いざ、イノヴェーションの熱狂地へ。国を挙げた支援が世界基準のベンチャーを生む

“イノヴェーションの熱狂地”。恐らく、多くの人がシリコンバレーを思い浮かべるでしょう。さらに、中国でもイノヴェーション型国家に向けた経済成長がはじまっています。世界の流れが変わるなか、日本の存在感を世界に示したい——。そこで立ち上がったのが、経済産業省主催の「飛躍 Next Enterprise」です。
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国を挙げてベンチャー企業の海外展開を後押しする理由

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▲2017年8月3日に行われた「飛躍」事業の募集説明会

「飛躍 Next Enterprise」(以下、「飛躍」)の正式名称は「グローバル・ベンチャー・エコシステム連携強化事業」。この事業は、世界に通用する新たな事業の立ち上げを目的に、経済産業省が主催する「シリコンバレーと日本の架け橋プロジェクト」の一環として、2015年から行われています。

この事業の対象となるのは、高い技術力や優れたアイデアを持ち、かつ世界を舞台に自社の事業を展開したいと考えているベンチャー企業です。シリコンバレーをはじめとする世界各国のイノヴェーションの中心都市にこうした企業を派遣して、企業が現地での足がかりを得られるようにサポートします。(飛躍 Next Enterprise への応募ご案内 https://www.hiyaku.go.jp/

政府がこのような取り組みを行う背景は——。

経済産業省新規産業室 石井芳明
「これには3つのことが関係しています。まずは当プロジェクトに参加される企業の成長を促進すること。次に、海外へ日本の存在感を示していくこと。最後に、ベンチャーや起業家たちの成功のビジネスモデルを作っていきたいということです」

ベンチャー企業の成長が促されれば、イノヴェーションや雇用が生まれ、国の豊かさにつながります。国内だけでなく、海外市場にも目を向けることにより、さらに早く大きな成長が見込めるのです。

2017年現在、ネットビジネスのプラットフォームという点において、日本は遅れを取っています。しかし、ビッグデータ、IoT、人工知能など第4次産業革命が起きつつあるなかで、日本は海外から注目を浴びているのです。そこで重要なのが、日本の技術やビジネスモデルを海外に示していくこと。

国内では、“起業”に関心のある人はわずか3割。チャレンジしようと思えばできる土壌が整備されていても、人気就職企業のランキングは昔も今も大企業で占められています。そこで、ベンチャー企業の成功モデルを多く生み出すことで、若い人たちの起業に対する興味や、チャレンジする意欲を育んでいこうと、飛躍がスタート。
2017年8月3日に、グローバル展開を考えるベンチャー企業を対象に、説明会を開催しました。

現地でしかわからない熱量を体験し、政府の後押しで力強く前進

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▲2016年度「飛躍」事業に参加した3名とTVS大野氏によるパネルディスカッション

2017年8月現在、「飛躍」を通して世界のイノヴェーション都市に派遣された企業の数は73社です。

今回の説明会では、2016年度の事業に参加した3人の事業者と、2016年度から事務局として事業に携わっているトーマツベンチャーサポート株式会社(以下、TVS)が登壇。派遣先で得られた知見や、「飛躍」のメリットについてパネルディスカッションが行われました。

1人目はシリコンバレーに派遣された宮川聡氏。宮川氏が海外事業統括マネジャーをつとめるライフイズテック株式会社は、教育系テック事業のなかでも、特に経済的な豊かさや地域によって生まれてしまう教育格差の課題に取り組んでいます。

宮川氏は、かねてから、数々のイノヴェーションが生まれているシリコンバレーに行きたいと考えていました。

ライフイズテック株式会社 宮川聡氏
「実際に行くことで成功や失敗の具体例を聞けました。また現地で10社のベンチャーキャピタルと接触でき、熱量を知ることもできたんです。繰り返しピッチする場を与えられたことで良いプレゼンができるようになったのもメリットだと考えています。

ただ、気をつけないといけないのは、行くと決めたら、しっかりとした目的を持って臨むこと。日本のベンチャーで海外にチャレンジしているところは少ないので、向こうで注目されるチャンスなのではないかと思います」

2人目の塩飽哲生氏は、“全人類の寿命を1秒伸ばしたい”をモットーに掲げ、病院選びのサポートなどのヘルスケア事業を手がける、リーズンホワイ株式会社の代表取締役。シンガポールに派遣されました。

