身近な人の話にこそ、おもしろさが眠っている。100人カイギでつながるゆるやかな絆

同じ地域で働く人同士の自然なつながりを生み出すことを目的に発足した「100人カイギ」。ルールは、毎回5人のゲストに登壇してもらい、ゲストが100人(20回)に達した時点で解散すること。イベントとしては少し珍しいコンセプトに込められた思いを、INTO THE FABRIC代表理事の高嶋大介が語ります。
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身近な人たちが持っている“実は価値のある話”を届けたかった

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▲INTO THE FABRIC代表理事の高嶋大介

2016年1月、僕は東京・港区で100人カイギを立ち上げました。

100人カイギとは、毎回5人のゲストを招いて、その人が普段取り組んでいることを話してもらうミートアップです。

登壇者は、有名な人ではなく、隣の席や前の席で働いているような身近な印象をもつ人たち。名刺交換タイムやQ&Aなども設けず、気が向いたらふらっと来て「あの人の話はおもしろかったな」と、表情を緩めながら帰ってくれればそれで十分だと感じています。

僕がなぜ、この100人カイギを立ち上げたのか。そのきっかけは、ふたつあります。

ひとつは、人の話を聞くのが好きだったこと。100人カイギを立ち上げる前から、働いている会社の休憩時間を利用して、「ランチタイムに、会いたかった人と過ごす」ことをしていました。

そうして憧れの人や面白いコンテンツを持っている人たちと昼食をともにしているうちに、「こんなに価値のある話を、自分だけが聞くのはもったいない」と思うようになったんです。

もうひとつは、仕事を通じて知り合った港区の職員の方から「一緒に何かやりましょう」と声をかけてもらったこと。

当時、僕は港区で働いていましたし、かつて住んでいたこともありました。そこで、麻布や六本木などのエリアについて調べてみたところ、日中の人口が夜間の3.7倍にもなることがわかったんです。

しかしそれほど人がいても、実際に知り合う人はごくわずかなのではないでしょうか。自身に置き換えても同じ部門に属している200名ほどの社員のなかでさえ、まったく話したことがない人もいます。勤務先と同じビルに入っている他の会社に至っては、エレベーターで一緒になってもあいさつさえ交わしたこともありません。

だから、そんな「身近にいるけれども、まったく知らない人」のことを知るためのイベントを開くことにしました。

目の前にいる人のことを少し知ろうとするだけでも、関係性やそこで働く意味が変わってくると思ったんです。

大人数の場が苦手でも、安心して交流できる場をつくりたい

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▲運営者によるミーティングの様子。ふたつのルールを決め、“ゆるい場づくり”をコンセプトにした

イベントの立ち上げを決めた僕は、まずふたつのルールを設定しました。

ひとつはゲストを5人ずつ招いて、20回目で解散すること。もうひとつは、ゆるいつながりを大切にすること。

20回で解散する理由は、イベントを長い間続けてしまうと「続けること」そのものが目的になってしまうと思ったから。参加者にとって価値のある話を届けることではなく、継続させることを目指してしまうなら当初の目的から外れてしまいます。

それに、自分の性格を考えても、終わりを設定したうえで各回を充実させることで、飽きることなく走りきれると思ったんです。

そして、“ゆるいつながり”を大切にした理由。それは、僕自身がいわゆるイケイケのミートアップが苦手だったからです。

僕は人と会うことそのものは好きなんですが、大人数での勉強会などの“暗黙の了解”が苦手で……。開始前や休憩中に、たまたま隣に座った人と雑談をして仲良くならないといけないような雰囲気もそうですし、本編が終わったあとに、登壇者の前に名刺交換をしたい人の列ができますよね?あの並んでいる時間が、いたたまれなくて好きではないんです。

だから100人カイギでは、気まずい隙間ができるような時間をつくらないことにしました。方法としては、席が隣になった人とは自然と仲良くなれるように、ゲストのトークがはじまる前にお互いの自己紹介やグループワークのための時間を設けています。

運営側が交流する場をつくることで、自主的に動くことが苦手な人でも、スムーズに周囲と打ち解けることができるはずです。こうしてトークがはじまる前には連帯感が生まれて、登壇者を温かく迎える雰囲気づくりに一役買うと考えています。

