このワインが、まさかウニに合うとは!

▲他店との差別化ができるような提案を心がけています(営業部長 加藤)

皆さんは「営業」という職種にどのようなイメージをお持ちですか?

お客様にとっていいものを販売する、知識を生かしてコンサルティングをする、とにかくお客様に会いに行くことが大事、といった印象かもしれません。

しかし、フィラディスの場合は特殊です。営業部長の加藤はこう言います。

加藤 「実をいうと、私たちがお客様に会いに行くのは数カ月に一度なんです。また、私たちが輸入販売するワインは、おいしくて当然です。しかもソムリエさんはワインに関する豊富な知識をお持ちの方たちですから、どんな味かもご存じなんです」

では、何が重要なのでしょうか。

加藤 「ソムリエさんにとって大切なのは、お店にいらしたお客様にご満足いただき、喜んでもらえることです。だから、営業するときはソムリエさんがレストランのお客様に、このワインの価値をどう伝えるのかを考えます。とくに私は、他のレストランと差別化できるような伝え方を考えます。
『なかなか飲めないワインですよ』とお客様にご案内できるのもそうですし、本当は高いワインを安く飲めたなら、それも差別化です。その他にも、お客様に『マリアージュが良かった、まさかウニに合うとは!』と言われるのも差別化なんですよね。それを提供するのが私たちです」

考えるのは、お店とワインのマリアージュ

▲社内試飲では1日20種をテイスティングすることも。感覚ではなく論理的にワインを分析して評価していきます。集中力が必要とされる時間です。

フィラディスの営業の一日は、朝、社内向けの仕事から始まります。営業はバイヤーが選んできた商品を売るだけでなく、自分たちで商品の選択もしているのです。

ミーティングや、事務処理もあります。そして、もうひとりの営業担当である古川 康子は、その中でも大切な仕事があると言います。

古川 「今日、明日、来週にご案内するワインの情報を集めることが大切なんです。バイヤーチームから生産者の情報を聞くだけではございません。そのワインがどんなマリアージュで提供されているか、どんなお店でどんなシーンで使われているか、海外ではどうか、といった情報を集めます。そしてソムリエさんへの伝え方をアレンジします」

“ワインの味”という、感性の世界の情報を言葉にするためには、「ふくよかな酸味が……」といった官能的な評価だけでなく、他のレストランでの使用例など、事実に基づいた情報も必要なのです。ただし、古川は努力をしつつも、それが大変だという雰囲気を漂わせません。

古川 「ワインの勉強をするほど、お客様にお勧めするときの言葉や、具体例が豊富になっていきます。だから私も、毎週 20~50種類はテイスティングします。そして日々、醸造、流通など、業界の情報をキャッチしています。ただ、ワインが好きだから “苦労している ”という気はしないんですよね(笑)」

そして古川・加藤は、どのお店の、どのソムリエさんに、何を販売するかのイメージについて考え始めます。

価格帯から、「この価格ならこのお店に」「このお店はフランス産のワイン中心だけど思い切ってこの国のワインを提案してみよう」などと想像力を使って考えるのです。

加藤 「お店によって方針はさまざまですが、最終的にはワインを通して、レストランやソムリエの方に得をしていただければいいと思っていますね。たとえば、『このワインがあると料理とのマリアージュの幅が広がる』とか、『この客層ならきっと珍しがられる』といったイメージを膨らませるんです。これが合っていると、僕たちにも信頼がついてくるんですよね」

いわば、ワインとお店とのマリアージュを考える、といったところでしょうか。その上で、古川と加藤たちは14時から電話営業を始めます。お店のランチタイムが終わり、夕方からの営業が始まるまでが、彼らの勝負の時間なのです。

新たなワインの価値を伝える、それが最高の営業

▲築いてきた信頼があるからこそ、電話での短い会話の中でも商談が成立する

一日にかけられる電話は多くても40本程度。そんな中、彼らはどんなことを大切にしているのでしょうか。

加藤 「私は “イメージを合わせる ”ことを大切にしています。仮に『このワイン、スッキリしています』と言っても、どれくらい酸味があるのか、ソムリエさんによって感じ方は異なりますよね。そこを理解してお付合いさせていただくと、いつか “彼は俺の感覚をわかってる ”と言っていただけるようになるんです」

お会いするのは数カ月に一度。その際に“イメージをすり合わせる”ため、事前に綿密な準備をしておく必要があるのです。一方、古川はこう言います。

古川 「私は、人間関係を大切にしていますね」

といっても、ご用伺いのようなことをしているわけではありません。

古川 「 10年以上のお付き合いのある、大先輩のようなソムリエさんと信頼関係を築き、頻繁に情報交換するんです。そうすることで、ワインに限らずお料理、お客様に関する知識も身につけられて。そして、それをもとにお客様へ新しい提案をするんです」

たとえば、2017年から販売し始めたドイツワインがあります。それまで私たちはドイツワインを扱っておらず、お客様にご紹介したこともありません。

古川 「そんな中、私が単純にお勧めしても、ソムリエさんは『それ、本当?』と思われるでしょう。
でも、そんなときに私たちの普段からの信頼関係が生きるんです。『このワインはこんな生産者がつくり、こんな歴史を積み重ねていて……』と丁寧に説明して、こんな料理に合うんですよ、こんなシーンで出していただくとお店のお客様にもきっと新しい発見がありますよ、とご提案します。そして、ソムリエさんに “試してみるか ”と仕入れていただければ、それってワインの新しい価値をつくることにもつながっていると思うんです」

ソムリエの世界観を、いい意味で裏切ることも

▲和食の世界にもワインは確実に定着してきている。意外な組み合わせが驚くべきマリアージュを生むことも

実をいうと古川は、もともとフレンチレストランのソムリエでした。しかし、「サービスとは違う視点からワインに携わってみたい」と考え、フィラディスの仲間になっています。

古川 「とくに私の場合、フィラディスがワインの文化を日本に伝えようとしている部分に共感したんです。ワインには無限の可能性があります。たとえば、ファインワインを一つひとつ吟味し、輸入して、検品をした後に、その特徴をつかんでレストランにご提案するという仕事は、複雑すぎてなかなかやる人がいません。しかし、私は “ここを誰かがやれば、きっと日本でワインの文化はもっと花開く ”と思ってきました。そこを私がやっている、という充実感があるんです」

普段からいいものをお勧めし、お店の価値を高める──そんな営業だからこそ、ソムリエさんは「じゃあ買ってみるか」と考えてくれるのでしょう。

古川 「その中でも、私を信じて今まで扱っていなかったワインを買っていただいて、シンプルに『この前のあれ、良かったよ!』と言ってもらえる瞬間が嬉しいですね。私が新しい価値を提供でき、特別な存在になれた瞬間だって思えるんです」

一方、加藤はこう言います。

加藤 「慣れてくると、ソムリエさんの世界観がわかるようになってきます。この料理にこんなワインをあわせ、こんなお客様にこのワインをお勧めして、といった “ワインに関する世界観 ”です。
そして、ソムリエさんの世界観に合ったワイン、さらにはそれをいい意味で裏切るようなワインをお勧めし続けると、次第にソムリエさんは『うん、お勧めならもらっておくよ』と、ほんの少しお話ししただけで買ってくださるようになります。すると、思うんです。『あ、私がご提案したワインが活躍したんだな』と。私はそんな瞬間が好きですね」

ワインは、ただそこにあるだけでなく、料理やお店やお客様の好みと合わせることで、より大きな価値を持つようになります。そう、フィラディスの営業に求められる仕事は、「ワインに命を吹き込むこと」なのです。