「飛躍」のメリットは、現地におもむく前に受けられる「レクチャー」にあると話します。

リーズンホワイ株式会社 塩飽哲生氏
「派遣先がどういう経済圏なのか、国としてどのような課題があるのかを現地の講師から聞くことができ、それを頭に入れたうえでシンガポールという国を見られます。また、国という後ろ盾があったおかげで、アポイントメントの確度が高かったこともメリットですね。

ビジネスでもそのほかのことでも、なにかいいことができるときは、いい人同士がつながるとき。海外には皆さんにとって未知のいい人がたくさんいるので、ぜひチャレンジしてほしいです」

3人目は、株式会社QDレーザで事業開発マネジャーを務めている宮内洋宜氏。QDレーザでは、ロービジョンと呼ばれる視覚障害の人に特に有効な、網膜に直接映像を映すウェアラブルデバイス=レーザーウェアを開発しています。宮内氏が派遣されたのは、アメリカ・テキサス州のオースティン。現地で行われたスタートアップ企業向けのイベントに出展しました。

株式会社QDレーザ 宮内洋宜氏
「(新興企業のイベント)サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)の会場内で最も良い場所に立派なブースを用意していただき、そこで展示することができました。1日に150〜200人ほどにデモ展示を行えたんです。商談こそまとまりませんでしたが、ネットワークを作ることができました。」

さらに、「飛躍」が政府主導の事業だからこそ、受けられた恩恵も。

株式会社QDレーザ 宮内洋宜氏
「現地にいきなり行って人間関係を築こうとするとかなり難しいと思いますが、国の枠組みということで出展したため、メディアに取り上げてもらいやすく、おかげで、そこでできたつながりが強くなる、という経験を得られました。このような海外進出のお膳立てをしてもらえるという政府主導のプロジェクト、使わない手はないと思いますよ」

さまざまな日本企業の海外展開を支援しているTVS大野祐生氏によると、グローバル展開を進めるにあたっての一番のボトルネックは、知識やノウハウ、人脈がないにも関わらず、“手探り”で進めてしまうことだといいます。

そのなかで「飛躍」は、プログラムを通して海外展開に必要な情報やきっかけをつかむ一歩となるのです。

トーマツベンチャーサポート 大野祐生氏
「『飛躍』の良いところは、事業が終わったあとも、海外展開を目指す日本企業が集まるコミュニティの一員として繋がり続けることができる点です。継続して海外展開を行う体制に参画できることが、海外展開を目指す企業が『飛躍』に参加する一番のメリットだといえますね」

グローバル市場の傾向を知る——世界で起きている“価値観の変化”

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▲リブライト・パートナーズ株式会社の蛯原健氏がスカイプにて講演

海外に目を向け、事業を展開していくためには、グローバル市場の傾向を知らなければいけません。

そこで、東南アジアのITスタートアップへ投資を行うリブライト・パートナーズ株式会社 代表パートナーの蛯原健氏が登場。投資家の観点から、グローバル市場で生じているテクノロジー界隈のトレンドや、企業の海外展開の実態と注意点について、シンガポールからスカイプを通して講演していただきました。

蛯原氏は、2017年現在、グローバル市場では、“7つのパラダイムシフト(価値観の変化)”が起きていると話します。

1.キャピタリズムからテックイズムへ
2017年現在、企業の規模を表す時価総額の上位にあるのは、製造業ではなくテクノロジー系の企業。そのテック系企業内では、下克上がありつつも、大きいところはより大きく成長しています。つまり、テクノロジーが世界をけん引しているのです。

2.競争の時代から独占・寡占の時代へ
Apple、Microsoft、Amazonなど世界Top10に入る企業の時価総額は、ほぼ日本のGDPと同じ規模(500兆円)。このデータからわかる通り、それぞれの領域で、力のある企業による“市場の寡占”が進んでいます。

3.インターネットの内側から外側へ
2008年、FacebookやLinkedInなど、インターネット内で完結するサービスを提供する企業が、未上場企業の時価総額ランキング世界Top10に名を連ねていました。

しかし、2017年現在、UberやAirbnbなど、インターネット上にとどまらないサービスを展開する企業が、ランキングの半数を占めています。イノヴェーションはインターネットの外で起きているのです。そこに含まれるロボティクスやIoTなどの分野は、日本の強みを活かしやすいでしょう。

