有給を消化したら売上も結婚率もアップした?! 地方薬局のワークライフ改革

人手不足の地方の薬局業界。株式会社エムワンも以前は休みが少なく忙しい環境でした。しかし、ふたりのスタッフの出産休暇をきっかけに働き方改革に乗り出します。すると、有給消化率が上がったにも関わらず、売上、生産性、さらには結婚&妊娠率までUP!仕事もプライベートも笑顔で過ごせる環境に。さて、どんな取り組みを行ったのでしょうか。
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相次ぐ産休……人出不足をどうする!?

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▲エムワン人事部 柴田佐織

きっかけは、スタッフ2名の妊娠でした。

慢性的な人手不足。有給利用は緊急時のみ。そんな現場で、ほぼ同時期にふたりの女性スタッフが妊娠。現場はさらに大変になるかもしれない——。エムワン人事部の柴田佐織は頭を悩ませていました。

柴田 「とてもおめでたいことだから、ゆっくり出産や子育てに専念してほしい。でも、ふたりが戻ってくるまでの一年半の間の手が足りない部分を補わなければいけない。目の前に、切羽詰まった状況がありました」

エムワンでは9割が女性スタッフ。産休の時には物理的に人が減ってしまう……。女性が多く活躍する薬局業界だからこそ、福利厚生ではなく、経営戦略として女性活躍を推進し、女性が出産後も安心して働き続けられる職場作りをしなければいけないと感じていました。

そもそも三重県の学生は卒業したら大阪や名古屋へ就職してしまう。くわえて、中小規模の薬局業界自体が人手不足です。仕事は現場のスタッフに頼りきりになり、かなり属人的な働き方になっていました。

柴田 「そもそもみんな、ほぼ有給をとらないんです。フルで働いていても人が足りない状況では、産休や育休すらも取りづらい。これは普段から有給をきちんととってもらえるように、人が足りなくても回るオペレーションにしていくためにはどうしたらいいか、と考えていたんです」

そのとき、三重県の“ワークライフバランス推進サポート事業”を知った柴田。社長には内緒で事業に応募しました。

柴田 「100社くらい応募があると聞いたので、採択されたらラッキーくらいのつもりだったんです。それが……見事採用!何も知らなかった社長も『県の事業なら』と応援してくれました」

9店舗あるなかから、実際に事業を実施する店舗を探しました。乗り気ではない店舗もあるなか、目にとまったのが鎌田店でした。ちょうど育児休業中のスタッフがいて、人手不足に困っていたのです。

鎌田店で管理薬剤師をつとめる岩田香に声をかけると、ふたつ返事で「やります!」と即決。
手探りのなか、エムワンは働き方改革に乗り出したのです。

人に頼らないサイクルを。有給消化100%を目指して

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▲鎌田店で管理薬剤師を務める岩田香
岩田 「有給が欲しい!と、私としてはやる気まんまんでした」

県のサポート事業を実施することになった鎌田店。岩田をリーダーに、スタッフたちで集まって決めたゴールは“有給消化100%”。「育児休暇中の人がいても休みを取れるようにしようね」と目標を立てました。

しかし忙しい日々。貴重な時間のなか、これから具体的にどう行動していくかを決めるための会議も効率をはかります。会議室なし、ホワイトボードなし、立ったままA3用紙と付箋のみ。できるだけ短時間で実施しました。

まず、専門職である薬剤師でなくてもできることをすべてリストアップしたスキルマップ(一覧表)を作成。それぞれ“レジ”、“クスリの手配”などの項目ごとに、個人がどの程度仕事をこなせるか、◎、〇、△、×を記入します。そして、全員が◎になるまで社員同士で教え合うことにしました。これがクリアできれば、薬剤師でも事務の仕事がこなせ、お互いが助け合えるようになります。

岩田 「これまでは忙しくて後回しにしたままになっていたことも、現状を目に見える形にすることで、仕事をやり残すことがなくなりました。それにより、一週間かかっていたことが一日で解決できるということまで起きてきたんです!」

また、有給休暇にたいする意識の改善もこころみました。

岩田 「これまでは有給を使ったとしても、わざわざ会社に来るスタッフもいたんです。仕事が終わらなくて出勤しにきたわけじゃなく、他に行くところもないから遊びに来た、という感じ。せっかくの有給なのになぜ!?と思いますよね(笑)」

そして、柴田がスタッフに「有給をとったら何がやりたい?」と聞き出し、それぞれのやってみたいことを書き出した“やりたいこと10リスト”を作成します。

“1日中本を読む”、“おばあちゃんに会いに行く”……そんな声を集め、ささいなことでも有給をとっていいんだ、という雰囲気を作りました。岩田が「佐渡島で一寸法師のたらい船に乗りたい」と言えば、「私も乗りたい!」という声があがる。同僚の知らない面が見えたり、自分にはない発想を楽しんだり、とコミュニケーションが深まりました。

また、有給がどれだけ残っているかを一覧にした“有給消化シート”を張り出しました。するとお互いに「あんまり休んでないね、大丈夫?」「もうすぐ有給消えちゃうから取りなよ?」と有給消化を推奨しはじめたのです。

岩田 「楽しむために休もう、休むために効率よく働こう……県の事業でしたが、自分でやりたくて自然にやっていました」

しかし、うまくいかないこともありました。

スタッフの変化と成長。そして……

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▲海外ボランティアでの出口舞(中央)
若手スタッフのひとりである出口舞は、急な変化に対して少し不安になってしまいました。

