広い視野でマーケットを注視し、意思をもって行動を起こす

日本企業がさらに成長するためには、今以上にマーケティングを有効活用しなければなりません。その可能性を広げる上で、より重要になるのが、マーケティング自体のとらえ方、いわゆる概念的な部分です。

大橋 「まずは『マーケットを見る』ところを強くする必要があると思います。現状、日本企業にとってのマーケティングは、今ある顧客を失わないこと(リテンション)に関心が向いていることが多いのに気づきます。そこに留まらず、むしろ既存顧客以外の市場ニーズに視野を広げていくことが重要です」

成熟産業では、目の前の顧客のニーズに100%答えることがビジネス拡大の解とされていることが多いのが現状です。ただし、次のステージに進むためには、その外側にあるニーズにも目を向け、自社の製品が戦っていけるかどうか、何をしたら戦えるのかを考えることが必要になります。だからこそ、広い視野でマーケットを見るところから始め、市場を拡張していくことを検討しなければならないのです。

また、マーケット(次なる市場)が見えると、次は行動のステップに入りますが、ここにも日本企業にとっての課題が潜んでいます。

たとえば、中国に進出する場合、メーカーであればコストやスピードを考え、中国でモノをつくる判断をしなければなりません。ただ企業内には、中国語を話せる人もいなければ、中国での工場の立ち上げ方を知る人もいない、というケースもあるでしょう。

まして、現地生産で製品の品質を担保できるノウハウもないケースがほとんどです。自分の担える範囲を考えると、適応できるのは既存顧客のみという結論に戻ってしまうことが少なくありません。

大橋 「いくらマーケティング活動を進めても、行動が伴わなければ意味がありません。事業を成長させるためには、やはりモノを売ることが重要ですので、マーケティングが切り離された機能ではなく、そこを起点に経営判断をし、戦略に落として実行に移していく。それを、意思をもって推進していく力が、今の日本企業には必要です」

マーケットワン・ジャパンの役割は、経営層が判断できる情報を提供し、実行部隊には、事業を動かすための機能を提供していくことなのです。

ゴールを見据え、それぞれの企業に適切なベストプラクティスを提供する

一方で、こうしたマーケティング活動を通して、新しいチャレンジを進める上では、日本特有の課題も存在します。日本企業は、企業成長のための大胆なM&Aやリストラクチャリングを行う文化、DNAは非常に少ない傾向にあります。また突出したことをやるよりは、組織内の均一性を保ちたいという風土もあります。この側面を急激に変えていくことは難しいでしょう。

大橋 「ただおもしろいのは、ひとつの事業部が前に出ると、他の事業部も動き出すことがあります。組織バランスを重視する意識の高さからでしょう。こういう企業の習性を逆手にとって、うまく動かしていくのも、われわれの仕事です」

だからこそ、まず行動することが大切。正攻法で攻めても動かないのであれば、ゴールはそのままに見据えながら、手法を変えてアプローチする。2年でできるところを5年かけてコツコツ進める選択もあるというように、ゴールに至る道筋を各社に合わせてパッケージすることで、動きやすい環境を提供するように努めているのです。

大橋 「ベストプラクティスは 2年だったとしても、5年かけて実行することがその企業にとっての解であれば、その意見を尊重するのもひとつの選択です。結果として 100ではないものの、30であれ 70であれ、動いたのであれば、その会社にとっては、それがひとつの正解。まったく動かなければゼロですから。
お客様はよくベストプラクティスの事例を知りたがります。しかし、野球を始めたときに全員がメジャーリーガーを目指しているわけではないでしょう。それと同じで、僕は今いるステージや目的に応じたベストプラクティスがあるべきだと思うんです」

「世界一のマーケティングを駆使して、世界一の企業を目指しましょう」と理想論を語るのではなく、日本一を目指す会社には日本一になるマーケティングを提供する。その会社の実力や文化、リソースも含め、そのゴールを企業自身が納得でき、実現できることが成功なのだと考えています。

企業自身が、痛みを伴ってでも改革をする覚悟をもつ

BtoBマーケティングフォーラムにてマーケティングの可能性を語る

マーケティングの考え方や手法を用いて企業に行動を起こしてもらうために、もうひとつ大橋が重要視していることがあります。それが「イノベーションのジレンマ」からの脱却です。

