「“アパレルの枠を超えた”何かを感じた」ユニクロに惹かれた共通点

▲ファーストリテイリングでクリエイティブ領域を担当する松沼礼(写真左)と石川篤(写真右)

UTコラボレーション事業推進部とグローバルマーケティング部で部長を務める松沼礼は、もともとグラフィックデザイナーとして2004年にユニクロに入社した。

入社した松沼が一番驚いたことは、いわゆる“ポップアートの巨匠”と呼ばれている方たちのアートがデザインされたTシャツを、ユニクロが990円という価格で販売していたことだった。

松沼 「 2000年代初頭のフリースブーム以降、ユニクロの商品は “安かろう、悪かろう ”という印象を持たれている時期もありました。一方で、この会社はアンディ・ウォーホルや、キース・へリング、ジャン=ミシェル・バスキアなどのアートがデザインされた Tシャツを販売していて、正直、かなり衝撃を受けましたね。
入社の後、社長の柳井正に『アートは敷居が高いというイメージがある。万人の方がアクセスでき、買えるような代物でない。だからこそ、 990円の Tシャツという、誰でも買える価格にして販売して、アートに対して興味関心が湧く入口をつくり、リテラシーというか文化への興味関心を上げる。服を通じて、世界中の人々の生活や価値観をより良くすることなんだ』と言われ、感銘を受けました」

高品質なものを、世界中の誰もが手に取れる価格で実現する。そんなユニクロの価値観に触れ、衝撃を受けた松沼。

入社から15年が経った現在は、世界中のお客様に、ユニクロの商品価値やブランド価値を広めるマーケティング・PRの領域や、世界中のアーティスト、デザイナー、企業とのコラボレーションの企画開発など、幅広い分野を担当している。

クリエイティブを手がける石川篤も、ユニクロの価値観に強烈に惹きつけられたうちの一人。

石川は、デザイン事務所、デザイナーズブランドを経て、2009年にユニクロへ入社。2019年現在は、ファーストリテイリングにてグローバルクリエイティブラボ東京という、クリエイティブの中核を担う部署で、10名のメンバーをリードしている。

石川 「もともと服が好きで、一流の環境に身を置きたい、アパレルの枠を超えたクリエイティブに携わりたい、と思っていました」

当時のユニクロはソーホー ニューヨーク店に続き、旗艦店であるパリ・オペラ店のオープン準備の真っ最中。ソーホー ニューヨーク店のオープンと同時にロゴも一新し、リブランディングをしたユニクロを世界に展開しているタイミングだった。

ソーホーという立地への出店や外部クリエイターとの協働、それらの枠にとらわれない企業活動に、「アパレルの枠を超えた何かを感じていた」と言う。

石川 「小学校のときにポップアートが好きになりました。キース・ヘリングのポスターを部屋に貼り、ミュージアムショップで買った Tシャツをお気に入りとして着てましたね。
大人になって、下北沢のユニクロでキース・ヘリングなど影響を受けたアーティストの Tシャツが 990円で売られていることに驚きました。一体この企業はなんなんだろう?って。
当時、原宿にあった UTストアやソーホー店、そしてユニクロに関わるさまざまな一流クリエイターとのタッグによるクリエイティブは驚きでした。そんなリブランドをしていくタイミングで入社できたのはラッキーで、そこからさまざまなチャレンジの機会や、チャンスをもらって、多くのプロジェクトに携わることができました。
ただ服を買ってもらうため、売るため、ではないはず。入社した当初から、アパレルの枠を超えた企業だと思っています」

クリエイティブを通して体感した「新しい文化的な土壌」をつくる喜び

▲2017年9月にオープンしたスペインの「ユニクロ パッセージ・デ・グラシア店」。 ふたりにとって、ユニクロらしいクリエイティブを実現した仕事のひとつの舞台である

そんなふたりにとって、とくに印象深かったのは、スペインのバルセロナにユニクロの旗艦店をオープンさせるプロジェクトだと言う。

私たちが大切にしている考え方のひとつに「グローバル・イズ・ローカル、ローカル・イズ・グローバル」というものがある。ユニクロの目指す姿や考え方をグローバルに広めると同時に、現地の文化を尊重して、ユニクロの文化と融合させるというものだ。

