「これから実現したい働き方とは何か」を問うオフィスづくりが組織デザイン支援の起点に

▲互いの得意分野を活かしたフラットなチーム(写真左から諏訪真梨、村瀬周子、小針美紀)

富士通デザインでは、プロダクトやシステム、ビジュアルなどのデザイン開発のほか、組織やコミュニケーションデザインに関する支援事業も展開しています。

その中で、プロジェクトベースでフレキシブルに活動しているのが、「組織デザインチーム」。

メンバーは、ディレクションや全体設計を担う村瀬周子、定量・定性調査の開発や分析を担当する諏訪真梨に、対話を可視化する小針美紀が加わり、2019年現在3名のプロフェッショナルによって構成されています。

当社の組織デザイン支援は、オフィスデザイン事業が起点となって始まりました。

村瀬 「理想的な空間をつくるためには、まず『目指したい働き方』、つまり未来に向けたビジョンを描かなければ、本質的な設計はできません。このような理由から “オフィスありきのビジョン ”策定を始めたところ、次第にお客様から『空間づくりの有無に関わらず、組織デザインそのものをサポートしてほしい』という相談が増えてきたんです」

「組織デザインチーム」による支援事業は、2015年から本格化。

「策定したビジョンを浸透させ、組織に変革を起こす」ことを目指し、ケースに沿った施策を展開してきました。しかし、実践を重ねるにつれ、「それがいかに困難なことであるかを思い知らされた」と、村瀬は振り返ります。

村瀬「とくに浸透、変革のフェーズで、もどかしさを感じることが多くなったんです。
とりわけ苦い経験として記憶に残っているのが、2015年に富士通社内のとある部署で行われた『ワークスタイル変革プロジェクト』。一般社員数十名で理想とする働き方のビジョンを描き、実現に向けて取り組む予定でしたが、いざアクションを起こす段階になって、ためらう社員が続出したんですよね。そして、プロジェクトそのものが頓挫してしまったんです。
理由はいくつか挙げられますが、ひと言で言えば『ボトムアップ型の活動が、社内に認められづらかった』ことが大きく起因していました」

当時支援にあたっていた村瀬と諏訪は「一般層だけが共感できるビジョンをつくるだけではだめ。トップ層やミドルマネジメント層といった各層にも働きかけなければ組織は変わらない」ことを痛感。

そんなときに舞い込んできたのが、富士通社内の営業部門Aからの依頼でした。

“制度だけでは解決しきれない”職場の課題解決に「デザイン思考」で挑む

▲デザイン思考をベースとしたWork Design Program

政府が提唱する前の2010年から働き方改革に取り組んできた富士通。

在宅勤務制度の導入から始まり、生産性向上を視野に入れたICT活用、全社員約3万5000人を対象にしたテレワーク勤務の本格導入など、制度の拡充に努めてきました。そこで浮上してきたのが「制度だけでは解決しきれない職場の課題」でした。

営業部門Aでは、2017年に働き方改革事務局を発足し、そのサポートを組織デザインチームに依頼してきたのです。

村瀬 「『働き方改革の取り組みを、社員の成長が感じられるものにしたい。イノベーティブな組織文化へ変えたい』という営業部門 Aの意向は、まさに私たちが熱望していた “変革への取り組み ”そのものでした。
私たちはこれを契機に、経験、スキルをすべて反映させた『 Work Design Program』を開発し、実践することにしたんです」

プログラム全体は、デザイン思考の5ステップ(共感・問題定義・創造・プロトタイプ・テスト)に基づいた「1.気づく」「2.考える」「3.やってみて振り返る」の3ステップで設計。

加えて、「プロジェクトメンバーの当事者意識を育む」「各階層の社員に働きかける」ことをとくに重視し、1年目は「トップ層」「一般層」を、2年目は「ミドルマネジメント層」をメインとした構成にしました。

トップ層・一般層を対象とした1年目の「Work Design Program」。

「気づく」ステップでは、部門全体400名に対し、働き方や組織文化を定性・定量的にリサーチ。社員が理想とする働き方と現状とのギャップを抽出しました。

「考える」ステップでは、組織のトップ層に対してワークショップを実施。ありたい組織のビジョンを描き、実現に向けた変革の方法を明確にしていきました。また、一般層であるプロジェクトメンバーに対しては、トップ層と現場の想いがマッチする理想の組織・働き方を描き、実現のためのアイデアを練ってもらいました。

「やってみて振り返る」ステップでは、周囲を巻き込んでアイデアを一定期間試す「働き方プロトタイプ」を実施し、その効果を測ったのです。

村瀬 「組織のあるべき姿はそれぞれ違いますし、時代によっても変化します。このように『正解がひとつではない』取り組みには、デザイン思考を用いるのが最適だと考え、取り入れました。
たとえば、新しく出てきたアイデアを『不確定要素が多いから』とただ切り捨てるのではなく、チャレンジしてみる。そんな土壌でプログラムを進行させ、課題の本質に迫りたかったんです」

2年かけて、各階層へ向けプログラムを進行。浸透と変革を目指す

▲「気づく」「考える」「やってみる」を通して組織に起こった変化とは

「考える」ステップでは、部長全員でワークショップを開催。「今後求められる部長の役割・マネジメント」の具体的なイメージを描き、実現するためのアイデアを出し合いました。

