アジア最大級のピッチコンテストにいきなり初挑戦。優勝を勝ち取ったデータアナリスト

グローバルな展示会出展、海外現地情報の提供やメンタリングを通じてJETROが支援する株式会社Empath。音声で感情分析する技術をグローバル展開し「Tech in Asia Singapore 2018」のピッチコンテストで見事優勝。ピッチ初挑戦で優勝を勝ち取ったデータアナリストのチャレンジをお伝えします。
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スタートアップのグローバル展開を後押しする「海外展示会」

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▲「Tech in Asia Singapore 2018」のピッチコンテストでピッチ初挑戦にして見事優勝を勝ち取った株式会社Empathのデータアナリスト 赤岡バディシ沙羅氏

グローバルにビジネスを展開するには、現地で支援者と関係を構築し、最新の情報を得ることが欠かせません。

そのために重要なきっかけとなるのが、「海外展示会」。海外展示会に商品やサービスを出展することで、企業はグローバル展開への足がかりを得ることができます。

JETROでは、かねてから海外展示会への出展をサポートしてきました。

2018年からは国や民間企業と連携した「J-Startup」によりサポートを強化。「CES」や「SXSW」などの著名なテック系の海外展示会に、日本のスタートアップ企業の展示スペースを確保しています。

こうした海外展示会の中でも、アジア最大級の規模を誇るのが、「Tech in Asia」。

2018年5月にシンガポールで開催された「Tech in Asia Singapore 2018」では、JETROが支援する株式会社Empathが、世界中のスタートアップ企業が参加する中で見事優勝を勝ち取りました。

Empathは、音声のスピードやボリュームなど、物理的な特徴から人の感情を解析するエンジン「Empath(エンパス)」を提供しています。この技術の根幹を担っているのが、データアナリストの赤岡バディシ沙羅氏です。

沙羅氏 「エンパスは特定の言語によらず感情を分析できるため、現在は世界の 50カ国以上に展開しています。
もともとはメンタルヘルスの領域からスタートしましたが、最近はコールセンターのマーケティング支援などのユースケースが増えてきましたね」

Empathが設立されたのは2017年10月。それから1年を待たずして50カ国ものグローバル展開を達成できた理由のひとつは、多くの海外展示会やピッチコンテストに参加してきたことにあります。

沙羅氏 「もともと私は会社にいることが多く、外に出ていくのは主にCSOの山崎でした。
彼はジェトロ・イノベーション・プログラム(JIP)に参加したり、海外のピッチコンテストに多く出場したりしていたので、『 Tech in Asia Singapore 2018 』にも彼が出るはずだったのですが ……」

「Tech in Asia Singapore 2018」と同じタイミングで、山崎氏はルクセンブルクにて行なわれるテックカンファレンス「ICT SPRING 2018」に参加する予定が。そこで、急きょシンガポール行きを任されたのが、沙羅氏だったのです。

ピッチコンテスト初挑戦は「正直、嫌だった」

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▲Tech in Asia Japanの代表取締役David Corbin氏(左)

沙羅氏がEmpathにジョインしたのは2017年。京都大学大学院にて留学生として学んだ後、フランスで仕事をしていた彼女は、「日本のヘルスケア関連の企業で働きたい」という想いからインターネットで検索。

そこで目に止まったのが、設立して間もないEmpathでした。

その後、Empathに採用された沙羅氏。彼女は、コンピューターサイエンスや数学の知見を持ち、4カ国語を操る能力の持ち主です。しかし、Tech in Asia Singapore 2018のピッチコンテストに出場することに対しては不安を感じていたと言います。

沙羅氏 「正直、ピッチに出るのは嫌でしたね(笑)。もともと人前だと緊張してしまうタイプですし、人生でピッチをしたことなんてありませんでしたから。
それが、いきなり何百人も参加する大きなイベントで話すことになったので ……」

不安を抱えながらも、山崎氏の説得により出場を決意した沙羅氏。本番までに残された時間は約1カ月間でした。

沙羅氏は、山崎氏からピッチの内容を引き継ぎ、さらにブラッシュアップしていきます。

そうした中JETROは、沙羅氏に対して、JETROと協力関係にあるTech in Asia Japanの代表取締役David Corbin氏によるピッチトレーニングを提案しました。

