すべての働く人にスポットライトを〜海外展開に向かう「Unipos」による120日間の挑戦〜

経済産業省では革新的な技術やビジネスモデルをもつスタートアップを、「J−Startup」として認定し成長支援を行なっています。認定を受けたFringeは、従業員同士がリアルタイムにピアボーナスを送り合える「Unipos」を開発。海外展開を見据える同社は、ドバイの「GITEX Future Stars 2018」でのピッチコンテストに出場しました。言葉の壁を乗り越え、ファイナリストに選出された同社の挑戦を追います。
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J-Startup認定を受け、海外展開へ踏み出す

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▲Fringe81株式会社 代表取締役CEO 田中弦氏(左)と2017年に入社した川村純志氏(右)

「すべての働く人にスポットライトを当てたい」――そのような想いをFringe81株式会社の代表取締役CEOである田中弦氏は抱いてました。この想いをカタチにしたものが、社内の従業員同士でリアルタイムにピアボーナスを送り合えるサービス「Unipos」です。

たとえば、ある社員が他の社員に対してピアボーナスを送ると、それが少額のボーナスとして給与に反映されます。ピアボーナスのやりとりはUniposの画面上で共有されるため、一般的に見えづらいとされるバックオフィスや縁の下の力持ちの従業員の貢献を可視化することができます。

田中氏 「同じように仕事を頑張っていても、貢献の見えづらい仕事に対してはフィードバックが少なくなってしまいますよね。私は世界中でそうした不幸な状況が起きていると感じており、解決したいと考えてきました」

問題を解決するために、2012年頃に田中氏はピアボーナスの仕組みをFringeの社内制度「発見大賞」として採用。その後、2017年6月にUniposとして一般企業に向けてサービス提供を開始しました。以来、Uniposはメルカリなど、国内を中心に多数の企業に導入されてきました。

国内での事業展開を経て、海外進出も模索していた2018年6月。Fringeは、経済産業省が推進するスタートアップ育成支援プログラム「J−Startup」として認定を受けます。この認定により、同社は官民による集中的な支援を受けられるようになりました。

たとえば、JETROでは著名な海外テックイベントにおいてJ-Startupが出展できるパビリオンを設けています。各イベントで開催されるピッチコンテストに出場することもでき、英語ピッチのトレーニングや現地アクセラレータによるメンタリングも提供されます。

田中氏 「実は、認定を受けるまでJ-Startupについてあまり知らなかったんですよね。JETROも『貿易を支援する機関』というイメージしかなく……。
でも、取り組みを見てみると本気でスタートアップを支援してくれることが伝わりました。『だったら乗っかろう!』という感じでしたね(笑)」

J−Startup認定による支援の活用法を考え、そして決断したのが2018年10月にドバイで開催された「GITEX Future Stars 2018」(以下、「GITEX」)出場でした。

遠く中東の地でもUniposのサービスは受け入れられるのか――。未知なる挑戦はこうしてはじまったのです。

英語ピッチへのチャレンジは、「孫正義社長とのマンツーマン」に匹敵

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▲国内トレーニングや現地アクセラレータによるメンタリングを受け、はじめての英語ピッチにチャレンジした田中氏

田中氏は、ソフトバンクにてそのキャリアをスタートし、IT業界の最前線に身を置いてきました。2005年にFringeを創業し、さまざまな事業の立ち上げを行ない、ピッチの経験も数多く有しています。

しかし、GITEXで求められる“英語によるピッチ”は、はじめてのチャレンジでした。

田中氏 「ピッチそのものは得意なのですが、英語だと聴く人の反応を見ながらアレンジできないじゃないですか。
ソフトバンクの内定者研修のとき、孫正義社長と1時間マンツーマンでプレゼンをする機会があったのですが、GITEXはあのときに匹敵するくらいの緊張感でしたね(笑)」

こうしたなか、田中氏が本番に向けてパートナーとして選んだのが、新卒入社2年目の川村純志氏(2018年現在)。大学時代にアメリカのシアトルで留学を経験。今年4月よりUniposのインサイドセールスチームの立ち上げを担ってきました。田中氏は、川村氏とともにピッチ本番に向けて準備を進めます。

川村氏 「ドバイ出張が決まったときはすごくうれしかったですね。学生の頃から海外で仕事をするというのが、ずっと目標であり夢のひとつだったので。直前に38度の熱が出てしまい行けるか不安だったのですが、無事に行くことができてホッとしました(笑)」

JETROは、海外テックイベントの参加者に対し、希望により株式会社HEART CATCHによる英語ピッチの個別トレーニングを提供しています。田中氏はこのトレーニングを受け、さらに現地アクセラレータのポール氏から、ピッチについてメンタリングを受けました。

