大企業の業務改革は100点を目指すな。元大手銀行マンが語るその理由とは

大企業向けのクラウドおよびコンサルティングサービスを提供しているドリーム・アーツ。その管理部門を統括し、採用からファイナンスまで一手に引き受けてきた取締役の牧山公彦が、大企業がデジタル化することで生まれる価値、デジタル化推進におけるポイントをひも解きます。

大手銀行からベンチャーへ転職した理由──多様性に惹かれて

「事業を大きくするために一緒に手伝ってくれないか」と当社代表の山本孝昭から声をかけられたのが2000年。私は当時、大手の信託銀行に勤めていました。大手の銀行から小さなベンチャー企業に入るなんてまだまだ希少だった時代です。

銀行時代は法人の新規開拓や、不良債権の回収など、さまざまなことを経験させてもらいました。しかし、ベンチャー企業との取引を通じ、間接金融の限界を感じることになりました。そんな中、政府系機関への出向中にインテル出身の山本と出会い、これからのインターネットの世界観や新たなビジネスの発想・構想に触れ、とてもワクワクしたのを覚えています。

また、当時南青山にあったドリーム・アーツのオフィスは本当にエキセントリックな空間でした。アメリカ人のデザイナーやタイ人のエンジニアが働いていて、人材の多様性を目の当たりにしました。これまでとまったく違う畑で、全然違う視点でものを考えている人たちが集まっている環境にものすごく魅力を感じたのです。

自分自身、「新しい産業が育っていく時代に、新しいビジネスをつくる人たちと一緒に何かやりたい」という想いも強くありました。もちろん、その後のビジネスがどうなるかなんてわかりませんでしたが、銀行出身の私なら、ファイナンス周りで力になれるだろうと。

こうして私はドリーム・アーツに飛び込んだのでした。

しかし、入社してさっそくビジネスは大きな転機を迎えることになります。

2000年当時のドリーム・アーツは中小企業向けのパッケージ、またはソフトウェアを軸として事業展開しており、上場準備の真っただ中でした。私は毎日のように会社に寝泊まりし、管理部門として上場申請書を作成し、証券会社や監査法人と準備を進めていきました。しかし、結果として同年に上場の取り止めを決断することになります。ITバブルの崩壊という当時の時代背景を鑑みると、結果的にその決断は間違っていなかったと思います。

そこから、ドリーム・アーツは大企業向けのプロダクト開発に特化すべく大きく舵を切ります。

中小企業向けパッケージを展開する競合と、このまま同じ土俵で勝負して成長できるのか?自分たちの得意なところは何か?と、山本や当時のCTO前川と議論を重ねました。

そこで出た結論は、われわれはお客さまと近い距離で、お客さまとの対話を重ねながらものづくりできることが強みであり、そう簡単に他社が追随できないであろう大企業を対象にしたサービスに特化する。大企業マーケットに振り切ろうと決断しました。

非エンジニア層が手軽に誰でもIT技術を活用できる世の中に

▲牧山入社当時のドリーム・アーツ集合写真(2000年ごろ、牧山は前列中央右)

ドリーム・アーツに入社して20年近くが経ちましたが、世の中は少子高齢化にともない労働人口が減少し、とくにデジタルトランスフォーメーションが求められる大企業において、IT人材不足は深刻な問題となっています。

経済産業省の試算では、2030年にはIT人材は40〜80万人規模で不足すると予想されています(※1)。しかも、ただでさえエンジニアが不足している状況の中、2025年以降、多くの企業がIT予算の9割以上をレガシーなシステムの保守管理に費やさざるをえなくなるともいわれています(※2)。このような状況の中で、われわれドリーム・アーツがプロダクトを通じて貢献できることは何か、それはアプリケーション開発の民主化、つまり「非エンジニアをエンジニアにすること」にあると思っています。