このときの印象について、David氏はこのように話しました。

David氏 「最初に彼女の話を聞いたとき、『これは勝てる』と感じましたね。プロダクトのユニークさや実績など、ピッチのストーリーがすごくわかりやすかったんです。
他社がまねできない技術だったので、そこがちゃんと伝われば大丈夫だと思いました。正直、投資したいくらいでしたね(笑)」

「質問が全然ない?」ピッチ後の不安を覆して優勝

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▲Tech in Asia Singapore 2018のジャパンパビリオンで対応する沙羅氏

Tech in Asia Singapore 2018には、世界各国のスタートアップ200社が出展しました。ここからピッチコンテストに出場するのは選抜された6社のみ。

いずれもユニークな技術やビジネスモデルを備えています。そのうちの1社がEmpathでした。

ピッチコンテストを前にして、沙羅氏はホテルで5時間にわたりピッチの練習を繰り返します。その結果、迎えた本番では制限時間ぴったりで話しきることができました。

ところが、その後に続く“質問タイム”が予想外の展開に。

沙羅氏 「ピッチは時間どおりできたんですが、質問タイムであまり質問が出てこなかったんですよね。半分くらい時間が余ってしまって ……。
他の出場者には質問がたくさん飛んでいたので、『もうダメだ』と思いました(笑)」

しかし、発表された結果はEmpathの優勝。沙羅氏は驚きましたが、3人の審査員による審査を見守ったDavid氏はこのように振り返ります。

David氏 「 Tech in Asiaでは審査員各自が持つ点数に加えて、議論を加味して順位を決めるのですが、このときは文句なしで Empathさんが優勝でした。
1位を決めるときにはよく意見が割れるものですが、今回はレアなケースですね。
Empathさんの質問タイムが余ったのは、沙羅さんがピッチできちんと納得できる説明をできていたからだと思います。
それ以上質問するまでもなく、『この会社で決まりでしょ』という感じになっていましたから」

「優勝」というこれ以上ない結果を得た沙羅氏。時を同じくして、ルクセンブルクでは山崎氏も「ICT Spring Europe 2018」のピッチコンテストで優勝を勝ち取っていました。

アジアとヨーロッパのそれぞれで栄冠を手にしたEmpathは、ここからさらに海外展開の歩みを進めます。

データアナリストとして技術を磨き、世界中に届けたい

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▲海外ピッチコンテストの優勝トロフィーを掲げる株式会社Empath CSO山崎 はずむ氏(右)と沙羅氏(左)

「Tech in Asia in Singaporeのピッチコンテストで優勝したスタートアップ」――。

新たな称号を得たEmpathは、インドネシアや中国などアジアの企業やVCから注目を集めます。アジア展開に向けた期待も高まる中、沙羅氏は次なるピッチコンテストに出場しました。

沙羅氏 「 Tech in Asia Singapore 2018と同じ月に、パリで『 VIVA TECHNOLOGY』が開催されたのですが、ここでも私がピッチで話して優勝することができました。おかげで少し自信がつきましたね」

JETROでは、今後もEmpathの海外展開をサポートしていきます。同社は今後、「GITEX」や「Web Summit」、「SLUSH」、「CES」など有力な海外展示会に次々と出展する予定ですが、サービスの改善にも余念がありません。

沙羅氏 「エンパスで解析している感情は『平常』『怒り』『悲しみ』『喜び』の4種類あるのですが、さらに研究を進めて分析のレベルを上げたいと思っています。
このアルゴリズムを武器に海外展開していきたいですね」

Empathは今後のグローバル展開を見据え、音声分析を扱う海外企業やVCとの関係を構築中です。日本のスタートアップシーンを見てきたDavid氏も、Empathには強い期待を寄せています。

David氏 「日本のスタートアップのシーンを見ていると、まだまだ閉鎖的な面があります。
でも、Empathさんは一流の技術を備えており、世界のスタートアップにも負けていません。日本を代表するスタートアップとして、Empathさんが世界中に展開するのが本当に楽しみです」

革新的な技術やビジネスモデルを持つスタートアップの成功は、日本経済活性化のカギです。

JETROでは、これからも世界を見据えるスタートアップの海外展開を支援していきます。彼らの活躍が、より良い世界をつくることを願って――。

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