CADとモノづくり、「おもしろそう」の交差点はミリメーターだった

靴づくりの工房がある市ケ谷のコワーキングビルの3階には、ミリメーターの「IT」を担うチームが勤務する部屋があります。そこで3Dマウスを片手にCADの画面を見つめる女性が大越桂です。「おもしろそう」を追い続けた彼女がミリメーターにたどり着くまで、そしてこれから目指す未来について語ります。
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靴の世界への入り口は、CADのスキル×ずっと好きだったモノづくり

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▲3DCADによる木型(靴の型)の設計を担当しています

私の肩書きは「木型デザインエンジニア」です。お客様一人ひとりの足の計測データをもとに、どのようにしたら「快適で美しい靴」になるのかを考えながら、木型(靴をつくるための足の型)を設計する役割を担っています。

モノづくりを追い続けた私が、ミリメーターにめぐり合うまでの経歴についてお話したいと思います。

社会人としてのスタートは、AutoCADをベースとした組版ソフトを販売する、印刷系のソフトウェア会社でした。お客様と一緒にアイデアを出したり機能を組み込んだり、デモンストレーションやセミナーでお客様に普及したりする役割を、6〜7年担当しました。

そのうち、2次元から3次元に触れてみたいと思うようになり、海外製3DCADの総代理店、3DCADを使ってデモンストレーションやトレーニングを行なう企業などをわたり歩きました。某3DCADソフトの日本語版参考書を執筆したこともあります。

一方で「モノづくり」が子どもの頃から大好きで、常に私の身近にありました。革小物をつくって販売したり、趣味で靴をつくったり。趣味が高じて、いつしか「本業にしたい」という想いが強くなりました。

その後、家族の病気や介護がきっかけで仕事を見直す機会があり、東京浅草の職業訓練校に入りました。ここは日本で唯一「製くつ科」がある公共職業訓練校で、プロとしての靴づくりを実践的に学ぶことができました。

運命は、あるFacebookの投稿から動き出した

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▲左奥から、足、足の計測データをもとにつくられた木型、木型をもとにつくられたパンプス。大越は、お客様の足型から、履きやすくて美しい靴をつくるための橋わたしをしています

卒業後、今まで培った3Dデジタル技術を会社で活かしたいと紳士靴メーカーに入社し、既存の3Dシステムを研究し実用化する作業に取り組ませていただきました。

3Dで木型をつくったり、靴の型紙を自動展開したり。ときにはサンプルのない状態からパソコン上でデザインシミュレーションをしたり、CADで本底を設計したりと、幅広い研究をさせてもらいました。

しかし業界では、“木型は社の宝”として不可侵領域の扱い。「デジタルで木型だなんて簡単につくれるわけはないだろう」と、理解を得るのは難しかったんです。

逆風の中でも背中を押してくださった社長の期待に応えたいという気持ちも叶わず、経営悪化により研究は無期限停止に。それでも、いつか再開したい、という想いは私の心の奥でくすぶり続けていました。

そんなある日、運命の出会いが訪れました。

たまたま開いたFacebookで、ミリメーターの投稿を目にしたんです。足を全方位から3D計測し、3DCADによるモデリングと3Dプリンタで木型を製作する。そんなミリメーターの靴づくりの手法に、「これっておもしろい!」と感じ、すぐさまアクセスしました。

実際に代表の粕谷孝史に会い、断念せざるを得なかった紳士靴メーカーでの研究に再挑戦できる環境で仕事をしていきたいこと、それから、ミリメーターが使うCADをすでに知っていたので役に立てるのではと話したところ、「履歴書はいりませんから、ぜひ来てください!」と晴れて社員第1号として採用が決まりました。

業務に携わってみると、ミリメーターが使っていたCADソフトは、ルール化に多くの時間を必要として、月に1足程度しかつくれないことがわかりました。そこで、新しいソフトを導入するにあたり、私が指揮をとることになったんです。

前職でも使っていたソフトではありましたが、「専門家」として扱われたのははじめて。かすかな不安を抱いたことをよく覚えています。

ミリメーターでの最初の仕事は過去最大の難関

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▲自分の足の動きを確認しながら、快適な形状を模索するのが、大越流のデザイン手法

入社後最初にぶつかった壁は、ミリメーターが採用を仮決めしていたCADソフトの適正判断という仕事でした。社の方針が私の一言で変わるかもしれないと思うと、気軽に決断することはできず、2カ月近く悩み続けました。

ミリメーターでは、お客様の足の形をスキャンし、その足に合う木型を3Dプリンタで出力します。ところが、お客様の足そのままの形を出力しても、足に合う靴にはならないんです。