その考え方に沿って、ローカルで採用した社員にも伝え、新規に出店する国であるスペインの人々に受け入れてもらえる店づくりをしていくことを目指して動き始めた。

しかし、日本と比較し、服に対する趣味嗜好、考え方、年間を通しての気候性などの違いがあるバルセロナにおいては、オープン準備は簡単には進まなかった。

松沼 「新規国のオープンはユニクロのことをまったく知らないお客様に対し、まずはユニクロを知ってもらうことから始まります。ゼロからイチをつくり出し、どんどん 100にしていかないといけない、長期に及ぶプロジェクトです。なおかつ、バルセロナは競合とも言われているアパレルブランドの本拠地でした。
最初は現地に飛び込み、地元の人とよく話をして、歴史、文化を吸収しました。彼らの仕事、文化、服装、生活を実際に見て、聞いて、感じて、スペインの皆さんに『このブランドが来てくれて良かった』と思っていただけるような施策を考えていきました」

まず実施したのは、地元の方々をアンバサダーとしてキャスティングすること。地元で愛され、尊敬されている、シェフやサッカー選手など、多業種のパイオニア的存在の皆さんにユニクロの服を着てもらった。その自然体の姿を撮影して、地元の皆さんの生活導線上のメディアに掲げていったのだ。

また、ユニクロの象徴的戦略商品ウルトラライトダウンを、バルセロナ店の象徴的アイテムとした。これにも強い想いがある、と松沼は言います。

松沼 「現地の人と話す中で、バルセロナではバイク通勤が主流で、通勤時に寒い思いをしている人が多いと知りました。ウルトラライトダウンは、バイクに乗る時はポーチから出して着て、バイクを降りたらコンパクトにしまいトランクに入れられる。
それでいて軽くて暖かい大変便利なダウン。これは受け入れてもらえるはずだと思ってマーケティングしたら、街の人たちにとても喜んでもらえたんです。嬉しかったですね」

クリエイティブの力を生かした施策は、バルセロナ独自のロゴをデザインしたことだ、と石川は語る。

石川 「砂利道が多かったバルセロナは、道にタイルを敷くことで、近代的な町に進化しています。タイルは地元の人にとってなじみがあり、屋内外でタイルが身近にあります。そんな身近な存在であるタイルをモチーフにロゴをつくることで、彼らへの敬意と尊敬を表現しました。街の一部としてずっとユニクロが地元に愛され続けるお店になるために」

ついに迎えたバルセロナ店のオープンは、蒸し暑い9月。太鼓が鳴り、法被を着たスタッフが、手ぬぐいやうちわを配布するというまるで日本のお祭りのような雰囲気の中、スタッフがお店の中へお客様を誘導する。

どんどんと活気づいていく店舗。その様子を見た松沼は、服を通じて、日本の誇る大衆文化や芸能など、日本の文化発信的要素を伝える一端を担っていると実感し、心が震えたと振り返る。

松沼 「お客様にうちわを渡すと、『おもしろいね、これ初めて知ったよ』、って言われるんです。自分たちが当たり前のようになれ親しんできたものや、日本的なものの価値観が、その国の知らない人たちに受け入れられて、その土地に根づいていく。そんな文化的な交流が本当に起きるんです。
最初のお客さんが来てくれたときや、『私たちの国にユニクロが来てくれてありがとう』と言われたときは、感無量でした」

バルセロナ店オープン大成功の背景にあったのは、地道なリサーチやそれに基づく施策の実施だけではない。チームの全員が目標に向かって動く力が、下支えをした。

石川 「日本の社員も、オープンに向けて仲間になってくれたローカルの社員も、役職や立場に関係なく、膝を突き合わせて、良いものをつくるために向き合えたんです。ローカルの社員は、ユニクロのことはあまりわからないけれど、バルセロナへの愛情や知識はもちろんある。
でも、お互いに母国語では話せないし、わかり合えないことが多く、意見の食い違いもありました。ああでもない、こうでもないって。
それでも度々日本に来てもらったり、バルセロナに行ったりして、会話を積み重ねていったんです。そうして信頼関係を育み、お互いの価値観をすり合わせ、阿吽の呼吸になり、少しずつ良いチームに変わっていきました。
ひとつの目標にみんなで向かう、学生時代の文化祭みたいな感じでしたね(笑)。大きなチャレンジでしたが、やって良かった、ユニクロだからできたことだな、って思います」

