「生産性向上」には違和感があったーー“世界一集中できる場所”が生まれたワケ

株式会社ジンズは2017年12月、“世界一集中できる環境”を目指し進化し続けるワークスペース「Think Lab(シンク・ラボ)」をオープンします。今回は、集中力向上の先まで見据えたこのプロジェクトが生まれたきっかけや、集中を生む仕組みをご紹介します。
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飯田橋に現れる、集中特化型のワークスペース。モデルは高野山の神社仏閣

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▲Think Labの一区画
2017年12月1日、“世界一集中できる環境”が飯田橋に現れます。その名は「Think Lab」。私たちジンズが多くの研究者やメーカーの協力のもとで実証実験を繰り返して作った、集中特化型のワークスペースです。

予防医学研究者の石川善樹氏がコンセプトワークを務め、建築家の藤本壮介氏が設計したこの空間は、1200年前に弘法大師によって開かれた、高野山のような神社仏閣をモデルとしています。

入り口(鳥居)から入り、光が遮断された20メートルほどの石畳(参道)を抜けると、そこには開けた空間(手水)が広がります。大量の植物が配置され、ガラス張りの窓からは皇居を眺めることも可能。空の青と植物の緑で覆われた部屋に、利用者は都心を離れ山奥の神社仏閣を訪れたような感覚を抱くでしょう。

「鳥居」「参道」「手水」を抜けると、「拝礼」と「本殿」にあたるワークスペースが用意されています。

「拝礼」の箇所には窓側に向けられたデスクが1人1台用意され、視線の角度が異なる椅子が配置されており、自身の必要な思考に合わせて椅子を選ぶことが可能です。というのも人間は、視線が上を向くと発散思考(アイデア創出)・視線が下を向くと収束思考(ロジックチェック)に入りやすいとされているからです。

「本殿」の箇所は個室集中スペースで、1人1席、植栽で外部と遮断された席が用意され、集中してクリエイティブワークをおこなうことが可能です。

また、植物による緑視率向上や椅子だけではなく、光や音、飲食にもそれぞれ工夫があり、このワークスペースを契約した利用者は、最高に集中した状態でパフォーマンスを実現できるでしょう。

ここまでのお話で、“世界一集中できる環境”というコンセプトも、単なる煽り文句ではない、と思われたのではないでしょうか?

しかし、そもそもなぜ“アイウエアブランド”である私たちが、門外漢である空間ビジネスに手を広げたのか疑問に思われた方もいることと思います。

そこで、ここからはプロジェクトを牽引してきた井上一鷹の言葉も借りつつ、その背景やより詳細な集中マネジメント法、そしてその先に見ているビジョンについてお話ししていきます。

オフィスでは集中できない? ある気づきから生まれたワークスペース構想

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▲ジンズは、「知の深化」こそが現在オフィスの課題だと考えた
そもそもThink Lab構想のきっかけは、眼鏡型のウエアラブルデバイス、JINS MEME(ジンズ・ミーム)でした。

JINS MEMEは「自分を見る」ことをコンセプトに開発されたデバイスで、専用アプリと連動して装着者の集中力や姿勢を可視化します。これにより、自身の集中力が最も高くなる時間や場所を知って仕事に活かすことができ、気付かないうちに進行している脳や体の衰えを把握することも可能になるかもしれません。

事実、仕事の質を可視化して生産性を上げるとして、働き改革×テクノロジーの革新的な事例としてJINS MEMEは世の中から大きな評価を受けました。この、「自分を見る」という発想は、認知症など加齢医学を研究している川島隆太教授から出たものです。

井上 「川島先生によると、お医者様は認知症の傾向を目の動きでおおよそ判断できるらしいんですね。ということは、メガネを使ってそれを測定できれば、認知症になる前に介入できるかもしれない。もちろん、集中力向上のサポートで働き方改革に貢献したいという思いもありますが、長期的には、メガネを使ったヘルスケアを私は考えています」

長期的にはヘルスケア、短期的には働き方改革の一環として井上は各企業へのJINS MEME導入を進めていましたが、その中である衝撃の事実に当たります。

井上 「まず自分自身が集中できている環境かどうか知るため、JINS MEMEを使って測定したんですが……カフェよりも図書館よりも、オフィスでの作業が一番集中できていないことがわかったんです」

このデータや、複数の同僚から寄せられた「集中したいときはオフィスに来ない」という話から、これでは長時間労働がいつまでも是正されないと井上は危機感を覚えます。井上はこの「オフィスでは集中できない」問題について経営学の教授らと議論してさらに掘り下げ、その本質を明らかにしました。

井上 「昨今の経営学では、イノベーションを起こすには『知の探索:チームのコミュニケーション』と同時に『知の深化:個人の集中』が重要となるという話があるそうです。僕らのオフィスは『知の探索』には最適だったんですが、『知の深化』には全く向いていなかったんですよ」

カフェスペースやフリーアドレス、コワーキングスペースなどのオフィス環境や、オンライン会議などのICT。昨今、働く上でのインフラは“コミュニケーション”に最適化されたものが増えてきました。しかしその一方で、“個人の集中”はおざなりにされていたのです。

そんな課題意識を持っていた井上は、2017年1月、JINS MEMEの記者発表会の帰り道、監修者のひとりである石川氏と話す機会を持ちます。一緒に入ったカフェで石川氏が語ったのは、神社仏閣をモデルとしたワークスペース構想。

井上「オフィスについての課題意識がもともとあったので、その構想をジンズが実現したいと強く思いました。オフィスで集中できない“集中難民”を救うキャンプを作ろう、と」

