ここは、子どもたちが生きる力を育む場所。20年の職員経験で見えてきたこと

0歳から18歳の子どもとその保護者が無料で自由に利用でき、現在全国約4,500カ所にある児童館。しかし、その役割は規模や地域によってそれぞれです。そんな中、上木秀美はすべての種別の児童館で勤務経験を持つ、異色の存在。そんな上木が、改めて児童館職員という仕事の魅力を語ります。
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児童館との出会いは小さな挫折から

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上木が勤務する大型児童館「えひめこどもの城」
上木 「周りの方がつないでくれたご縁に運ばれるように、気がついたら児童館にいました」

そういって朗らかに笑う上木秀美は、現在愛媛県松山市にある大型児童館「えひめこどもの城」にて事業推進係長を務めるベテラン児童館職員。これまで大小合わせた数多くの児童館で経験を重ねてきました。

しかし、彼女がこの道を歩むきっかけは「小さな挫折」だったという。

上木 「実は、中学時代に素敵な先生と出会ったことをきっかけに、ずっと中学校教諭になりたいと思っていたんです。脱線の多い先生だったのですが、知識が豊富で教科書には載っていないエピソードをよく話してくれました。
高校時代もその夢を温めていて、大学も教育学部に進みました。でも教育実習先で、カリキュラム通りに進む学校の教育に違和感を抱いてしまって。憧れていた仕事だっただけに『これは私にはできない』と感じ、ガラガラと目の前の目標が崩れてしまいました。

教師にならなくても、子どもに教えられることはある

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児童館では音楽イベントも開催、子どもたちは好きな打楽器を選び演奏する
上木 「そのまま真っ白な状態で大学卒業間近の 3月を迎えたとき、大学の教務課から『まだ就職先が決まっていないんだったら、愛媛県庁でアルバイトしなさい』と連絡がきたのが、すべての始まりでした」

大学からの紹介で上木が最初にアルバイトとして働いたのは、偶然にも現在の勤務先である「えひめこどもの城」の立ち上げチームへのサポートでした。上木はそこで初めて、子どもと関わる仕事として「児童館」という存在を意識するようになったとか。

上木 「いよいよ『えひめこどもの城』が立ち上がるというときに、『子どもに遊びを教える現場だよ、職員の採用試験を受けてみたら』と、ある職員の方に勧められたんです。そのとき『そうか、教師になって勉強を教えなくても、子どもに教えられることはあるんだ』と、児童館という存在にピントが合ったように思います」

もともと上木は自身の大学の卒業論文で、「経験主義」という体験活動を研究したものを書いていました。

上木 「机上ではなく体験して初めて学べることがある、というのが経験主義。それって児童館で行われていることそのものなんですよね。学問として学んでいたときには結びついていなかったけれど、生きた事例は身近なところにありました」

まっさらな状態から始まった子どもたちの居場所づくり

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全国の児童館スタッフへの研修も担当、新しい遊びのプログラム開発も行う

こうして、半ば運命に導かれるように児童館職員の道を歩み始めた上木。最初の勤務先だった「えひめこどもの城」では、立ち上げ期メンバーとしてゼロからどのような場づくりにするかを考え組み立てていきました。そのプロセスは、その後の職員としてのキャリアにも大きく影響する貴重な経験だったと話します。

上木 「当時、十数人のスタッフで全国各地の児童館を視察したり、実際に 1週間勤務をさせていただいたりしました。それぞれがその経験を持ち寄って集まり議論をする、というプロセスを経て、『えひめこどもの城』は形づくられていきました。全国の先進事例も肌で感じることができ、児童館にできることの多様性を実感しましたね」

上木はその後も約2年ごとの頻度で松山市内のさまざまな児童館で勤務。テーマパークのような大型の児童館から、地域に密着した小型の児童館まで経験した。児童館職員のなかでもスペシャルなキャリアを重ねてきた彼女は、それぞれの場所での経験をどのように捉えているのでしょうか。

上木 「小型から大型まで、どこが良いとか悪いというのはまったく感じませんでしたね。たとえば、大規模な施設は予算も比較的つきやすいので幅広くチャレンジができるけれど、親子との出会いはほぼ一期一会。一方、小規模になればなるほど常連さんの割合が増えてきて、利用者との関係性が濃く深くなっていきます。
それぞれの規模に、それぞれの魅力がある。予算と資材とニーズの組み合わせで、さまざまな役割を担うことができるのは、児童館の大きな可能性だと思っています」

ただし、児童館の運営が行政から民間へ委ねられるケースが増える中、活動に対する参加費の発生や、評価軸として利用人数が費用対効果の目安として求められるなど、「運営」と「経営」をめぐっての課題も感じることが多くなってきたといいます。

上木 「児童館のミッションを『子どもたちが安心して遊べる場所を提供する』と考えるなら、費用や時間を気にせずいつでも没頭できる環境を用意しておいてあげたい。たとえば工作であれば、材料費をかけずに廃材を使う場合は参加費を無料に、新しい素材を用意する場合は有料にするなど。子どもたちの豊かな創造性をなるべく損なわないように、そのあたりのバランスをスタッフ間でもいつも議論を重ねながら取り組んでいます」

児童館を「生きる力を育む場所」に

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児童館では子どもたちの「やりたい」を尊重し、そばに寄り添う

では、現在上木は児童館を「どのような場所でありたい」と考えているのでしょう。

上木 「遊びを通して、生きる力が備わる場所になっていけばいいですよね。それは『ひとりで立つ』という力だけでなく、周囲に頼る勇気も含めた生きる力。自分でなんとかできるように知恵を絞るのと同じくらい、困ったときに大人に声をかけられるというのは、大切なことですから。
そんな力を養うためには、まずここが子どもたちの『やりたい』を叶える場所である必要があると考えています。それぞれの過ごし方で、安心できる場所。心のよりどころ、なんていうと大げさかもしれませんが、子ども時代にはそんな場所が多ければ多いほど心強いんじゃないかな」

そのために、職員として心がけたいのは「子どもたちに対する『待ち受け状態』を柔軟にすること」だと上木。多様な子どもの価値観や感性を受け止めるためには、「まず自分が体験して、多様な人に出会うこと。ノウハウや知識を身につけることも大切ですが、まずは経験主義、やってみることです。大人も思いっきり遊んでみることが大事ですよ! 」と笑います。

その理想像は、かつて自分が出会った教諭たちの姿に重なるところも。

上木 「私が好きだった先生たちは、どこか自由で、学ぶ楽しさも生きる楽しさも身をもって教えてくれていた気がするんです。教師にはならなかったけれど、そんなふうに大らかに、人生を楽しむ姿を子どもたちに見せていけたらいいなって思います」

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