世界最小クラスの紛失防止IoTデバイスMAMORIOはいかにして生まれたか 前編

Amazon Launchpadランキングで1位を受賞するなど、多くの注目を集め、日本を代表するIoT製品となった世界最小クラスの紛失防止タグ「MAMORIO」。小さな雑居ビルの一室から生まれた会社が、いかにしてMAMORIOを生んだのか。代表取締役・増木大己が語ります。
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たったひとりのなぜ?からはじまった「なくすを、なくす」ストーリー

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2011年4月ーー。

「いつか社会を変えて、社会であたり前になってしまうような、ベンチャー企業を生み出したい」

幼いころからそんな思いを胸に抱えていた私が、大学を卒業して入った会社は日本最大のネット証券会社。思いが通じてか配属先はベンチャー企業の上場を支援する部署でした。

震災の影響が日本全体に残るなか、負けじと急成長するベンチャー企業の経営者を相手に仕事をすることで、ある思いを持つようになりました。

「多くの起業家が大きな課題を解決するために熱いビジョンをもって会社をやっている。自分もいつかこのような人たちの仲間入りができないだろうか。でも一体、自分には何ができるんだろう」と。何かをしたくても何もできない、モヤモヤした日々を送っていました。

しかし、転機は突然訪れます。

「ない!どこにいったんだ!?このまま見つからなかったら大変なことになるぞ!」

ある日、会社でたくさんの顧客情報や重要事項が詰まったタブレット端末を紛失してしまう事故が発生し、社内は騒然となります。セキュリティや個人情報に厳しい金融業界なだけに、このまま見つからなければ厳罰は逃れられません。

(なぜこんなときにすぐに助けてくれるサービスや製品がないんだろう…「なくすを、なくす」そんな製品を作れれば世界をもっとよくすることができる…。
よし!じゃあ自分がたとえ落し物をしても、見つかるような、そんな製品やサービスを作ろう。名前は、何もかもなくしてしまっても、すぐに思い出せるような記憶に残る名前、「落し物ドットコム」にしよう!)

「なくすを、なくす」ストーリーがはじまった瞬間でした。

「なくすを、なくす」想いを胸に。雑居ビルの一室からはじまったスタートアップ

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会社を退職し起業を決意したものの、充分なお金はありません。知り合いのオフィスの一画を格安で間借りしてのスタートでした。

そこでまずはじめたのは、落し物をしたときにやるべきことや対処法がまとまっているウェブサイトを作ることでした。

そのためには、まず自分が一番落し物に詳しくならないといけません。あらゆるものを無くしたときや、さまざまな交通機関で落し物をしたときの対処法をまとめ続ける日々が続きます。そのかいあって、少しずつ利用者が増えていきました。しかし、日本の遺失届の数は約1200万件。それに比べるとサイトの利用者は数千にもみたない実に非力な数値です。

「これではなくすを、なくすなんて言えない。もっと困っている人の声を聞かなければ!だったら、日本で1番落し物の問い合わせが多い場所で働こう」

そう思った私は鉄道会社の忘れ物センターのカスタマーサポートの門を叩きました。

昼は忘れ物窓口のカスタマーサポートで働き、落し物や忘れ物で困っている人たちの生の声に触れ、夜は開発に打ち込む日が続きます。

カスタマーサポートの現場では本当に多くの困っている人たちがいました。肌でそれを感じた私は、もっと成長スピードをあげなければいけない。と思い、ベンチャーキャピタル(以下、VC)からの資金調達を決意します。

ところがVCから返ってくる言葉はどこも同じです。

「そんなサービスに大した市場規模はないから無理だ」「ビジネスモデルが全然ダメ」「まだ若い君には無理だ」

一体、何社のVCを回ったことでしょう。

「やっぱり自分がやろうとしていることは間違っているのだろうか……」
と諦めかけたそのとき、1社のVCとの出会いが状況を変えます。

「これは社会を変えうる素晴らしいコンセプトだね。確かにビジネスモデルはまだまだだけど、君の熱意は本物だ。僕は君を応援する。あなたの会社の未来に賭けよう」

創立間もない会社に投資をするVCのサムライインキュベート。その代表である榊原健太郎氏との出会いと資金調達を経て、開発体制の増強を図ることに成功します。

かくして「落し物ドットコム」は1年を経たずして、日本で最大の落し物情報のポータルサイトになることができました。

清算か存続か。社運をかけた最後のプロジェクト「MAMORIO」

しかし成長していく落し物ドットコムとは裏腹に収益化の目処は一向に立たず、設立した会社の預金残高は減っていくばかり。いよいよ事業停止のカウントダウンの日も近づいていきます。

