人と人が繋がる“場”をつくるーー130年の歴史を持つドイツ企業がカフェに込めた想い

ボッシュ株式会社はドイツに本社を構えるテクノロジー企業。2015年、その渋谷本社1階に「ボッシュの歴史、現在と未来」というテーマ性を持ったカフェ&ショールームをオープンしました。このカフェの発起人であるコーポレート・コミュニケーション部 GMの下山田淳がカフェに込めた想いに迫ります。
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ふと立ち寄った「ある場所」から、不意に湧いたインスピレーション

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いまでこそ、café 1886 at Boschとショールームがあるボッシュ・ジャパン本社1階の玄関口ですが、ほんの数年前までここは殺風景なミーティングスペースでした。イスと机が置いてあり、その傍らにボッシュの企業紹介が置いてあるだけ。そんな何の変哲もない場所でした。

のちに、カフェの発起人となる下山田淳がボッシュに入社したのは2013年。彼は当初、この玄関を見て“暗くて冷たい”と感じていました。

コーポレート・コミュニケーション部の責任者となった下山田は、まずはボッシュのスピリットを学ぶべく、ドイツのボッシュ本社に行くことになります。そのとき、当時の社長から「日本におけるボッシュの知名度の低さを改善せよ」という難しいミッションが出されました。

下山田 「ドイツに行ったら、ボッシュってすごい会社だなってビックリしたんですよ。ドイツ人らしい真面目さで 130年以上かけて築いてきた歴史があって、お年寄りから子どもまでみんながボッシュのことを知っている。それに比べて、日本におけるボッシュの見せ方ってあまりにも寂しいな、悲しいなと思いました」

――どうすれば、日本人にもっとボッシュを知ってもらえるのか。

ドイツでの滞在期間中、何度も会議に会議を重ねました。そんな連日の会議に疲れきっていたあるとき、下山田はボッシュの歴史資料館「アーカイブ」に立ち寄ります。

下山田 「そこの一角にあり、1900年代初頭から存在していたボッシュの小売店のレプリカ前に立ったとき、なぜか『あー疲れた、コーヒー飲みたい!』と思ったのです。その瞬間『おお、これだ!』とひらめきました。この小売店のレプリカの雰囲気を、渋谷の本社に持ち込んだらどうだろうって。そしたら、ボッシュの歴史やドイツの雰囲気を伝えることができると感じました」

日本に戻った下山田は、さっそくこのプロジェクトを実現すべく、走り出しました。

日本の名だたるクリエイターたちと共創する旅に出た

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下山田の頭の中には、すでに現在のカフェのビジョンが浮かんでいました。

――これを実現するにはボッシュの理念に共感する、その道のクリエイターたちが必要だ。

彼はまず、一流のクリエイターたちを口説き落とし、メンバーを集めました。

そして次に必要なことは、カフェのビジョンを彼らと共有すること。「口で説明するだけでは、うまく伝えるのは難しい。ならば一緒に同じ風景を見ればいいんじゃないか?」。そう考えた下山田は、集合したクリエイターたちを引き連れて、1週間ドイツに行くことにしました。

下山田 「ドイツは、北と南でまったく文化が違います。北のベルリンがどちらかと言えば先進的なのに対し、ボッシュの故郷である南のシュトゥットガルトは総じて保守的で、古き良き文化や風景が人々の日常に溶け込んでいます。文化的側面からその両方を見て知っていただいたうえで、一緒にカフェをつくりあげたいと思いました」

ボッシュの歴史資料館「アーカイブ」はもちろん、あらゆるカフェやバーを巡り、内装や運営スタイル、メニューの研究を行いました。道中は下山田自らの知見を生かし、ツアーガイドのごとくドイツを解説。ボッシュの歴史だけでなく、ドイツをカルチャーから知ることが重要だと考えたからでした。

こうして、制作メンバー全員と同じイメージを共有し、つくりあげたのが「café 1886 at Bosch」。現地のドイツ人にもボッシュの歴史をリアルに感じられる場所となりました。

ボッシュの歴史と日本人の大切にしてきた“ものづくり”精神が宿ったカフェ

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2015年に完成した、「café 1886 at Bosch」にはショールームが併設されていますが、それぞれテーマが異なります。

