大分から全国、世界へ――誰もが安心して暮らすためのシステムを開発した「LIFE」の野望

2015年、大分市で創業した株式会社LIFE。代表の前田剛之は高齢者が安心して暮らせる環境を作るべく、ICT(情報通信技術)を活用した「Touch Area」(タッチエリア)を開発。そのサービスは全国へと広まっています。前田がタッチエリアに込めた思いとは――。開発秘話から今後の展望までご紹介します。
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大手飲料メーカーで営業と経営のノウハウを学んだ20代

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『思いをカタチに』をタグラインとし、超高齢化社会への対応としてCCRCの実現を担う

アメリカで1970年代から広まっている「CCRC」をご存知でしょうか。「Continuing Care Retirement Community」の略で、直訳すると「継続的なケアが付いた、高齢者たちの共同体」という概念です。

仕事をリタイアした人が元気なうちに地方に移住し、第二の人生を健康的に楽しみつつ、必要なときに医療や介護のケアを受けられるーー。高齢化が進む日本においても、政府や企業に注目され、「日本版CCRC」の議論がはじまっています。

LIFEの創業者である前田は、まだ日本では浸透していないCCRCの概念にいち早く着目。九州にいながら、「日本を住みやすい社会にしたい」と熱い志を抱き、日本中を奔走しています。その原点には、自らの体験がありました。

大分で生まれ育った前田は「早く働きたい」と考え、高校卒業後に大手飲料メーカーに入社。地元・大分エリアのスーパー担当として、販売や企画立案、営業コンサルティング業務を担っていました。

前田 「担当店舗に自社商品の展開を提案するのはもちろん、店舗の経営戦略を考えたり、イベントを企画して皆さんに喜ばれたり。仕事には大いにやりがいを感じていました」

しかし、入社から12年目に転機が訪れました。熱心な仕事ぶりを見込まれて昇格し、熊本本社への転勤が決まったのです。当時29歳、地元には大切な両親と家族がいました。

前田 「会社員としてはとてもありがたい話で、単身で行くべきか迷いました。しかし、家族と暮らしたいし、高齢になる両親のことも気になる……。いつか起業したいという思いがあったので、思い切って退職して会社を立ち上げる道を選びました」

30歳を目前に、安定した有名企業を辞め、自分の道を切り拓こうと決意した前田。その選択は、やがて壮大な夢へとつながる第一歩となりました。

「高齢者を見守りたい」と考え地域密着型の小売業を創業

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29歳でスピンアウトし、大分市に会社を設立

2008 年にMaeda(現・株式会社Maeda)を設立。前田はそれまでの経験を活かして、大分でコンビニエンスストアを出店。スタッフを採用しつつ、自らも店頭で接客にあたりました。

前田 「私はもともと人と接するのが好きで、単にモノを売るだけでなく、人が交流できる店舗にしたいという思いがありました。いろいろなお客さまが来てくださる中には高齢者も多くて、うれしかったですね」

実は、前田は高齢者に対して人一倍強い思い入れがあったのです。

前田 「私の祖父が認知症になって徘徊することがあり、高齢者を見守るような仕組みができればとずっと考えていたんです。私にとって、コンビニは高齢者問題に取り組むためのひとつの手段でもありました。そのうち、高齢のお客さまから『家まで商品を運んでくれたら助かる』という声を受けて、個人宅へ配達もするようになりました」

持ち前のバイタリティを発揮して、店舗にとどまることなく、移動販売・配食サービスを開始。行政の施設で移動販売をしたり、大分市からの受託で高齢者・障がい者宅に配食する事業に参入し、「人の役に立ちたい」という思いに移していきました。

前田 「高齢者への食事の配達は、全国の大手チェーンも手がけている。でも、私たちは弁当を宅配ボックスに入れるのはなく、必ずお宅のインターホンを押して、弁当を直接手渡すとともに顔を見ながら会話しています。『桜がきれいですね』という何げない言葉でいいし、何かお困りことや必要なモノはないかお伺いし、御用聞きをしています」

さらに、移動販売や宅配でお客さまのあらゆる要望に対応できるように、1台で冷蔵・冷凍・常温・保温を管理できる「マルチ温度管理配送車」を開発。特注のワンボックスカーは、意匠権を取得しました。

そんな当社のビジネスは、2013 年大分県ビジネスグランプリ奨励賞を受賞。現在3店舗を経営し、高校生から75歳まで幅広い年齢層のスタッフが一丸となり、地域に愛される店作りに取り組んでいます。

人の動きを把握できるオリジナルのITシステムを開発

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『いつ』 『誰が』 『どこに』 をコンセプトに、人、物を可視化する

念願だった高齢者の見守りという思いをカタチにした前田は、さらなる夢の実現に向けて始動。2015年7月、高齢者をはじめ誰もが安心して快適に暮らせる社会を創るべく、株式会社LIFEを設立しました。

