社員の健康を何より大事するCRAZYがぶつかった、「睡眠不足」という課題

「To celebrate your life the most in the world. ──世界で最も人生を祝う企業」というビジョンのもと、ウェディングや法人に向けたコンサルティングの事業を行っている株式会社CRAZY。代表の森山和彦は、「お客様に幸せを提供するためには、まず自分たちが幸せでいなくてはならない」と考えていました。

森山 「社員が幸せでいるためには、身体的にも精神的にも健康でいなくてはならない。そう考え、創業当初から独自の健康経営を実施してきました。オーガニック食材を使用したランチを毎日全員でとることで身体の健康を促進したり、合宿型の研修によって人間関係を深めて精神の健康を促したりなど、独自の取り組みを多数導入してきました。だからこそ、社員の健康を大事にすることは、会社のカルチャーとして根づいています」

しかし、お客様一人ひとりの人生に寄り添いクリエイティブな仕事をする社員たちは、長時間労働を常態化させていました。成長意欲が高く、多くの時間を仕事に充てたいと考え、睡眠時間を削って仕事をする社員が多く見られたのです。

睡眠時間が削られると生産性が低下し、さらに長時間労働が習慣化するという負のサイクルが生じます。社員の健康を大事にする経営を行ってきたからこそ、森山は睡眠不足という悪影響をもたらす課題をなんとかして解決しなければならないと考えました。

そして、森山は他社の友人から「長時間労働の規制が厳しく、十分に働けない」という不満を聞いたことがきっかけで、ある発想に至ります。

昨今の働き方改革では、労働時間を短くすることが注目されがちです。しかし、時間の制限なくもっと働きたいと考えている人もいるはず。休みたい人はきちんと休めて、働きたい人は働けるという両者の権利を守るための施策を考えた結果、森山は発想を逆転させることを思いつきました。

それは、長ければ長いほどブラックといわれる労働時間を管理するのではなく、長ければ長いほどホワイトといわれる睡眠時間をサポートすること。

こうして、日本初の「睡眠報酬制度」が誕生しました。

強制せず、社員自ら参加したくなる工夫で睡眠報酬制度導入へ

睡眠報酬制度を導入しようと考えた森山は、科学的なアプローチで睡眠の改善に取り組む株式会社エアウィーヴの高岡本州会長に相談しました。

高岡会長は、「若者が多く働くベンチャー企業で、睡眠の重要性を示すために協力したい。働き方改革が思うように進んでいないベンチャー企業の参考になるよう、CRAZYの背中を見せていってほしい」と話し、睡眠報酬制度の導入にあたり科学的知見からの協力を承諾してくれたのです。

こうして、睡眠報酬制度の導入に向けた取り組みがスタート。2018年7〜9月に社内でトライアルを実施したのち、2018年10月に正式リリースしました。発案から導入開始までおよそ1年の期間で準備を進めました。

導入前はエアウィーヴ社と話し合った上で、制度の内容を決めることに。人間にとって最低限必要な睡眠時間を、社員には少なくとも勤務する日は確保してもらうことを目指し、1週間で6時間以上の睡眠を5日間確保した社員に報酬を与える制度にすると決めました。

睡眠時間の計測は、エアウィーヴ社の睡眠時間計測アプリ「airweave sleep analysis」を用いて行います。ベッドサイドにスマホを置き、計測するとデータが蓄積されて会社に届くしくみです。

報酬は、社内食堂やCRAZY CAFE「Blank」で使えるポイントです。ただお金を渡すのではなく、オーガニック食材を使用した朝ごはんのおにぎりや夕食、お菓子、コーヒーなどと交換できるポイントを付与することで、さらなる健康の促進と社内経済の循環を図りました。

制度導入にあたって重視したのは、強制しないことです。社員が自らやりたいと思えるものでなければ制度として定着しませんし、会社からやらされていると社員が感じてしまうと、前向きに動きたいと思えなくなってしまうからです。

そこで、代表の森山が自ら、社員に何度も制度の導入背景や目的を話しました。社員の健康を守りたいという想いで制度を始めるけれど、強制参加ではないことを念入りに共有。制度への参加は自由で、参加したくない社員の権利は睡眠時間を計測しないことで守られるとして、導入を決定しました。

得られる報酬は、6時間以上の睡眠をとると1日につき100ポイント(100円相当)。1カ月間計測し続けた人には皆勤賞として1,000ポイントが付与されます。また、不定期でポイントを最も多く獲得した社員を全社員の前で表彰することも、社員の積極的な参加を促す工夫です。