大橋 「日本企業は、破壊的イノベーションよりも改善的イノベーションが得意な傾向があります。マーケティング活動は、基本的には新市場開拓が目的なので、市場に合わせて自分を変えていかなければなりません。既存の市場でナンバーワンだと安心していては、足元をすくわれます。それを理解していただくのも、僕たちの役割です」

既存製品の品質が優れていても改良やコストダウンだけに気をとられるのではなく、新たなものを生み出すことが必要なのです。売り上げが伸びなければ、効率化を求める方向に力を働かせるだけではなく、新たな市場や製品開発へのチャレンジを行う意識へと変革こそが、中長期的な時間軸での“効率化”であり、新たな成長につながると考えているのです。

大橋 「その意味で、これまで新しい市場の開拓を積極的に行ってこなかった企業にとっては、マーケティング自体が新しいものになるでしょう。新しいことは、非効率なので経営、開発、製造、営業すべてに負担がかかります。だから、費用対効果の中で、結果が出ないことを恐れてしまう。もう一段階成長するためには、その意識を変えなければならないと思っています」

日本企業には今も、顧客の要望に応え、共に成長するという考えが哲学として染みついています。それは、良い面でもありますが、市場の拡大を狙うのであれば、こうした固定概念に対して異なるアプローチをとる必要があります。大橋が、時には顧客に厳しい言葉を投げかけるのも、こうした信をもっているからこそなのです。

大橋 「最終的には、やはり本気で変革したいかどうかが重要になってきます。ただそこはお客さま自身が決めること。リスクを負ってでも改革をする覚悟があるなら、全力でサポートしますが、痛みも伴わず、時間とお金があれば市場が開拓できると考えているのなら、そんなに甘い話ではないですよと、はっきりお伝えしています」

グローバルで日本が生き残り、さらに成長するために

大橋慶太と代表の山田理英子

こうした日本企業の歴史や文化、そこに根付く哲学などを鑑みると、マーケティング自体が真逆のものであり、それを日本に根付かせること自体かなりハードルの高いもののように思えます。ただ大橋自身は、企業が求めていることと、マーケットワン・ジャパンがやろうとしていることは、同じことだと確信しています。

大橋 「マーケティングによる変革は、ツールを入れたら終わりという点ではなく、長期的な視野でプランを立て、継続することが重要です。だからこそ、さらにお客さまに入り込んだサービスが必要。われわれが、お客さまと同じ立場に立ち、経営判断と改革に寄り添う、共に担うパートナーでありたいと考えています」

日本企業がグローバルで生き残っていくためには、マーケティングは不可欠。ただ、それを根付かせるにはもう少し顧客の中に入り込み、苦楽を共にする必要があります。

マーケットワンが若手の育成に力を入れているのも、もう一歩、顧客の側に立てる人材を育てるため。プロフェッショナルとしての個々の力を上げ、最終的にはチームとして、それぞれの企業を支える体制をつくり上げることが、大橋の、目標のひとつでもあります。

大橋 「本当の意味でのグローバル化を進めなければ、この国自体の成長も望めません。マーケットワンは外資系企業ですので、最先端のマーケティング理論やテクノロジーの知見をグローバル規模で広く有しています。それを、日本企業の優れている側面、文化や志向に融合させ、日本ならではのアプローチでマーケティング変革、ジャパン・ウェイを実現できる企業を増やしていく。いうなれば “和魂洋才 ”で在ること。それがマーケットワン・ジャパンの使命なのだと思っています」

マーケティング自体の探究を続ける大橋自身、マーケティングに完璧はないと言います。ただ、完璧なものしかやらないのであれば変革など起こせるはずはありません。その想いが、マーケティングを完璧なものに近づける努力と、企業のチャレンジを後押しする姿勢を生み出しています。

大橋 「『どんなに苦労してでも、今のゼロを、10にでも、20にでもしたいのなら、少しでも前進したいのなら、我々も共に歩みます』そう胸を張って言い続けることのできる組織に、マーケットワン・ジャパンを育てていくことが、日本企業への貢献につながる。そう信じています」

高い壁があっても、それを受け入れた上で、ベストな選択を提示していく。日本のアイデンティティーを大切にしながら、日本企業のためのマーケティングを追究し続けるマーケットワン・ジャパン、そして経営者として組織を率いる大橋の挑戦は、これからも続きます。