管理栄養士の価値は、患者様との“対話”に宿る

病院の食事指導というと、つい敬遠したくなる方も多いのではないでしょうか。ところが、名古屋共立病院の調理実習室はいつも盛況。患者様やご家族が、笑顔でまじめに食事療法を学んでいます。偕行会グループの栄養指導を統括する中根真利子の奮闘を通じ、私たちが考える「患者様を支える食事指導」のあり方をお伝えします。
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病院のなかで行われる「調理実習」。楽しく実践的に食事療法を身につける

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▲管理栄養士 中根真利子

透析治療を受けている患者様や生活習慣病の患者様にとって、食事療法はとても重要な“治療”の一環です。

偕行会グループでは、かねてより食事療法を重要視し、患者様とご家族の皆さまに、いかに効率的に、無理なく食事管理をしていただくかを考え、実践してきました。

その取り組みを引っ張ってきたのが、2018年現在、栄養指導部で部長を務める管理栄養士・中根真利子です。

栄養指導部が力を入れているのが、患者様とそのご家族を対象にした調理実習。名古屋共立病院の一角にある調理実習室では、月に12~14回ほど調理実習が開催され、毎月のべ70~80名が実習に訪れます。

中根「学会などで話をすると、びっくりされますね。調理実習をやっている病院はほかにもあるんですが、月に1~2回の開催がふつう。うちでは月の半分近くやっています」

ここまで頻繁に実習を行なうのは、食事療法を絵に描いた餅ではなく、実際に身につけていただくため。実際にご自身でやってみることで、理解度や習得度は格段に向上します。

また、ご家族だけでなく、患者様にも参加していただくことが重要です。「なぜ、こういう料理になるのか」。実際の調理を見ることで、食事療法を継続していくための納得度が変わるからです。

実習室では、習っている方同士のコミュニケーションが生まれ、食事療法のほかにも運動療法の工夫など、情報交換の場としても機能しています。おたがい励まし合って食事療法を続ける環境が醸成されているのも、調理実習の副産物のひとつです。

さらに病院の一階には、栄養相談コーナーを設置。管理栄養士が常駐し、患者様が気軽に栄養相談ができる環境を整えています。

このように栄養指導に力を入れている偕行会。しかし、中根が外来病棟専任の管理栄養士となった1992年には、調理実習室も栄養相談コーナーもありませんでした。地道に粘り強く、患者様と栄養士をつなぐ道をつくりあげていったのです。

患者様のためにーーベストな居場所を求め、病院内で試行錯誤を重ねる

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▲外来病棟の専任となったころの中根

中根が名古屋共立病院に入職したのは1987年のこと。当時は病院の食事を院内で調理しており、管理栄養士は患者様の栄養指導のほか、病院食の献立づくりと調理も担当していました。

やがて、病院食の調理を外部に委託する流れが生まれ、偕行会では1992年に外部委託を導入。調理業務がなくなり、一部の管理栄養士たちは、入院病棟、透析施設、外来病棟の3部門にそれぞれ専任の栄養士として割り振られました。中根はひとりで外来の栄養指導を担当することになります。

いざ外来で朝から栄養指導をやるといっても、何から取り組んだらいいのかわかりません。そこで中根は、まずは診察で医師の後ろにつき、必要そうだと見れば「栄養指導しましょうか?」と医師に声をかけるところからはじめました。

中根「依頼を待つだけでなく、私から『栄養士はいかが?』と売り込みに行ったんです。そうしているうちに、すぐ“そこ”に栄養士がいるという認識が、外来の医師や看護師に浸透していきました」

以前なら、他の部屋から栄養士が呼ばれて来るのに10分近くかかっていたため、指導を辞退されてしまうことも。中根が専任になってからは、迅速でタイムリーな対応ができるようになり、指導の機会も増えていきました。

さらに中根は、患者様に気軽に声をかけていただけるように、待合室で場所を見つけて机を置き、壁にポスターを貼って即席の栄養相談コーナーを設置。だんだんと患者様のあいだでも、“栄養士”という存在の認知度が高まっていきました。