LifeWearという産業をつくる。正しくある人たちで実現する世界

▲ロゴは、スペインのタイルをモチーフにしている。服を通してあらゆる人の生活をより良くする「LifeWear」の概念を世界に広めている

ユニクロだからできたこと──石川は、この会社には、正しさへのこだわりと、真正面から全身全霊を持ってぶつかっていく土壌があると言う。それは、上司や部下といった立場は関係なく、みんなが“正しくあることを大切にしている”ということ。

正しさのベースにあるのは、そもそも常に対峙しているのはお客様であって、その先に広がっているより良い世界をつくるという使命感だ。

松沼 「アパレル業界は通常、シーズンごとに、トレンドの服を生み出し、売れなければ在庫処分をします。お客様もトレンドに合わせ、そのシーズンに特化した服を買うもの。でも、われわれはそういったサイクルだけでない独自の価値観でブランドをつくっていきたいと思っています。
『いつになって』も、『かっこよく』、『ちょうど今着たい』、服づくりを目指す。そうした LifeWearという新しい産業を、私たちはつくろうとしています。シーズンレスで、タイムレスに着られるような服づくり。そうした無理、ムダのない服づくりが、不要な服を生まないサステナビリティな世の中につながると信じています」

また、ファーストリテイリングで働くからこそのやりがいは、こうした心から正しいと思える活動に、自分のクリエイティブを生かせることだ、と石川は語る。

石川 「やはり、冒頭にお伝えしたアパレル企業ではなし得ない、使命感みたいなものを働きながら感じているんです。単に売り上げを上げることだけではなく、正しい活動に自分のクリエイティブを使えている感覚は、常にあります」

ファーストリテイリングが示す「クリエイティブ」は、広告や服などのデザインのことだけではない。それは、「何かを生み出す0→1のこと」「1→10にすること」など、ビジネスをより良くするあらゆる場面での決断のこと。

松沼 「企業や組織、お客様に対するサービス、日々の商売など、世の中に生み出されていくすべてのものが “クリエイティブ ”だと思っています。そのクリエイティブを企画し、生み出していくことで、それを見たお客様やスタッフ、関わる人すべての価値観・ブランドをつくっている。
さらには、その人たちが媒介者となって、そのモノの価値をほかの人に伝えていくしくみをつくっていく。これこそが、この会社でクリエイティブを生かして働く醍醐味なんじゃないですかね」

1枚のTシャツが、世界を変える

▲ふたりは、「服づくりを通して、世界中のあらゆる人々の生活をより良くするという強い使命感を、実現したい」と語る

ふたりが、クリエイティブを通じて実現したいこと。それは、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」という、ファーストリテイリングのステートメントに表される世界だ。

松沼 「ユニクロというブランドを通じて、世の中にどう貢献できているのか、いつも思い描きながら仕事をしています。僕の取り組んでいる UT事業が、Tシャツを通じて、文化を知るきっかけをつくるものになれば嬉しいと思っています。
振り返れば、われわれ日本人は、西洋の文化の土台の上に存在しています。物心ついたときから、映画館やライブハウス、アミューズメントパークが身近にあったはず。カルチャーリテラシーが高まる環境の中で、生まれ育ってきているんです。
ただ、まだまだ環境が整ってない国はたくさんあります。そうした国に UTの Tシャツを届けることで『あのアーティストのライブに行ってみようかな』『この映画を見てみたい』など、これまでなかった会話や興味をつくるかもしれない。もしかしたら、その先に、その国に映画館やギャラリー、美術館がつくられるかもしれない。
僕が思うに、そうして文化へ関心を持つようになると、若い人たちはほかのことにも興味関心が湧くはずなんです。環境の問題や政治や経済の問題、地球全体のサスティナブルについても、自分ごと化する人が増えていく。
大きな話にはなりますが、一人ひとりの意識が変われば、自分たちの子どもたちの世代が、まだまだ、豊かに地球で生きていくことができるかもしれないと思っています」

1枚のTシャツが、世界を変えることにつながる──。

そうした使命感を持ち続けて、日々の仕事をクリエイトしていくことが、ファーストリテイリングで働く社員のゴールなのだ。

石川 「たぶん、社員であれば誰しもが、近しい使命感を持っていると思います。会社が大きくなって、大量の服をつくっているからこそ、地球にとってムダではない、サスティナブルな服をつくらないといけない。この地球上に、 “ユニクロがあって良かった ”と思ってもらえるように」

*ユニクロは、ファーストリテイリングの中核ブランドです。