“日本一のお花見”が楽しめる場所は北海道にある───桜と共に歴史を重ねる、松前町のあゆみ

昆布とスルメを使う松前漬け発祥の地であり、北海道最南端に位置する松前町には全国に誇るお祭りがあります。それが2017年に70回目を迎えた「松前さくらまつり」。約250種1万本の桜が咲き、2ヶ月に渡り人々を楽しませるーー歴史と共に木々を守り継ぐ町民の姿には、多くの人々が忘れかけた「花見」の美しさが見えます。
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松前の桜は三度咲く。 京都や大阪とつながった道南の城下町

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▲『松前春爛漫』©〜第69回 松前桜フォトコンテストより
「花見」といえば宴会を思い浮かべる方も多いでしょう。もちろん、それも楽しみのひとつですが、ゴールデンウィークごろから5月の半ばまで「松前さくらまつり」が行われるこの松前町では、「花見」の趣が他の場所とは、すこしちがいます。

なにせ桜のシーズンが2ヶ月近くも続くのです。

祭りの期間中には、特設会場で松前の特産品が食べられる物産フェアや、地元の青少年と警察音楽隊がコラボレーションした演奏会、ラジオの公開録音などのイベントが行われますが、やはり見どころは“満開の桜たち”。

松前は道内でもとても温暖な地域で、同じく桜の名所といわれる青森県の弘前市よりも開花がさらに遅く、よりたくさんの桜を楽しめます。

みなさんがよく目にする桜の品種・染井吉野(ソメイヨシノ)は、開花から1週間もすると散りはじめます。北海道で有名な五稜郭公園の桜も、ほとんどが染井吉野ですから、見頃は限られてしまうのです。

一方で、この松前公園には約250種1万本の桜があり、早いものは4月上旬に咲きはじめ、遅いものでは5月に入ってから満開を迎えます。訪れた人が誰でも見られる公園に咲く品種の数としては、国内のお花見スポットで確認した限りでは、おそらく日本一ではないでしょうか。

私たち松前の町民は、早咲き、中咲き、遅咲きと呼んでいますが、時期をずらして「松前の桜は三度咲く」と、まずは知っていただけたらうれしいです。

そんな松前と桜のお付き合いは、江戸時代の松前藩にまでさかのぼります。

現在の滋賀県にあたる「近江」の商人たちが、城下町である松前に店を構えたことがはじまりです。彼らは北海道から東北、北陸を経て、京都・大阪へと船で向かうなかで、寄港地ごとに販売と仕入れを繰り返す「諸国産物回し商法」によって莫大な利益を得ていました。

その「北前船」の商人や参勤交代の藩士、京都から嫁いできた奥方たちにより、近江や京都を中心とした各地の文化が松前にも運び込まれてきました。そして、彼らは思い入れのある各地の桜を持ち込み、松前の地に植えはじめたのです。本来は山桜しかなかった松前。しかし、温暖な気候も手伝って、桜だけでなく椿や竹なども根付いていったのです。

ーーやがて江戸時代の終焉と共に、松前は本州との交流拠点を函館に譲り、町は静かな佇まいに変わっていきました。

暮らしも貧しくなり、町民たちの心まで貧しくなっていくなか、町役場の職員だった鎌倉兼助さんが函館公園での盛大な花見を目にします。

そこで、松前の桜を接ぎ木で増やしていくことで、町に元気を取り戻そうと活動をはじめました。一時は戦争で中断しながらも、鎌倉さんは植栽を続け、松前の桜はいっそう華やかになっていったのです。

松前さくらまつりの第1回は戦後間もない1947年だった

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▲1953年(昭和28年)のお花見売店

鎌倉さんが増やした桜を町民たちは大切に思い、守り、育てるようになりました。彼らは「花守」と呼ばれ、松前の桜を絶やすことのないよう活動してきたのです。

2017年現在も、松前町商工観光課をはじめ、町民を中心とした「松前花の会」が、本業の傍らで一生懸命に手入れをしています。なかには、親子二代で花守をする人も。

定期的に剪定をしたり、病気になった枝を切ったりと、手入れをしないと桜の花付きは良くなりません。夏や冬場に手入れをし、春先には接ぎ木をしてさらに桜を増やしていきます。

たとえば、「松前さくらまつり」の会場内にある光善寺境内の「血脈桜」。この桜は、樹齢300年以上といわれていますが、それほどまでに育つのは珍しいそうです。実は、「血脈桜」には、伐採されかかったところを乙女の姿となった桜の精が守ったという伝説が残っています。そのように桜の一本いっぽんに物語がある木も多くあるのです。

そうして、15年、20年という時をかけて、私たちは桜の木を育ててきました。花守たちは町民や子どもたちに桜の育て方を積極的に教え、「桜は松前の財産である」と伝えています。