ビジネスの現場にいる人たちは、実際の業務フローについて深く理解しており、業務改革を進める上での課題や、解決するためのアイデアを持っています。ただ、システムを開発する術がありません。情報システム部門に相談をしても、既存システムの維持管理に忙殺されて「いやいや、手いっぱいで時間をかけられないから」と言われてしまいます。実際に情報システム部門の仕事は山のようにあり、現場のニーズにきめ細かく対応することは難しい状況です。

そのため、いまだにエクセルファイルや紙でやり取りをしている業務が数多く存在します。大企業のお客さまに話を聞くと、いまだに「申請フォームはエクセル」というお話をよく耳にします。アプリケーションを開発する手段がないためか、そもそもシステム化する発想にも至っていないというケースが多いのではないでしょうか。

そうした現状を打破するには、業務の電子化(デジタライゼーション)は情報システム部門の仕事だという既成概念から抜けだし、現場の方々が当事者としてアプリケーション開発を行い、業務のデジタライゼーションを進めていく必要があります。

現場の方々による電子化推進は、単なる業務効率化にとどまりません。これまで既存システムの保守業務に縛りつけられていた貴重なエンジニアリングリソースを、競争優位を獲得するための戦略投資に優先的に割り当てることを可能にします。社会的に不足している希少なIT人材を競争力強化に活用するためにも、フロントオフィスの人たちがデジタル化を担うことは大きな意味があることなのです。

また、あらゆる産業のサービス化にともない、ソフトウェアの世界でもSaaS(Software as a Service)とサブスクリプション(定額制)モデルが、中小企業マーケットを中心に普及してきました。これは、従来のようなシステム開発が不要となり、今までよりもはるかに簡単に低価格でシステムを導入、つまり業務のデジタライゼーションを推進することが可能になることを意味しています。

一方で、サブスクリプションモデルでは、提供者側は「売り逃げ」ができません。解約が容易なこともあり、常に最新の価値を提供し続け、お客さまの成功のために寄り添い、関係性を深めていくことが前提のビジネスモデルです。

ここ数年で注目度が高まっているサブスクリプションモデルですが、もともと私たちは大企業マーケットにシフトした当初から「エバーグリーンポリシー」を掲げ、対価なしに最新バージョンの提供を行ってきました。

また、一般的なITベンダーは納品のことを「カットオーバー」と言いますが、われわれは一貫して「サービスイン」と言い続けてきました。納品はゴールではなく、価値提供のスタートであるというコンセプトであり、「お客さまの成功に向き合い、長期的な関係性を大切にする」ことを重視してきたのです。

しかし、クラウド以前のオンプレミス型(顧客環境でのシステム設置)での導入は、お客さまと物理的に断絶していたため、最新版へのバージョンアップに多くの工数とコストがかかってしまいます。また、お客さまの活用状況がわからず、活用促進の働きかけも十分にできませんでした。自分たちのやりたいことを100%実現するには、障壁があったのです。

そんな状況が長く続きましたが、クラウドの進展とともに大企業におけるクラウド利用が浸透し始め、ようやく自分たちのコンセプトを実現できる時代になったと、今はその喜びを感じています(笑)。

(※1)出典:経済産業省「ITベンチャー等によるイノベーション促進のための人材育成・確保モデル事業」
(※2)出典:経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(サマリー)」

大企業のクラウドシフトをクイックスタート・クイックサクセスで

▲全社ミーティングで、各本部のミッションをアナウンスする牧山(2007)

先ほど、現場の方々が当事者として業務のデジタライゼーションを進めていく必要があると言いましたが、現場の方々がイチからプログラミングを学習してエンジニアリングスキルを習得するということではありません。

たとえば、われわれの「SmartDB」というSaaSを活用すれば、ドラッグアンドドロップで入力フォームをつくることができ、簡単な設定でワークフローを構築し、データを蓄積していくことができます。つまり、プログラミングを知らない人でも、非常に簡単にWebアプリケーションを開発することができるのです。

ちょっと手の込んだものが必要なら、エンジニアが追加プログラムを開発してプラグインとして差し込むこともできますし、他社のクラウドサービスとAPIを通じて連携させることも可能です。

