「言葉と映像」を研ぎ澄ますーー新世代CMプランナーが考えるコミュニケーションの根幹

新生・湖池屋を象徴する商品として生まれた「KOIKEYA PRIDE POTATO」。2017年2月の発売から1カ月を待たずに品切れ状態となるほどの話題商品となりました。電通のクリエーター・鈴木晋太郎が、社運をかけた新商品の存在を消費者の心に届けるためにとった戦略とは?
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新生・湖池屋のコンセプトを象徴する商品のクリエーティブを任されるまで

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株式会社湖池屋は2016年10月に組織再編を実施。コーポレートブランドを「湖池屋」に統合して、新生・湖池屋としてスタートを切りました。

同年夏、鈴木たちクリエーティブチームに寄せられたのは、新生・湖池屋の新しいスローガンとロゴマーク、そして象徴となる商品をつくるための手伝いをしてほしいという依頼でした。新たに就任した佐藤章社長の直轄案件です。

湖池屋は1962年に「ポテトチップスのり塩」を発売。当時はまだ一般に広く流通していなかったポテトチップスを、家庭で気軽に食べられるスナックへと普及させていった立役者です。

「カラムーチョ」、「スコーン」、「ポリンキー」、「ドンタコス」といったヒット商品を出しているが、次のロングセラー商品の開発が課題となっていた。しかし、昨今のスナック市場全体は、PB商品の登場や大手メーカーの戦略により、低価格化とコモディティー化が進んでいました。

このような市況にあって、新生・湖池屋が目指すものは「原点回帰したうえで、新しいものを生み出していく」ということでした。

鈴木 「最初のミーティングで、佐藤社長がじきじきに2~3時間にわたって、じっくり新しい湖池屋とは、という思いを話してくださったんです。今までのものを捨てて新しいものに生まれ変わるのではなく、原点に立ち返って、もう一度、おいしいポテトチップスってなんだろうと考えるーー。自分たちの立ち位置を確かめたうえで、今、求められているスナックを開発できる会社になろうというのがコンセプトでした」

コーポレートスローガンは、かつてのCMのキャッチコピー「イケイケGOGO!」を湖池屋が制定。新しいロゴマークの提案と、スローガンをはじめコーポレートブランディングの考え方を社内で共有するためのブランドブックの作成を電通(電通アドギア/電通)が行いました。

当然これだけでは終わりません。鈴木たちは、これとあわせて、新生・湖池屋を象徴する商品のコミュニケーション設計に取り組むことに。

組織改編後に社を挙げて開発を行う初めての商品であり、同時に新しい湖池屋の思いを消費者にぶつける初めの一歩にもなるーー。まさに今後の湖池屋を象徴づける重要なプロジェクトが、鈴木たちクリエーティブチームに託されることとなったのです。

「新生・湖池屋の本気」をチャーミングに伝えることで愛される商品をめざす

湖池屋から提示された新商品のコンセプトは、「妥協なく本当のおいしさを追求したポテトチップス」。100%国産のじゃがいもを使用し、スライスの厚みや揚げ方、フレーバーまですべてを考え抜いてつくるポテトチップスです。

平易にいってしまえば、プレミアムラインのポテトチップス。それを聞いた鈴木は、そのままストレートに表現してしまうと消費者の心には届かないだろうな、という印象を抱きました。

鈴木 「こういってはなんですが、“普通”だなと。昨今たくさん出ているプレミアム系のお菓子のなかに埋没してしまう。それから、『老舗のメンツをかけてつくります!!』ってあんまり真顔で突っ込んでいっても、消費者からすれば 『たかがポテチでそんな……』って、引かれちゃいますよね。本気であると露骨に表現するよりは、ちょっとチャーミングに伝えたほうが、愛される商品になるだろうと思いました」

鈴木が提案した100以上ものネーミングのなかから選ばれたのは「PRIDE POTATO(プライドポテト)」。「フライドポテト」とかけたダジャレです。湖池屋のプライドをかけた一品、というまじめさを示しつつ、少し力の抜けた感じも表せるアイデアでした。

とはいえ、いわば社運をかけた一品の名前をダジャレにするのは、企業にとっては勇気がいることなのではないでしょうか。佐藤社長は机に並べられた、商品名アイデアの書かれた紙を手に取り……。

「よし、これでいこう!」と即決されたのです。その反応は、提案した鈴木からしても、ちょっとした驚きではありましたが、「チャーミングに伝える」という考えを理解していただけたという手応えを感じた瞬間でもありました。

同時期に提案したパッケージは、これまでのポテトチップスのパッケージに見られる原色使いやポテトチップス写真の目立つ配置といった“常道”の対局。真っ白なパッケージに、小さく並ぶポテトチップスを配し、これまでと全然違うポテトチップスだと、ひとめで感じてもらえるデザインとなりました。

ネーミングもパッケージも、常識破りの連続となった「KOIKEYA PRIDE POTATO」。

鈴木たちクリエーティブチームは、アイデアが無難に丸くなるのを避け、振り切ったアイデアを提案し続けました。それを理解、採用していただいたことにより、流通や消費者に商品の新しさを感じ取ってもらい、高い評価を得ることができたのです。

