ITでリアルな出会いを取り戻す。デーティングサービスをアジアの文化にする・前編

オンラインデーティングサービス「Pairs」のグローバル展開を目指す株式会社エウレカは、台湾・韓国でもサービスを開始。文化が異なる海外での事業展開にあたりどのような戦略で臨んでいくのか、執行役員でVP of Global Expansionの洪錫永(Landon Hong)が語ります。
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グローバル展開に欠かせないのは、マーケティング力とアプリの総合力

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▲写真左・VP of Global Expansion・洪錫永(Landon Hong) 写真右・Head of Marketing, GLの小谷美希

エウレカには、グローバル展開を行なうためにGlobal Product Team、Global Design Team、Global Marketing Teamの3つのチームが存在し、これらのチームが連携することでグローバル展開を進めています。

「Pairs」は、国内においてはすでにNo.1*の地位を守る側にいます。しかしグローバルチームは、台湾・韓国において、トッププレイヤーたちとしのぎを削り、攻めなくてはならない側に立たされています。ただし台湾においては、2017年末に「Pairs」がNo.1**の座を奪取しました。

洪 「グローバル市場に限ったことではありませんが、最近のアプリには総合力が求められています。2015年ごろまでは1つの機能が優れていれば評価されたんですが、それだけでは普及しない時代になってきています」

これからのアプリは、突出した1つの機能をもっているだけでは市場で勝つことはできないだろうと洪は言います。

洪 「デーティングアプリをインストールした人は、相手を探しますよね。そして“いいね”を送るなどしてマッチングすれば、言葉を交わして実際に会い、デートを重ねるわけです。つまり、アプリの総合力を高めるということは、いかに楽しくてスムーズな体験を提供できるかということになるわけです。
台湾においては、マーケティングの効率化が成功したとともに、このアプリの総合力で勝ったんだと考えています」

また、プロダクトで新しい機能が搭載されたら、それをどのようにマーケティングしていくのかが同時に重要になってきます。

洪 「デーティングアプリには仕入れ単価がありません。そのため、競合との戦いはマーケティング費用をいかに効率よく使うか、ということにかかってきます。
こちらがマーケティング費用を上げれば、競合も上げてきます。台湾においては、私たちのマーケティング効率が競合を上回ったため、相手が息切れしてしまったんです。
また、プロダクトもグローバル仕様にがらっと変え、利益率も含めてグローバル展開のためのKPIを立てています。特にユーザーひとり当たりの利益をいかに高めるかということを念頭においています」

エウレカは「Pairs」が台湾でNo. 1になったことに続き、韓国でもNo. 1を目指しています。2017年9月に韓国でプロダクトをリリースし、2018年6月までを市場の性質に関する調査期間としました。

そして2018年10月現在、ようやくポジショニング戦略が固まってきたところだと言えます。

グローバルチームは日本の成功体験から独立すべき

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エウレカが目指すグローバル展開には、先にお話ししたProduct、Design、Marketingの3つのチームの連携が必要です。

マーケティングにより把握した数字をプロダクトにどのように反映させていくのか、といったことを構想するためには、MarketingとProductの連携が必要になります。さらに、これらのMarketingのクリエイティブとProductのクリエイティブの両方を見ているのがGlobal Design Teamの役割となります。

ただし実際には、ばらばらの3つのチームというより、3つで1つのチームのような存在感をもっています。

洪 「この3つのチームが一丸となるメリットは、“1つの組織として日本の事業から独立できる”という点にあると考えています。日本の事業から独立しているということは、日本での成功体験をグローバル事業に安易にもち込まないことにもつながります。
日本での成功体験を引きずってしまうと、他国特有のマーケットやユーザーを見失ってしまう恐れがあるんです」

同じデーティングアプリであっても、台湾と韓国、それぞれ特有のニーズがあるため、日本とは異なるマーケティング戦略やプロダクトの仕様が求められるのです。

これらを客観的に把握したうえで、日本で培ってきた強みをどのように生かせるのかを考えるためには、日本の事業から独立したチームが必要になってきます。ただ、3つのチームが存在することで課題となるのが、業務範囲のラインを引くことだと洪は言います。

洪 「現在、チームの体制として業務範囲の曖昧さが課題になっています。エウレカでは横断的にプロジェクトに取り組んでいるため、どうしても個々の仕事量が多くなってしまいがちです。
3つのチームを連携することでとても高いシナジー効果が出ていますが、その反面、各人の業務の境界線が曖昧になってしまうのです。たとえばデザイナーがエンジニアの領域に入り込んだり、エンジニアがマーケッターの領域に入り込んだり。
その結果、個々人のスキルが高まるなど得られるものも大きいのですが、若いメンバーにとっては自分の立ち位置を見失うことにつながりかねません」

その課題を解決するため、人事評価の機会には、一人ひとりに対するアドバイスを徹底しています。

洪 「面談のときに、『あなたがやりたいことは何でしたか?それは現在、できていますか?』と確認しています。そのうえで、『これから何をしたいのか、どのような姿を目指しているのか』を話し合い、今後に向けての目標を再確認する機会をつくっています」

実はもっとやりたいことや向いていることがあった、という気づきがあれば、今後はその方面で活躍してもらえば良いという柔軟な対応をとっています。

“グローバル”とは、文化的・歴史的背景を取り除いたあとに残るもの

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洪は2017年4月にエウレカに入社しましたが、そのときすでに台湾事業は立ち上がっており、韓国事業も立ち上げを目前としていました。グローバルな展開をはじめたエウレカに途中から参加するに際しては、難しさとともに面白さがあったと言います。

