「戦争や経済犯罪をなくしたい」 ひとりの青年の想いから生まれた“次世代型の認証技術”とは?

次世代型生体認証解析エンジンの研究・開発に成功した株式会社Liquid(リキッド)では、その技術を活用した決済ソリューションサービスの提供をスタートしました。そもそもなぜ、私たちが生体認証技術の研究・開発に取り組むことになったのか。その背景には、代表取締役・久田康弘の熱い想いがありました。
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現在の“当たり前”を、より安全・安心にグレードアップするための新技術

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クレジットカードや銀行などのサービスを利用するとき、本人確認のためにIDとパスワードを入力する。みなさんはこの行為に対して、疑問や不安を持つことがありますか? 現在、私たちが当たり前に使っているこのシステムですが、なりすましや偽造など、どうしても避けられないリスクがあることもご存じですよね。

しかし、これまでの認証システムに代わってより強固なセキュリティを実現できる手段があるとしたら……いかがでしょうか。もっと安全・安心な生活がイメージできませんか? それこそが、私たち株式会社Liquid(リキッド)が開発・提供している、指紋や顔、静脈、虹彩などを使った、次世代型の生体認証解析エンジンが実現する世界なのです。

当社では、高度な画像解析やコンピュータービジョニング、機械学習などの技術を組み合わせることにより、従来の生体認証システムで最大のネックとなっていた、認証スピードを迅速化することに成功。より高速で、よりセキュアなシステムを作り上げました。現在はこれらの技術をさらに発展させ、人体以外のものへと応用する研究開発にも取り組んでいるところです。

なぜ私たちは、このような画像解析・認証技術を使ったサービス開発を行うことになったのか。そのきっかけは、当社代表取締役・久田康弘が学生時代に直面した、あるひとつの社会的な課題にありました。

「世の中の戦争・犯罪を防ぐために」青年が導いた答えは“生体認証技術の応用”

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久田青年が影響を受けた本、『数学で犯罪を解決する』(キース・デブリン、ゲーリー・ローデン著・山形浩生、守岡桜訳。ダイヤモンド社、2008年)
当時久田が通っていた高校は、生徒の個性を尊重する校風・指導方法だったらしく、久田青年の髪の色は赤みがかった金髪だったこともあるそうです。そのため人前に出るようなアルバイトはことごとく面接で落とされ、彼がお金を稼ぐために着手したのは、なんと為替。

というのも、数学が得意科目だったという久田青年。もともとオリジナルの数式を考えるなど、大きな法則を捉えるのを得意としていたこともあり、どんどん経済・金融の世界にのめり込んでいきました。

さらに時を同じくして社会学にも興味を持っていた久田は、現行の資本主義の中に、戦争へ向かう原因があることを知ります。当時は折しも、イラク戦争などがリアルタイムで起こっていた時代でした。

久田「経済・金融の世界と、戦争が密接につながっていることを知り、戦争をなくすためにはどうしたらいいのか、子どもながらに考えるようになったんですよね」
それは久田が社会的な課題へと目を向けた、最初の経験となりました。現在のLiquidにつながる「社会課題を解決する」という強い想いは、この頃から培われたものなのかもしれません。

そしてさらに、大学に進んだ久田が直面したのが、それからLiquid創業へと直接つながっていくことになる社会課題--世界中で発生する「犯罪」の現状でした。

久田「大学1年生のときに、たまたま国連が設置した研修所でインターンをしていて、そこで、世界で発生する犯罪の9割が『経済犯罪』であることを知ったんです。それを防ぐためには何が必要かを考えたとき、生体認証に行き着きました。財物と個人そのものが、文字情報(ID・パスワード)でしか紐づけられていないから、貨幣の盗難や、クレジットカードのなりすましが起こるわけじゃないですか。それを人体で認証できるようになれば、悪用や偽造が圧倒的に難しくなりますからね」
より安全で、より確かな生体認証による個人の証明。それが日常的に使える世の中になれば、経済犯罪の発生率をもっと減らすことができるのではないか。そう考えた久田は、卒業後しばらく投資銀行などで働きながら経験を得た後、1人で新たな生体認証システムのプロトタイプを開発しはじめました。

