ムナカタアップルの苦闘

▲左からムナカタアップル 棟方 卓(取締役)、棟方 良逸(代表)

青森県弘前市で親子4代、100年以上にわたってりんごを生産してきたムナカタアップル。

2020年現在は棟方 良逸(代表)と棟方 卓(取締役)が中心となり、5ヘクタールの畑で約10種類のりんごを生産しています。寒暖差の大きい岩木山麓で育ったりんごは、歯ごたえがあり、ジューシーな果汁の甘みが特徴です。

ムナカタアップル最大のこだわりは「自然のまま育てる」こと。もちろん青果の中で最も手間がかかるといわれるりんご。放ったままでは決して育ちません。

棟方(良) 「自然のままが一番大変ですよ。たとえばうちでは葉を取ったり、日光の反射シートを使って色を付けたりしません。葉を取ると色づきは良くなるけど、十分に養分を吸収できず、味は落ちてしまいます。一方で自然に任せると、収穫が2週間は遅くなりますし、その間風雨にもさらされることになります。それでもおいしいものをつくるためには、手間暇が必要です」
自然との戦いに加え、昨今の地球温暖化も、りんご栽培の困難さに追い打ちをかけています。

棟方(卓) 「毎年苦戦ですね。5月なのに30℃を超えたり、青森にいないはずの二ホンジカの被害に遭ったり……。天候不順はとくに厳しいです。人間と同じで、りんごの木も疲れてしまうんですよ。場合によっては病気になったり、花が咲かなくなったりしてしまいます」

もちろん、こうした苦労を一つひとつ乗り越えるからこそ、収穫したりんごを手に取るときの「かわいさ」もひとしおだと言います。

棟方(良) 「手間暇かけるからこそ、秋にめんこい(かわいい)りんごがいっぱいできるんですよね。選別して、同じくらいのサイズのりんごがきちんと木箱に並んでいるのを見ると、めんこいって感じますね」

畑 裕之とムナカタアップルの出会い

▲イベントで展示された紅の夢(左)とふじ(右)

そんなりんごの中でもとりわけ「問題児」なのが、今回のイベントで使用された「紅の夢」。弘前大学で発見・研究され、2010年に品種登録されたりんごです。実まで広がる赤みと爽やかな酸味が特徴ですが、実の陥没や色味の不ぞろいが起こりやすく、対策はまだ見つかっていません。

棟方(良) 「今年が栽培6年目で、約0.6トン生産しています。味は私も大好きなんですが、病気がコントロールできない分、生産量が安定しないんですね。だから正直、販売経路がちょっと……」

その紅の夢をはじめ、ムナカタアップルとの取引を一手に引き受けているのが、LEOCの子会社であるレオックフーズのバイヤー・畑 裕之です。どのようにして、ムナカタアップルと出会ったのでしょうか。

畑 「りんご農家を探す中でいくつかの生産者さんと会ったのですが、その中でも貯蔵技術の高さや若手農家による協力体制の構築など、持続可能な生産を行うためのビジョンが一番しっかりしていると感じました。約3年前に契約し、以後お付き合いをさせていただいています」

こうして出会ったムナカタアップルと取引を続ける理由はふたつあります。

畑 「ひとつ目は味の良さ。『自然のまま育てる』というこだわり、とくに葉取りをしないで、ぎりぎりまでおいしさを熟成させる方法がとても気に入っています。

もうひとつは安定した供給ができること。LEOCはフードサービス事業者として、量と質を兼ね備えた食材の供給が不可欠です。ムナカタアップルはCA貯蔵(窒素を用いてりんごを休眠状態にし、酸化を抑える技術)をはじめ、安定した供給量を保つための高い技術を持ち合わせていますので、一年中新鮮でおいしいりんごを仕入れることができます」

こうして始まった信頼関係の中で、あるとき棟方代表から「こんなりんごあるんだけど」と紹介されたのが紅の夢。畑はそのおいしさにほれ込み、今回のデザートイベント開催を発案しました。

畑 「今は供給量が安定しませんが、安定すればもっと売れると思います。紅の夢の父品種に当たる『紅玉』は生だとかなり酸味がありますが、紅の夢は爽やかな味わいなんです。生食でもお菓子用でも、ニーズがあるんじゃないかと思っています」