JINS MEMEで測定してわかった、「知の深化ができない」という現代オフィスの課題。そして、石川氏のワークスペース構想。このふたつが運よくマッチングし、「Think Lab」プロジェクトが進んでいくこととなったのでした。

音・光・飲食……最高の集中を生むために強みを発揮する企業たち

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▲最高の集中を生むために、さまざまな工夫が施されている
JINS MEMEというツールを開発しているとはいえ、ジンズはやはり“アイウエアブランド”。オフィスの環境作りのためには、多くの企業の力を借りる必要がありました。

たとえばオフィスの緑視率を高めるための最適な植物配置はパソナ・パナソニック ビジネスサービス株式会社(PBS)から、収束思考/発散思考で使い分けられる椅子は複数のオフィス家具会社に協力を仰ぎました。

井上 「僕が“集中”について体系的にまとめて25個の切り口を出し、その中でサポートしやすい『肩こり/腰痛改善=椅子』『聴覚hack=ハイレゾ音』『集中しやすい食事→飲食』などの要素を抽出。それらを解決できる企業に『世界一集中できる場所を作ろう』と声をかけていきました」

各企業はそれぞれ強みを生かして、集中力を上げる環境を構築してくれました。これらの企業を、すべてではありませんが、いくつか紹介しましょう。

Think Lab内で飲食を提供するのは、森永製菓株式会社やサッポロ株式会社など。森永製菓は間食として、脳のエネルギーとなるブドウ糖が91%入っているラムネを提供しています。血糖値が急に上がると集中力は逆に低下するので、一度に大量摂取できないラムネは、血糖値マネジメントとしても最適です。

また、サッポロは日が落ちたあと、ビールを無償で提供。就寝4時間前までにアルコールを摂取すれば、翌日の集中につなげるためのリラックスには最適だと言われています。

聴覚に関しては、ビクターエンタテイメントにから人のリフレッシュを促す高音質・広帯域のハイレゾ自然音による空間音響デザインシステムKooNeを提供いただいています。

さらにオフィスの光マネジメントは、照明器具の大光株式会社が請け負います。現代のオフィスは、終日同じ色の照明がついているため、体内時計が正常に動作しにくくなっています。Think Labでは太陽の動きに合わせて照明の明るさ・色を変えていき、睡眠ホルモンであるメラトニンのバランスを整え、翌日のパフォーマンスを最大化するのです。

加えて、“睡眠”という切り口ではコーヒーのネスレ株式会社と株式会社エアウィーヴも協力。

井上 「パワーナップという、午後のパフォーマンスを上げるための“本気の昼寝”のために、エアウィーヴさんのマットレスを導入しています。また、カフェインは摂取して効果が現れるまで30分ほどかかることを利用して、ネスレさんのコーヒーを飲んですぐにエアウィーヴさんのマットにくるまって30分休むという、最高のパワーナップ・プランも考えています」

2017年11月現在、協力企業の数は17社。参画企業が増えればその分、パフォーマンスを上げる組み合わせも増えます。“最高の集中”のために多くの企業や人の力を借りながら、Think Labはこれからもブラッシュアップされていくでしょう。

目指すのは、母親が認知症にならないで済む社会

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▲株式会社ジンズ・井上一鷹
環境を整えてパフォーマンスを最大化していく。働き方改革でいう「生産性向上」に分類されるThink Labの取り組み。ですが、プロジェクトの推進者である井上は、可能な限り“生産性”という言葉を用いません。

井上 「“生産性”という言葉は、アウトプットが決まっている中でどう効率化して行くかという言葉ですよね。でも、生産性が求められる業務はいずれAIにとって変わられると思うんですよ。今から人間がすべき仕事は、自分でアウトプットを定義する、クリエイティブな仕事です」

クリエイティブであるために、個人が集中して自分にしか出せない「革新的な」答えを出す場所——それが、井上が考える、働き方改革におけるThink Labの役割なのです。

さまざまな実験をしていても、Think Labは完成された状態でリリースされるわけではありません。むしろ、リリースしてからが本番です。利用者に協力してもらいながら、本当に人間がパフォーマンスを上げるためには何が必要なのかデータを取得し、改善していきます。

その地道な改善が今後、働き方の改革にとどまらず、生き方の改革にまでつながっていくーー。そう、井上は考えています。

井上「もともと僕がJINS MEMEをやっているのは、認知症の軽減のためなんです。認知症になった祖父母を見た母に、『医者になって、自分が認知症になったら殺してくれ』と言われてしまって……」

認知症を治せる医師になるため、一時は医学部を目指した井上。しかし、医学部の面接で言われたのが、「認知症は病気じゃないから治せない」。違和感を持ちながらコンサルティングファームを経てジンズに入った井上は、JINS MEMEの構想の元となった川島教授と出会います。川島教授は、認知症の症状を軽減した唯一の研究者でした。

井上 「JINS MEME、そしてThink Labでパフォーマンスを上げる方法を明かしていけば、いずれ認知症の人のパフォーマンスを戻すこともできるように思うんです。ゆくゆく母親が認知症にならないで済む社会を僕が作れるんじゃないかって」

ジンズのブランドコンセプトは、「Magnify Life」——アイウエアを通して人々の生活を拡張し、豊かにするため、私たちはメガネの“その先”を常に考えています。

これまでと違う働き方、そしてこれまでと違う生き方。私たちジンズがメガネを通して提供しているものです。そして、このThink Labが次なるイノベーションを生むと、私たちは信じています。

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