町民は桜を心のよりどころとしてきたのですが、それは終戦間もないころのエピソードにも現れています。戦争で疲弊し、気持ちが沈んだ町民たちを盛り上げようと、北海道で戦後第一号となる松前観光協会が発足され、祭りを開くことにしました。第1回の「松前さくらまつり」は、戦後間もない1947年の開催です。

当時は電力不足のために民家への送電も制限されており、「ローソク送電」といわれるほどに電気が弱く、公園の電飾もうまくいきませんでした。そこで町民たちは各家庭の電気をすべて消し、公園にだけ電気を集めることで開催に無事こぎつけたといわれています。

祭りの記録には「(松前公園は)空前の人手となる」と残されています。まさに、その頃の賑わいが目に浮かんでくるような言葉です。

ある小学校の先生が、松前の桜を世界にも広めた

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▲浅利政俊さん

町民の心を癒やし、シンボルとなってきた松前の桜を語るうえで外せない人がいます。昭和20年代から松前町立松城小学校に教諭として赴任した浅利政俊さんです。

桜の研究家でもあった浅利さんは教職を務めながら、全国から桜を集め、品種改良によって松前独自の桜を育てていきました。公園内の桜の名前に「松前」とつくものが多いのは、浅利さんが100種類以上の桜を生み出してきたからです。

浅利先生は松前で育てた桜をこの場所にとどめるだけでなく、全国に広げて、さらには国際的にもイギリスやアメリカなどにも送りました。公園内にイギリスとの桜を通じた親善記念碑が置かれているのも、その活動があってこそ。世界のどこかで咲いている桜は、松前生まれのものだったのだと思うと、どこか感慨深いものがあります。

さらに、浅利先生は教育の現場にも桜を活かしていました。小学校でも「松前桜保存子ども会」をつくり、「松前に誇りを持ってほしい」という想いを込めて、子どもたちと共に桜の育成も行いました。桜を集め、交配させ、新種を育てる実験を続けてきたのです。

2017年現在、公園内に「桜見本園」として多くの木々が植えられている場所は、浅利先生と子どもたちの“実験場”として作られた場なのです。

なかには、町民と浅利先生の結びつきを思わせるエピソードがあります。

ある新種の桜に「麻美」という名が付けられました。松前桜保存子ども会で人一倍熱心に桜の世話をしていた漁師がいたのですが、彼が27歳の若さにして海難事故で亡くなってしまい、その際に、浅利さんが彼の愛娘の名前を桜に命名したのだそうです。

さらに、園内の桜にかけられた木札には、あちこちに「卒業記念」と書かれたものがあります。子どもたちと生み育てた桜を、町民の花守たちが守っている証です。

松前に帰ってくると自分が育てた桜がいつも咲いているーー。

そんなふうに、松前の桜は町民にとって自慢になる存在となっています。

この町でしか味わえない、歴史と桜を感じる

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▲『春の息吹』©〜第69回 松前桜フォトコンテストより

今でも、浅利先生の教え子たちが桜を見に訪ねてくることがあります。2015年、2016年と桜に関するセミナーを先生と開催したのですが、浅利先生は成長した子どもたちの顔をひとりずつ覚えていて、交流を持っていました。

直接伝えてはいなくても「あのときに植えた桜がこんなに大きくなったんだ」と目にすれば、きっと日本の、世界のどこにいても、春になるたびに松前の景色を教え子たちは思い出すことでしょう。

子どもから大人まで、みんなで守り、伝えている「松前さくらまつり」。最近は海外からのお客さんも増えています。松前は函館の近くということもあり、観光がてら立ち寄る方もいますが、「松前の桜を見てみたかった」「以前は早咲きだったから、今回は遅咲きを見たい」と、桜を目当てにお越しいただけることは、私たち町民にとってはこれ以上ない喜びです。

年々と来場者も増えていて、2017年の第70回は前年を上回る多くの人が足を運んでくれました。道南では伸び方としてもめざましく、みなさんが松前でしか味わえない桜を楽しまれていることの表れかと考えています。

かつて江戸時代、松前は城下町として栄え、北方警備の要となった歴史があります。松前城は日本で最後の日本式城郭で、北海道唯一の城となりました。さらにさかのぼれば、京都で公家の若者であった花山院忠長が島流しを受けて来た際に、当時の殿様が手厚くもてなしたことから、後に松前藩主のもとに公家から5人もの奥方を迎えたという逸話も残っています。

このように、歴史好きの方にも、見どころのある話や資料があるのは松前の魅力のひとつだと思います。

多くの桜が花を咲かせるようになった歴史と、それを守る子どもたちや町民の誇りがあるからこそ開催できる「松前さくらまつり」に、ぜひいらしてください。

あなたの街のお花見シーズンが終わったころから松前町は華やぎますから、「今年はお花見できなかったな……」という方にもぴったりです。雪のような白から鮮やかな紅色まで、色とりどり、形もさまざまな桜のもとで、お花見をしてみませんか。

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