日本人であることを、自分の強みと決めた留学時代

大橋 「社会人になりたての頃は、まだ若くて世間知らずだったので……。これからの時代は留学して戻って、マーケティングと英語のスキルを身につければ、好きなところで働けるんじゃないかと思っていました(笑)」

こう当時を振り返る大橋ですが、大学時代は商学部に在籍し、学問としてのマーケティングに触れていました。休暇中には、好きなワインを求めてヨーロッパのユースホステルを回っていたこともあり、3年生のころに「いつかは留学して、MBAを取得しよう」と決めていたと言います。

大学卒業後は新卒として商社に入社。その後、2年間のキャリアを積み、迷うことなく会社を退職。イギリスの大学への留学を果たしました。

大橋 「新卒で入社した会社を辞めて留学することに決して迷いはありませんでした。将来は何が起こるかわからないので、もし後悔するようなことがあっても、自分で決めた道なら、納得もできる。そういう想いの方が大きかったです」

ただ、入学したイギリスの大学院で大橋は「上には上がいる」ということを痛感させられます。自分の数倍の速さで論文を読み、また執筆する人たちが何人もおり、そのなかでもディスカッション能力に長け、優秀な人材はごろごろいたのです。

大橋 「今から同級生たちと同じ土俵で戦うのは、あまりにも無謀だと思いました。では一体、自分が彼らに勝っているところはどこなのか。彼らとも対等に戦える土俵はどこにあるのか。自問自答を繰り返す日々が続きました」

その中で出てきた答えは、シンプルにも「自分が“日本人”である」ということでした。日本語ができる自分にとって、日本の文化も含めて、自分が学んできたことを英語に置き換えられることが、何よりも強み。

マーケティングをやっていく上で、これが武器になるだろうと考えたのです。この考え方は、2019年現在の大橋の仕事にも、大いに生かされています。

大学院卒業後も、1年半ヨーロッパで過ごした大橋。帰国後は国内大手BPOの会社に就職し、当時まだ日本で馴染みの薄い「音楽配信サービス」の立ち上げに参加するなど、さまざまな新規事業に関わっていきました。当時は、コンペに負けても食らいついていくアグレッシブさで、経験を積んでいったと言います。

大橋 「僕自身、自分が貢献できる場所で働きたいと思っていたので、良い会社に入りたいというより、入ったところを良い会社にしたいという思いが強いんです。また、10を 100にする仕事よりも、ゼロをイチや 10にする仕事の方が好き。だから、新しいことにも前向きに転びながらもチャレンジしていました」

黎明期:テレプロスペクティングサービスの垂直立ち上げに奔走

マーケットワン黎明期の2008年にマーケットワン・ジャパンに入社した大橋。当時はテレマーケティングサービスを外資系企業の日本法人を中心に提案していました。

しかし、いくらアメリカでは主流のサービスであっても日本法人の担当者には響かず、予算を削られる日々……。それを日系企業に提案しても「それは(社内の)営業の仕事だ。なぜ、それをアウトソースするのかわからない」と門前払いされる日々でした。

当時のマーケットワンのテレサービスの多くは、ハイタッチモデルといわれ、上場企業を中心とした役職者に対してコールドコールをするサービス。なおさら日系企業にとっては自社で担うものという考えが強く、抵抗感がある状態でした。

大橋 「当時、日本でハイタッチモデルのコールドコールを売っている会社はマーケットワンくらいしかありませんでした。それくらい先進的なサービスだったのです。顧客はインサイドセールスは理解していましたが、私たちのテレプロスペクティングの概念を説明しても、理解を得ることが非常に難しかったんです。
日本ではコールドコール自体が失礼にあたり、日本の社会には根付かないものだと思われてしまっていたんです。正直、心が折れかけていた時期もあったと思います」

そんな時、日系の大手メーカーが「グローバルのプロジェクトなら」ということで声を掛けてくれます。それは、海外のテレマーケティングプロジェクトにおける海外調査のプロジェクトでした。その後も同様の案件が舞い込み、海外調査で売り上げを上げる日々が続きました。

そうこうしている内に、日本にもテレプロスペクティングの競合他社が台頭するようになります。過去に「テレプロスペクティングとは何か?」を説明してきた顧客からの反応が「他社のサービスと何が違うの?」という風に次第に変わっていったのです。

大橋 「早くからテレプロスペクティングを行ってきたマーケットワンにとって、他社との違いを感じてもらうことは容易でした。他社ではできないハードルの高いプロジェクトをいくつも成功させることができ、おかげさまで顧客も 100社以上に増えました」

テレプロスペクティングの概念説明から顧客を説き続け、キラッと光った隙間に飛び込み、自らが入り込む間口を広げていく。こうしてマーケットワン・ジャパンのテレマーケティング事業は約3年をかけて立ち上がってきたのでした。

