目指すのは、子どもの輝きを見つけて伝えるゼネラリスト

0歳から18歳までの子どもとその保護者のための施設、児童館。全国約4,500カ所で展開している中でも、特徴的な存在として近年注目を集めているのが、中高生世代を主たる対象とした児童館です。鈴木麟太郎はその先駆けである杉並区の青少年施設、「ゆう杉並」で勤務しています。彼が現場から目指すものとは──。

一冊の本からふと気づいた、児童館職員という道

▲日本初の中高生専門児童館「ゆう杉並」で勤務する鈴木

住宅街に突如現れる、おしゃれな外観の建物。地上2階・地下1階、コンクリート打ちっぱなし、まるで秘密基地のような施設には、ダンスやライブができるホール、ゲームコーナーにキッチン、さらには音楽スタジオまで!

あらゆる創造の意欲を刺激される、なんとも贅沢なこの施設こそ、日本初の中高生世代を対象とした児童館「ゆう杉並」です。

杉並区の青少年施設でありながら、その注目度の高さや施設の充実ぶりは、区外からの利用者を集客するほどです。来館者は実に年間55,000人にのぼり、多くの中高生たちが思い思いの時間を過ごしています。

鈴木麟太郎は2019年現在、ここで児童館職員として勤務し2年目になります。幼稚園教諭から現場でのキャリアをスタートさせ、乳幼児・小学生を対象にした児童館でも経験を積んできました。

「児童館職員になりたいって、中学生ぐらいから思っていました」と話す鈴木。それは、まさに自らが幼少期に、児童館を「もうひとつの居場所」として過ごしていたからです。

鈴木 「小学生の頃、東京都の大田区に住んでいて、家の近くにたまたま児童館があったんです。学校が終わって友達の家に行くこともあったけど、よく足が向いたのは児童館でした。
学校とは違ったコミュニティがあり、居心地が良くて──。そのまま中学生になっても通い続けていたのですが、ちょうどその当時、村上龍さんの書籍『13歳のハローワーク』が話題になりました。書籍の中には子どもと関わる仕事の紹介があって、『そうか、保育士や児童館職員も選択肢のひとつだな』と、仕事へのイメージを持てたんです。
児童館職員になるためには保育士の資格も必要なので、中学 3年の進路希望では保育士になりたいという希望を担任の先生に伝えていました」

難しいけど、おもしろい!思春期の子どもたちとの関わり

▲児童館では「遊び」を通じて子どもたち一人ひとりに寄り添う

高校の選択科目でも福祉を選び、大学では幼児教育や子育て支援を学ぶ日々。大学卒業後は、幼稚園教諭として勤務もしました。しかし、やはり児童館職員の道に進みたいと考えたのは、その対象年齢の広さに魅力とやりがいを感じたからでした。

鈴木 「いわゆる未就学児ならではの世界観や感覚に、おもしろみを覚えていました。その反面、児童館ならさらに幅広く18歳までを対象にできるんだって考えると、やっぱり児童館のほうに魅力を感じてしまったんです。幼稚園では教育を重視していましたが、児童館は子どもたちの『遊び』が活動の主体であり、個々の子どもに合った形での自己実現ができることにも可能性を感じました」

それから鈴木は職員として、いくつかの児童館で勤務をしました。児童館職員としての経験を踏まえて、あえて中高生世代を対象とする「ゆう杉並」でもキャリアを重ねたい、と考えたのです。しかし、思春期まっただ中の中高生たちとの触れ合いに、戸惑いはなかったのでしょうか。

鈴木 「中高生の洗礼、ありましたよ!ここにきてすぐのとき、館内ですれちがう子どもたちに『こんにちは!』って声をかけても、普通に無視されました。ある中学生の女の子はチラッとこっちを見てひと言、『生理的に無理なんで』って。ガツンとやられましたよね。でもその子とは結局、ほかの子たちよりも打ち解けて。いろいろと相談を持ちかけられ、信頼関係を築けるようになりました」

また、外国にルーツを持つ鈴木は、同じようなバックグラウンドを持つ子どもたちとの共通の話題を見い出し、関係性を深めることもありました。

鈴木 「そうやって、何かをきっかけにしてその子自身の個性が見えてくると、やっぱり乳幼児期とはできることの幅が桁違いで。遊びの中から子どもたちの可能性を見つけて、何かを達成するところまで立ち会えるのも、『ゆう杉並』の大きな魅力です。こちらが驚くほど、達成できることが幅広くレベルも高いんですよ」

