カオナビ代表取締役社長の柳橋仁機です。

前回の記事では、日本の労働市場に対して僕が感じている危機感と「人材マネジメント」の変革が急務である理由についてお話してきました。

第2回となる今回は、人材マネジメントを変えるべくアイスタイルから独立し、フリーの人事コンサルタントとなった僕が、どのように「カオナビ」の着想を得て創業に至ったのかをお話します。

カオナビは、2019年3月に東京証券取引所マザーズ市場に上場、HR Tech市場においても4年連続シェアNo.1を獲得していますが、創業してまもない頃はさまざまな壁に直面しながら歩んできました。

サイバーエージェントとの仕事から生まれた「カオナビ」の原型

「柳橋さん、社員の顔写真と名前を並べられるシステムを作ってよ」

カオナビの原点は、かねてより親交のあったサイバーエージェントで当時、人事部長を務められていた曽山さんの一言がきっかけでした。当時の僕は漠然と「人材マネジメントを変えるような事業をしたい」という想いはあったものの、具体的な事業構想も見つからなかった。だから曽山さんに言われた通りのシステムを構築して納品するに留まり、僕に依頼してきたシステムに内包されている奥深い意図まで考えが及んでいなかったんです。

納品後、次につながる事業の種が欲しかった僕は、曽山さんに「なぜこのシステムが必要だったのか」を深くヒアリングします。そこで僕は、その後のビジネス人生を決定づける重大な気づきを得ます。

経営者が社員の顔と名前をしっかりと覚えると、たくさんの社員の中でも社員のことを名前で呼べる。それがきっかけで、社員一人ひとりの志向性や得手不得手が分かるようになり、組織の人の配置や評価や異動、つまり人材マネジメントに活用できるんだ、と。

「これは大きなビジネスに化ける!」その可能性を感じ、システムのセールスを開始します。
ターゲットはサイバーエージェントと同じIT企業。IT企業であれば同様のニーズがあるのではと考えたからです。そのシステムが正に現カオナビの原型とも言えるものであり、このタイミングで「カオナビ」と名付けました。

そして3社目にカオナビを納品した時に僕はある確信を持ちます。人材マネジメントの入り口は「顔と名前を覚える」ことにある。一見、関係がなさそうな3つ「顔写真」と「名前」と「人材マネジメント」の関連性を見出したターニングポイントであり、カオナビの商品化に邁進することを決意した瞬間でした。

→【カオナビ導入事例】グローバル経営人材を一瞬で可視化!時価総額1兆円を目指す日清食品HDが実践するカオナビ活用術

批判があっても気にしないーー時代は後から付いてくる

一方、周囲からは否定的な意見がいくつも返ってきました。

「カオナビなんかなくても経営層は自社の社員のことを知っているはずだ」
「カオナビは顔写真と名前を並べてるだけで、給与計算や勤怠処理など人事業務を効率化していない」

こうした批判はあったものの、僕は開発に注力します。その頃には、現在提供しているシステムとほぼ変わりないものー顔写真と名前が並び、社員の顔写真をクリックするとその人の詳細な情報が閲覧できるデータベースのようなものーを設計していて、さらなる勝算がありました。

新しい商品というものはすぐに人には理解されない。しかし、その商品が経済合理性を的確に捉えていれば時間がかかっても、必ず後から理解される。僕はそういうものだと常日頃から考えています。

かつて「インターネットで物を買うのは怖い」と言われていても、圧倒的な便利さを人々が理解したように、経営者が「社員の顔と名前を覚えてコミュニケーションしたい」という経済合理性はいつか理解される。だからこそ周りの意見に左右されることなく、自分の思い描いた商品の開発を貫くことができたと思っています。

パイオニア事業「カオナビ」の躍進を決定づけた2つのポイント

カオナビは世の中の潜在ニーズを初めて形にした言わばパイオニア事業です。それゆえに周りからの反発や否定的意見に直面することも多く、決して最初から上手く軌道に乗った訳ではありません。そこには大きな2つの壁がありました。

【壁①】人事が「作業するためのシステム」との比較検討

「社員の顔と名前が一致しない」ということは、多くの経営者の潜在的な課題です。しかし、すでに普及していた人事系システムのように給与計算や勤怠処理をするシステムではない。それゆえにカオナビの持つ価値を説明することには苦戦し続けました。

