世の中にまだないモノをカタチにしていく――「壁だらけ」の現実を技術で突破する

新しいモノをつくる。将来像をカタチにする。そこに生まれるのは壁だらけという現実。その壁を乗り越えるためのすべ、「モノづくり」で多くの人の願いをかなえるモノを届けたいという想いを、ミリメーターテクノロジー統括の諏訪部梓が語ります。
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「絵に描いた餅」を「食べられる餅」に変えられる時代が来た

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▲上位から下位までの全レイヤーについて、いわばフルスタックの知識と経験をもつ諏訪部だが、一番好きなのはやはり「モノづくり」

代表の粕谷孝史と取締役の井黒帯明とは前職が一緒で、彼らが社内ベンチャーを目指していたことは知っていました。

もともと粕谷とは面識がありましたし、ちょうどそのころR&Dの部門にいて、「3Dスキャナーと3Dプリンターを使って何かやってみたいね」という流れの中で、彼らの木型をつくる実験に顔を出したりもしていました。

けれども、内心はかなり懐疑的だったんです。コンセプトはおもしろいけれども、「じゃあ誰が靴をつくるのか」「そもそも3Dプリンターの木型で本当に靴がつくれるんだろうか」など、IT以外のモノづくりの部分が「絵に描いた餅」すぎる、と。

だから、2年後に共に働くことになろうとは、つゆほども考えていませんでした。

ミリメーターに入ることを決意したのは、実験からしばらく経って、粕谷から「試作品に対してお客さまから非常に高い評価をいただいた」という話を聞いた頃です。

最低限の技術的な課題はクリアし、いかに効率化して事業として成立させるのかを考えるフェーズに入ったんだと理解しました。

そして今の時代ならば、その「絵に描いた餅」を「食べられる餅」にすることができる、と直感したのです。

私は高等専門学校でロボット工学を学び、大学で経営情報システムを専攻した後、ITコンサルティングファームに就職、と段階的に高いレイヤーの知識と経験を積んできました。

私が上位レイヤーを触っている10年のあいだに、モノづくりに関する技術はすさまじく進み、コモディティ化を遂げました。

たとえばミリメーターの3DCADソフトは、10年前ならば300万円が必要だったレベルのものですが、2018年現在、年間8万円程でクラウド利用できています。そういった環境が手伝って、今、「Maker(メイカー/次世代趣味の工作をする人たちの世界)」が力を持ってきています。

アメリカで電子工作やモノづくりブームが起き、日本でも東京ビッグサイトのような大会場でクリエイターEXPOが開催されている。時代が追いついてきているんです。

小さな会社には少人数ゆえの苦労があることは、学生時代にベンチャー企業にいたので痛いほどわかっていました。

しかし、「自分でやってみたいことを、組織との調整をすっ飛ばして自分自身の手でやれる」それはどうしようもなく魅力的に映ったんです。30代のうちに冒険してもいいかな、という気持ちが湧き上がるのを止めることができませんでした。

将来像を現実解にしていく、それが私の役割

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▲現在5代目となる3D計測器も諏訪部が開発した。疑似ヒールを置いての計測はミリメーターならでは

私は現在、3Dスキャナーの開発・改良、3Dプリンターのメンテナンスなど幅広い業務を担当していますが、主に取り組んでいるのは3D計測器の開発です。

ミリメーターでは、お客様がつくりたいパンプスのヒール高にあわせた疑似ヒールの上に立っていただいて、その高さのヒールで立ったときにかかる負担を再現しながら足を3D計測しています。これまで靴職人たちは平面に立った状態の足を測っていたので、実は画期的な計測方法なんです。

特許を取得した初代計測器から徐々に進化し、2018年10月現在、店頭で活躍しているのが5代目になります。それまでの側面や上からの計測だけでなく、ヒールで立った状態の足裏も測ることができるようになりました。

計測器には足を取り囲むように無数の小型カメラを設置し、骨や関節も含めた足の形状を写し取ります。3D計測にはいくつかの手法があるのですが、我々は対象を複数のカメラで撮影し、同一の特徴点の認識差異から対象の場所を把握するという方法を採用しています。

しかし最初につまずいた壁は、まあ当たり前なのですが、「ヒトの足には特徴点がない」という事実でした。撮影対象を特定できないんです。

そこでさまざまな模様が入った靴下を履いて計測することを提案したのですが、靴職人の回答はNG。靴下を履いてしまうと、足指の付け根の位置がわからず、足指を見せる・見せないのデザインに対応できない、というのです。

それならば、「足指が透けて見えるストッキングに模様を入れたらどうか」「タトゥーシールを大量に貼ったらどうか」などのアイデアを出し続け、最終的に現在の「プロジェクタで点を照射してその点を撮影する」という方法にたどり着いています。

プロジェクタの利用を決めた後も、次なる壁が現れました。手元にあったPC用のプロジェクタを用いたテストは成功したんですが、実はこのプロジェクタはA4のノートパソコンよりも大きなもの。計測器に入れて持ち歩くなんてとんでもない代物だったんです。