洪 「グローバルに関わっている人たちの中には、プロパーメンバーもいれば私のように途中から参加した者もいます。特にプロパーメンバーの中には、グローバル展開をするといっても、変えたくないことがあった人もいたはずです。
一方で、途中から参加した私には、残すべきところと変えるべきところを比較的客観的に見ることができた。それで、まだ伸び代があると感じる部分をメンバーに伝えようとしたんです」

今の消費者は、商品やサービスを購入する際に、自分で調べて自分で判断します。同じように、商品やサービスをつくる側の若い人たちも、自分の頭で論理的に判断してどうするべきか決断する傾向があると洪は話します。

洪 「ですから、頭ごなしの指示ではなく、各人が納得できる説明ができないといけません。客観的なデータを示して、現在の自分たちがまだ目指す地点に到達していないことを理解してもらい、どうすべきかを腑に落としてもらう必要があります」

特に開発が遅れていた韓国事業の立ち上げに関しては、洪はメンバーにプレゼンする側でありながら、唯一の韓国出身者として評価する側でもあるというユニークな立場にありました。

洪 「私は韓国のマーケットや文化的な背景について説明することができる立場だったので、メンバーにそれをプレゼンするんですが、そのプレゼン内容を評価できるのも私しかいませんでした。
みんなもどう受け止めれば良いのか戸惑っていたと思います。韓国の人が言うのだから間違いないだろうという面もあれば、やっぱり自分の頭で納得できない話は受け入れ難いという面もあったと思うんですよね」

ただ、洪はこの外国人同士のコミュニケーションの難しさのなかに、“グローバル”とは何かを定義づけするヒントを見出しました。

洪 「“グローバル”という言葉がはやる前は、“インターナショナル”という言葉がよく使われていました。私は、グローバルとは、文化や歴史などのしがらみにとらわれない部分を示すのではないかと考えています。
たとえば、ITの技術は文化や歴史のしがらみにとらわれない部分です。AIも同様です。
アメリカのグローバルな風景を思い浮かべるとわかりやすいですね。白人がいて黒人がいて、アジア人がいる。そんな人たちが集まったとき、AIを活用するために、彼らの文化的・歴史的背景を解決してからはじめようとすると、どこまでもコンセンサスは取れません。
しかしAIのコアな部分を開発するだけなら、それらのしがらみは取っ払うことができます。そこに残った部分がグローバルなものだと思います。もうこの部分の開発にあたっては、それぞれの文化的・歴史的背景は無視していいよね、ということです。
ただ、できあがったAIの技術を各国や地域に浸透させるためには、それぞれに相応しいインターフェイスが必要で、このことを理解し開発することがインターナショナルなのではないでしょうか」

つまり、グローバル展開においては、グローバルワンプロダクト、グローバルワンマーケティングという戦略があり、各国に展開するときには各国の責任者が、日本のメンバーにインターナショナルな言語で説明しなければならない、と洪は言います。

洪 「でも、そこが一番面白いところです」

ITで失ったリアルな出会いを、ITで取り戻すという使命

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台湾と韓国を足がかりにアジアへの展開を図るエウレカにとって、目指す基本的な姿は日本と変わりません。それは、オンラインデーティングサービスにより、出会いの機会を得られずに困っている人たちに、かけがえのない出会いを提供していくこと。

洪 「とはいえ、国によって出会いがないことの背景は異なります。繰り返しになりますが、グローバルな視点でいかにコアな部分を各国にフィットさせることができるか。ここをしっかり考えておくことで、展開できる国や地域の数が変わってくると思っています。
そして、インターナショナルな戦略として、各国の背景に合わせたマーケティングやインターフェイスをつくっていくことが課題になります」

洪は、日本以外のアジアの国々と日本・欧米とのインターネット文化における大きな違いは、その普及のステップにあると考えています。

洪 「日本・欧米では、まずPCが普及し、それらをつなぐ技術としてインターネットが導入されました。その後、フィーチャーフォンがモバイル端末として普及した後にスマートフォンに移行していきます。
ところがアジアの多くの国では、PCをインターネットの端末とするステップとフィーチャーフォンのステップを飛び越えて、いきなりスマートフォンがネットの端末として普及したんです。そのため、アジアの人々の生活は、私たちより急激に変化したはずです」

スマートフォンが普及したことで、誰もが時間や場所の制約を受けずに誰とでもコンタクトが取れるようになりました。その結果、逆に誰にも会わなくても良くなってしまったと洪は指摘します。

つまり、ITの発展と恋愛・結婚の間には反比例の関係があるのではないかと考えられます。

洪 「GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)と呼ばれるようなIT企業が重視しているのは、ネット上でいかに人をつなぐか、ということです。ところが彼らが人々をネットでつなげばつなぐほど、リアルなつながりはどんどん薄れていきます。
つながっているのに会えない。この状態を、同じITを活用することで、今度はリアルな出会いに引き戻してあげるのが、『Pairs』の使命だと思っています」

エウレカは現在、オンラインデーティング市場におけるアジアNo. 1を目指しています。

洪は、日本には優れたプロダクトがあるにも関わらず、国内のマーケットが大きいがゆえに、グローバルなマーケットに打って出にくいのではないかと指摘します。

洪 「私たちが日本発のグローバル市場での成功事例をつくることができれば、他のベンチャーやスタートアップ企業にも、『自分たちも、あんな風に成功できるのではないか』と思ってもらえるのではないでしょうか。
私がこの試みを成し遂げることができれば、韓国と日本で半々の人生を生きてきた意義があったと思えますね」

後編では、Global Marketing TeamのHeadである小谷美希を交えて、グローバル展開におけるマーケティングについて語ります。

*恋活・婚活マッチングアプリの利用状況調査結果より 「ファストアスク」にて自社調べ 2017/11/6〜11/11(対象:20歳〜49歳の男女2201人)
**アプリデータ分析サービス App Annieによる売上集計 2018年1月時点

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