起業直後に高いハードルにぶつかるも、時代の大きな流れを捉えて乗り越えた

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Liquid設立メンバー。左から、山谷・久田・大岩・加藤。
「水のように、世界中へ広がっていくサービスを目指す」――そんな想いを込めて、久田は自ら設立した会社に「Liquid」と名づけました。生体認証解析エンジンの研究に取り組みはじめてから2年後、2013年12月のことでした。

当社最初のプロダクトとなったのは、指紋認証による決済ソリューション「Liquid Pay」。しかしこのサービスに対する周囲の理解を得るまでには、想像以上に高いハードルが待ち構えていたのです。

久田「最初はクレジットカードの会社などに営業に行っても、ほとんど門前払いでした。かろうじて話を聞いてもらえても、ポジティブなリアクションはまったくもらえず…。まあ、インフラに近いサービスを名もないベンチャー企業がやるというのだから、それが当然の反応かもしれないですね」
その流れが一気に変わったのは、Apple、Googleなどのグローバル企業が、自社サービスに生体認証を導入しはじめてからのことでした。当社をとりまく状況も、2014年7月、NTTdocomoのインキュベーションプログラムに採択されたのを機に大きく好転していくことになります。

時代の流れは大きく変わったものの、まだまだ生体認証の普及にはハードルがあるのも事実です。

久田「ユーザーのことを考えると、日本ではまだ、生体認証に対して抵抗感を持つ人が多いのが現状です。私たちが開発した生体認証解析システムは、いわゆるブロックチェーンの考え方を踏襲しており、複数のアルゴリズムで暗号化した情報を幾つものサーバーへ分散して管理しているため、ID・パスワードのみで情報を管理するよりもはるかにセキュリティレベルが高いんです。それを多くの人に知っていただきたいですね」
しかし、未来を変える技術であることには変わりありません。「戦争・経済犯罪をなくす」という強い想いを持つ久田のもとには、多くの優秀なエンジニアたちが自然と集まってきました。山谷、加藤、大岩…彼らの手を借りて、「Liquid Pay」の開発はさらに進みます。

子どもたちが生きる世の中を、もっと安全・安心に、もっと楽しいものに

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当社初のサービスとなった決済ソリューション「LiquidPay」は順調にドコモ社内や特定店舗でのトライアルを重ね、2015年10月、長崎県のハウステンボスにて、生体認証による独自地域通貨の運用をスタートし、さらには2016年4月、イオン銀行のATMで生体認証のみを用いる認証システムが導入されました。財布やカードを持たずとも、指一本で買い物ができ、ATMでお金も下ろせる。かつてSF映画の中で描かれていたような次世代の社会へ、テストを重ねながら一歩ずつ前進しています。

久田「一見当たり前のように見える世の中の不合理なことを、新しい技術によってなくしていきたいんですよね。自分たちはもちろんですが、子どもたちの世代が、普通に合理的で安全・安心な生活を送れるような社会にしたいと思っています」
Liquidのメンバーには子どもが生まれたばかりの者もいる。自分たちが何をするべきかを話し合った時、自然とその答えに辿り着きました。

さらに、当社が研究開発を行っている画像解析・機械学習やコンピュータービジョニングの技術は、生体認証以外にもさまざまな応用ができます。

例えばサイネージ、車やドローンを活用した画像解析のソリューションです。その他にも、あらゆる分野に対する技術展開を積極的に進めているところです。直近では、いわゆるドクターやポスドクを集めた研究所(株式会社Recreation Lab)も開設しました。研究者が自身の研究を生かして、世の中で使われるプロダクトをつくる、社会をつくるそんな仕組みを作りたいと思っています。

久田「生体認証による決済のように、より日常的なシーンで認証技術を使い、不便なことや不合理なこと、そして犯罪などの社会的な課題を解決していくことが、当社の大きなミッションです。それを実現したうえで、いずれは人々の生活をもっと楽しくするために技術を活用していきたいですね」
テクノロジーの進化は、人々の幸せのために活用すべきもの。次世代の社会を、より安全・安心で、より楽しいものにするために――Liquidの挑戦は、まだまだはじまったばかりです。

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