spoitでアスリートのセカンドキャリアを支援──ボブスレー元日本代表・伊藤隆太

高校時代、同じ陸上部でお互いを高め合った林諒と、2016年~2018年ボブスレー日本代表で2022年北京五輪出場を目指す伊藤隆太。2019年現在は代表取締役とアンバサダーという関係で、spoitという初心者女子向けスポーツメディアと、好きなスポーツを教え・教わることができるスキルマッチングのサービスを開発。そんなふたりが、スポーツ界の現状と課題、そして今後の夢について語り合いました。

アスリートが陥るセカンドキャリア問題の実情

株式会社Co-Step代表取締役CEOの林諒と、同社のサービスアンバサダーを務めるボブスレー日本代表の伊藤隆太。実は高校時代、2人は全国屈指の強豪校である東京高校の陸上部で互いを高め合った仲でした。後に伊藤は大学でボブスレーと出会い、オリンピックのトライアウトを受けます。

伊藤 「 1回目はまだ大学生のときでした。ありがたいことに代表合宿推薦の声をかけられたのですが、当時学校現場で働いていたので、学校行事が忙しくて断念しました。そして 2013年、 2回目のトライアウトを受けることになったのです。結果として 4人乗りで全日本選手権 1位、海外ではパイロットとして世界ランキング 71位にまでのぼりました」

しかし、競技を続けていく上で、大きな問題がありました。

伊藤 「マイナー競技はどうしても、資金力の問題があります。昨シーズンも日本代表として活動しましたが、それでも自己負担金があるのが現状です。海外に行くとなると、現地での栄養管理なども欠かせませんし、総額 120万程度は必要になると思います。費用の工面に苦しむ選手は多いです」
林 「続けていく上で、お金の課題が大きかったと」
伊藤 「そうです。本当にスポーツはお金がかかります。日本代表でさえ、スポーツと関係のない仕事で日銭を稼ぎ、親から援助を受けながら競技を続けている人もいます。それほど生活困難なのが現実です」
林 「大半のスポーツは、世界でメダルを獲っても生活ができないという現実があるのでしょうか」
伊藤 「資金面がクリアできずに辞めていく人も多いですからね。 2019年現在は遠征や練習をしながら、廃棄物収集のアルバイトや学校での講演会に出ることで収入を得ています。それでも生活はギリギリの状態です」

一般的にある華やかなイメージとは裏腹に、アスリートたちの多くが資金面で困難を抱えています。しかしその一方、「競技以外で仕事をしたくない」という選手も多いそうです。

伊藤 「僕の実感値では 9割がそうですね。世界的に見たら、トレーニングを教える仕事に行き着く人が多いですし。そもそも、朝から晩まで練習やコンディショニングを行う中で、働く時間をつくるのは難しい課題ですよ」
林 「せっかく他人より秀でたスキルがあるから、できればスポーツで生活をしたい。でも、スポーツだけじゃお金がなくて生活できないから、別の手段で稼がなければいけない。多くのアスリートたちは、こういった葛藤を抱えつつ競技を続けているんですね。


不思議なのは、スポーツのスキルって、社会に出たときはそこまで評価されないじゃないですか。でも高校や大学では『スポーツ推薦』というものがあって、スポーツができれば学力に関係なく入学できてしまう。それはある意味、スポーツが神聖化されているのではないかと思います」


スポーツをやっている=それだけですごい。そんな評価が、学校から会社に変わった瞬間にガラリと変わってしまう。それも大きな問題だと、林は考えています。

アスリートが持つスキルを、学びたい人たちへ

▲ ボブスレー競技中の伊藤さん

また、伊藤と林が望んでいるのが、「続ける環境がないから諦める」という若い世代に、新たな選択肢を示すことです。

伊藤 「最近出会った学生たちの話を聞いていて、 “スポーツをしながら生活費などのお金を稼ぐ ”という選択肢がそもそもないことを感じました。『十分に競技に集中できないのであれば諦める』と考える人も多いです」
林 「何よりも、スポーツ選手がお金を稼ぐという感覚がまだまだ一般化していません。プロのアスリートでさえ、生活が苦しいからアルバイトや複業をしていると、監督や協会は『お前は何をやっているんだ、競技に集中しろ』と言われるような慣習はまだまだあるみたいですし。


