日本のスタートアップを官×民で集中支援。「J-Startup」が創るイノベーションのエコシステム

日本のベンチャーエコシステムを強化し、世界に新しい価値を提供する。そのために経済産業省やJETROなどの政府機関と民間企業が手を取り「J-Startup」がスタートしました。スタートアップサポートの当事者たちが積み重ねてきた経験や反省が込められたJ-Startupの進化と全容をお伝えします。

スピード・スケーラビリティへの“意識”が生む、日本とシリコンバレーの差

▲JETRO サンフランシスコ事務所の樽谷とアクセラレーターのAlfredo Coppola氏

世界で戦い勝てる企業をつくり、世界に新しい革新を提供するーー。そうしたビジョンのもと、J-Startupは2018年6月にスタートしました。政府関係機関であるMETI、NEDO、そしてJETROが事務局を担い、民間企業などにより構成されるサポーターとともにスタートアップをサポートします。

このうちJETROにおいて、2001年の入構以来、ハイテクベンチャーの対米進出サポートに従事しているのが樽谷範哉です。2017年以降、サンフランシスコ事務所の次長を務める彼は、長年にわたるスタートアップサポートの経験から、日本とシリコンバレーの違いをこのように考えています。

樽谷 「最も大きな違いは、『スピード』と『スケーラビリティ』の2点です。シリコンバレーでは、先駆者利益を得るためにも即断即決が徹底されています。スケーラビリティについても、Uberのように起業当初から世界にビジネスを広げることを目指している企業が多い。この2点の意識の差は大きいですね」

さらに樽谷は、スタートアップの創業メンバーの構成にも注目しています。世界にスケールするビジネスを生み出すためには、チームに国籍や人種、キャラクターの違う人間が加わり、予定調和が起こらないように、意見をぶつけ合うことが大事なのです。

樽谷 「色々なタイプの人が入っていると、ビジネスを立ち上げるときの議論が深まるんですよね。『この製品はこうした方が世界に売れるよ』という話をチームでできると、マーケットへの広がり方がまったく変わってくるはずです」

一方、JETRO本部でイノベーション促進課に所属する田中井将人も、スタートアップを取り巻く環境を見てきました。彼にも、日本のベンチャーエコシステムを世界につなげ、より活性化させるために欠かせないと考えているものがあります。それが、「シリアルアントレプレナー」です。

田中井 「シリコンバレーでは、成長させた企業をM&Aで売却し、また新しく会社をつくるということを何度も繰り返している起業家が少なからずいます。そういったシリアルアントレプレナーが日本に増えれば、起業数そのものはもちろん、起業家の知見もうまく循環していくはずです」

私たちはこうした現状の課題をJ-Startupにより解決していきたいと考えています。今後、少子高齢化を受け、ますます縮小することが予想される日本市場。しかも諸外国のグローバル企業が進出してくる機会も増えゆくなか、日本にベンチャーエコシステムをつくることは急務なのです。

「どんな課題を解決するのか」を語ることが、スタートアップの未来を拓く

▲シリコンバレーより招へいしたアクセラレーターによるBoot Camp(2012年開始)

「スタートアップの聖地はどこか?」と問われれば、それは今も変わらずシリコンバレーでしょう。しかし、JETROにおいて約20年にわたりベンチャーサポートに関わってきた樽谷が出した結論は、「日本のベンチャーをシリコンバレーにそのまま行かせてもうまくいかない」というものでした。

樽谷 「JETROでは2000年頃にシリコンバレーにインキュベーションセンターをつくり、現地のエコシステムに日本のスタートアップを参入させようとしていました。
ところが、先ほどお話したスピードやスケーラビリティへの意識の差もあり、なかなかうまくいかず……。やっぱり、いきなりではなく日本でしっかりシリコンバレーの考え方を理解してから来てもらった方が効率的ではないかと思いました」

そこでJETROが2012年に新たにスタートしたのが、日本国内において1週間程度の期間を設けて実施した「Boot Camp」。マインドセットの面からスタートアップをトレーニングするというものでした。

樽谷 「Boot Campの一番のポイントは、『参加するスタートアップのビジネスモデルを理解した私たちがプログラムを構築することで、Boot Camp後に一人ひとりに合ったメンターをつけることができた点』にあると思っています。
JETROのもつ100人以上のネットワークからメンターをマッチングしていました。このメンターを通じて、GoogleやAmazon、Adobe Systemsといった企業や、現地のベンチャーキャピタルとアポを取ることに成功した人も出てきていますね」