4.アメリカからアジアへ
未上場企業の時価総額ランキング世界Top10のうち、6社がアジア企業。また、長期的なテクノロジートレンドを見るうえで重要な指標になる科学研究費も、中国がアメリカに肉薄する勢いで2位につけている状況です。

5.Leapfrog(飛び級)
先進国の決済方法は、現金、クレジットカード、電子マネーの順で移り変わってきました。しかし、中国やインドでは、クレジットカードを経ずにいきなり現金から電子マネーへと飛躍しています。その理由は、銀行口座を持っていない人が多いから。中国で電子マネーの決済額は、約150兆円にまでのぼっています。

6.製造は地産地消へ
2017年現在の自動車生産台数世界一は中国。インドも5位につけています。これは、労働コストの低価格競争を行っているからではなく、中国やインドでの自動車の利用者が増えたため。つまり“地産地消”へとシフトしているということです。

7.集中から分散へ
マーケットはアジア寄りにシフトしている一方で、AI、IoTなどのテクノロジーに関しては、世界各地へ分散傾向にあります。AI系スタートアップ企業の買収やAIサイエンティストの採用などは、アジア以外にもイギリスやカナダでも起きており、どこかに偏っているわけではないのです。

こうしたなか、グローバル展開で求められるのは、(1)海外での市場を獲得すること、(2)製造・調達拠点を国内も含め展開していくこと、(3)現地の人材を獲得することだと蛯原氏はいいます。

そして、ベンチャー企業がグローバル展開をするうえで気をつけなければいけないこと。それは、“現地への理解を深めること”です。

蛯原氏 「現地の財閥をパートナーとして紹介してもらえないか、と尋ねられることがあるのですが、財閥とのジョイントは99%が失敗するんです。それは、現地で“スタートする”という気概がないからではないか、と考えています。日本とは異なる現地のインフラをよく理解したうえで、その土壌に合わせた成長を現地の人達と一緒にしていく——そういう事業設計を立てていただきたいですね」

世界を目指し“飛躍”するための一歩を踏み出す

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▲2016年度「飛躍」事業に参加したメンバー

海外進出したいベンチャー企業にとって魅力の多い「飛躍」プロジェクト。その概要や募集要項についてお伝えします。

応募できるのは3つのグループ、5つのエリアからひとつ。事業内容によって、コースを選んでいただきます。

1つ目のグループはシリコンバレーまたはシンガポールエリアの2つ。現地との事業提携や進出を模索することが目的です。プログラムは法規制や商慣習に関する知見の修得、現地キープレーヤーとの人脈構築、現地企業やベンチャーキャピタルとの商談・プレゼンとなっています。推奨業種はIoTと医療関連となりますが、推奨テーマとは異なる事業領域のベンチャー企業も応募可能です。

2つ目のグループはヘルシンキ・ベルリンまたはオースティンの2つのエリアから選びます。現地でのフィードバック獲得が目的で、サービス、ソフトウェア、ハードウェア系を手がけるベンチャー企業向け。SLUSHやDisrupt Berlin、SXSWといった、現地で開催されるスタートアップイベントへの出展や視察のほか、現地キープレーヤーとの人脈構築をしていただきます。

3つ目のグループはイスラエルに派遣されます。このコースでは、スタートアップネイションと評されるほど国家全体を巻き込んだエコシステムを体感。また、企業や研究機関などを訪問し、イノヴェーションを創出するノウハウを交換できます。イスラエル政府が世界各地からさまざまな人材を招き、同国の魅力を感じてもらうことを目的に行っている「ヤング・リーダーズ・プログラム」に参加していただきます。

応募資格は、(1)企業の意思決定権を持つ人、(2)海外展開のための技術・製品・サービスを持っていること、(3)国内に活動拠点があること、(4)英語対応ができること(本人ができなくても、対応できる職員1名の随行が可能)、(5)海外展開を継続的に行える組織体制が整っていること、(6)派遣ご報告会を含めプログラム日程のすべてに参加できること、(7)希望する派遣先が過去の本事業で派遣された都市と同じでないことです。

2016年度は202社からの応募があり、55社が採択、4つのエリアに派遣されました。今年度は5エリアに52社を派遣。少しでも、海外市場に進出したいという思いがあるのであれば、ぜひチャレンジしていただきたいと考えています。

このプロジェクトを通して得られた知見、経験、そして人とのつながりは、きっと皆さんの大切な財産として残っていくことでしょう。

【飛躍 Next Enterpriseへの応募ご案内】
https://www.hiyaku.go.jp/

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