足よりも狭くしてフィット感を高めたり、痛みが出やすい場所は覆うようにしたりと「木型職人の技」をこめる必要があります。その操作をする際に使うのが3DCADソフトです。

3Dプリンタに「このようなモノをつくりなさい」と指示するためのデータを生成するモデリングにはさまざまな手法があり、CADソフトによって採用手法が異なります。ミリメーターの木型づくりに適した手法とは何なのかを、探る必要がありました。

最大の課題は処理スピードでした。1足の靴の形をモデリングするために、なぜ1カ月もの時間がかかるのか。それは、このソフトが木型をつくる作業に向いていないからなのか、それとも単に私のモデリングに関する習熟度が低いからなのか、慎重に見極めなければならない、と思いました。

検証を続け、導いた答えは「NO」。習熟した私に木型をつくれても、他の人が簡単にできないのであれば採用には適さない、そう結論づけました。

ところが、その後別のCADソフトを試した結果、先ほど「NO」を出したソフトに戻り、使いやすく改変する、という選択をし直すことになりました。

この行ったり来たりのステップには多くの時間を要してしまいましたが、自分の、そして会社の糧になったのではないかと考えています。今では同じソフトでも、1日に1足の木型づくりができるようになりました。粕谷から提示されている「30分に1足」という目標に向かって、さらに努力を続けています。

こういった研究活動には楽しく取り組んでいますが、ミリメーターに入社する以前とは、心構えというか仕事の進め方が変わってきたのを感じています。

以前の会社でR&Dのような仕事をする場合は、「それだけ」をしてよかったので、時間軸の制限は緩かったんです。ところが、ミリメーターのような小さな会社では、日常業務、イベントのような単発的な仕事、研究活動や海外展開の準備といった長期的な仕事、そのすべてを一度にこなさなければなりません。

さまざまな分野のスペシャリストがタスクベースで都度集まり、数多くの仕事を平行してスピーディにこなしています。私も社内外問わず多くの方とお話しさせていただきながら、今ではそれはもう毎日刺激的に過ごしています。

デジタルの効率と手の「遊び」。それぞれの良さをつきつめる

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▲2017年11月、世界発信コンペティションにて「東京都革新的サービス優秀賞」を受賞しました

ミリメーターには、「靴が好き」という共通項を持った多様な人が集っています。

数多くの小集団がうまく機能していくためにはコミュニケーションが必要というのは一般論ですが、そのベースは「リスペクト」なのではないかと感じています。背景や経験は違っても、お互いを専門家としてリスペクトしているからこそ、言いたいことを言いあい、やりたいことをやりあえ、それが次の信頼を生む。

私自身も、日々失敗を繰り返しながら研究を続けさせてもらえています。その背景にあるのもやはり、リスペクトから生まれる信頼感ではないかと感じるんです。そんな恵まれた環境や仲間たちに、本当に感謝しています。

ミリメーターは「未来のモノづくり」を掲げているわけですが、デジタルの世界と手づくりの世界の両方を見てきて、どちらか一方ではなく、それぞれの良さをつきつめていく仕事ができたらな、と考えています。

デジタルは手軽に体裁よくモノをつくるのに長けたツールですが、そこに「遊び」を加えられるのが手だと思うんです。

たとえば社会人になって最初に扱った自動組版ソフトでは、チラシをデザインする場合にも、写真・商品名・価格を画一的に効率よく配置する部分と、デザイナーが自由に表現できる部分があり、その両面があるからこそ魅力的なモノができていました。

ミリメーターでも同じ考え方が適用できるのではないか、と考えているんです。今は「こういう足にはこういう木型が適している」というようなルール化を進めている最中なのですが、これをできるだけ早く進めていきたいと思っていて。

足の測定データを読み込んだら瞬時に、そして自動的に木型の基本形ができあがり、そこに「あのお客様だったらこういうデザインがお好みだろうな」といったような感性を「遊び」で足し引きできる、そういうソフトを開発したいと思っています。

そしてそのソフトを通じて、もっと足に合う、もっと美しい靴を数多くお届けできれば、「10年前からなにも変わっていない」とやゆされることもある靴業界を、もっといい方向に変えていけるんじゃないかな、なんて考えています。

足って、動くんです。それを前提に、一人ひとりのために、痛くない、素敵なデザインの木型をつくることは、本当に難しくやりがいがある仕事です。リスペクトする仲間たちと共に、一生をかけてつきつめていきたいな、と思っています。

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