LIFEの核となる事業は、「Touch Area」(タッチエリア)サービス。いつ・誰が・どこにいるのか可視化するITシステムです。

RFIDタグICチップ付シールを利用者の洋服や持ち物などに貼っておけば、その人がセンサーを通過するとサーバーに通知されます。ブラウザを使用しているため、ID・パスワードで複数の方がどこでもパソコンなどの情報端末画面でチェックできたり、登録者にメールや位置情報が届くという仕組みです。さらに、情報端末画面上パソコンの画面上では、誰がどこにいるかも確認することもできます。

このようなシステム自体は複数の会社が開発に乗り出し、介護施設や学校などで少しずつ普及しています。ただ、従来型(※当時)は大きなキーホルダーのようなIC付アイテムに電池が入っていたり、充電が必要だったりと、高齢者の方と日々接する前田からすると不便さを感じてしまうものでした。

前田 「私は高齢者から、『携帯電話を持っているけど電話ができなくて困っている』と何度も相談されたことがあり、見てみると、単に充電が切れているだけということが多くて……。充電が何かわかっていない高齢者もいらっしゃるんです。便利なモノがあっても、使いこなせなければ意味がないと残念に思っていました。

また、病院や施設でこのようなシステムを導入する場合、利用者ひとりに2個ずつIC付アイテムを用意して充電のために交代で使うため、スタッフの手間とコストがかさむという声も。ほかに、事前工事が大変という話もよく聞いていました」

それらをすべて解消したのがタッチエリアです。IC付シールなのでコストがかからず手軽にどこにでも付けられて、電池や充電は不要。センサーを取り付けるための工事も要らず、すぐ簡単に設置できます。これはアメリカの会社が開発した最新技術を活用し、LIFE独自に開発した画期的なシステムで「エリア管理システム」といい、特許取得をしています。

人の動きが一目瞭然なので、たとえばトイレやお風呂で長時間動かない人がいれば駆けつけることができます。また、いざ災害などで避難する場合、誰が館内に残っているのか瞬時に点呼ができるというのも大きなメリットです。

前田 「高齢者施設にタッチエリアを導入したところ、簡単に入所者の所在確認ができて徘徊トラブルを防げるので、働くスタッフの負担が減ったと喜ばれました。しかもその分、スタッフの心身に余裕ができて笑顔が増え、入所者にじっくり向き合うことができるため、入所者やご家族の満足度もアップ。結果として入居率が上がったという声もいただき、とてもうれしく思っています」

タッチエリアを活用して日本や世界でCCRCを創りたい

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CCRCの実現を日本全国(47都道府県)と、市町村500拠点を目標に

当初、高齢者施設や病院での利用を想定して開発したタッチエリア。全国へ展開していくうちに、物流関係をはじめ、イベントやテーマパークなど、さまざまなシーンでご要望をいただくようになりました。

モノに付ければ、物流倉庫の在庫を管理できます。また、人に付ければ動きを追跡できるため、イベントで入退場者を確認できたり、テーマパークではアトラクションの混雑状況を把握できたり、迷子を見つけ出すことも可能です。

前田 「タッチエリアを活用して人やモノの動きを可視化したことで、さまざまな活用法があり、果てしない可能性が広がっていることに気がつきました」

他にもマラソン大会、旅行(団体・ツアー)、ホテル、工場、防災での使用など……タッチエリアのリリースからわずか1年半で、全国から多種多様の問合せが寄せられています。ただし、前田の構想は、単にタッチエリアを販売することだけにとどまりません。

前田 「私が最も実現したいのは、タッチエリアを利用して、高齢者をはじめ、誰もが住みやすいまちを創ること。CCRCの概念を知ったとき、これこそが私の求めている世界だと感銘を受けたんです。

壮大な構想ですから、今、当社だけで実現することは難しいと思います。ですからまずはここ数年で会社を上場させ多くの方のご支援やお力添えをお願いしたい。

同時に、産学官連携の話も進めています。そうしてゆくゆくは、私が描いたCCRCのビジネスモデルを全国、さらには海外でも展開したいのです」

「創業以来、苦労したことや辛い思いをしたことは数知れない」と打ち明ける前田。しかしその一方で、「苦労話は語らないことにしている。辛いことがあれば、自分の器が小さかったのだと受け止め、器を大きくするために自分を磨こうと努力してきました」とも振り返ります。

高齢者をはじめ、誰もが安心して暮らせる社会を創る―そんなビジョンを掲げる前田のもとには、MaedaとLIFEの2社で70名を超えるスタッフが集まっています(2017年4月現在)。

前田 「私が大切にしている価値観は“思いをカタチに”すること。いつも根底には相手を想う気持ちがあり、未来を思い描き、行動することで、いつか必ずカタチに実現できると信じています」

高齢者を本気で想う気持ちから誕生したタッチエリア。より良い社会に貢献するため、前田はこれからも全力で走り続けます。

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