そして「やってみて振り返る」ステップでは、マネジメントのプロトタイプと部長同士の定期的なピアメンタリングに取り組んだのです。

7カ月間にわたって行われたトップ層・一般層への「Work Design Program」。

若手社員29名によるプロジェクトメンバーを中心に活動し、多くの働き方プロトタイプを実践しました。そのひとつ、『顧客企業近辺へのサテライトオフィス設置』は、組織に新しい風をもたらした好事例になりました。

村瀬 「『お客様とフラットな関係性を構築し、共にビジネスを築き上げるパートナーになりたい』という部門としての想いが、『お客様のそばで働けば、自然と相手の立場になって物事を考えられる』という仮説となり、サテライトオフィス設置の起案につながりました。
とても直感的な企画の上にコストもかかるので、それまでの富士通であれば、実施に至るまで相当な時間を要していたと思います。それが『まずは既存のシェアオフィスを借りて、 1カ月限定でやってみましょう』という簡易的な形でトライできることになったんですよね」

検証の結果、効果が認められたこの取り組みは、トライアル終了からわずか2カ月後に本部施策として採用。この成功体験が、とくに一般社員を「自分たちの働き方は、自分たちの手で変えられる」というマインドへと変化させたのです。

1年目のプログラムが完了し、さまざまな成果が表れ始めたころ……。今度は営業部門Aにマネジメントに関する課題が浮かびあがります。

村瀬 「『テレワーク制度ができたが、これまでのマネジメントスタイルは離れて働くことが想定されていない』『過去の成功パターンに当てはまらないものは組織として却下されがち』といった声が、部門から上がってきたんです。マネジメント変革の必要性を感じました」

2018年、組織デザインチームは営業部門Aの部長32名に対し、『社員の力を引き出し、育てる』ための「Work Design Program」の実施へ踏み切りました。

「気づく」ステップでは、「社員の力を引き出し、育てる」マネジメントの具体的なイメージを持ち、行動に移すためのインプットを重視。外部有識者からの学びや部下との相違点を表すリサーチ分析結果を共有するなどの施策を実施しました。

ひとりでも多くの人が「WILL」を育めるよう、支援したい

▲ピアメンタリングの回数を重ねるごとに、互いへポジティブな影響を与える関係性へ

これまでのマネジメントスタイルであっても、目標自体はクリアできていた営業部門A。

スタート時は「なんで自分がやり方を変えなければいけないのか」といった声があったのも事実。しかし、8カ月間のプログラムを進行していくうちに一人ひとりに『変化を受け入れる姿勢』が見られるように……。

村瀬 「プロジェクト終了後のアンケートでは、 70%の部長が『自分のマネジメントに変化があった』と回答しました。『部長の発言や行動などにポジティブな変化を感じたことがあった』と回答した社員も 60%に上り、実施前から 25%もアップ。
外部有識者から与えられた “気づき ”を基に、これからの時代に必要とされるマネジメント像について “考え ”、『部下とのコミュニケーション強化』『部下の特性を考慮したマネジメントスタイルの調整』などの施策を継続して “やってみる ”。変革に向けたこの 3ステップをしっかり踏んだからこそ得られた成果だと捉えています」

2年にわたり、営業部門Aのトップ層・ミドルマネジメント層・一般層の各層に働きかけるWork Design Programを実践し、支援にあたってきた組織デザインチーム。結果として、タテ・ヨコのつながりが強化され、コミュニケーションの活性化をも促せました。

メンバーたちは、組織変革を実現させるには「WILL」を育むことが大切だと考えています。

村瀬 「結局 “やらされの変革活動 ”からは何も生まれない。一見遠回りに見えるかもしれませんが、まずは『自分で変えていこう』『タテ・ヨコの連携で変化の芽を育てていこう』というような一人ひとりの WILLを育むことがやがて組織を変え、新しいことを受け入れる文化を醸成させていくのだと痛感しました」
小針 「私は前職が人事、前々職がシステムエンジニアということもあり、比較的 “計画を練って実行する “ことが多い仕事をしてきました。そのため、『正解やゴールが明確でない』プログラムを進行していくことが、伴走者として非常に難しく感じました。
当然、営業部 Aの人たちも同じもやもやを抱えながら走っていたと思いますが、その山を越えるためにも WILLは必要。でも最初からみんなが明確な WILLを持っているわけじゃない。なので、一緒に自分の WILLについて話し合えたり、共に支え合える仲間がいるのは、より重要だと感じましたね」
諏訪 「ある参加者から『 “働くこと ”は人生を豊かにするためのひとつだと思いますが、今自分は、働くことで豊かにはなれていない』という話を聞いたとき、それってすごくつらいことだなと思って。だから、 WILLを育むことで『働くって楽しい』『働いていることで自分を生かせている』と実感する人が増えるといいな、と」

Work Design Programは、近く社外への支援活動にも活用される予定です。

ひとりでも多くの人がWILLを育めるように──組織デザインチームの支援活動はますます広がりを見せることでしょう。