ブロックチェーンで革命を起こす研究開発組織の姿

ブロックチェーン、AI、VR/AR、セキュリティ、バイオヘルス。DG Labは、先端テクノロジーのなかで注目されている領域において、基礎技術の研究を通して次世代の事業を創出することを目的に発足しました。ブロックチェーン部門のCTO 渡邉太郎の姿から、DG Labの研究開発への想いと独自性を探ります。

ビジネスがゴールにありながらも、技術の追求を大切にするDG Lab

▲DG Lab ブロックチェーン部門CTOの渡邉

DG Labは、カカクコム、クレディセゾン、KDDIとともに、デジタルガレージが運営しているオープンイノベーション型の研究開発組織です。東京とサンフランシスコを拠点に、冒頭に挙げた5領域のエンジニアリング、ビジネスデベロップメントのスペシャリスト約40人が、日々それぞれのテーマに向き合っています。

DG Labは2016年、デジタルガレージの取締役 共同創業者であり、MITメディアラボの所長である伊藤穰一とデジタルガレージグループCEOの林郁を筆頭にさまざまな業界の第一人者が集い、グローバルな視点で社会に役立つプロダクトやサービスを支える技術を発掘することを目指して発足しました。

最近では、視覚ではなく聴覚に働きかける「音のAR」の実証実験や、AIを活用してサイト内のスパム投稿を監視するフィルタリング技術の開発など、各分野での研究開発が進んでいます。

渡邉がCTOを務めるブロックチェーン領域では、Bitcoinに使われているブロックチェーン技術にフォーカスし、開発を進めています。渡邉のほかに7名のエンジニアが在籍し、BitcoinのGitHubにコードを提供できる技術レベルの高いコアデベロッパーも活躍しています。

渡邉 「 DG Labで扱うほかの領域もそうですが、ブロックチェーンもバズワード(一過性の盛り上がり)になっている側面があります。世間から注目されると、すぐにマネタイズに走りがちですが、DG Labのエンジニアにはできる限り技術を突き詰められる環境を与えています。プロダクトアウトの姿勢からも、イノベーションが生まれることも多くあると考えているからです。
もちろん、最終的にはビジネスとして成立させます。ただ、それはチームにいるビジネスデベロップメントの担当者や、CTOである自分が担っていくべきだと思っています。
私自身も、これまで技術者として受託開発などを現場で経験してきているので、それを生かして開発者にとってのバランサーになることが役目のひとつです」

ビジネスがゴールにありながらも、研究開発を大切にする方針。その背景には、技術者としての渡邉の想いと、“ブロックチェーンオタク”としての姿があります。

強烈な違和感を覚え、ブロックチェーンの道へ

▲ブロックチェーンのイベントに登壇したときの1枚。ブロックチェーンを知った当初は、その仕組みが不思議で仕方なかったと渡邉は振り返る

渡邉がブロックチェーンに出会ったのは、DG Labができる少し前のこと。それまで、渡邉はエンジニア、プロジェクトマネジャー、メディア運営など多様な経験を積んでいました。

渡邉 「デジタルガレージには社会人 2〜 3年目のころに中途入社して、最初は社内のネットワーク環境整備や ITサポートなどを担当していました。このころはまだ社員も 30人程度でしたね。
2000年代の初頭に入るとドットコムバブルが始まって、ECサイト制作やシステム開発といった相談が急増していったんです。最初は横目で見ていたのですが、クライアントと一緒に何かを進めていくような仕事っておもしろそうだなと思って。上司に伝えたら異動が決まり、そこからはプロジェクトマネジメントの道に進みました」

受託案件の事業規模が拡大するなか、子会社であるイーコンテクストの決済システムサービスの統括の打診を受け、自社プロダクトの開発に携わることに。さらにその後も、日本でのTwitter普及プロジェクトや、当時はまだ珍しかったアクセラレータープログラム「Open Network Lab」の立ち上げなどにも参画。

ブロックチェーンに出会ったのは、決済系サービスを展開する子会社のベリトランスで、新規事業を担当していたときでした。

渡邉 「最初は、当時の Bitcoin取引所として世界的に有名だったマウントゴックスと、一連の騒動をニュースで知ったのがきっかけでした。いわゆる一般の感覚というか、私も仮想通貨自体を怪しいものくらいにしか思っていなくて(笑)。
でも新規事業が一段落して、次に何をしようか考えていたときに、Bitcoinの裏側の仕組みが『インターネットの再来になるかもしれない』という話で注目されていることを知ったんです。それが、ブロックチェーンでした」

こうして渡邉は、独学でブロックチェーンの研究を始めます。当初、彼が抱いたのは“強烈な違和感”でした。

渡邉 「割と詳しく、仕組みの部分まで踏み込んだコンテンツをいくつも読み進めていったんですが……今まで自分がやってきた Webや基幹システムのセオリーと似ても似つかない構造だったんです。
しかも見方によってはすごく非効率というか、『なんでわざわざこんな処理をしてるの?』みたいな仕組みがいっぱい動いている。でも、そうした違和感が逆に好奇心になりましたね。深いところまで調べて、だんだんと理解できてきたころに、『これはすごい』と思ったんです」

折しも直近のプロジェクトが終わる時期だったこともあり、自主的にリサーチの結果をスライドにまとめ、上司や同僚を捕まえて、勝手にプレゼンしていたという渡邉。社内でも“ブロックチェーンオタク”として知られるようになります。

