誰もが自分らしく生きる世界を目指して―― 会社倒産の危機を乗り越えた復活劇

2004年のスタート以来、延べ10万人以上の中高生が学んだアクティブ・ラーニング型教育カリキュラム「クエストエデュケーション」を展開する教育と探求社。単発での“出前授業”ではなく、1年をかけ企業や現実社会と連動し、子どもたちの“生きる力”を育む教育プログラムは、2020年の教育改革に向け注目を高めています。

一斉退職で社員は2名。リーマンショックの危機も重なる大ピンチ

▲代表取締役社長 宮地勘司

2020年の教育改革を前に、今、教育現場では「知識の習得」から「知識の活用」に転換すべく、さまざまな取り組みが進んでいます。生徒が能動的に学習を行なうアクティブ・ラーニングの実践が注目されています。

そう語るのは、代表取締役社長の宮地 勘司。私たち、教育と探求社は、世の中にアクティブ・ラーニングの言葉はなく、キャリア教育という言葉さえまだ一般的ではなかった2004年に誕生しました。

宮地 「硬直化した学校のシステムに息苦しさを感じ、『目標を見つけられない若者たちが社会に関心を持ち、自分の可能性を見つけていけるようにしたい』、『誰もが自分らしく生きていける豊かな社会をつくりたい』、『そのことを教育の現場からはじめたい』との思いで起業しました」

40歳を過ぎ、子ども2人に住宅ローンを抱えた起業は内心、不安だらけだったと言います。

しかし幸い、創業1年目から黒字になりました。さらに創業2年目、3年目と売り上げは、毎年倍々に増加。先進的な私立学校や埼玉県、京都市などの教育委員会でのプログラムの導入も進み、また、日立製作所、野村證券、大和ハウス工業など大手企業の参加もあり、滑り出しは順調でした。

宮地 「学校現場で行なわれている教育と現実社会で必要とされる力に乖離があることは、以前から指摘されていました。
学校の目標は進学実績を上げること、生徒の目標は偏差値をあげること。確かにそれも大切かもしれませんが、そこに注力するあまりに、子どもたちは、なんのために学ぶのか、その意味を見失い、意欲が減衰していっている状況がありました。
この現状をなんとか変えたいと思っている教育関係者や企業人、保護者は、実は当時から多かったんです。この事業は絶対に世の中に必要とされる事業だと確信を深めました」

しかし、社員が増えるとともに理念実現と収益確保の両立の難しさが表面化し、フラットな組織づくりや個人の自主性を重んじるあまり、逆に社内議論もまとまらないようになってきます。

創業4年目。学校の保守性の壁にぶつかり、思ったほどプログラムの普及は進まず、だんだん売り上げが伸び悩むようになってきました。その頃、追い打ちをかけるようにリーマンショックが到来。協賛企業から次々と打ち切りを告げられ、経営は一気に悪化し、退職者が相次ぎます。

一時は10名以上いた社員が一気に2名まで減り、会社はいきなり存続の危機に陥ります。

「エッセイ採用」で応募者の熱意や人柄、ビジョン共感力を確認

▲前職時代の宮地(最前列一番右)

事業に強く共感し、力を貸してくれた多くの社内外の人たちの支えによって、なんとか倒産の危機を乗り越えました。しかしながら急速に業績が上向くわけではなく、2012年頃までは低空飛行を続けました。

前回の危機を教訓として、本格的に社員採用を復活させる前に、理念や行動指針を刷新し、組織のあり方や各種制度の見直しにも着手することに。理念は、従来の「すべての人の自分らしさのために」から、理念と実践の統合を意識した「自分らしく、生きる」に変更しました

宮地 「 “自分らしく ”とはその人が持って生まれた天賦の個性、能力です。そこに無限の力の源泉があると考えています。そして、 “生きる ”には、その持って生まれた力を活かしながら、この世の中をたくましく、豊かに生きていてほしい、そういう思いが込められています。
やるなと言われてもやりたいこと、どうしても追求したいこと。それは一生を通じて探す価値がある。誰もが通う学校という場で、そんな学びを実現することが私たちの願いです」

その後、2015年の大野将輝(2018年12月現在、クエスト事業部長)の入社が制度化・プロセス化を加速させます。

大野 「強く意識したのは、社内のコミュニケーションデザイン。
採用時から、入社時研修、その後の人材育成まで、対話の促進機会をどう構築するか。特にキモとなる仕組みを考えるときには、何が教育と探求社らしいのかを話し合いながら制度を一つひとつ構築していきました」

ありがたいことに、その理念や事業内容に多くの人から共感をいただき、これまで社員採用は社員からの紹介や口コミだけで充足してきました。現在、応募者には全員「教育と私」をテーマに、A4用紙1枚、1500字程度のエッセイを書いてもらうようにしています。

宮地 「履歴書や職務経歴書では経験値や能力はある程度は分かりますが、その人の哲学や人物像は見えにくいんです。しかし、ひとつのテーマに沿った文章を書いてもらうと、その人の信条や前提となっている価値観、思考のパターンなどが、クリアに伝わってくるんです。しかも『教育』というテーマはそれが顕著ですね。
エッセイ採用をはじめてからは、書類選考と面接時とで大きく印象が違う人はいませんし、より深くその人物を知ってからの採用となるので、入社後の配属や育成においても有効です」

現在では、年に1、2回行なう求人は、メルマガやFacebookページで告知。それを社員がSNSなどでシェアしてくれます。そのような手づくりの告知にもかかわらず、募集には毎回10~15人のエントリーがあり、1~3名の採用につながっています。サテライト全社導入や、男性の育児休暇取得、多様な勤務体系の容認など、制度面の充実からも、自分らしくいられる働き方を後押ししています。