落し物をして困っている人がいるのに自分はこの課題を解決できない。自分がやっていたことは間違ってたんだろうか….…。

自信をなくしかけていたそのとき、海外のニュースサイトでBluetoothを使った製品が話題になっていることを見かけました。そのころから多くのスマートフォンで搭載されはじめた、当時では新しい通信規格でした。そのBluetoothの規格を使い、スマートフォンを使って小さなおもちゃを操作している製品がクラウドファンディングで注目され、多くの資金を調達していたのです。

「これだ!」

頭のなかに電撃が走りました。

「Bluetooth規格を使った小さなタグを大切なものに忍ばせるだけで、スマホで無くした場所を確認できるようにすれば、物をなくさなくなるかもしれない」

創業から2年以上が過ぎ、いよいよ資金も底をつきはじめます。資金難から入居していたオフィスの退去も決まり刻一刻とタイムリミットが近づいてきました。

これが、最後のチャンス。もしこれがうまくいかなければもう会社をたたもう……。Bluetoothを活用した落し物防止タグの開発は、まさに社運をかけた最後のプロジェクトでした。

悩み抜いて生まれたMAMORIO。ヒントは日本の「お守り」

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私は落し物ドットコムを運営するなかで、ある考えをもつようになりました。それは「落し物はいつどんなとき、誰にでも起こりかねない。だからこそ、誰しもが簡単に使えるようなサービスであるべきだ」。という考えです。その考えは、新製品の開発にも活かされました。

つまり、「たとえITに詳しくない人でも多くの人が簡単に使えるようにしなければならない。そのためにはとにかく、シンプルにしよう。なおかつ、できる限り小さく、世界最小サイズを目指そう」と。

開発チームでは日々、どこまで小さくできるのか、電池容量は解決できるのか、実用性を損なわないかなどの検証が続きました。

何回もの試作検証を通じて、製品仕様の目処がたちます。そんななか、いよいよ最後の最後まで決まらず頭を悩ませたのが、製品の要とも言える「製品名」と「デザイン」でした。どんなに優れた製品であってもデザインや製品名が魅力的なものでなければ、人々に使ってもらうことはできません。

何個もの試作デザインを繰り返し、会議は日々何時間にも及びました。

いくつもの案が出ては消え、あたりが真っ暗になったそのとき、ふと私の頭のなかに成功祈願のために訪れた神社で見た“あるもの”が脳裏に浮かびました。

「日本が誇る伝統文化のお守りをモチーフに、物につけているだけでなくさない安心を与えることができる新しい時代のお守り…。落し物が戻ってくる日本文化を世界に発信していくという思いも込めて『MAMORIO』はどうだろうか?」

この意見によって、満場一致で「MAMORIO」に決まりました。名前と仕様も決まり、あとは製品化に向けて動き出すのみ。とはいえ、製品の量産には膨大な資金が必要です。もはやこのとき、会社には十分な資金がありませんでした。

そのため、MAMORIOを実現するべく、話題になりはじめていたクラウドファンディングに賭けることにしたのです。

2014年9月。製品化への望みを託して、MAMORIOのクラウドファンディングを開始しました。果たしてMAMORIOは人々に受け入れられるのか。おそるおそるサイトを覗きます。

「この製品はおもしろいね」「絶対欲しい!」「社会を変えるかも!」「財布につけたい!」

結果、プロジェクトはなんと目標金額を3日で達成。最終的には想定していた金額の2倍、300万もの金額を調達することに成功しました。

本当にありがたかった。「僕たちはまだチャレンジできる」と、メンバーは目から涙をにじませて喜びをわかちあいました。

こうして社運をかけた最後のプロジェクト、MAMORIOはなんとかスタートを迎えることができたのでした。

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