だから、まずはそのスポーツ界という閉鎖環境から一歩踏み出し、外の世界(社会)に触れることが必要です」


伊藤 「まったくその通りです。『有名な人じゃないとやっちゃいけない』という感覚はかなり根強いし、今でも言われることがありますからね。そんなことをしていないで『まずは結果を出せ』と。そういう根本的な部分を変えていかなければなりません」
林 「多くのプロアスリートはクラブとプロ契約を結び、年俸制で仕事をしています。そのため、クラブと雇用関係にありません。


つまり、クラブはアスリートの人生に対して何も保障してくれません。だからアスリートは世の中のサラリーマンとは比べ物にならないレベルで、自分の将来設計をしなければならないわけです。


もちろん、そのままクラブ運営側の社員に回るなど、サポートに力を入れるクラブはあります。ですが、大半は目をつぶっている。だからアスリートのセカンドキャリアなんていう言葉が生まれるのだと思います」


伊藤 「冷静に考えると『セカンドキャリア』という言葉もおかしいですよね。アスリートにとってセカンドも何もないよと。人生は誰しも 1回。常にファーストだと思って、みんな人生かけて頑張っているわけですから……」
林 「セカンドキャリアという言葉は、アスリートの地位の低さ、スキルの価値の低さを象徴していますよね。社会や企業、クラブがアスリートの引退後の生活から目をそむけるための、使い勝手のいい言葉だと思います。


『セカンドキャリア問題どうにかしたいよね~』と聞きますが、セカンドキャリア問題ってつまり『アスリートの人生無視して、都合のいいときに使えるだけ使い倒そうぜ』って現実の裏返しじゃないですか?そう思うと、なんとひどい言葉なんだと思いますよ……」


だから spoitを通して、『自分のスキルが社会に出ると何円に換わるのか?』ということを知ってほしいと、林は言います。そうして絶望したり、希望を抱いたりして、『自分のスキルを生かした人生をどう送るのか?』ということを、しっかり考えてほしいと望んでいるのです。

林 「最近ではクラウドワークスやココナラなどスキルを売り買いできるサービスが増えました。ロゴ作成、ムービー作成、サイト制作などのスキルが、容易にお金へ換わる時代になったわけです。


だから、スポーツのスキルだってお金に換わるべきだと思います。そして、企業と雇用関係にあるサラリーマンでさえも複業解禁になっているわけだから、プロ契約で雇用関係もないアスリートが複業しづらい環境にあるのはおかしいものです」


限界が見えることもある。重要なのは“その先に何を見いだすか”

高校卒業後もスポーツを続けている伊藤と異なり、林は就職活動を機にビジネスの世界へ方向転換することを選びました。

林 「僕も陸上の 10種競技にずっとのめり込んできました。でも、いくら 10種競技を頑張って日本一になったところで、それだけで生活できるわけではないし、実業団と契約できたとしても、人並みに生活できるレベルでしか稼げません。