「最高のりんご」──後藤 友則の確信

▲後藤 友則。ホテルニューオータニを経てイタリア各地で研さんを重ね、2015年のミラノ万博デザート部門で4位を受賞。現在ONODERA GROUPシェフパティシエとして腕を振るう

紅の夢のおいしさにほれ込んだのは、畑だけではありません。ONODERA GROUPシェフパティシエとして、LEOC全体のデザート製作を統括する後藤 友則も、その味を絶賛します。

後藤 「実は今回『ふじ』を併用する計画だったのですが、紅の夢一本に変更しました。それくらいお菓子づくりに使いたくなるりんごですね。とくに火を入れると、抜群においしくなる。

それに普通のりんごだと酸味を足さなければいけないんですが、紅の夢はそれがまったく必要ないんです。お菓子づくりにマッチした、ヨーロッパのりんごによく似ていますね」

星付きレストランをはじめとしたイタリア各地で研さんを重ね、LEOCでは「鉄板焼き 銀座おのでら」を皮切りにデザート監修・製作を行ってきた後藤。そんな彼の中には、今回のアップルパイ製作にとどまらないアイデアが次々に浮かんでいます。

後藤 「ジャムだったり、ゼリーだったり……。今回は社員食堂向けの企画ですが、老人ホームなどのシニア向けに飲み込みやすいデザートをつくるのもいいなと思いますね。とてもナチュラルですし、LEOCにとってすごく良い食材だと思います」

そんな彼が今回腕を振るったのは、アップルパイの中でも元祖と名高い「シュトゥルーデル」。北イタリア・オーストリアが本場といわれ、薄いパイ生地でりんごやレーズンを包んで焼いたお菓子です。

後藤 「もとはトルコ発祥で、そこからギリシャ、イタリア、オーストリアへ渡っていったと考えられています。今のアップルパイの形になったのはイギリスのようですね。世界のりんごにもいろいろあると思うのですが、その中でも紅の夢はシュトゥルーデルに最高に合うと思いますよ」

彼が自信をもって仕上げた一皿。実際のイベントではどのように受け入れられたのでしょうか。

信頼関係が生み出すおいしさ

▲(左から)ムナカタアップル 棟方取締役・ONODERA GROUP 後藤・ムナカタアップル 棟方代表・レオックフーズ 畑

イベント当日、東京にあるセガサミーホールディングス本社食堂に姿を現したムナカタアップルのふたり。自分たちのりんごが消費者の口に入るのを見たことはほとんどなく、幾分緊張した面持ちでイベント開始を待っていました。

一方後藤は、予定された200食分の準備を終え、さらには「ぜひ生でもおいしさを感じていただきたい」と試食用の紅の夢を用意。準備中にもブース前の行列は伸び続け、食堂の外まで人があふれかえるほどになりました。

15時にイベントがスタートすると、棟方取締役は自らトレイを持ち、試食を勧めながら紅の夢を説明。初めて見る幻のりんごに、列に並ぶ社員は「色がすごくきれい」「さっぱりしていておいしい」「アップルパイとの違いが楽しみ!」と興味津々。棟方取締役も「感想がおもしろいですね。普段なかなか聞けないので、嬉しいです」と感激した様子でした。

一方棟方代表は長い行列を眺め、「感無量です」とひと言。時折アップルパイの皿を持ち、直接お客さんに手渡しすることもありました。

200食用意したアップルパイは、LEOCのイベント史上最速となる30分で完売。最後は棟方代表・棟方取締役も舌鼓を打ち、「こんなにおいしくつくっていただき、ありがとうございます」(棟方代表)と感慨深げでした。

棟方(良)「紅の夢は、おいしいけれど生産量が安定していません。でも今回LEOCさんが『これ良いよ』って言ってくれて、正直元気が出ました」

最後は「今後ともよろしくお願いします」と握手を交わし、りんごを持って写真に納まった4人。私たちLEOCのおいしさは、決してLEOCだけででき上がるものではありません。私たちが提供するおいしさは、生産者・バイヤー・シェフの強い信頼関係、そして食べていただける方々の笑顔があってこそ。

LEOCはこれからも、食に関わる皆様との信頼関係を大切に築きながら、さらなるおいしさを追求していきます。