田中氏 「HEART CATCHさんから教えていただいたのは、主にスライドの見せ方や英語表現の改善点です。アドバイスを受け、用意していたスライドを大きく作り直すことにしました。
一方、ポールさんは中東での起業経験もある方なので、現地の文化も踏まえたアドバイスが多かったと思います。
たとえば、私は1998年にソフトバンクに入社しIPOも経験しているのですが、そうした実績をピッチで前面に出すように言われましたね。中東ではソフトバンクの知名度は高いので、『俺はすごいんだぞ!』という雰囲気を出したほうがいいと(笑)」

このように、2018年6月以来、約4カ月にわたり準備を進めてきた田中氏。初の英語ピッチに不安を残しながらも、いよいよ本番の日を迎えます。

開き直って感情を込めたピッチが、ファイナリスト進出を呼び込む

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▲展示ブースでサービスを説明した川村氏は海外で戦える可能性を実感

GITEXが開催された2018年10月。田中氏がピッチ本番に備えるなか、同行した川村氏は展示ブースでUniposのサービスを説明していました。そこで得たのは、Uniposの海外展開に向けた手応えでした。

川村氏 「展示ブースでは、海外のスタートアップの関係者から多くのお声がけをいただき、世界に出ていこうとする彼らの熱量に刺激を受けました。
彼らからすると会社の代表や上司からは“評価される”のが当たり前で、逆にポイントやコメントを送ったりすること、しかもそれをオープンにするというUniposのコンセプトの斬新さや奇抜さを評価していただき、今後私たちが海外で戦える可能性を感じました」

そうしたなか、田中氏はピッチ本番に向けて緊張感をつのらせます。ピッチの持ち時間のルールが直前に何度も変更されたため、英語に課題を抱える田中氏にとっては不利な状況――。

しかし、応募企業約500社のなかから24社のファイナリストに選出されるという結果を手にしました。

田中氏 「Uniposは中東でのビジネス実績がありません。正直なところ、それほど勝ち進めるとは思っていませんでした。とくに準決勝は英語の質問がさっぱり意味がわからず、うまく答えられなかったので『負けたな』と感じたくらいです。
でも、結果的にファイナリストになれたのは、ピッチでは開き直って感情を込めて話をできたからかな、と思っています。
もちろん、前提としてUniposのプロダクトがユニークなものだったので、そこに全面的に助けられたわけですが、表情に気持ちを込めるとちゃんと伝わるんですよね」

かくして、田中氏のチャレンジはひとまず終わりを迎えました。しかし、田中氏は帰国後、海外展開に向けて次なる準備を進めています。

海外展示会で得た経験をもとに、さまざまな地域への事業展開を図る

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▲ジェトロは「GITEX Future Stars」にジャパンパビリオンを設営。過去最多となる18社の日本企業が参加した

GITEXへの挑戦が終わり、帰国した田中氏と川村氏。それぞれにUniposの海外展開に向けて確かな手応えを感じていました。

田中氏 「GITEXへの出展は、中東のマーケットリサーチとして効果的でしたね。
中東では建設ラッシュで、社員もよく入れ替わる状況です。勤務時間中にSNSは使えないという雰囲気もあるようなので、今後Uniposを展開するのであれば、現地に合わせたサービス設計をチューニングする必要があると感じました」
川村氏 「今回のGITEXで経験したことは、社内ミーティングでフィードバックしました。海外でUniposのコンセプトやUI・UXが評価されていたことに僕は刺激を感じたので、それを開発チームに伝えられたことは特に良かったと思っています」

Fringeは、GITEX出場をへて、今後の事業展開に向けてヨーロッパやアメリカなどの海外テックイベントにJETROの支援スキームを活用し出場を予定。

2018年11月にはリスボンで開催される「web summit」に出展。さらに2019年3月にはアメリカで開催される「SXSW2019 Trade Show」でUniposの可能性が試されます。

田中氏 「SXSWには、本場アメリカのスタートアップが集まってくるはずです。『そんなサービス見たことあるよ』と言われるのを覚悟で、どこまでUniposが勝ち抜いていけるのか、今から楽しみです。
ちなみに、これらのピッチに向けて英語のパーソナルトレーニングを受けることにしました。
いよいよ本気で英語をやろうと思って(笑)。来期以降、海外に向けて本気でサービスを展開していきたいと思っています」

「すべての働く人にスポットライトを」――そんな世界を目指して走る彼らを、JETROはこれからも応援していきます。

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