僕だから知っている価値。全国の児童館支援を通じて“子どもが真ん中”の居場所づくり

日本全国で活動する児童館等の支援組織として設立した一般財団法人児童健全育成推進財団。ここで職員に向けた研修プログラム運営や運動遊びの普及活動等に従事する袋布信哉は、もともと中学生のころから児童館に通っていた利用者でした。茶髪の“やんちゃ少年”だった彼が、今も変わらない児童館への熱い想いを語ります。
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利用者から主催者へ。変わるきっかけとなったのは夏祭りのボランティア

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▲一般財団法人 児童健全育成推進財団 事業部 袋布信哉(たふ しんや)

児童館は、0歳から18歳までの子どもとその保護者が無料で自由に過ごせる施設で、全国に約4,500カ所あります。1948年、子どもの健やかな成長を保障する児童福祉法の施行とともに全国で認知されていきました。

一般財団法人児童健全育成推進財団(以下、育成財団)は、児童館と共働き家庭の小学生らが通う放課後児童クラブ、地域で活動する母親クラブのよりよい活動を支援する組織として、1973年に設立。2019年7月現在も全国2,740カ所の児童館の会員を擁し、児童館職員のための研修の実施や新たな遊びプログラムの開発等を行っています。

9年間の児童館職員の経験を経て2017年に育成財団に入職した袋布信哉も、中学時代から京都市内のとある児童館に通う利用者のひとりでした。

袋布 「児童館だからこそ輝けるタイプの子って、いるんですよ。僕はまるっきりそういう子どもでした。胸の内にさまざまな意欲や想いはあるけれど、意外と人見知りで学校では思うように自分を出せない。そんな僕にとって児童館は、いつでも立ち寄れて、エアコンも効いていて(笑)、叱られてもまたなんとなく受け入れてもらえる、心地いい場所だったんです」

そんな中学生の袋布と児童館との関わりを大きく変えたのは、職員から誘われた児童館夏祭りのボランティアの経験。

袋布 「『ヒマならちょっとやらへん?』って言われて、おもしろそうだからやってみようかな、って。それくらいの気楽な感じでした。そこで試しにスマートボールをつくって、お客さんを迎えて……と、お祭りをスタッフとしてすごしてみたら、すごく楽しかったんです。一見ただの遊びのようですが、そこでの小さな成功体験を経て『自分にもできるんだ』という発見をすることができました」

挫折で気づいた、児童館職員という役割の大きさ

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▲茶髪だった学生時代、児童館ボランティア代表として育成財団からインタビューを受けたことも

この夏祭り以降ボランティアを継続し、中学卒業後も気づけば高校、大学と折に触れ児童館に通い続けていた袋布。児童館職員だけでなく、周辺地域の大人、高齢者や障がい者ともかかわり、さまざまな人々とまじわって青春時代を過ごしました。

そして大学を卒業後、今までの歩みから導かれるように、自然な流れで児童館職員になったのです。しかし、職員として最初のつまずきは、意外なほど早く訪れました。

袋布 「最初に辞めたいと思ったのは、職員になって 2~ 3カ月目のころでした。早いでしょう?」

思い描いていた自らの職員像とのギャップにただ困惑し、いらだちすらも起こってくる――。利用者やボランティアとしてではなく、児童館を運営する職員として今まで知らなかった一面が見えてきました。

袋布 「学生の頃からあれだけ長いことボランティアをして、いろんな催しもこなしてきたから、誰よりも児童館のことをわかっている、職員になっても余裕でやれる、と思い込んでいたんです。でも、現実は違った。担当していた放課後児童クラブで『袋布先生の怒り方ってどうなんですか』って、保護者会の議題にあげられてしまって。いきなりの挫折です」

そんな時、即座にフォローに回り、根気強く励ましてくれた館長や先輩たちのことは今でも忘れられないと話す袋布。ボランティアの時には見えなかった、児童館職員のチームワークや、求められる役割の大きさを実感した瞬間でした。

袋布 「ボランティアとちがい、職員には自治体や地域、保護者の方々からの期待も大きいですし、数年かけて子どもたちの成長と向き合う、とても責任ある仕事だということを改めて感じました」