そんな現実を直視せずにダラダラ競技を続けるか、その努力を別のことに注ぐのか。就職活動を目の前にして考え、僕はビジネスの世界に努力の方向性を向けました」


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林 「それに、結果を出しているアスリートはかなり頭も賢く、努力をし続けるという才能があるのに、ほかのことには生かせていません。スポーツで結果を出すのと、ビジネスでお金を稼ぐプロセスはまったく一緒なのに、そこがうまく転換できていないなと感じたのが、ビジネスをはじめた大きなきっかけです」
伊藤 「アスリートは勉強が苦手。という風潮はありますよね。でも本人が意識していないだけで、かなり勉強しているんですよ。たとえば競技に関わるような栄養学やスポーツ力学、生理学、哲学など。そういうアスリートはきっと、『自分の目指す目標を達成させるためなら勉強を惜しまず努力をし続け、結果を出し、賞賛される』というプロセスに快感を覚えているのだと思います」
林 「それは、ビジネスの基本である『 PDCAサイクル』ですよね。『勉強ができる』と『頭がいい』は違うとよく耳にしますが、頭がいい人は PDCAサイクルを高速で回せる人なんだと思います。

アスリートって PDCAサイクルの極みですよね。一定の結果を出せているアスリートは、ビジネスの世界でも活躍できるポテンシャルがあると思います。時に就職活動で体育会系が評価されるのはそういったポテンシャルを企業が見抜いているからなんですよね」


目指すのはアスリートの“認知”

林が重要だと考えているのが、「アスリートが自分のスキルを、社会にどう見せるか?」ということです。

林 「その人のスキルに合ったアウトプットの仕方を提案していきたいなと。たとえばずっと練習の日でも、『その最初と最後の 1時間を使って講座を開き、運動会前の子どもたちに早く走るコツを教える』とかだったら敷居は下がるのかなと思います」
伊藤 「いいですね。日頃からランニングクラブに通っている子どもはいいけど、運動会が近づいてくると、焦って学ばせたいと思う親はいますよね。

spoitの良いところは、毎月定額のクラブ会員になるのではなく、好きなときに好きなだけ学べるスポット型の講座をベースにしていることだと思います。『がっつり足を速くして大会に出場して活躍したい!』と思う人はクラブに入れば良くて、 spoitは『そこまで速くならなくていいけど、足が遅くてカッコ悪い思いはしたくない』と思うような人に活用してもらいたいです」

反面、ほとんどの選手は初心者向けにかみ砕いたレベルで教えるスキルがなかったり、たとえ教えるのが上手かったとしても、アスリートの素性がわからなかったり、無名なアスリートだと、受講者を集めるのが難しいようです。

伊藤 「だから spoitはアウトプットの仕方をサポートすべきだし、アスリートにとっても『僕がやっているのはこういうスポーツです』という発信がセットでできると、一番良いのかなと思います」
林 「世の中のニーズに合わせて、自分のスキルをどのようにアウトプットするのか。その方法が学べる場を spoitではしっかりサポートしていくつもりです」

そのために、とくに大切にしている観点は「集客」だそうです。

林 「つまり spoitにあるコンテンツを世の中の人に認知してもらえるか?ということです。どんなにすばらしいアスリートでいい講座を開いても、それを誰も知らなかったり、検索でヒットしなかったら、参加もできない。アスリートがお金を稼ぐために一番重要なポイントは、 “社会に認知されること ”だと思っています。

Twitterなどの SNSで派手なことをやらなくても、 spoitの中で自分の得意なスキルを生かして頑張り続ければ、参加者から高評価のレビューを得ることができて自然と人が集まってくる、そんなシステムをつくろうとしています」

伊藤 「結局ボブスレーという競技も、日本では “認知されていないこと ”が大きな課題だと思っています。オリンピックに出場し、活躍し、メダルを獲り、メディアに取り上げてもらう。現在のスポーツにおいて認知を得る方法って、これしかないと思います。

だから『インターネットの世界でスポーツを学べる/体験できるというコンテンツを通して、認知を得る』という方法があってもいいと思うし、あるべきだと切実に思います」

伊藤は、spoitを通して、アスリートの新しい活躍の仕方を体現していきたい、そのためにも今後はアンバサダーとしてのスキルを伝えながら、自身の競技活動も続けていくと言います。

spoitで多くのアスリートが抱える課題を、どのように解決するのか。今後のさらなる発展に期待です。

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