熱い想いを原動力に、優れた技術と人材を社会へ――東大発ベンチャーを支援する理由

乳がんの診断装置を開発するLily MedTechは、Beyond Next Venturesの代表・伊藤毅が、2015年から支援する東大発ベンチャーです。「自分たちが研究開発した技術を、広く医療現場で役立ててほしい」――そんな想いをもつ同社にとって伊藤の支援にはどのような意義があったのでしょうか。
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「確固たる想いがあれば大丈夫」未経験の社長を支えた言葉

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左からBeyond Next Ventures代表の伊藤、Lily MedTechの東志保社長と東隆教授
東京大学で教鞭をとっている東隆教授(大学院工学系研究科)と、Beyond Next Ventures株式会社の伊藤がはじめて出会ったのは2013年7月、前職時代に自身が企画運営したベンチャー起業家向けセミナーでのこと。当時、東教授は超音波による治療技術の研究に取り組んでいました。

東隆教授 「その頃はまだ、具体的に起業すると決めていたわけではありませんでした。でもいずれは自分の研究成果を製品化したいという、漠然とした想いがあったんです。そこでまずは、起業についての情報を集めるためにセミナーに参加しました」

伊藤の第一印象は「技術の事業化に熱心に取り組む人」だったそうです。そのときには深い接点はありませんでしたが、ふたりはそれから2年後に再会し、ともに同じ目標に向かって歩むことになります。

セミナーに参加して以降、東教授は、ご自身の研究を事業化する道を模索するようになりました。事業化を検討したのは、超音波診断技術を活用した「乳がん用画像診断装置」の開発。その事業を行う企業の社長として、東教授のパートナーである東志保さんが参画することも決まりました。東大発ベンチャー「株式会社 Lily MedTech(リリーメドテック)」が誕生する、およそ1年前のことです。

志保さんには、一抹の不安がありました。医療機器の分野は、臨床医や経験者がが事業の代表を務めることが多いもの。しかし志保さんは、臨床の現場経験はもちろん、企業経営を行うのも初めてだったのです。

そんなおふたりの背中を押したのが、2015年の夏に再会した伊藤だったといいます。

志保社長 「企業の代表を務めるのに経験があるかないかは関係ない。誰しも最初は未経験。強い意思があれば大丈夫、と伊藤さんが言ってくださったんです。それがかなり心強かったですね」

VCが技術系ベンチャーに投資をする際、「テクノロジー」や「事業性」などが欠かせない評価軸となります。しかしそれら以上に、伊藤は「人」を重視していました。

伊藤 「ご本人たちから、本当にこの技術、製品を『世に出していきたい!』という強い意志を感じたんです。だからこそ、我々としても全力で支援していこうと決めました」

最先端の医療技術に秘められた、想いとビジネスの可能性とは

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BRAVEアクセラレーションプログラムのセミナーにて講演を行う志保社長

VCである伊藤自身も強く共感した、東志保社長が事業にかける想い。それはご自身の忘れられない原体験から生まれたものでした。

志保社長 「私自身、高校生のときに母親をがんで亡くしているんです。でも乳がんは、早く見つかりさえすれば必ず治る病気。乳がんの死亡率を低減し、私のような思いをする人をひとりでも減らすためにも、検診率を上げ、乳がんの早期発見を可能にしていきたいと考えていました」

現在Lily MedTechが開発している「乳房用超音波画像診断装置」は、東教授が研究している超音波検査技術を使った、新しい乳がんの検査装置です。

一般的な乳がん検診でよく使われている医療機器には「ハンドへルドエコー」や「マンモグラフィ」などがあります。しかし厳密にいうと、それぞれに不確実な要素やデメリットなどがありました。

志保社長 「私たちが開発している装置は超音波による診断を行うため、乳腺比率などの個体差に影響を受けることがありません。リング状に配置した約2,000個の素子でデータを取得することで、3Dの断面像や正確な生体情報を得られるんです。特別なテクニックもいらず誰でも使えて、より正確な診断結果を出せる。被験者に痛みを与えることもなく、被爆する危険性もありません」

