「落とし物って何だっけ?」 社会に新しい当たり前を作っていく

「MAMORIO増木さんに初めてお会いしたとき、『すごい人だ』と思ったのを覚えています」、株式会社54の代表山口豪志は当時をそう振り返ります。MAMORIOは「なくすを、なくす」をビジョンに掲げた、落とし物に特化したスタートアップ企業。山口が顧問を務めるMAMORIOが目指すゴール、起業のポイントとは?
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会社の価値は目に見えない、どうすれば価値を感じて貰えるか

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MAMORIO代表 増木大己さん
増木さんは、大学卒業後、ベンチャーキャピタルへの就職を希望。VC企業をグループに持つ、大手ホールディングスへ入社しました。

証券会社に配属され、企業の株式上場のサポートを行うほか、主幹事先を見つける仕事を担当。会社の価値、成り立ち、意義を見てきたことで、自分自身でも「想い」をカタチにしてみようと考え、起業を考えたそうです。

増木「高校生の頃、テレビにITベンチャーの社長がよく出ていました。何もないところから価値を生み出すのを凄いと感じたんです。『地方にいてもダメだ』と考え、東京の大学に進学。有名なITベンチャーでインターンも経験しました。その中で、会社を成長させていく人たちを間近で見て、自分でもゼロから価値を生み出す、成長させてみたい、と考えてVCを希望したんです」
証券会社での大きな気づきは「会社の価値は目に見えない」ということ。人、文化、仕組みが“株”というカタチで初めて会社の価値として見えてくる。それに気づいてから、増木さんは「何もないところから価値を生み出す」に加えて、「どうすれば価値があると感じてもらえるか」も考えるようになりました。

“落とし物”に新たな価値を見いだしたのも、そんな想いから。

増木「『“明らかに”役に立つことをしよう』と考えていました。あるとき、会社の先輩がiPadを落としたんです。証券会社は仕事に関わるデジタル機器などもきっちり金融庁に報告をしなくてはならず、先輩はかなり不安がっていました。でもそれは、普段の生活でも同じこと。旅行中にカメラを無くしたら、買い物中に財布を落としたら……。だったら、『もしかしたら見つかるかもしれない』そんな空気を作ってあげることは『“明らかに”役に立つこと』だと思ったんです」
2012年にTwitterを活用したソーシャル落とし物捜しポータルサイト「落とし物.com」を開設。飲食店を探すときに食べログやぐるなびを見る感覚で、落とし物を捜すときに思い浮かべてもらえるように考えたそうです。しかし、起業してサービスを作る上で壁にも阻まれた……株式会社54 代表の山口が増木さんと出会ったとのは、ちょうどその頃でした。

意外な壁「上司がいない」を解消するには

増木「起業したばかりで、『10時出社にするのは良いことなのか』、『ユーザーへの対応は正しいのか』など、ちょっとしたことでもアドバイスをくれる人がいない。そんな“壁”に当たっていたんです」
当時、増木さんはポータルサイトの運営から、受託開発、資金調達などを少数精鋭で行っていました。「少人数だからこそ自分たちで判断し、決めなければならない」、増木さんは“上司”や”同僚”の存在がいかに重要だったのかを痛感したそうです。

メンターや活躍してきた人に力を貸してもらえないか…増木さんはそう考え、さまざまなかたにお会いしたそうです。しかし、「良いメンターに出会うことは簡単ではなかった」と言います。

社名を「株式会社落とし物ドットコム」にしたのは、世の中のトレンドに乗って、事業を変える=逃げないため。社名は一番のキャッチコピーでありメッセージ。『株式会社落とし物ドットコム』だから、落とし物以外のビジネスでは違和感が出る。敢えて背水の陣を敷いたものの、利益を優先され想いを理解されないこともありました。