Boot Campの具体的な成果として、樽谷は「ピッチのレベルが上がった」ことを挙げます。もう二度とないかもしれない取引先とのアポを、その後の協業や取引につなげていくことができるようになってきました。

樽谷 「大切なのは、『自分のビジネスモデルでどんな課題を解決できるのか』についてきちんと語れることです。日本企業はつい技術的な優位性ばかりを語りがちですが、それよりも、『相手にとってのメリット』を伝え、さらには『相手に求めるもの』をはっきりと示す必要があるんですよね」

樽谷がこれまでシリコンバレーで感じてきた「スタートアップこそが世界を変えられる」といった感覚は、日本にも共有されています。

これをJETRO本部において引き継いだのが、イノベーション促進課の田中井でした。

「スタートアップが未来の日本を支える」という確信が、パッションを生んだ

▲JETRO本部のイノベーション促進課でJ-Startupを担当している田中井将人(右)と同期の伊藤吉彦(左)

日本国内からスタートアップの活躍をサポートしているJETRO本部のイノベーション促進課。ここで田中井は、業務にSNSを取り入れるなどの新規的な施策を打ちながら、業務規模を拡大し続けています。

田中井 「配属された当初のメンバーは5人でしたが、サポート事業を増やし続けてきたことで、今は3倍程度の人数で動くようになりました。私自身、グローバルに展開するうえでのお手伝いを続けてきたことで、お会いしたことのある企業は2016年の配属以来150社を超えました」

田中井は、スタートアップの背中を押すだけではなく、ときには、個々の企業の状況や環境を考慮して、「まだ今はそのときではない」と意見を伝えることもあります。それは、スタートアップに可能性を感じ、必ず成功してもらいたいとの思いがあるからです。

田中井 「イノベーション促進課に来るまでは、スタートアップと接する機会はほとんどなかったんです。でも、今は起業家の方たちこそが、将来的に日本を支えていく人になると確信しています。」

このように、国内からのサポートも強化してきたJETRO。2018年、さらに新たなサポートをはじめました。それは、長年にわたり日本の貿易促進や対日直接投資を促進してきたJETROが持つグローバルなネットワークを活かしたものです。

田中井 「海外の10カ所以上に『グローバル・アクセラレーション・ハブ』という拠点を新たに置きました。ここでは、現地のキーパーソンを紹介したり、ビジネスをローカライズするためのサポートをしたりすることで、世界中にあるそれぞれのエコシステムのなかに入りやすくします」

JETROによるスタートアップサポートは、日本やシリコンバレーを越えて、世界展開をはじめました。ここでさらに求められるのは、官民による集中支援です。そのためのプロジェクトであるJ-Startupについて、説明しましょう。

見据えるのは2023年。異次元のペースでスタートアップを成長させるため

▲2018年Tech in Asia Singaporeでのジャパンパビリオンブース

J-Startupは、審査を経て選ばれた企業をJ-Startup企業として認定しており、その数は2018年7月現在、約100社です。J-Startup企業に認定されると、JETROなどの政府関係機関に加え、大企業やVC、アクセラレーターなど民間からのサポートが提供されます。

田中井 「J-Startup企業に選ばれると、たとえばグローバルなスタートアップイベントでデモをすることができます。ピックアップした30以上の世界中のイベントから効果が期待できるSLUSH、CESなど5つを厳選しています。ここからメディアに取り上げてもらうことを期待したいですね」

さらに、J-Startup企業には、認定VCを通じたファイナンスのサポートなど、政府の優遇施策を利用する際に優先枠や加点制度を受けられるといった特典も付与。民間企業などからも、協業機会やオフィススペース、あるいはメンタリングなどが提供され、官民によるタイムリーかつスピーディーな支援が実現します。

田中井 「これまで、政府と民間が個々に行なっていたスタートアップサポートをJ-Startupが束ねるという役割です。さらには、J-Startupがハブとなることで、海外からの対日投資を増やすことにも期待したいですね。日本のエコシステムを海外とつないで、どんどん強くしていきたいと思っています」

2018年6月、日本の未来への戦略を示した「未来投資戦略2018」が発表されました。ここには、「企業価値又は時価総額が10億ドル以上となる、未上場ベンチャー企業(ユニコーン)又は上場ベンチャー企業を2023年までに20社創出」との目標が掲げられています。

しかし、2018年7月現在、ユニコーン企業に数えられる日本企業は1社のみ。目標を達成するためにJ-Startupが果たすべき役割は少なくありません。私たちは、J-Startupが日本のベンチャーエコシステムをつくり、世界に次の革新をもたらす日に向かって、進んでいきます。

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