大企業病、30歳、マイホーム……そんな僕を変えることができた「起業未満」な生き方

国内電機メーカーに務める山田孝雄は、子ども向けに「雲のプログラミング教室」を主宰しています。自らのスキルを活かしたボランティア活動(プロボノ)ですが、関わるメンバーは「本業をもっと楽しめるようになった」と実感。プロボノから得たもの、会社員にこそプロボノを勧めたい理由を、山田が自身の言葉で語ります。
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あるネットメディアの記事が、大企業病の僕を動かした

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▲プロボノ仲間たちと(左から3番目が山田孝雄)

新卒でIT電機メーカーに勤めはじめ、一度の転職を経て、2018年現在はITシステムのプロジェクトマネジメントを仕事にしています。20~30人規模で動かすクラウドサービスを担当していますが、もともとは何かしらで起業することを夢見ていたんです。ただ、気づけば入社から10年が経ち、会社の中での役割を果たす毎日を送っていました。

起業したいという意思も薄れていって、いわゆる“大企業病”にかかっているのでは……という危機感もありました。自分も社会に貢献するような何かを成したい。でも、自宅も購入し、30歳で長女も授かりましたから、いきなり転職するのは難しい。そんなとき、ビジネス情報サイトの『ダイヤモンド・オンライン』で、とある記事を目にしたんです。

その記事では、自分のスキルを活かし、日中の空き時間や休日を活用して社会貢献ができるという「プロボノ」を紹介していました。記事中で取り上げられていたのが、現在でも関わりのある認定NPO法人「サービスグラント」でした。サービスグラントは、ワーカーがスキルや専門知識を活かし、NPOや地域活動団体の非営利組織をプロジェクト単位で支援するマッチングサービスを提供しています。「まさにこれだ!」と思って、説明会を聞きに行きました。

正直なところ、ボランティアにはあまり興味はなかったんです。ただ、記事を読んだときに、会社を飛び出しても自分の力がどれくらいあるのかを試してみたくなったし、それを起業や副業よりもリスクなくできるなら今の自分でも挑戦できるはずだ、と。将来的に起業や転職をするにしても、そこで得た経験やコミュニティのつながりが役立つかもしれないと考えました。

早速、本業で得たITスキルを活かして、NPO法人のウェブサイト制作などのプロジェクトマネージャーとして関わるようになりました。サービスグラントのプロジェクトでお会いする人は自分と同じように企業などで経験を積んできた30代や40代が中心で馴染みやすく、いつもの業務では会わない業界の方もたくさんいました。カルチャーの違いを感じられることも面白くて学びがあり、みなさんがとても前向きでエネルギッシュだからこそ刺激も受けましたね。

自分でも団体を立ち上げたい!原体験で見つけた「パソコン少年」の日々

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▲雲のプログラミング教室(地区センター)

サービスグラントで社外活動を数年続けた結果、自主的に団体を立ち上げ、同じような活動ができないだろうか……と希望がわいてきました。

とはいえ、社会貢献活動を始めるにしても、「何をするのか」を考えなくてはなりません。NPOを立ち上げた先達に話を聞いてみると、「自分の原体験に立ち返って、やっていて楽しいと思えることをやった方がいい。自分自身が楽しくなければ、苦しいときに続かないからだ」とアドバイスをもらいました。

原体験に思いを馳せると、夢中になって画面へ向かっている子どもの自分が浮かんできました。まずはファミコンなどのテレビゲームに夢中になり、それから父親が買ってくれたパソコンのNEC「PC8001」でプログラミングにハマっていた自分です。パソコン雑誌の『マイコンBASICマガジン』……いわゆる“ベーマガ”を毎月買っては、プログラミングを打ち込んでいた。今の職業しかり、僕の人生しかり、プログラミングから大きな影響を与えられていたんです。

同じように、現代の子どもたちにも僕がプログラミングからもらった影響を伝えられないかと考えるようになりました。さらに、2020年には学校教育でプログラム教育が必修化するという話も聞こえていたので、この分野でなら社会貢献できるはずだとたどり着いたんです。

ただ、教える子どもたちを「集客」することが難しく、ことあるごとに「やりたい!」といろんな方たちに伝えていたのですが、プログラミング教室は実現できないままでした。そんなとき、同じ最寄り駅に住んでいたサービスグラントの事務局長と帰り道が一緒になったことがあり、「子どもにプログラミングを教えたいが、教室の月謝が高くて困っている」と聞きました。