増木「無償でメンターを受けてくれたかたが想いを理解してくれることもありました。しかし、『こんな簡単なことで相談してもいいのか…』『お忙しいかもしれない…』と遠慮してしまったんです」
山口と増木さんは共通の友人を介して知り合いました。山口と会ったとき、「すぐに想いを理解してくれた」と増木さんは言います。スタートアップ企業で活躍し、 “社外”を知っている人間が“顧問”として参加。山口は、上司のように道を示してくれ、同僚のように助け合える存在になってくれたそうです。

増木「儒学者、佐藤一斎がこんな一言を残しています。『一灯をさげて暗夜を行く。暗夜を憂うなかれ、一灯を頼め』、暗いことに嘆くのではなく、自分が持ってい る一灯を信じて前に進め、という意味。敢えて背水の陣で起業したことにも通 じるのですが、中に入って一緒に一灯を信じてくれる“社外”の人に力を借りることも大事ですね」

究極的には「落とし物のことを忘れてほしい」

2016年、スマートフォンと連動した落とし物追跡タグ「MAMORIO」の販売を開始。合わせて社名も「MAMORIO株式会社」に変更しました。SDカードの大きさで、財布に入れておくことやカバンに取り付けておくこともできます。

一定の距離が離れればスマートフォンに「離れていますよ」とアラートが飛んでくる。そして、もし紛失してしまった場合も、紛失物の近くを通った人のスマートフォンから情報が飛んで場所が推定できる仕組み。こうした仕組みを使って、スマートフォンを探し出すアプリなどが登場しています。

しかし、MAMORIOはもっとユーザー視点に立った「表記」を目指して開発を進めています。たとえば、落とした鍵を探すとき「○○区○○町1-11-10にあります」と教えてくれるのでも十分ですが、もっと身近に「山口さんが持っています」「マクドナルド○○店にあります」など、すぐに「あそこか!」と思いつくように伝えたい。増木さんはそう語っています。

増木「“いま”コンビニやスマートフォン、宅配便がなかった時代を思い出すことは難しいですよね。同じようにMAMORIOがなかった時代をみなさんが思い出せない時代を作りたい。究極的に言えば、『落とし物って何?』と言ってもらえるような時代を作りたいと考えています」
増木さんは起業してから“いま”でも常に「“明らかに”役に立つこと」を目指しています。目の前の1万円2万円は稼げないかもしれない。しかし、「“明らかに”役に立つことを」を目指して、お金では換算できないほどの価値、時代を作りたい。

増木「Internet of Things(IoT)が進めば、モノはどんどん人の生活に溶け込んでいきます。その中で、『あれはどこにあったっけ?』と思ったときにすぐ場所がわかるよう『モノの場所がわかるプラットフォーム』を作っていきたいと考えています」

一緒に企業を育ててくれる心強い顧問

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増木さんと山口
山口「増木さんに初めてお会いしたとき、『すごい人だ』と思いました。落とし物に特化したビジネスをやっているのに、『落とし物がない社会』を目指している。ここがすごい!」
MAMORIOのユーザーが増え自分たちの価値が高まるごとに、落とし物が当たり前じゃなくなっていく。起業すること、社会に必要と思ってもらうことに止まらず、新しい当たり前を作っていく。

こうした軸を持っている反面で、時代や状況に合わせて変化もできる。もし上手くいかない理由があるとしたら、「僕が埋めていきたい」、そう山口は言います。

現在は、月一回ミーティングを行って、増木さんといろいろ意見を出し合って事業を作るほか、朝会や合宿に出席し、スピーチなどを行っています。

増木「山口さんは見ている視点が大きいんです。短期的な利益ではなく、大きな“価値”を臨んで力を貸してくれます。そんな山口さんが関わってから会社の時価総額が10倍以上に伸び、成長も実感できるようになりました。一緒にMAMORIOを育ててくれる、心強い社員のような顧問だと思っています」
MAMORIOに新しく参加したメンバーとも触れ、一緒にMAMORIOを育てていくメンバーになってもらおうと山口は奔走しています。

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