さらに、導入後は代表の森山や役員たちが率先して睡眠報酬制度を活用しています。毎月集計されるポイント獲得数ランキングでは、必ず役員1〜2名がトップ3に入賞し、社員に睡眠時間を確保することの重要性を示しています。

健康促進と生産性向上につながり、会社にさらなる誇りを持てるように

睡眠報酬制度を導入したことで、制度導入前の2018年7月には5.5時間だった社員の平均睡眠時間が、2019年7月には6.07時間へと増加しました。ウェディングの繁忙期である6月や創業周年イベントなどが多い7月は、睡眠時間が減少すると予想されていましたが、社員は忙しい中でも平均6時間以上の睡眠を確保できています。

また、社内のエンゲージメントスコアが改善しました。2019年は新ブランドの立ち上げで体制変更や業務内容に大きな変化があったにも関わらず、制度導入前の2018年よりも高い数値を維持できています。これは、睡眠報酬制度によって社員の健康や睡眠に対する意識が向上したからだと思われます。

さらに社員からは、健康促進と生産性向上というふたつの側面で効果を感じられたという声が寄せられました。「睡眠時間を確保することで、体調が崩れにくくなった」という身体的な変化や、「眠ることや休むことを前向きに捉えられるようになった」という考え方の変化を実感した社員が増えたのです。

「夜に仕事を持ち越さず、朝に回すようにしたことで生産性が上がった」と語る社員や、「自分の仕事内容を見直すきっかけになった」と働き方をあらためて考える社員も。睡眠報酬制度の活用により、いくつもの効果を得られたことがわかります。

そして社員は、会社が睡眠に意識を向けてくれたことを喜んでいます。日本人は睡眠時間が少ないと世間的に言われている中で、経営の最優先事項は健康だと断言する自社が、睡眠を促進する制度を導入してくれた。その事実が、会社と社員の信頼関係をいっそう強くしてくれたのです。

睡眠報酬制度をリリースしてから、CRAZYは国内60媒体以上、海外8カ国から取材をいただきました。その中で社員が取材対象となったり、お客様から睡眠報酬制度について言及されたりすることもありました。そうすると、社員は社会の動きと会社との親和性を感じられます。

睡眠報酬制度は社員の健康を促進し生産性を高め、社員が会社に誇りを持って働けるという正のサイクルを生み出したのです。

社員が抱える熱い想いを生かし続ける会社でありたい

「睡眠報酬制度を自社でも取り入れたい」と制度のヒアリングにいらっしゃる企業の方もいましたが、まだ他社での導入事例はありません。取締役の松田悠介は、他社でも睡眠報酬制度を導入するためには、制度と組織のカルチャーをセットにして考える必要があると考えています。

松田 「 CRAZYでは、経営メンバーが心から社員の幸福や健康を願っています。だからこそ、睡眠報酬制度は企業文化に合った一貫性のある制度として、社員に受け入れられました。どんなにすばらしい制度を導入しても、会社の姿勢や行動に一貫性がなければ、社員は動いてくれません。ぜひ、睡眠報酬制度を導入すると同時に社員の健康を重視する経営を行っていただきたいです」

そんなCRAZYの睡眠報酬制度には、課題もあります。まず、会社として社員の抱える睡眠という課題にどこまで踏み込んでいくかを考えなければなりません。睡眠はプライバシーのひとつなので、会社が干渉しすぎないよう配慮する必要があります。

また、干渉しすぎないようにしつつも、より多くの社員の健康のために制度を活用してもらいたいという願いはかなえたいものです。そのため、社員の主体性を引き上げる取り組みの実施を検討しています。

松田 「会社の生産性を上げるために寝るのではなく、人生をより豊かにするために寝ると考えることで、社員の主体性はさらに引き上がってくると思います。会社というのは、人生のごく一部でしかないですよね。
だからこそ、そもそもどう生きていきたいかを社員に考えてもらうことで、生活の何を改善しなければならないかが見えてくると思います。そうして睡眠報酬制度の活用につなげていけると良いですね」

会社に入るときは熱い想いを抱いている社員が、入社してから少しずつ想いを削がれていくことは多いもの。それは、会社の環境が影響しています。多忙により睡眠時間を削って仕事をすることで、考える余裕がなくなってしまうのです。

CRAZYに入社してくるのは、熱い想いを抱えている社員ばかり。その想いをきちんと生かし続けられるようなマネジメントをすることが経営の責任であり、その効果的な方法のひとつが睡眠報酬制度なのです。

これからもCRAZYは、社員の熱い想いを生かし続ける組織のしくみづくりを模索していきます。