最新技術と職人技はこうして融合される。ミリメーターのモノづくりの全貌とは

フルオーダー靴の価格のボトルネックだった靴型づくりを3D技術で超効率化。一方で、足の状態を診たり、靴そのものをつくったりする工程は職人技を駆使。製品の完成度を高めるだけでなく、「日本の技術」の継承の場としても機能するミリメーターの靴づくりを、代表取締役社長・粕谷孝史が紹介します。
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3D技術でフルオーダーメイドをもっと身近な存在に ITが叶える“靴型代無料”

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▲オリジナルの3D計測器。精緻な足のデータを取得し、これまで以上にフィットする靴づくりを可能にします

フルオーダーメイドのパンプスを履くことに憧れない女性はいないでしょう。しかしなぜ“憧れ”にとどまってしまうかといえば、その金額です。ジミーチュウなどのハイブランドの靴の2倍以上することも珍しくありません。

しかし私たちミリメーターでは、65,000円からご提供しています。そのカラクリに大きく関わっているのが“IT”です。

私たちのお店では、まずお客様の足全体を、3Dスキャナーで丸ごとスキャンしてしまいます。紙と定規と鉛筆で計測をしていたこれまでのオーダーメイドよりも、飛躍的に詳細な情報を、速く確実に入手できます。

また疑似ヒールに立ってスキャンすることで、ヒールを履いた状態の踵や足裏のアーチを把握することができるのも特徴です。このスキャナーは弊社で独自に開発し、特許を取得したものです。改良を重ね、2019年2月現在、6世代目になりました。

続いて、このスキャンデータをもとに、独自の変換処理技術を用いてCADで靴型の形状を設計します。靴づくりとCADの両方を理解する靴型デザインエンジニアが、このお客様の足ならば、ここをこういう風にあえて締めつける・ここにゆとりをもたせる、といった調整を加えて、一人ひとりの靴型データを作成します。

設計の完了後、靴型を3Dプリンターで出力します。靴づくりに必要な強度を保ちながら軽量化を実現するため、100近い設定を厳密にチューニングしています。また、ハンマーで打ち付けられてもびくともしないよう、靴型のなかはハニカム構造を採用しています。

これまでのオーダーメイド靴には、この靴型(木型)づくりに大変な労力がかかっていました。専門の職人が、彫刻と同様にノミを使って木塊から削り出してつくるのです。

またこういった職人を自前で抱えることができる企業は少なく、外注に出すことでさらに時間とコストがかかる構造でした。

私たちはこの工程をデジタル処理で代替することで無料化し、飛躍的なコスト削減に成功したのです。

また、このデジタル処理は、“一足の靴づくりを良いものにする”にとどまらない可能性を秘めています。たとえば計測と変形のデータを集め学習することで、スキャンさえすれば靴型を自動的に算出できるようになるでしょう。

また、あらゆる靴型をデータベース化して提供することで、どのような靴工房・靴メーカーでも“今欲しい靴型”を取得できるようになるのではないか、と考えています。

靴づくりは「上半分」から 超ベテラン職人の熟練の技が光る

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3Dプリンターで完成した靴型は、職人に引き継がれます。ここで登場するのが、80歳を超えても最前線に立ちつづける技術顧問の酒井満夫です。

酒井はまず、鉛筆を手に取り、靴型へ靴の甲・履き口の形を描き入れます。お客さまの足を触ることで足の柔らかさや健康状態を把握しているメンバーの意見や、靴型を設計したスタッフの思いをくみ取りながら、お客様のデザインイメージに調整を加えます。

最近では、「これまで大切に履いてきた靴の復刻版」をオーダーされることが増えてきました。こういった場合は実物をお借りし、忠実に再現するようデザインパターンを書き起こします。

次に型紙をつくります。靴型にマスキングテープをみっちりと貼り付け、テープの上から透けて見えるデザイン線を写し取ります。すべての線を写し取った後、テープをそっと外して広げると、2次元の「型紙のもと」ができあがります。

この型紙のもとから、本格的な型紙を作成します。型紙の種類はデザインにより異なり、プレーンなパンプスなら1枚ですが、コンビやパッチワークなどパーツが多いものでは、複雑さに応じた枚数が必要になります。

続いて革をカットします。型押しやプリントなど、表情のある革の場合は、目立つ部分の表情をイメージしながら型紙を配置します。型紙どおりにラインをとったら、後続作業で必要な幅の余白を残しながら、革包丁でカットしていきます。

後続作業は、パーツにより「折り込む」「貼りあわせる」「吊り込む」と3種類があり、その作業によって適切な余白の幅が異なります。カット用のラインを書いてからカットする職人もいますが、酒井は長年の経験から、ラインなしでもミリ以下の精度をもって、狂いのない幅でカットしていきます。