岩田 「誰かが休んでも誰かが代わりに働ける——そういう環境を作ろうとしたことによって、自分が必要じゃなくなるんじゃないか、と不安になったそうです……」
柴田 「『誰でもいいなら、会社や岩田さんにとって自分は必要ないんじゃないか』と泣きながら相談を受けて。でもそれは全然違う。だから『違うんだよ、誰でもできる仕事はみんなで分担して、空いた時間であなたは次のステージに行くんだよ』ということを話しました」

自分の役割が変わっていくステップをすんなり受け入れることは、難しいこともある。鎌田店以外には、サポート事業そのものに難色を示す人もいました。

柴田 「事業をすすめるにあたって、周囲に理解と協力を得るのは大変です。人を動かすことがもっとも苦労したことでした。この取組は意味があるんだろうか?本当にやりきれるんだろうか?——途中で何度もやめようかと思いました」

社員の自主性に任せると口を出さない社長の村井俊之が、いつも傍で見守ってくれました。地方の薬局で女性が活躍していくためには彼女たちの居場所を作っていかなければいけないと、スタッフらと粘り強く対話を続けたのです。

進退を繰り返し、少しずつ状況は改善していきました。取り組みがうまく回りはじめると、時間に余裕がうまれます。そこで、浮いた時間を使って登録販売者の資格を取得することにしました。

岩田 「業務内で勉強時間が確保できたことで、薬剤師が後輩に試験勉強を教えることもできました。さらに患者様とのコミュニケーションも増え、ニーズを伺い、自分たちで売場づくりを手がけたりと、店内が変化していきました」

勉強を教え合うことで、チームで協力し合うという意識も芽生えました。また社内のコミュニケーションだけでなく、患者様との会話も増えました。少しずつ、良い循環がうまれていったのです。

一時は自分の存在価値について悩んでいた出口も、大きく変わりました。

柴田 「彼女は登録販売者の資格がなかなか取得できかったのですが、管理薬剤師である岩田さんに勉強を教えてもらううちにモチベーションがあがり、見事合格! 有給をつかって出かけた先で知り合った人とのご縁で海外ボランティアにまで行くようになり、ついには『柴田さん、こども薬剤師体験をやりませんか?』というお話を頂いたんです!」

1年半かけて取り組んだ結果、目標だった有給消化も100%達成(2017年3月時点)。互いにフォローできる力を身につけたことで、子どものいるスタッフが休みやすくなりました。

しかし、得られた成果はそれだけではなかったのです。

働きたい職場、戻ってきたい職場へ

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有給消化以外にも、予想もしていなかったプラスアルファがありました。

スタッフ数も労働時間も減ったのに、売上や生産性は大きく上がったのです。

全体の前年売上は102%、患者数は143名増加(2016年10月時点)。スタッフ1名につき、月2日程度休んでいるにも関わらずの好成果です。

柴田 「一人ひとりに意欲が生まれて新しいことに挑戦できたことが一番の成果。それまでは日々追われて余裕がなく、一日の終わりに『ああ疲れた…』という気持ちだったのが、他に目が向けられるようになりました。みずからスタッフたちがショッピングモールでのイベントを企画したり、売場コンクールに応募したりするようになったんです」

2016年の採用活動からはこの取組を活かした結果、内定者も増えました。2015年と2016年を比較すると、会社ホームページのPV数は8倍、ナビエントリー数は前年比5倍、内定者数は2.75倍に増加。入社前に実際に店舗見学をおこない雰囲気を感じてもらった結果、内定辞退者は0でした。

さらにスタッフの結婚&出産率が大幅UP!あの出口も結婚しました。

岩田 「どうしても休まないといけない休み以外にも気軽に休みが取れるようになったことが一番良かったです。前は、子育て中の方は子どもが発熱した時にだけ有給をとるという雰囲気だったのですが、熱がなくても平日子どもが保育園にいる間に有給を使って美容室に行けるようになりました。
私は育休中(2017年11月時点)なのですが、復帰した時にそういう有給の使い方が可能かなと思うととても楽しく働けそう。休みが取りづらいのは不安だけど、自由に取れると思うと気持ちが前向きなります」

職場の雰囲気が明るくなっただけでなく、プライベートも笑顔で過ごせる環境に。スタッフ一人ひとりが、仕事だけの人生よりももっと幸せな人生を手に入れられるようになりました。

サポート事業では鎌田店のみでの実施でしたが、これからは全店舗にこの笑顔の輪が広がることを目指しています。

柴田 「三重県はどこの会社も人手不足が深刻。でも、ギリギリの状態で必死に働いても業績はあがりません。属人化をなくして休みもきちんと取れるようにすれば、プライベートも充実し、気持ちに余裕が生まれて業績が上がるんじゃないかな、と気づきました。

それに、岩田さんが育児休暇中にも関わらず、鎌田店はすごく業績がいいんですよ」

結果を出せるスタッフが増え、オンとオフをしっかり満喫できていれば、地方の中小企業でも存続の危機を感じず、しっかり勝ち残っていける。

これからもエムワンは、地域に根付き、利用してくださる患者様と社員に寄り添う会社として、成長し続けていきます。

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