「歌がうますぎる高校生」の話題づくりで商品の認知獲得に成功

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商品名とパッケージが決定した2016年10月ごろから、テレビCMの提案が始まりました。CMプランニングをスタートした当初から、鈴木には勝算がありました。とにかくシンプルに、商品の存在を印象づけることさえできれば、この商品は売れる、と。

鈴木 「試作品を食べてみたら、本当にめちゃくちゃおいしかったんですよ。こんなにおいしくつくれるの?と感動しました。だからCMは、登場感があって、難しいことはいわずにシンプルに商品の印象が残るものにすれば、それで勝てると思ったんです」

鈴木は以前、普通の人が真剣に歌うさまが面白みを生み出すCMをヒットさせた経験があり、今回もインパクトのある歌で伝える企画を提案に盛り込みました。

起用されたのは、ゴスペルコンテストで優勝経験のある高校生、鈴木瑛美子さん。制服を着たごく普通の高校生に見える女の子が荒野を歩み、圧倒的な歌唱力で荘厳な曲を歌い上げる。しかし歌詞の内容は「100%日本産のイモを使っているの」それだけ――このギャップだらけのCMは、オンエアされるたびにSNSの反応が一気に跳ね上がりました。

またYoutubeでは、CMソングの4分フルバージョン「100% song」のミュージックビデオが公開されています。こちらの歌詞は、100%という部分だけがCMソングと共通ですが商品情報は一切含まれておらず、鈴木瑛美子さんの歌唱力を存分に堪能することができます。

じつは、動画の再生回数やつぶやきで言及されたのは、テレビCMよりもこちらのフルバージョンのほうが2倍近く多いのです。直接商品に結び付かないかのように見えますが、これも鈴木にとっては狙い通りでした。

鈴木 「30秒のCMだけでは、『異様に歌がうまい高校生がいる』と話題になるには少し足りない。確実に消費者に印象づけられる経路を設計したんです」

コミュニケーション戦略は功を奏して、「KOIKEYA PRIDE POTATO」は2017年2月6日に発売したとたん、販売計画を大きく上回る売り上げに。発売後2週間のあいだに、3種類のうち2種類が相次いで一時販売休止となりました。

「KOIKEYA PRIDE POTATO」の大ヒットで、湖池屋社内は非常に活気づいている様子。「新社長を信じて、これからも一緒に進んでいこう」という雰囲気が満ち、次々と新しいプロジェクトが生まれているとうかがっています。

コミュニケーションを突き詰めると「言葉」と「映像」の設計に行き着く

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鈴木は、伝えるメッセージの要素をそぎ落としてシンプルにしていくと同時に、コミュニケーション手法のシンプルさも重視しています。

鈴木 「コミュニケーションの手法がいろいろと新しく出てきて、新しいものほど評価する風潮があります。でも、新しい手法は、仕組みがどこか複雑。手法に溺れて中身がおろそかになり、伝わらないリスクもあることを、クリエーターは認識しないといけないと思います」

そして、どんな手法でも、遠隔でメッセージを伝えていくための要素を突き詰めて考えていくと、最後に残るのは「言葉」と「映像」の力だと、鈴木は考えています。そしてその力を最大限に引き出すためには、「時間の設計」がなにより大切です。

何をどの順番で、どういう言葉とともに見せていくのかという、時系列を緻密につくりあげていくことで、面白さはつくられていきます。これはテレビCMでもウェブ動画でも同じで、この時間の設計をいい加減に考えると、コンテンツの質は向上しないのです。

そのように常日頃から考えている鈴木の仕事の必需品は、ストップウオッチ。テレビCMの15秒、30秒の中にどのように時間をつくりだすか、いつでも計算しています。

鈴木 「会社でもファミレスでも、いつもストップウオッチを操作して、ブツブツ言いながらプランニングしてます。傍からみたら変な人ですよね(笑)。時間の設計はスポーツと一緒で、とにかく試合に出ないとうまくならない。だからひたすら仕事をして、映像ディレクターさんに丸投げしたりはせず、一つひとつ自分で丁寧につくるようにしています」

「KOIKEYA PRIDE POTATO」で採用された歌は、そのものが「設計された時間」。今回はプロジェクトスタートから商品発売まで半年あまりとスパンは短かったものの、湖池屋の意志決定が早く、歌の制作期間を長くとってじっくり設計できたのは、成功の大きな一因となっています。

手法の新しさだけに頼らず、オーソドックスな手法でも、中身をとことん研ぎ澄ましていけば、新しい手法以上の結果を出すことは十分に可能であるーー。さまざまな変化が押し寄せる広告の世界で、鈴木はあえて「言葉と映像」の力を信じて磨きあげていくことで、商品と消費者を強く繋げる役割を果たしていきたいと考えています。


※ 対談verはウェブ電通報をご覧ください。

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