また、カーブが美しく出るように、履き口の折り込みには、等間隔に切れ目をいれていきます。

型紙に合わせてカットした革のパーツを一つひとつミシンで縫い合わせると、上半分が完成します。酒井がミリメーターの工房に持ち込んだミシンは30年間一緒に働いてきた愛機ですが、百貨店へのポップアップ出店のため可動式になりました。

ポップアップ店舗では、ぜひこの歴史のあるミシンもご覧いただきたいと思います。

緻密さが問われる「下半分」の製作。“お化粧”を終え、いよいよ“靴”に

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靴の下半分をつくっていくにあたり、まずは足が触れる中敷きと、靴を下から見たときにみえる本底のあいだにある、「中底」からつくりはじめます。

作業をひとことで言えば、中底の形に切った革と厚紙を靴型に貼りあわせるだけなのですが、大きな工場と違って手作業でおこなう私たちには、なかなかの力仕事です。

硬く平らな中底を靴型のカーブにぴったりと添わせるためには、糊が乾くまで固定しつづけなければなりません。大変強い力をかけながら自転車のゴムチューブでぐるぐると巻きつけていきますが、途中で切れてしまいやり直しとなることも。

全体重を預けるくらいの力を必要とする作業のため、職人たちはユーモアを交えて「エクササイズ」と呼んでいます。この状態で丸1日を置くと中底が靴型になじみます。

中底が安定したら、上半分とつなぎあわせ、靴の形にしていきます。2次元の革がみるみる3次元に変わっていく様は、靴づくりの中で最もドラマチックな工程と言われます。

上半分を靴型にのせ、靴型の裏へまわしこみ、専用の糊と釘で固定していきます。

パンプスの横部分はおおむね平らなので、そのまま打ちつけることができますが、つま先と踵は、革を引っ張ったりひだを寄せたりしながら形をつくる必要があります。

ここで注意するのは、革の性質に応じて力加減を調整することと、左右をぴったりと同じに仕上げることです。人間の目は非常に精巧で、左靴と右靴の履き口のラインが1ミリずれただけでも、はっきりと違いをとらえてしまいます。ブーツの筒の高さも同様です。

こういった点から、吊り込みはもともと難しい工程です。ミリメーターではお客様一人ひとりの足に厳格に合わせる靴型を実現したために、職人たちは「段違いの複雑さだ」と言います。

吊り込みが終わるとヒールと本底の取り付けの工程に入ります。ヒールと本底のどちらを先に取り付けるかは、デザインによって選択しますが、ヒールが先・通称「まくり」が主流です。

まくりは、本底がそのままかかとの前部分につながっているタイプで、比較的強度が高いとされています。

ヒールにはこだわりをもつお客様が多く、デフォルトで3㎝・5㎝・7㎝、それぞれ太いものと細いものをご用意していますが、特注となることも多々あります。

最後に中敷きを入れ、糊をとる・ブラシをかけるといった仕上げ作業をおこない、靴の完成です。仕上げ作業は“お化粧”とも呼んでいて、お客様に一番美しい姿を見ていただけるよう、心をこめて送り出します。

工房の隠された役割は「次世代への技術継承」

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▲2019年3月末まで開催中の有楽町マルイでのポップアップ店舗では、職人技を目の前で自由にご覧いただけます

ミリメーターには、社員のほかにも、繁閑に応じて参画してくれる腕のたつ職人が何人もいます。こういった職人たちは、酒井がいるならば参画したい、と手を挙げてくださった人々で、非常に有意義なネットワークが形成されています。

日本の靴業界は工程ごとに分断化されていて、靴づくりの全行程を扱える職人の存在はまれです。

高齢化が進んでいることから、「次の世代への技術継承」は業界全体の願いなのですが、靴職人志望の若者に伝えられるのは、その工房やメーカーが請負っているごく一部の技だけというケースが大半です。

さらに中小規模の企業が多く、新たな人材を雇用するのが難しい場合も考えられます。こういった背景から、遠くない将来、日本からなくなる技術もあるのでは、と危惧されているのです。

一方、ミリメーターは、全工程をひとつの工房で請け負っています。そして熟練のベテラン職人が集まってきます。靴職人を志す若者には、これ以上ない勉強の“場”であり“機会”なのです。

私たちは今後、このデジタル技術を用いた3D計測器を全国、ひいては世界に設置したいと考えています。これが実現できれば、フルオーダーメイドサービスはもっと身近なものになります。

世界中からのオーダーが、この日本のこの工房に集まることで、靴職人に全行程を扱える仕事を多数生みます。結果技術継承が進み、若手職人が次々と育成されるはずです。

ITは決してヒトから仕事を奪う存在ではなく、ヒトにしかできない仕事を生み出す、そういう道具であるはずだ、と私たちは考えています。

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