深い自己内省と社員の相互理解を深める人材育成施策の展開

採用後の社員育成にも、対話を重視した施策を多数導入しています。一人ひとりから語られる言葉に社員全員が意識を傾け、承認する場を醸成していくことで、自分たちが今なぜ、教育と探求社にいるのかについて、常に向き合うきっかけとなっています。

そのなかでも特にユニークなのは入社時研修の「私の履歴書研修」。日本経済新聞のコラムをイメージしたもので、自分の半生を振り返り、これも1500字程度の自分史を作成し、既存メンバーに発表してもらいます。深い内省は、「自分らしさ」の原点を確認するための大切な作業です。

宮地 「メンバーが深く内省して書き上げた『自分史』は本当に豊かで、聞いていて思わず涙が溢れることもあります。大げさかもしれませんが、一人ひとりの存在自体が本当に奇跡のように感じます。
この研修を通して、新入メンバーも自己開示をし、仲間からの承認と共感の言葉をもらい、『どんなことを話しても大丈夫』という心理的な安心・安全の場が得られます。日常のコミュニケーションでは何年もかかるような、あるいは何年かかっても難しいようなレベルの相互理解の基盤が構築されるんです」

また、社員全員に対して、時にじっくり丸1日をかけ、エニアグラムなどを活用した対話促進研修も実施しています。

エニアグラムとは、近年、企業研修や海外のビジネススクールなどでも導入や研究が進んでいる性格分析ツールの1種。個人の特性を「完璧主義」「献身家」「芸術家」「堅実者」「楽天家」など、9つのタイプに分類します。

大野 「エニアグラムは、『君は完璧主義者だから』などのレッテルを張るために活用するわけではありません。なぜ完璧主義でありたいのか、完璧でないと何が怖いのか。その価値観の根底にあるものを確認・共有し、さらにその “向こう側 ”に目を向けてもらう。これも深い内省とメンバー同士の相互理解を、一気に推進できるツールとして導入しています」

さらに月に1度、個人の観点や日々の学びを共有してもらうべく、定例会議のなかで自由なテーマによるディスカッションやワークショップを行なうなど、社内の対話を促進する機会を創出。

他にも会議冒頭で参加者全員が今の正直な気持ちを語る「チェックイン」や同僚による面談『ピアインタビュー』など、コミュニケーションの促進施策を実施しています。

大野 「制度だらけでガチガチに縛りたくはないので、タイミングをきっちり決めて行なうものばかりではなく、個人の裁量に任せて行なっているものや、文化として根付き自然と継承されているものまでさまざまです」

粘り強い対話で過去最高売上実現。誰もが「自分らしく生きる」社会を目指す

▲宮地と社員たち

これまでに実施してきたさまざまな施策の結果、2008年以来更新できなかった過去最高売上を、2017年に11年ぶりに更新。クエストエデュケーションの受講者は、単年度で初めて2万人を突破しました。累計受講者は2014年の6万人から、2018年には13万人を超えるなど、4年で一気に2倍以上に増えています。

宮地 「社内で対話を促進させることが、なぜ売上向上につながるのかと不思議に思う人もいるかもしれません。でも、これは本当に大きな効果を生みます。
同僚が単なるライバルや批判者だと思うと、多くのエネルギーを自己防衛や相手を論破することに使い、消耗し、真の創造性に向けることが難しくなります。時に議論したり、ぶつかったりしても、信頼のベースがあれば、そのエネルギーは創造性に向かいます。そこで生みだされた価値が顧客価値につながり、業績の向上に向かうんです 」

違いがあるからすばらしい。考えが違う者同士が信頼をベースに対話をすることで新たな価値を生む。教育と探求社が10年以上かけて、何度も転びながら挑戦し、獲得してきた哲学は、これからの社会においても有効なものかもしれません。

2020年には、いよいよ1980年以降に生まれたミレニアル世代が、労働人口の半数以上を占めるように。そうなると社会は大きな変化を強いられると考えています。

競争にどうやって勝つか、という価値観から、みんなで協力し合ってどうやってこの世界をより良き場所にしていくのか、ということが本当の主流の考え方になっていくと思います。ミレニアル世代は、自分ひとりだけでは幸せになれないことを知っているからです。

そのような大きな変化のなか、今働いている大人たちも、同世代から取り残されたり、ミレニアル世代との葛藤に消耗し過ぎないように、来るべき世界への準備をしていく必要があります。

宮地 「クエストの活動のなかでは大人たちも大きな変化を遂げています。まずは学校の先生。旧来の教え込みを超えて、子どもたちが自ら学んでいく力に触れたとき、先生自身が教育観を変えていきます。
正解のない学び、型にはまらないダイナミックな学びの可能性を見つけていくことで、その先生が指導する、数学や国語の授業も変容していき、学校全体の文化が変わっていきます。それから生徒の学びをサポートする企業の皆さんも大きく変化しますね。
働くことの意義やビジネスの厳しさを伝えようと学校訪問をするのですが、そこで子どもたちの純度の高い発想や本質的な考え方に触れ、自ずと自分自身の働く意義や自社の企業理念について考えはじめます。通常の研修などでは得られない深い学びがあるとして、クエストを自社の人材育成ツールとして導入する企業もあります。
AIや科学技術が急速に進化する中で人間らしい働き方、生き方を、子供たちと一緒に大人たちも探求していく場や機会をつくることが私たちの使命だと考えています」

私たちはこれからも引き続き、学校、企業、行政、自治体とさまざまに連携しながら、誰もが自分らしく生きる社会の実現に向けて日々歩んでいきます。

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