ファッション業界のファーストペンギン――挑戦を続けるアンリアレイジ・森永邦彦氏の思考法

株式会社ファーストペンギンは社会性が高く、技術革新に取り組む先進的な企業をサポートする「FPスポンサー」事業を行っています。その第一弾として協賛したファッションブランド「ANREALAGE」。デザイナー森永邦彦氏が挑戦を続けるファーストペンギンとして何を大事にしているのか。その思考法を紐解きます。

「日常」と「非日常」の両極を追求する

▲ANREALAGE デザイナー森永邦彦氏

「ANREALAGE(アンリアレイジ)」は、デザイナーの森永邦彦氏が率いるファッションブランド。「A REAL(日常)」「UNREAL(非日常)」「AGE(時代)」の3ワードを含む造語をブランド名に冠し、パッチワークやボタン使いといったクラフト的な手仕事と、AR(拡張現実)や光の反射で色が変化する素材などテクノロジーを組み合わせた革新的な洋服づくりが特長。

2014年からパリコレクションに参加し、国内外でそのアイテムが販売されるなど、グローバルに活動しています。

デザイナーの森永氏は、早稲田大学在学中から並行して服飾専門学校に通い、2000年にブランドを開始(2005年に法人化)。「神は細部に宿る」をコンセプトに、緻密なパッチワークや手縫いが施された洋服は、「日本の精神性を体現している」と、2005年ニューヨークで「GEN ART 2005」アバンギャルド大賞を受賞。海外で評価されました。

森永氏 「自分の好きなことや価値観は、あまりに些細なものだったけれど、日常の中で見過ごされてしまうことにこそ価値を見出し、人一倍時間をかけ、緻密な服づくりをしていくのが、当時の僕らにできることだったんです。それを『日本らしい』と海外で評価してもらえたことは意外でした」

当時から一貫しているのは、細部をおろそかにしないこと、そして「常識の真逆を行くこと」だと言います。

森永氏 「いつも『基本から逸脱すること』ばかり考えているかもしれません。でもそれは、別に “反骨精神 ”ではなく、安定したものよりも、危いものや不安定なものに興味が惹かれるからです。


ファッションにおいて、『人と違うものが着たい』という欲求は自然なことだけど、他の領域では減点対象になったり、評価されなかったりする。ファッションだけが、その逸脱することへの “色気 ”を許容してくれる。それこそが、僕らの表現したい『非日常』なんです」


異分野とのコラボレーションで生まれる革新的な服

アンリアレイジの表現する作品は、私たちが抱くファッションへの常識を大きく揺さぶります。紫外線が当たることで洋服の影を記憶する服、光の反射や屈折によって目には見えなかった柄が浮かび上がる服--。

「常識の真逆を行くこと」は、洋服づくりだけでなく、その発表の場においても踏襲されています。ミュージアムでのインスタレーションによる作品発表や、専用アプリを搭載したスマートフォンをかざすと、ARによって目の前のショーとは異なるサウンドや演出が繰り広げられるコレクションなど、観る者に驚きを与えます。

森永氏 「他にない洋服をつくるからには、普通とは異なる素材を使い、違うつくり方をして、違う見せ方をする。ファッションというフィールドにはないことに挑戦したいんです」

その姿勢に共感を寄せるのが、ファーストペンギン代表の市之川匡史です。

市之川 「森永代表の考え方は、ファッションという枠を越え、テクノロジーと融合し、新たなビジネスを生み出そうとしている。身体にとらわれない独創的な洋服や新技術を積極的に用いた洋服は、誰にも真似できないものです。そしてそれを生み出す仕組みにも先進性を感じます」

その仕組みとは、ファッション界のみならず、多岐に広がるコラボレーション。

ロックバンド・サカナクションの山口一郎氏らがコレクションのサウンドディレクションを手がけたり、メディア・アーティスト真鍋大度氏ら率いる「ライゾマティクスリサーチ」と暗闇の中のソーシャルエンターテイメントを手がける「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」の檜山晃らと共同で“空間を知覚する”服「echo(エコー)」を開発したり、三井化学と共同で“太陽光を当てると黒くなり、蛍光灯を当てると透明になる”新素材「クリアブラックフォトクロミック」を開発するなど、異分野との共創により、これまでになかった表現を追求しています。