さまざまな「連携」の力で困難は半分に、喜びは倍に

▲研修の場では児童館同士での職員の交流も

遊びや対話の中で子どもたちのやる気を引き出し、達成感を重ねていく──そんなポジティブな関わりがある一方で、貧困や虐待といった困難を抱える子どもたちに適切な対応をすることも、児童館の大切な役割です。

「ゆう杉並」は年間5万人を超える利用者が訪れる児童館ながら、職員間の密な情報共有や、スクールソーシャルワーカー(SSW)・児童相談所職員など、専門家との話し合いも定期的に行っています。これによって、危機的な状況にある子どもを見逃すことのない体制づくりを充実させているのです。

鈴木 「現実問題として、家庭に課題を持っている子どもやいわゆる不登校の状態にある子どもたちは、たくさんいます。それでも安心して関われるのは、スタッフ間のチームワークの良さのおかげ。私たちは広い施設内をいくつかの部門に分けて、グループで担当しています。気になる子どもたちの状況は、決して個人では抱え込まず全体で共有し、みんなでプランニングして対応にあたっています」

また、全国の児童館職員たちとの関わりも、職員としての学びを深められるのに加え、日々のやる気につながっています。

鈴木 「『児童館・児童クラブ大会』という、全国の児童館職員が研究協議、交流する催しが東京で行われたとき、運営に関わらせてもらったんです。これをきっかけに、かなり横のつながりができて──。そのおかげで、自分の施設にいるだけでは知ることのできない各地の状況も見聞きすることができるようになりました。
それだけじゃなく、児童館職員の有志でキャンプをする『あそぼ〜会』っていうのも、細々と続けているんですよ。共通点は『遊びが好きな児童館関係者』というだけ。お互いの苦労も楽しさもわかっているメンバーと、ここでも『遊び』を通してリフレッシュできるのは、自分にとっても大切な時間です」

児童館をハブに、子どもたちの居場所を広げたい

▲中高生の企画でドーナツづくりのイベントが実現
鈴木 「最近もね、すてきな男の子がひとりいるんですよ。最初は、音楽スタジオでドラムをやる様子だけを見てたけど、話をしているうちにドーナツづくりも趣味ということがわかって。『じゃあ、料理教室やってよ』ってお願いして、地下のキッチンでドーナツづくりイベントが実現したんです。
あまり学校には行けていなかった子で、最初は照れ臭そうにしていたけど、やっぱりやってみたら嬉しそうで。そうやって、子どもの輝くものを見つけてイベントにまで結びつけるって、学校ではなかなかできないことですよね」

子どもたちの冒険をそっと見守り、何かあったときに手を差し伸べる大人でありたい。もっとおもしろいイベントを企画して、今までここに来たことのない子も集まってほしい。まだまだ地域では「何かいたずらするのではないか」「集団でいると怖い」と思われがちな思春期の子どもたちだからこそ、地域との交流イベントを大切にして、子どもたちの魅力を伝えたい。途切れることなく子どもたちへの、児童館への想いが溢れる彼の、理想の「これから」は──。

鈴木 「まず、僕自身の理想は、児童館の対象年齢である 0歳から 18歳の子どもたちに関するゼネラリスト(広い知識や能力を持つ人)になりたいんです。その上で、この児童館をハブにして地域と連携し、もっと子どもたちに『居場所』の選択肢を広げられる社会にしたいです。
今の子どもたちは、抱えている状況も多様なのに、地域の中でお金を払わずに “居られる “場所が、あまりにも少ないですよね。プレイパークや放課後の居場所としてはもちろん、商店街などにも、もっと子どもたちが安心していられる場所があれば、きっとそれは子どもたちにとって豊かな世の中であるはずです」

児童館という居場所があったことで、かつて自分自身がたくさん助けられたように、「安心していられる場所」や、「顔を見るだけでホッとできる大人」を、地域にもっと広げるべきだと、鈴木は考えています。そしてそのような場所や大人は、周りの環境で広げられるはず。それは鈴木がこれまでの児童館職員としての日々で見いだしてきた、子どもたちのニーズであり、地域の可能性でもあります。

「だから僕、できるだけ早く、児童館館長になりたいんです」

子どもたちを想うそのまっすぐなまなざしは、この先の児童館の行くべき道をしっかりと見据えています。

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