成熟期:時代はデジタルマーケティングへ──

その後もテレマーケティング事業の責任者として現場の最前線に立ち続けてきた大橋。2011年から日本市場でサービスを開始したマーケティングオートメーション(MA)ツール導入支援サービスをきっかけに、デジタルマーケティングの世界へとフィールドを拡げます。

大橋 「その頃はテレマーケティングの事業が立ち上がったとはいえ、マーケットワンの US本社も日本市場は手探り状態だったので、デジタルマーケの可能性があるかどうかを検討していた段階でした」

販売はできても、サービスを回していける体制が十分でなく。そこでマーケットワン・ジャパンとして、2012年に新たに立ち上げたデジタルマーケティング部門を、大橋が統括することになったのでした。

そこから数年間、大橋は、セールスとして新規顧客の開拓に励むとともに、一方でデジタルのコンサルティング部門の立ち上げにも奔走。自身がシニアコンサルタントとして、アメリカと日本を行き来しながら、デジタル&コンサルティング部門の礎を築いていきます。

大橋 「当時はまだ、サービスにおいて、日本にマッチする部分、しない部分があることを認識しながら、ひとまず立ち上げた感じです。現在はサービスも進化し、着実に社内の人材も育ってきましたので、僕自身は新しいサービスの開発や、コンサルタント領域に重きを置けるようになっています」

自社の組織を見ながら多くの企業とも接点を持つ大橋ですが、実際にこの仕事を始めてから、気づいた日本企業が自社のマーケティング活動を捉え直すことで生まれる、さらなる可能性を示唆します。

マーケティング活動を行うにあたっては、企業のマーケティング部門が、経営や営業に、予算も含めたマーケティング活動の協力を要請するのが通例です。大橋は、その大本となるマーケティングプランをつくる部分が十分でないと感じています。

大橋 「最終的にはクライアントのマーケティング部門が、経営や営業に向かって発信し、納得できるプランを構築することが必須。そこを動かすために不足しているリソースやスキルを提供することが、僕たちの本来の役割です。社内に戦略を納得してもらうだけの材料をそろえ、プランづくりをサポートすることで、日本企業のマーケティング活動は、さらに実のあるものになると考えています」

テレマーケティング、デジタルマーケティング双方の事業を立ち上げ、お客さまに対してソリューションを提供し続ける大橋。彼が目を輝かせながら語る未来、それは単なる目の前の顧客のプロジェクト完遂だけではありません。そこには、これから日本企業が見据えるべきマーケティングとの付き合い方があると考えています。

そして拡大へ──。マーケティングの文化を日本に根付かせたい

マーケットワンのお客さまに対して何をソリューションとして提供するべきかを常に考え、現在はメンバーの育成にも注力する大橋。しかし日本企業のマーケティングをさらに活性化させるためには、まだまだやらなければいけないことがあると感じています。

日本企業には、慎重に物事を進める傾向があります。これは、非効率と失敗を悪とする日本の企業文化から来ているもの。確実な方法を見いだしていくためには、良い側面でもありますが、企業変革を起こす上ではマイナスに働くこともあると大橋は指摘します。

大橋 「日本企業では、たとえば上層部が『中国にリソースを割け』というと、人は動きます。ただ指示を出す上でリスクも考慮すると、最初は少数から様子を見ようとするケースがほとんどです。これは、担当者についても同じことで、変革が必要だと思っている担当者でも、まだまだ石橋を叩きすぎてしまう傾向があります。
海外進出などの投資は、必ずリスクをともなう勝負事です。その勝負に勝つための情報を、適切なマーケティングを通して集めきれていないので、投資の判断がしづらい状況なのです。判断がしづらいから動けない、動かないから判断できないという循環を変えることが、日本企業の飛躍をさらに推し進めるものだと考えています」

マーケットワン・ジャパンの役割は、日本企業の慎重さを踏まえた上で、新しい領域にチャレンジできるよう伴走しながらしくみをつくっていくこと。海外展開を少人数から始めるのであれば、まずは5人から始め、後々10人、50人、100人と増やしていくための根拠を提示し、しっかりとしたとしくみを構築して、企業に提供することだと大橋は語ります。

大橋 「われわれは、マーケティングの可能性をしっかりと伝え、企業の経営層や担当者の皆さんが、良い判断を下せるようにしてあげなければなりません。本気で変革したいなら、僕らは喜んで背中を押します。最終的にはお客さま自身が、どうありたいとのビジョンを持っているかが重要になります。そしてそのビジョンを設計図にできるのがマーケティングです。
われわれはマーケティングの可能性を伝え、マーケティングを活用する文化を根付かせること。マーケティングを軸に企業を組織を営業を変革することができると信じています。それがわれわれの役割だと思っています」

「日本人である強みを生かす」と決めた、あのイギリス大学院時代──当時の想いを日本の企業の可能性に投影する大橋。変革を実現するためのマーケティングを最前線でけん引する大橋の姿には、変わらぬ日本への想いが息づいています。