どうしたものかと悩みつつ、Amazonでプロジェクタを見ていると、手のひらに乗る小型の「モバイル用プロジェクタ」が販売されていることがわかりました。とにかく小さくて、びっくりしたことを鮮明に覚えています。

これは後でわかったことですが、この小型のプロジェクタは技術進歩によって生まれ、安価なものとして出回っていたモデルだったんです。半導体をつくる微細化技術が進んだことで小さな回路がつくれるようになり、DLP(ランプの光を受けて絵をつくる素子)が小型化しました。

また、減価償却が終わった設備で大量生産することで、DLPの価格が下がりました。さらに、そのDLPと寄せ集めの基板を使って中国で製品化したために、最終製品価格も低く抑えられた、というからくりでした。

「これなら計測器に入れてもサイズアップ無しで行ける!」と興奮しながら購入ボタンを押しました。

「壁だらけ」の現実を打破するのは、好奇心と徹底力

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▲技術的で難解な内容を、相手の理解度に応じてわかりやすく伝えることも重要な仕事

3D計測器の開発に対しては、どうしても外せない2点のこだわりがあります。「宅配できるサイズであること」と、「徹底的に低価格であること」です。というのも、粕谷と井黒が描いた将来像を事業として成立させるためには、どちらも必要な条件だと理解しているからです。

ミリメーターは、「コンビニでオーダーパンプスを注文できる」という世界を目指しています。どのような場所にも気軽に3D計測器を設置できるようにするためには、技術者や営業担当者が現地に赴くのではなく、宅配便でぱっとお届けできるかたちを取る必要があります。

また大量の計測器を使うビジネスであるならば、1個あたりの開発コストは収支に大きな影響を与えます。

実際に自社のカメラやプロジェクタは、安価なものを使用しています。たとえば他社が一眼レフのカメラを使用しているのに対して、我々はPCにプリセットされているチャット用のカメラと同じものを使っています。画質が下がる分をカメラの数でカバーしていて、5代目ですと100台近くのカメラを使っているのですが、それでも総額は大幅に抑えられています。

同様に6台使用するプロジェクタも機能を絞り、内製化して、さらに安価にしていく予定です。照射するのは静止画なので、現在使っているDLPプロジェクタのような高度な機能は必要ありません。フィルムとレンズとLEDを用いて、必要最低限の機能を持ったプロジェクタを製作します。

また、レンズとLED、フィルムを納めるケースは、3Dプリンタでプリントしてつくります。これでコストは約1/4にまで低減できる計算です。

もちろん、ただ安価なものに切り替えればいいというわけではありません。木型をつくるという目的を考えたときの機能レベルを数値化し、それを実現するにはどのような方法が適しているのかを理数的に判断しています。

私たちは、世の中に存在しないモノをつくっています。ということは、壁だらけなんです。その壁をどう超えるか、解決方法や回り道を見出すための引き出しをたくさん持っていなければなりません。

そのためには幅広い知識が必要です。さらには、新しい分野を自分でモノにしていくことを厭わない「好奇心と徹底力」が不可欠だと考えています。

もちろんいきなり専門家には追い付けませんので、とにかく情報を集める。徹底的に調べて、うまくいく「だろう」選択をする。間違っていたら、少し省みて別のアプローチを考える。そんなサイクルを回すことで、新しいことにも臆せずに踏み出していけるのだと思っています。

願いをかなえるモノを届ける

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▲靴以外の、3D技術を用いたD2Cサービスも複数クリエイトしている。「業者に頼まずとも自分で設置できる立体看板」もそのひとつ

2018年10月現在、店頭で活躍する5代目に続き、開発を予定している6代目では、一度に両足を計測できるようになります。両足を一度に計れるようになれば、計測にかかる時間や店頭でのオペレーションが短縮されます。

6代目の完成後も、まだまだ開発に挑戦していきます。未来の計測器、7代目以降の開発コンセプトはまだ決まっていませんが、「メンバーが描く将来像を現実の世界に落とし込んでいく」という方針だけは間違いないと確信しています。

IT技術はいつの間にか進化してくれますが、靴づくりのように人の手が介在する部分は同じスピードでは進んでくれません。その隙間をどうやって埋めていくのか、それを考えるのが私の役割だと思っています。

今の仕事は、「人の願いを叶えている」という実感を得ることができるものです。

80歳を過ぎたお客様が「ペタンコの靴はカッコ悪いから、どうしてもヒールのある靴が履きたい。そうしたら、私ももっと出かけるようになると思うから」と仰っていたり、ある娘さんが「足が悪いお母さんをもう一度外に連れ出したいから、靴をプレゼントしたいんです」と仰っていたり。

女性はいくつになっても、どんな悩みを持っていても、オシャレがしたい。でもその願いをかなえるすべやモノがこれまでなかったんです。今までなかった、でも多くの人から望まれていた、そういう「未来のモノ」を今の世の中に届けられる仕事ができるって幸せだな、と思っています。30代の私の冒険は、今のところ順調です(笑)。

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