すでにわれわれのプロダクトを活用いただき、現場の方々が当事者となって業務のデジタライゼーションを推進している事例も多くなってきました。これまで多くのお客さまの業務改革に携わってきましたが、現場の方々が自走して業務改革を推進するご支援ができていることに、大きな社会的意義を感じています。

ただし、大企業においていきなり全社レベルで取り組むにはハードルが高い場合もあります。

そのような場合、われわれは「クイックスタート・クイックサクセス(QSS)」を推奨しています。これは、一部の部署、または特定の業務に絞って導入し、小さな成功を経験していただく手法です。小さな成功でも社内的な注目を浴びますので、他部署やその他の業務への展開が容易になります。システムは小さく生んで大きく育てるという発想の転換も、また必要な時代ではないでしょうか。

このような、お客さまとの協創の深化に合わせ、社内にもデジタライゼーションの波を起こそうと、他社のSaaSプロダクトを積極的に検討・導入してきました。社外のサービスに触れることで、社員のみんなにサブスクリプションビジネスの本質を理解してもらいたかったからです。

また、われわれは2割の労力で8割の成果を生み出し、業務をスピーディーに改革していく「28(ニッパチ)」というコンセプトも提唱しています。パレートの法則とも言えますが、システム開発においても80点から100点に持っていくまでが難しい。ならば、初めから100点を目指さず、少ない労力で8割の成果を出し、それを高速で改善していく。走りながらアジャストしていく方が今の時代には合っていると思い社内でも積極的に取り組み、お客さまにも提案しています。

いくら機能性の高いツールを導入したとしても、このようなマインドセットやしくみがないと、運用は続いていきません。こうした発想をお客さまにきちんと提唱するためにも、まずは自分たちが実践することを大事にしています。

お客さまだけでなく、他社とも協創し成長を加速させる

▲事業基盤開発本部の本部長を務める、現在の牧山

サブスクリプションビジネスへの変革にともない、以前は50%だったストック売上の比率が70%を超えるようになり、事業ポートフォリオも強固なものになってきました。

足腰を強化した上で、ドリーム・アーツを今後どうしていくのか。

中小企業マーケットで事業展開してきたSaaSプレーヤーたちも大企業を狙っていますし、マイクロソフトやセールスフォースに代表される外資系企業は強力な営業力でマーケットを取りにきています。

しかし、大企業のお客さまの真のニーズを捉えて、寄り添いながらサクセスさせることは簡単なことではありません。われわれには、これまでお客さまの多岐にわたる業務のお悩みに向き合い、協創しながら課題を解決してきた実績があります。そういった部分を評価いただいているのは大きなアドバンテージだと思っています。

ただいずれにせよ、すべてが一社のサービスに収束される時代ではありません。とくに大企業は機能的な要望も高く複雑で、相当きめ細かく対応しないと使っていただけない。そのため、一社だけでお客さまの課題をすべて解決することはできないのです。

たとえば、マイクロソフトのソリューションが導入されたら、他社は入る余地がないのでしょうか。そんなことはありません。以前のようにゼロサムの世界ではないのです。その証拠に、2019年8月われわれはマイクロソフトさんが主催する「マイクロソフト ジャパン パートナー オブ ザ イヤー 2019」 において「Retail アワード」を受賞しました。パートナーとして、お互いを補完しながらお客さまへの提案を行う関係性にあります。

これからはさまざまなプレーヤーが共存する世界を見据え、他社サービスとも積極的につながり、連携することでマーケット自体を広げていくことが重要だと考えています。

そうした背景のもと、ドリーム・アーツをどう成長させるか。私はこれからも財務と人材・組織の両面からドリーム・アーツを支えていく存在でありたいと思っています。

ドリーム・アーツのメンバーに、より良い成長機会を提供するには、事業の拡大が必要です。事業がスケールしていかないと、新たな機会やポジションが生まれず、また積極的な研究開発投資もできません。メンバー一人ひとりが成長を実感できるすばらしい職場環境を実現するためにも、新たな挑戦を続けていきたいと思います。

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