参加者の話を聞いたことで、何かが少しでも変わってくれていたらいい。そんな意識が高すぎない人の集う、ゆるい場所をつくりたいーーその気持ちを抱いて、少しずつ改良を重ねていきました。

プロジェクト解散の時に、一番の可能性を感じた

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▲港区100人カイギ 最終回の様子。全20回で、684人が参加してくれた

とはいえ、僕自身イベントの運営をしたことがありませんでしたし、スタッフも全員、イベント経験が少ない人ばかり。決して、最初からうまく行ったわけではありませんでした。

経験がない中で、特に困ったのは集客。ノウハウがなかったため、5人のゲストに対して参加者が10人しか集まらなかったこともありました。

この時にはせっかく事前に準備をしてきてくれた登壇者に申し訳なく、イベントのあいだじゅう心の中で謝り続けていました。忘れもしない、4回目の開催で起きたことです。

それまではSNSを通じて知り合いに来てもらえるように頼んだり、登壇者のつながりで集客ができたりと“綱渡りの状態”でした。だから、このタイミングで起こるべくして起きたアクシデントだったんです。

続く5回目、6回目も12人しか集まらず運営側としては情けなさでいっぱいでした。しかし、続けるからには何か手を打たなければいけません。

そこで他の団体とのコラボ企画を実施することにしました。すると来場者は、いきなり61人に跳ね上がったんです。

そして2017年8月、港区の100人カイギは最初の予告通り、20回目をもって解散しました。最終回が迫るにしたがって「もっと続けてほしい」「せっかく軌道に乗ったのだから、辞めなくても」と惜しむ声がたくさんありました。

でも、終わりを決めずに続けていたら、続けることが目標になってしまう日が来るはずです。当初の目的だった“ゆるい場づくり”を一番大切にするためにも、すっぱり解散することにしました。

単発プロジェクトから社団法人、そして未来へ

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▲神奈川県相模原市で行なわれた「さがみはら 100人カイギ」の様子。港区以外にも首都圏などで広がりを見せている

港区で100人カイギを続けていた時、ひとつの疑問が湧きました。それは、「100人カイギは、同じプログラムで行なえばどの地域でも成立させることができるのか」ということ。

そこで社会実験をするつもりで、渋谷で運営者をつのって「渋谷区100人カイギ」をはじめました。すると、港区でしていたのと同じプログラムで同じように成功させることができたんです。

その頃には“100人カイギ”の名前が浸透してきていたので、相模原や横浜でも同じように開催したいと主催を希望する人の手があがるようになりました。

そうして港区からさまざまな地域へ広がっていくところを見て、単発プロジェクトで終えるつもりだった100人カイギを今後も育てていこうと決めました。

これから広げていくためにも、個人だとすべてをサポートしきれないーーそこで、組織として見守ることを決意。2017年に「場づくりで人を変えよう」と、一般社団法人を立ち上げました。

法人名のINTO THE FABRICは、コットン製品などのファブリックが縦糸と横糸で構成されているように、人が集まって支えあっていく姿をあらわしたものです。

100人カイギの面白いところは、プログラムで枠そのものは決まっていてもその土地ごとにまったく違ったカラーになること。

相模原はとくにアットホームな場所で、SNSでイベントの告知をしていたら当日になって運営者のお父さんが来てくれたことや、登壇者の同級生が20人来てくれたこともあったそうです。

地方では、会場で出会った人たちで新しいプロジェクトの話が生まれるなどもしていて、今後ますます可能性が広がっていきそうです。

僕自身が会社に勤務しながらINTO THE FABRICの代表をしているので、企業だからこそできることと、企業の息苦しさの両方を知っています。自分で起こしたベンチャーであれば、100人カイギ初期のように失敗があっても挽回できるけれど、大きな企業ではそうはいきません。

100人カイギの運営に関わる人には、会社にいたら自分の所属している場所では体験できない経験を提供していきたいですし、参加してくれる人にも会社と家の往復では得られないモノを感じてほしい。

それぞれの人が自分を成長させる場として、今後も100人カイギが育っていってくれたらうれしいですね。

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