「壁にぶつかって初めて学ぶタイプ」。自らをそう評する彼は、こうした経験を重ねる中で児童館職員としてもっと学びたいという意欲も高まっていったのです。

袋布 「児童館職員として一番難しくて楽しいのは、やはり子どもとの関わりです。0歳から 18歳という、どんな学校よりも幅広い年齢の子どもたちと日々向き合うわけですから、学んでおかなければいけないことも膨大。
でも、この仕事に悩んでいたあるとき、小学 4年生の男の子が『袋布先生を見て児童館職員になりたいと思ったから話を聞かせて』と言ってきてくれたんです。そのときは、僕のやっていることも無駄じゃないのかもしれない、と心から励まされましたね」

全国の児童館職員の「伴走者」となり、ともによりよい児童館をつくりたい

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▲京都市内の児童館で職員として9年間勤務

そうして袋布は、9年間の現場経験を経て育成財団へ転籍出向。優れた児童館職員としてキャリアを重ねたその資質を見込まれてのことでした。

袋布 「実は一時期、育成財団の求人を調べていたほど関心を寄せていた職場だったんです。出向してみないかと連絡を受けたときは、おどろかれるぐらい即答で『行きます!』って答えていました」

とはいえ、ひとつの現場に深く関わる児童館職員から離れ、全国の児童館を広く後方支援を行う立場への大きな変化に戸惑いはなかったのでしょうか。

袋布 「現場から離れることに寂しさがなかったといえば嘘になります。けれど、ここでの仕事は児童館の成り立ちから最新の取り組み事例まで、さらに幅広く知ることができる大きな学びの時間になっています。また、育成財団職員には現場経験者がすべてではないので、自分のような経験の浅い職員の発言も『現場を知っているからこその視点』と、きちんと受け止めていただけているのもありがたいんです」

2019年7月現在、袋布は事業部に所属し、児童館職員の資質向上のための研修会の運営や情報誌「じどうかん」の編集などにあたっています。さらに、育成財団とナイキジャパングループ合同会社がパートナーシップを組み2017年よりスタートした、新たな運動遊びプログラム「JUMP-JAM(ジャンジャン)」のトレーナーとしても活躍しています。

袋布 「児童館職員のときに、児童館があまりにも好きすぎて先輩から “児童館バカ ”と言われたことがありました。でもいま育成財団に来て、社会の中での児童館の立ち位置や、全国各地の児童館のことを知らなかったことに気付きました。本当の “バカ ”ではなかったんです。今は全体を俯瞰しながら知見や知恵を蓄えて、本物の児童館バカになりたいと思っています」

感謝のバトンをつないでいく。途切れることのない愛情は今もここに

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▲運動遊びプログラム「JUMP-JAM(ジャンジャン)」で子どもたちと身体を動かす

こうした環境で働く中で、全国各地の現場職員の悩みに耳を傾ける機会も増えた袋布。多岐にわたる業務のいずれからも感じるのは大きなやりがいでした。

袋布 「僕自身が人に恵まれ、育てられました。ひとりでは生きていけなかった。この感謝の気持ちをバトンにして、まず現場の若手職員たちに手渡せたらと考えています。たくさんつまずいてきた僕だからこそ、伝えられることがきっとある。立派な先輩になんてなれないけれど、全国の職員の『伴走者』として、ともに学び、よりよい児童館をつくっていきたいですね」

そして、かつての自分がそうだったように、安心してすごせる子どもたちの居場所を守りたい。また、子どもに関わる仕事を志望する若者たち、大人たちにも「児童館職員」という選択肢を高めていきたい──。袋布の未来への想いは尽きることがありません。

ひとりの“大人”として活躍する袋布ですが、今でも業務中、様々な場面で様子が気になって仕方ないといわんばかりに、たくさんの先輩職員たちが彼のもとを訪れたり、話しかけたりしています。

「ちゃんとやってる?」
「なんでも聞いてね」

まるでわが子の晴れ舞台を見るような、愛情たっぷりの言葉とまなざし。それらを一身に受ける袋布は照れたようにこう話します。

袋布 「結局は中学の頃と同じ。僕は今も、児童館の大人たちに育てられているんですよ」

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