カフェは“ボッシュの歴史”、ショールームは“ボッシュの現在、未来”。空間全体で“過去から現在、未来まで”を表現しています。

ふたつの空間の境目の床はよく見るとぼかされており、過去と未来の移り変わりが表現されています。誠実に日々を重ね、丁寧に積み重ねてきた歴史こそが、誰にも真似できないボッシュの貴重な財産です。

だからこそ、ボッシュ社の軌跡の象徴である歴史的な製品の数々をインテリアや展示品として設置しています。ドイツのボッシュ創業時に使われていた作業台にインスパイアされてつくった長机には、万力のハンドルをつけるなど遊び心を演出しています。

ドイツ語のことわざに「Ohne Herkunft, keine Zukunft(過去なくして、未来なし)」という言葉があります。ドイツも日本も、もともと歴史を尊ぶ文化があるので、歴史をテーマにすることで伝わる想いがあると考えました。

下山田のカフェへのこだわりは、歴史だけを重んじているわけではありません。いま生きている人たちが使いやすいように、という工夫も凝らしています。

たとえば、渋谷に多いノマドワーカーが使いやすいようにと、ひとりでも滞在しやすいカウンター席を用意し、そこにはライトとコンセントを設置しました。フリーWiFiも用意しています。

下山田 「もうひとつカフェで示したかったことがあります。それは日本のプライドやアイデンティティ、匠の技です。時間内にビシッと、設計図通りのものをつくってしまう日本の大工さんによる造作もそうだし、食に対するこだわりもそう。

海外に行ったことがある人はわかると思いますが、日本ほど安く早く安全で衛生的で、しかもおいしいご飯が食べられる国ってなかなかありません。アジアといえば、とかく中国に関心が集まる中で、世界にいるボッシュの従業員に対しても、こうした日本の持つ強みを発信したかったのです」

だからこそ、建築は窪田茂さんに。料理の監修は肉料理の本場ドイツの味を伝えるために、肉シェフとして知られる和知徹さんに。コーヒーは本当においしいコーヒーにこだわるTORIBA COFFEEさんに特別にブレンドしてもらうように。と、各分野の一線で活躍するプロフェッショナルに依頼しました。

このようにボッシュのこれまでの歴史や日本ならではのこだわりが、この「café 1886 at Bosch」を形づくっています。

ライフスタイルに寄り添う、様々なコミュニティーや企業、地域を繋げる“場”

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社内では、このカフェとショールームを含めた空間のことを「Bosch Platz(ボッシュ・プラッツ)」と呼んでいます。「Platz(プラッツ)」とは、ドイツ語で「広場」のこと。ヨーロッパの国々に点在する広場のようになってほしいという願いを込めました。

広場には、人々の心の宿り木になる教会や政治的な役割を担う役所、憩いの場になるカフェがあり、生活を司るマーケットでは肉や野菜を売っています。そこには当然人々が集い、コミュニケーションが生まれ、多くのコミュニティへと発展していきます。

日本にも“場の思想”というものがあります。実際に会って、話すことで対立を解消し、昇華するという考え方です。

下山田 「デジタルな時代だからこそ、実際に会ってコミュニケーションをできる場がつくりたいと思いました。スマホだけで簡単にコンタクトできるからこそ会おうよって。たとえば就職や今後のことで悩んでいる若者が、年上の先輩たちに相談できる場とかね」

私たちは、渋谷区とS-SAP(渋谷ソーシャルアクションパートナーシップ)協定を結び、渋谷区が抱える様々な課題に取り組んでいます。その一環で、渋谷をテーマとしたまちづくりに関するMeetupイベントをこのカフェで毎月開催しています。

下山田 「社外との取り組みだけでなく、社内イベントも増えています。内定式のあとのパーティを実施したり、社内のアイデアを事業化するためのピッチイベントもここで開催しました。そうそう、社長もよくここで外部の方とミーティングをしています。『ボッシュのカフェいいね!』って言われるのが嬉しいみたいです(笑)」

どんなに時代が流れても、人は顔を合わせるコミュニケーションを取ることで、関係をより深めたり、新たな関係を構築したりできるものです。

ヨーロッパに点在する広場のように、人と人が会ってお喋りをしたり、ひとりでただただ時間を過ごしたり。ある人にとってはたまたま立ち寄った場所であり、ある人にとってはアイデアを考え、仕事をするための生活に欠かせない場所。「café 1886 at Bosch」はそんな場所であり続けたいと思っています。

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