そして2016年、DG Labの立ち上げとともに、ブロックチェーン分野のCTOとして渡邉に声がかかったのです。

“プロダクトアウト”こそが、ブロックチェーンのあるべき姿

▲DG Labが注力するのは、Bitcoinの開発。Bitcoinの技術を完成させてこそ、ほかの分野にも活用できると渡邉は考えている

立ち上げから、2年半あまり。ブロックチェーンは、データの改ざんの難しさや運用面でのコストの低さなどから、仮想通貨以外の分野への活用も検討され始めています。

そうした流れのなかでも、あえてBitcoinに特化した開発に注力するDG Lab。その理由を、渡邉はこう語ります。

渡邉 「ブロックチェーンはさまざまな可能性を秘めた技術ですが、現時点でのユースケースは非常に限られているというのが、私たちの見解です。
もちろん、ほかの会社が考えているのと同じように、DG Labでも仮想通貨以外の領域にブロックチェーンが応用できる可能性を研究しています。しかし私たちは、一足飛びに保険だとか不動産だとか、お金とは関係ない領域で“データベース代わり”として応用するにはまだ技術的に早いと思っています。
今それをやると、近所のコンビニにレーシングカーで行くような感じというか。目的ありきではなく、ツールとして注目されているから使おう、というアプローチになってしまう気がして。まずはほかの分野に応用するまでに、現状活用されている Bitcoinの開発を完成させることが先決だと思っています」

可能性と現実のギャップがあるなかで、渡邉たちが考えているのは「価値の移動にかかわる領域での応用」です。

渡邉 「お金のほかにもポイント、権利や債券みたいなものとか、何かしら決済や交換が発生するものに応用するのが、現時点の発展途上のブロックチェーンには一番向いていると思います。
実際に DG Labでも、Bitcoinに用いられている技術を使って、個人向けローン業務の効率化を実現するシステムの開発や、ポイント交換に関する事業を進めています」

こうした現状をふまえ、渡邉は本来あるべきブロックチェーンについて「マーケットのニーズありきで応用するものではない」とも語ります。

渡邉 「そもそもBitcoin自体が、プロダクトアウトで出てきた技術なんです。Bitcoinが欲しいなんて誰かが言ったわけではないし、ユーザー調査やフィードバックを得ながらアジャイル開発してきたわけでもない。
最初にひとつの論文があって、それに共感した技術者たちが、誰の意見も聞かずにつくり上げたネットワークが、今や数兆円のネットワークになっています。技術者のクリエイティビティだけを優先した結果、逆にマーケット側がそれにフィットしなきゃいけない状況をつくったのがおもしろいんですよね」

“マーケットインを凌駕するプロダクトアウト思想”を持つこと。それもブロックチェーンのあり方のひとつだと、彼は考えているのです。

哲学に共鳴する仲間、そして世界中の天才たちと未来をつくり上げる

▲ともに開発を進める仲間。国内外から、渡邉の哲学に共感したメンバーが集まっている

ブロックチェーンに対して自身なりの哲学を持つ渡邉。そんな彼のもとには、ブロックチェーンのあるべき姿を追求し、切磋琢磨できる仲間が集っています。

渡邉 「私は、ブロックチェーンの使命は、誰も信頼する必要がないネットワークをつくることだと思っています。もちろん世界観まで含めて理解している人は数えるくらいしかいないんですが、だからこそ使命や世界観を理解している人との出会いは、貴重なものになるんです。イベントやオンラインで知り合って仲良くなり、実際にチームに加わってもらったメンバーも何人かいます。
また、Bitcoinはオープンソースの技術なので、オンライン上で世界中の天才的なデベロッパーたちと意見交換しながら開発ができるんです。オフィスにいる 7〜 8人だけじゃなく、天才 100人と一緒につくっている感覚がありますね。
まずは Bitcoinのなかで修行というか、あらゆるノウハウやデベロッパーからの技術も吸収して、自分たちのものにしていくのが今のフェーズです」

こうしたなかでデジタルガレージは、東京短資と2018年9月にジョイントベンチャー「Crypto Garage」を立ち上げました。DG Labの研究成果と東京短資が持つ金融市場のノウハウを組み合わせて、新たなプロダクト開発が行われます。

渡邉 「そのなかで目指すべき方向としては、まずは Bitcoinの技術をエンタープライズ用途にも使えるようなレベルに進歩させることです。Bitcoinの技術が完成することで、ブロックチェーンの応用範囲が広がると思っているからです。
現状はまだ、スケーラビリティやファンジビリティ(代替性)と言われる、仮想通貨が流通した際の履歴に関するプライバシーの面など、いくつかの課題があります。その課題を解決できたら、さまざまなビジネスに応用できるのではないでしょうか」

そのうえで、渡邉には大切にしていきたいものがあります。

渡邉 「開発者のクリエイティビティを尊重したプロダクトが生まれていくと良いなと思います。
基本的にはプロダクトアウトですが、まったくお金にならないと判断されたらそれは本末転倒ですし、ビジネス視点でお金になると言われても、それが研究開発じゃなくてただの受託開発だったらそれも違います。
いかに誰もやっていなくて、参入障壁が高くて、うちが技術的な優位性を持っていて……という領域を創造し、挑戦していくか。それこそ、First Penguin Spiritを掲げるデジタルガレージ、DG Labだと確信しています」



※研究開発組織DG Labの舞台裏をリアルな場で紹介するミートアップを開催いたします。ぜひこちらからお申込みください。

関連ストーリー

注目ストーリー