森永氏は、積極的に異分野とコラボレーションする理由を、こう語ります。

森永氏 「洋服は通常、人の身体からパターンを起こしてつくるものですが、そこから離れて立体的な洋服をつくろうと試みたシーズンがありました。そのときに活用したのが 3Dスキャンや3Dプリンタといった、新しいテクノロジーだったのです。


洋服自体、衣食住という『日常』とは切っても切り離せないものです。その中でいかに『非日常』を表現しようとするなら、やはりファッションとは異なる分野との接点が重要なのです」


挑戦し続けることにこそ希望がある

テクノロジーが進化していく現代では、かつての“想像上の未来”が次々と、私たちの目の前に現れています。

森永氏 「僕自身、もともと藤子・ F・不二雄が好きで、ファンタジーや “SF=すこし不思議 ”な世界に憧れていたんです。テクノロジーによって、新しい感覚や知覚が生まれ、新たな感情を呼び起こしてくれる。その力を使って、僕らはファッションの可能性を追求して、実験的な取り組みを続けていくことに、 “燃える ”というか、ワクワクしていますね」

アンリアレイジが一貫して追求しているのは、「日常」と「非日常」、「手仕事」と「テクノロジー」、「アナログ」と「デジタル」、「光」と「影」といった、“相反する二極”。その両極が広がり、振れ幅が大きければ大きいほど、観る者の感情を揺さぶるのでしょう。

けれども、本来ファッション業界は「トレンド」や「シーズンサイクル」など、ルーティンや規程の多い世界。その流れに身を置きながら、挑戦を続けることに、困難を感じることもあるのではないでしょうか。

森永氏 「“トレンドに乗らないこと ”には、なんのストレスも抱かないんです。めまぐるしい流れの中で、左右されない軸足をこの 15年で固めてこられた。


これからは、その流れを自らつくり出すような強い立ち位置を築きたい。まったくの両極にあるものが重なった瞬間こそが、これまでにないものを生み出せるし、大きな力を生むんです。だから、これからも『日常』と『非日常』の両極を求め続けていくと思います」


そして、そのスタンスはブランド設立当初から変わらないと振り返ります。

森永氏 「ブランドを続けてきて、『ずいぶん遠いところまで来た』と思っていたんだけど、最近また、ブランドを始めた頃の仲間が吸い寄せられるように再結集して、一緒に仕事をしているんです。表現する手段はアップデートしているけど、自分の表現したいことは今も変わらない。あの頃、相当な想いで一歩を踏み出したけど、その瞬間や情景にこそ、真理があるんだろうなと思います」

“挑戦しなければ負ける”世界だから、同じことを繰り返さない

ブランドを始めるときの決意、そしてファッションの領域を拡張しようと挑戦し続ける森永氏の姿勢は、まさに「ファーストペンギン」というべきもの。そんな森永氏は「ファーストペンギンでいるための条件」をどのように考えているのでしょうか。

森永氏 「ファッションはどんどん更新されていくから、 “挑戦しなければ負ける ”世界。『新しいことにこそ正義がある』と、希望はずっと持っているんです。


自分自身には、『同じことを繰り返さないこと』を条件に課しています。繰り返すほうが、よほどリスクは高いですから。一度決めたら、自分たちを信じてやってみる。その道が違っていれば、また違う道を探せばいい。やり続けないと、自分たちが正しいのか間違っているのかさえ、わかりませんからね」


その言葉に、ファーストペンギン代表の市之川も大きく頷きます。

市之川 「ビジネスの世界でも、『リスクを取らないほうがリスク』というのは鉄則です。新しいテクノロジーを柔軟に取り入れる森永さんのスタンス、そしてファッションに新たな社会的価値を提供し、海外にも活躍の場を広げるアンリアレイジには、大いに共感します。これからもその『ファーストペンギン』としてのスピリットを、ともに共有できればと思います」

ファーストペンギンでは今後、海外を拠点に挑戦を続ける事業者や先進的な企業に対して、FPスポンサー事業やペイメント事業をはじめ、さまざまな角度からサポートしていきたいと考えています。そして、国境や事業領域にとらわれず、さらなる挑戦を続けていきます。

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