経営戦略と人事戦略を統合して立案・実行するプロ

ファーストリテイリングの成長の原動力は徹底した完全実力主義にある。ポテンシャルのある人材に活躍の機会とポジションを提供し、人と事業の成長スピードを最速化させてきた。また、同社の主要ブランドであるユニクロは、海外事業が店舗数も売上も国内事業を上回った。こうした状況の下、グローバルレベルでの人と組織の変革が進められているのだ。

この人事の変革を推進するリーダーが、人事部部長の武山慎吾だ。武山のミッションは3つ。1つは、同社の将来を担う次世代経営者人材の育成。2つめはグローバルでの適材適所へのアサイン。3つめは、グローバルヘッドクォーター(日本にあるファーストリテイリンググループの本部)の人と組織の改革だ。

武山 「私の3つのミッションに共通するのは、経営戦略に同期させた人事戦略を、グローバルな視点で立案・仕組み化し、実行することです。人事における変革推進リーダーに求められているのは、経営者と同じ視座と視野で経営戦略を理解した上で、人事戦略を通して課題解決していく推進力です。いわば事業とその経営者にとっての『人事領域のビジネスパートナー(HRBP)』です」

ユニクロではLifeWearをコンセプトとした商品をつくると同時に、情報を商品化する「情報製造小売業」という新しい産業に業態を変革させるための 「有明プロジェクト」を推進し、アパレル領域で世界No.1となることを目指している。昨年はインド、イタリア、ベトナムにも進出し、25の国と地域で事業を展開している。

武山 「この成長スピードをさらに加速させるには、各国の店長や事業経営者の育成が必須です。さらに、全社を挙げて取り組んでいる『有明プロジェクト』での新しい挑戦では、それぞれの専門領域で経営者マインドをもって業務を推進する人を増やさせねばなりません。いま、各国の経営者と協力し、次世代経営者候補人材の発掘と育成を急ピッチで進めています」

「経営の半分以上は人事」。この経営トップの考え方に共感し転職

次世代経営者候補の育成には、経営者の資質を磨くための多様な経験が必要だ。

「そのためにはグローバルレベルでの適材適所へのアサインと、その制度の確立が急務」と武山は言う。こうした改革を牽引するのがグローバルヘッドクォーターの人事部だが、人事部もまた経営と事業からの要請に応えるために、人と組織を進化し続けなければならない。

武山はここにおいても強いリーダーシップを発揮している。武山には、経営と直結して人と組織を変えていきたいという強い思いがあり、転職の大きな理由でもあったからだ。

武山 「転職を決定づけたのは、最終面接で経営トップの柳井から『経営の半分以上は人事。私は組織と人のことについて、自分の人生の半分以上考えている』というひと言でした。こういう考えを持つトップの下で人事に携われたなら、自分のやりたいことを実現できると確信を持ちました」

武山は新卒で商社に入社し、リスクマネジメント部で数千億円規模の与信管理と債権回収に携わった。「規模は巨大で責任も大きいが、数字の世界で手触り感が乏しい。もっとリアルな経営を近くで感じたい」と、外資系戦略コンサルティングファームに転職。

しかし、「クライアント企業にプラスのインパクトを出せば出すほどコンサルへの依存が強くなる。クライアント企業の社員の成長機会を奪い、人材育成の足かせになっているのでは」というやましさを持ち始めるようになった。そんなときに、ヘッドハンターからファーストリテイリングを紹介されたのだ。

武山 「私は経営には人事が一番重要だという信念を持っています。自分自身が事業会社の社員として自社の人材育成や組織・人事の改革を実行し、コンサルに頼らない会社に変えていくほうが、より健全な働き方と考えました」

そして、武山は転職して1年半後、32歳で当時最年少の人事部長に抜擢される。

人事こそ経営者思考での戦略立案と地道な実行の両方が必要

武山は「人と組織の変革とは、全体最適と部分最適の戦い」だと話す。急成長・急拡大するファーストリテイリングでは、どの組織も優秀な人材が欲しく、異動で手放したくはないがために、関係部署での軋轢が起こりやすい。しかし武山は、「だからこそ、会社を良い方向に変えていくチャンスが非常に多い」と言う。

武山 「グローバルヘッドクォーター、しかも人事部は、全世界のお客様にとって何が本当に良いことなのか、会社全体の成長では何をするべきなのかといった、『全体最適』を考えて実行する部署です。

また、グローバルで人材レベルを上げていくには、社員のキャリア形成に必要な機会と経験を提供して、全社の成長に寄与していかねばなりません。そのためには、各国の経営者や組織長と粘り強くコミュニケーションをして、全体最適への意思決定ができるようにサポートしていくことも、HRBPとしての人事部の大切な役割です」

武山は人事関連での交渉の際、当該組織の経営者や組織長に、組織の成果や成長につながり、トライしたいと思えるアイデアやプランを持って行く。

武山 「人事異動は全社を活性化させることが目的です。だからこそ、人事部員ほど、経営者思考での戦略立案と泥臭い働きかけと実行の両方が求められています」

そしてまた、武山はこうした経営者たちとの交渉経験の積み重ねから新たな可能性を見いだしている。

武山 「年齢や在職期間に関係なく、ポテンシャルある人材を責任あるポジションにアサインしていく当社のカルチャーは大きな強みです。私たち人事部が適材適所で活躍する仕組みをつくることで、世界の人材開発と組織活性の先進企業より、さらに先を行く人事を当社が実現できると考えています」

未知の領域に挑む。過酷だが他ではできない経験

武山 「当社は常に未知の領域に挑んでいます。アパレル領域で世界№1を目指していますし、『有明プロジェクト』における挑戦も、これまで誰も実現していないことばかりです。先人がいないから、どこにも答えはなく、自ら見つけなければなりません。過酷ですが他にはできない挑戦ができます。私自身はそういう環境がたまらなく面白い」

では、武山のような変革推進リーダーはどんな素養が求められているのだろう。

武山 「LifeWearを通して、あらゆる方々の生活をより豊かにしていくことが私たちの使命です。トップの柳井も全社員も、服を通して世の中をより良い方向に変えていきたいと本気で考えています。まず、こうした私たちの経営理念に心から共感してくれる方と一緒に働きたいと思っています。


人事領域に限らず、すべての変革推進リーダーに必要な素養は、1つは素直かつ謙虚に、しかし貪欲に学ぶ姿勢です。『自分はこのままがいい。この領域だけをやりたい』という考えは当社では通用しません。

2つめは、理論と実践の往復ができること。実行や実践のためのリソースは自ら動いて周囲を巻き込んでいかないと得られませんから、ここがコンサルの仕事との大きな違いです。

3つめは、お客様のためになっているかを常に考えること。これが当社では特に重要だと思います。どんな案件も『本当にお客様のためになるか』が起点になり、試行錯誤して結果を出さなければなりません。しかも、求められるレベルがとてつもなく高い。

ポジションによってはトップの柳井に直接プレゼンテーションする機会もあります。柳井からの要望は強烈で、考えも及ばないような高い視座からの意見と判断がなされます。あまりに厳しいのですが、だからこそ他では得られない成長ができます。私も鍛えられました」

同社を取材して頻繁に聞く言葉が「胆力」。自分をどこまでも高く成長させたい、誰もやったことがないことに挑戦したい人間にとっては、得がたい環境であることは確かだ。