「それなら私がタダで教えます!」と話をして、公共の地区センターで部屋を借りて始めてみることに。事務局長のママ友にも声が広まり、10名ほどの子どもたちが集まりました。それで「月1回の日曜日」を開講日として、雲のプログラミング教室がスタートしました。

活動を通じて、イベント登壇の話が舞い込みはじめた

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▲「Raspberry Pi」大人向け勉強会

教室では、子ども向けプログラミング言語の「Scratch」で、ファミコンのゲームを模したものを制作して教えていくことにしました。

昔のようにテキストオンリーの言語では継続が難しかったかもしれません。その点では、Scratchのような直感的に扱える技術があったことはプラスに働いていると思います。人数分のマニュアルをカラー印刷しないといけないのは、コストも時間もかかって大変でしたが……でも、苦ではなかったですね。

ちょうど1年間ほど教室を続けた頃、「活動内容について話してほしい」というイベント登壇の依頼が舞い込むようになりました。

最初は東京都の起業支援施設である「Startup Hub Tokyo」で、プロボノの経験から新しい活動をはじめた人として。また、プロボノを通じて知り合った方が企画し、横浜市経済局が後援した「サラリーマン・イノベーターの集い」でもお話する機会を得ました。その際に「雲のプログラミング教室のスタッフを募集中です」と言ってみたところ、名乗り出てくれるメンバーが現れたことで、現在のような組織活動ができるようになったんです。

イベントを通じたネットワーク形成で、教室の活動は急拡大していきました。夏休みに5週連続で10組の親子に対してプログラミング教室を実施したり、「Raspberry Pi」という小型パソコンをテーマにした大人向け勉強会も開催したり。この勉強会は毎回50名を超える参加者がいて盛況で、ワークショップを含めて第2回、第3回と開催し、さらにこのイベントがきっかけで横浜市金沢区の産業振興イベントにも出展することになりました。

2018年現在では、イベント出展やワークショップが活動の中心を占めるようになってきました。

プロボノは、本業では満たしにくい領域をカバーしてくれる

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▲「生きがい」を感じているスタッフたちと

いま、本業とプロボノのバランスは5対2くらい。平日の夜も含めて、週に1日から2日ほどの時間を使っています。本業を続けながら、いかにプロボノの時間を作り出すかを考えると、仕事の効率化や朝時間の使い方についても真摯に向き合えるようになりました。

雲のプログラミング教室は、僕の考えていたこと以上の成果をもたらしてくれました。なかでも大きいのは、自分だけでなく一緒に活動しているスタッフにとっても「生きがい」が増えたこと。

もちろん、本業での「生きがい」がないというわけではありません。ただ、この場所があるからこそ、本業で「やるせないこと」や「つらいこと」があっても、プロボノでのネットワークやコミュニティでリフレッシュされ、本業に対して改めて向かっていけるという良さを実感しています。

自分なりに考えてみると、心理学者のアブラハム・マズローが唱えた、いわゆる「欲求5段階説」の図式に当てはまりました。

プロボノはNPOをはじめとした多くの方から感謝され、お互いに認め合えるコミュニティになりうるからこそ、第4段階の「他者から認められている」、あるいは第5段階の「自己実現できている」という領域を満たしやすいのだと思います。多くの日本企業では第3段階の「社会的欲求」までは保証されやすいのですが、そこから先がなかなか得にくい。大人になって、単純に褒められたり認められたりすることって、少なくなりますよね。

僕自身もプロボノを始めるまで、プロジェクトマネージャーを「雑用係」だと思っていたきらいもありました。でも、会社の外で活動してみることで、これは誰にでも簡単にできることではないと、その価値を再認識しました。

そして僕が考えていたように、いきなりの起業は難しい、スタートアップに転職するという決断がしにくい人にとっては、やはりプロボノは有用だったと身を持って体験できました。まがりなりにもプロフェッショナルとして給料をもらって仕事をしているのであれば、その仕事で得たことは必ず外で活かせます。あなたを欲しているプロジェクトにマッチングさえすれば、社会に貢献できるんです。

「雲のプログラミング教室」に、IT業界のトレンドでもある「クラウドサービス」を想起するような「雲」を冠した理由は、空のどこにも雲が見えるように、広い範囲で社会に貢献していきたい、影響を与えていきたいという思いを込めたからです。

これからもその思いを胸に、子どもたちやプロボノ候補生になりうる大人たちに向けて、僕らが体感した価値を伝えられたらと思っています。

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