東教授 「従来の検査方法では、どうしても細部までリーチしきれていない部分がありました。そしてそれを解決したいという臨床側のニーズがあることもわかっていて。私たちの開発している装置によって、医療現場のそのような課題を解決していきたいのです」

おふたりの強い想いと、Lily MedTechが提供する技術のポテンシャルに、伊藤は強く惹かれました。乳がん検診用医療機器のニーズは世界中に広がっています。その大きな市場規模と社会的意義も、投資を決定する後押しになりました。

経営を支えるパートナーとして、チームの一員として

Lily MedTechのような研究開発系のベンチャー企業にとって、東京大学はとても恵まれた環境です。周囲には優秀な学生が多く技術者のコミュニティもあり、産学連携を推進するための環境も整っているのに加えて、臨床研究を行いやすいというメリットもありました。

しかし、実際に起業して事業を継続していくためには、研究のための環境が整っているだけでは不十分です。当然のことながら、技術開発や研究とは別に経営やマネジメントに関する知見が必要になります。

志保社長 「とにかく問題は、私が経営のノウハウが全くない素人だったという部分に尽きると思います。知的財産権などの大きな問題と向き合う必要もありましたし、総務や会計のことなどもよくわかっていませんでしたから」

2016年5月に「株式会社 Lily MedTech」を創業するまでも、実際に事業をスタートさせてからも、伊藤はVCとしておふたりに寄り添い、経営面はもちろん、初期の事業運営や資金調達など、さまざまな助言とサポートを行ってきました。

志保社長 「伊藤さんの支援がなかったら、私は社長になっていなかった――むしろなるべきではなかったと思います。経営者の使命は、事業を成功させることですから。今でも経営に関してわからないことがあれば、すべて伊藤さんに質問しています。いつも私たちに伴走してくれている感じですね」
東教授 「志保社長はとても正義感が強く、正しいと思うことを追求しようとする人。そうした気持ちが強すぎて、誰にでも突っかかっていってしまうんですけど(笑)、伊藤さんはいつも、それも全部正面から受け止めてくれています。だからこそ、チームとして一緒にやっていくことができたと思います」

伊藤は自分も「チームの一員」という意識で、同社の支援に携わり続けています。この事業を成功させたい、という一心で。

伊藤 「大事なのは、ずっと私たちが支援を続けることではありません。中長期的な視点でサポートしながらも、一日も早く、ご自身だけで経営を行えるようになることが最優先です。そうした状態へと導いていくことが、私たちの役割だと思っています」

大学発ベンチャーを支援し、多くの人材を輩出していきたい

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BRAVEアクセラレーションプログラムの魅力を話す、Beyond Next Ventures代表の伊藤

2016年5月の創業から半年。ベンチャー企業としてのスタートをきったLily MedTechは、これからさらに多くの臨床試験を重ね、次のステージへ向かおうとしています。

東教授 「プロダクトを開発しても、医療現場で使われなければまったく意味がありません。これからも臨床試験で得られたデータをもとに改良を重ね、多くの現場で役立てていただけるようにしていきたいですね」

伊藤は同社のおふたり、特に経営者となった志保さんに対して、後進のロールモデルになって欲しいと大きな期待を寄せています。今、東京大学では、技術系スタートアップを後押しする環境がかなり整いつつあるので、Lily MedTechのように実用化への情熱と優れた技術をもった人材に、ぜひ後につづいてほしい。そう切に願っているのです。

伊藤 「大学発のベンチャーにとって一番のボトルネックになっているのは、人材面だと思っています。だからこそ私たちは、支援を行った方が5年後、10年後もプロの経営者として活躍できるように、これからも引き続き尽力していきたいと思っています」

Beyond Next Venturesが運営をスタートした、大学発の技術系ベンチャーを支援する「BRAVEアクセラレーションプログラム」。それはまさに、Lily MedTechのような企業を多く輩出し、育成していきたいという伊藤の強い想いから生まれたものです。

経営未経験の研究者の方であっても、このプログラムを活用することで、すばらしい研究成果や技術を社会に送り出してほしいと願っています。

株式会社lily MedTech:http://www.lilymedtech.com/

BRAVEアクセラレーションプログラム:http://brave.team/

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