐藤。マネージャーという仕事の醍醐味は、アーティストの人生を預かりながら共に成長し、感動を届けられることだと考えています。

中村 「今までたくさんのアーティストと関わってきましたが、マネージャーとなった今ではより深くひとりと関われていると思います。マネジメント業務は、アーティストと一緒に何年も先のプランを考えながら、共に人生を歩むものだと感じています」

メディア担当やアーティスト担当を経験してきた中村と、宣伝に加えて管理部門で契約の仕事をしてきた佐藤。ふたりのスキルは、クラシックに関連する業務をすべて行うACIで発揮されています。そしてそのスキルを生かし、今後も辻井をサポートしていきたいと考えています。

中村 「辻井は国際コンクールで初優勝する前からずっと、周りに感謝しながらステージに立ち続けています。スタッフにも感謝するし、演奏後はニコニコしながらお客様に何度もお辞儀をします。

本当にピアニストとしての仕事が大好きなのだと思います。だから僕たちは、そんな彼のすばらしい演奏をできるだけ長く届けられるように、寄り添ってサポートしていきたいと思います」

ふたりのマネージャーは、これからもアーティストの人生に寄り添いながら歩んでいきます。