どうしたら外来の邪魔にならずに、医療スタッフや患者様に気軽に声をかけていただけるか――中根はみずからの“最適な居場所”を探していきました。

そうしているうちに、中根の栄養指導のニーズはすっかり浸透。1994年には病院の1階に、“即席”ではなく“正式”に昇格した栄養コーナーが設置されました。

また調理実習も、専用の実習室ができる前から実施してきました。ときには給湯室でゆでこぼしの実演をしてみせたり、看護師寮を借りて実習を行なったり。

一時は中断していたこともありましたが、患者様のことを思えば、調理実習はどうしてもやりたい――そんな中根の熱意により調理実習の再開が叶ったのです。

情報提供だけならインターネットでいい。プロとして今日からできる提案を

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▲相談コーナーで食品サンプルなどを使い、わかりやすい栄養指導を心がけている

中根が実践しているのは、理想の食事をただ教えることではありません。「食事療法は大変だ、続かない」というイメージを払拭して「こうすればカンタンにできるのね」と思っていただけるように指導をすること。

患者様から丁寧にお話をうかがい、性格や生活スタイルに合わせて、「これならできる」という、いわばカスタマイズされた食事療法を提案できるのが、管理栄養士がいる意義だと考えています。

中根「いつも後輩たちに言っているんです。ただ情報を伝えるだけなら、インターネットや本で十分。でも、私たちは人間同士が対話しているんだから、患者様のお話をうかがって、その方に合った提案をプロとしてできるでしょう、と」

中根が栄養指導を考えるときのコツは、自分の周囲の人に置き換えて想像してみること。自分の身近な人がこの病気になったらどんなアドバイスをするのかーー。それによって、相手ができることを基準にして提案をすることができます。

また、滞在が長くなりがちな病院で、栄養指導が負担にならないよう、検査や診察の待ち時間に栄養指導を行なうといった工夫もしています。

中根「今の生活を無理矢理変えるのではなく、ちょっとしたことで確実に検査の数値が改善するようなことを、第一に伝えます。結果が出ればやる気も出ますよね。そこから少しずつ、いろいろな改善を重ねていくようにしています。

私たちが食事づくりを代わってあげることはできないし、無理しても続かない。食事療法が自然に習慣になるまでがわたしたちの役目です。なかなか栄養指導を受け入れられない患者様にも興味をもって一歩を踏み出していただけるよう、毎日アイデアをしぼっています」

栄養指導を病気の改善や予防につなげる。これが管理栄養士の大きな役割

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▲名古屋共立病院の管理栄養士

医療の現場に管理栄養士がいる意義――それは、患者様の“治療にも予防にもつながる”という点です。

中根「病気になってしまったら医師の出番ですが、わたしたちはその前段階で、体質改善、意識改革をしていくことができるという自負があります。これは皆さまの健康を守るための大きな役割だと思っていますね」

たったひとりで外来の栄養指導をスタートさせた中根ですが、2018年現在、5名(うち1名は育児休業中)のスタッフとともに、外来と入院病棟の栄養指導を行なっています。

また、2017年8月には、インドネシアの透析医療においての栄養指導の介入がはじまりました。

中根「栄養士の仕事、つまり患者様にとっての付加価値は、誰かに与えられるものじゃない、栄養士自身がつくっていかなければなりません。私自身そうしてきましたし、後輩にも常にそのように話しています」

管理栄養士と患者様との関わり合いは、一度や二度の栄養指導では終わりません。患者様には「一生のつきあいだからね」と伝え、適宜タイミングを見て励ましやアドバイスの言葉を伝えるようにしているという中根。

患者様やご家族が、中根の言葉によって、あらためて食事療法をがんばろうと取り組んでくださる様子が嬉しいといいます。

自身が築き上げてきた、管理栄養士の“居場所”を後進たちとシェアし、さらに食事療法で患者様の健康を支える新たな道を探る。中根は栄養指導部のスタッフとともに研さんを重ねています。

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