その壁を打ち破るポイントとなったのは、顧客を「人事」ではなく「経営者」と定義したことでした。僕たちの顧客は「人事」の担当ではなく経営層や事業を推進する部長つまり「マネジメント層」であり、カオナビとは「人事が作業をするシステム」ではなく「経営層がマネジメントするためのシステム」であると明確に定義しました。これにより商品の骨格が非常にクリアになり、その後の戦略の方向性も決定づけたと思います。

また商品コンセプトは最終的に「顔と名前の一致から人材マネジメントが始まる」というものに行き着きます。その過程もすんなり決まったわけではなく、今度は「顧客に対してどのように伝えると響くのか?」を何度も練っては商談で当てるという、それこそ1000本ノックを繰り返しました。

商談時にも僕らが主語の言葉ではなく顧客が主語の言葉でメリットを訴求することを非常に大切にしています。「顧客が何に困っているのか?」「顧客の何を解決するのか?」のインサイトを突くことにこだわり続けています。例えば同じ物事を説明しているようですが、以下の話し方では顧客への伝わり方が大きく異なります。

悪い例「このボタンを押すと検索できます」
良い例「必要な時に社員を見つけることができます」

悪い例「顔写真をクリックすると、詳細画面を見ることができます」
良い例「並べられた社員の顔から、その人の個性や才能を知ることができます」

悪い例にあるような機能説明はサービス提供側の目線で語られているものですが、顧客はそこに興味はない。何ができるようになるのか?日々の仕事をどう変えてくれるのか?を伝える。これは今でも徹底しています。

→現在のカオナビ商品ページ内にある顧客が主語の典型的なページ「カオナビで変わる人材マネジメントシーン」はコチラ


【壁②】時代はまだオンプレミス!SaaSなんてとんでもない

カオナビの原型となった最初の3社への納品は、当時は主流だった「オンプレミス(システムごと使用者の施設内に納品する形式)」でした。

しかしながら、本格的に商品化するにあたって、小耳に挟むようになっていた「クラウドでの提供 × サブスクリプション」のSaaSが非常に面白く合理性も高いと僕は感じていました。

オンプレミスは、莫大なシステム構築費がかかるし、アップデートにも大きな手間がかかる。これを企業が自社で抱えていくのは持続性がない。

一方、SaaSには、それらの課題を取っ払うことのできる圧倒的な経済合理性があります。そう思い至ったことで僕はSaaSでカオナビを提供するという大きな決断をした。これが2つ目の躍進のポイントになります。

しかし、またもや顧客からは「システムが自分たちのものにならないの?」「クラウドに人事情報を預けるなんてとんでもない!」「月額課金ってどういうこと?」と反発にあうシーンが多発。理解を得るには時間がかかりました。

というのも2012年当時の常識では「システムは自社で所有するもの」。その頃のSaaSと言えば、SalesforceやSansanが台頭しはじめた初期段階。ビジネス的な市民権は弱く、顧客の獲得の大きな壁になりました。

しかし、安易に顧客のニーズに応じてオンプレミスでの提供をするという選択肢は僕の頭には一ミリも浮かびませんでした。ひたすらSaaSの利便性を「顧客が主語」で説き続ける日々。一方で社内の人間には「経済合理性を的確に捉えたものに人は後から付いてくるから、大丈夫だ」と言い続けました。

カオナビがこれから目指す「データプラットフォーム戦略」

2020年現在、カオナビは「社員の顔と名前の一致」ができるサービスとして多くの経営者からの支持をいただき、HR Tech市場No.1の地位にまで登り詰めることができました。No.1とはいえ慢心することなく、当然ながら次の戦略を描き、さらなる拡大と日本の人材マネジメントをアップデートすべく様々な取組みを開始しています。

そして、これから僕たちが目指していく上で最も大きな事業と位置付けているのが、企業の組織にある人事データベースをプラットフォームに昇華していくことです。カオナビがあらゆる人材マネジメントの「ハブ」となり、顧客企業の全ての人材マネジメント業務が完結する、企業にとってはなくてはならない存在になる。

それはつまり、気になる社員がいたらスマホでもPCでも、いつでもすぐにその社員の情報を参照できる経営環境が実現できるということです。そうすることで、前回の記事でも書いたように今の時代に合った「個」の能力を生かす人材マネジメントが可能になり、日本の労働生産性の向上にもつながると考えています。

最近では、多くのHR Techが誕生して競合ひしめく熾烈な環境になっていますが、そのなかでも僕たちが「ハブ」となり、その中心のポジションに近づきたいと考えていますし、当然ながら勝算があります。

第3回では「なぜカオナビが人材マネジメントのハブを目指すのか?」、そして「カオナビがそのポジションに最も近い理由は何か?」についてお話していきます。