日本発の靴のオーダーメイドサービスを世界標準に。台湾進出の手応えと今後の野望

オシャレな靴は痛い。痛くない靴はダサい。女性たちの「悲しい常識」です。最新IT技術と職人技を用いたフルオーダーパンプス「Eoluna」を展開するミリメーターは、世界中の女性をそんな「常識」から解放すべく、海外展開への一歩を踏み出しました。その取組状況をお伝えします。
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すべては日本だけでなく「世界中の靴に悩む女性」を救いたいという想いから

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▲台南のインキュベーション施設の協力を得て、海外で初の計測販売イベントを開催

ミリメーターはなぜ、サービス開始からわずか2年で海外進出を決意したのか。取締役の井黒帯明はこう語ります。

井黒「パンプスを履く女性の痛みや悩みは日本に限らず世界共通のものだという仮説のもと、会社を設立する前から、日本だけでなく世界中でサービスを提供していくことを当たり前のこととして考えていました」 

いわゆる『靴売り場』では、生産や在庫の都合上、一人ひとりに合う靴を提供するほどの品ぞろえは難しいものです。 

紳士靴やスニーカーの場合には靴ひもを使って調整できるため、それでも大きな問題はなかったのですが、パンプスに靴ひもはなく、さらにヒールでつま先に体重がかかるため、合わない靴を履くと痛みがでたり、外反母趾のような足の変形が生じたりしてしまいます。

井黒「多くの女性は『パンプスは足が痛くなって当たり前』『靴に足を合わせるしかない』となかば諦めていて、婦人靴のマーケットは縮小しています。その一方、世界で販売されている靴の大半は、東南アジアや中国などで製造されています。製造方法が世界同一なので、サイズ展開の数には日本も海外も大きな差はありません。 

そのような状況を考えれば、女性の足の悩みは世界中に存在するはずです。いつ海外展開を開始してもいいように、自社で開発した3D計測器は日本だけでなく、中国やアメリカ、EU等においても特許を取得しています」 

2018年10月に台湾の展示会に参加し、また台南にある小規模な革製品の製造工場が集合した地域では、工房・メーカーを巡り意見交換や商談を行なってきました。 

海外進出の第1歩として台湾を選んだ理由を、井黒と靴型職人の島倉和也はこう語ります。 

井黒「2016年、オーダーメイドのサービスを日本で開始した直後の話ですが、日本のおもしろいサービスを紹介する台湾メディアに私たちのことが取り上げられ、多くの反応があるのを見つけました。

今回の展示会参加や商談でも幅広くご支援いただいた株式会社RINOの川内さんにその内容を訳してもらったところ、『クリスチャンルブタンやジミーチュウのような高い靴を購入しても痛くて歩けなかったりしますよね。 

もし同じ8万円を出すなら、自分の足の型でつくってくれるミリメーターのサービスの方が断然いい!』と書かれていると聞いて、台湾には大きなニーズがあると思いました。ちょっと短絡的なのですけれども(笑)。 」

もともと井黒は、日本に近い巨大マーケットとして、中国市場のことを意識していました。台湾はその中国市場の入り口となる可能性を多分に秘めていると捉えました。 

さらに台湾人は日本人と骨格が近いことも、第一歩に相応しいと考えたといいます。 

島倉「骨格が大きく異なると、靴型のモデリングにおけるわれわれの知見が不足する可能性が考えられます。つまり、こういう足にはこういう靴が合うという、ノウハウが適用しづらい、ということです。まずは日本人と似た足ではじめたい、と思いました」

足を計測中の女性に突然のプロポーズ。受注第1号は、シンデレラシューズ

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▲目の前で起きたサプライズにスタッフもドキドキ

記念すべき海外受注第1号は、大変印象的な1足となりました。展示会のEolunaブースにカップルのお客様がいらっしゃり、女性が計測をはじめたところ、男性が片膝をついて指輪のケースを差し出したんです。

島倉「突然の公開プロポーズに驚きましたね。周りのブースからも野次馬が集まってきて、気が付けばスマホを片手にした人々に囲まれていました。彼女が指輪を受け取ると、会場は拍手と歓声に包まれました。

落ち着いた後、足の計測を再開し、デザイン決め、と進みました。お選びになったのは、グリッター加工がされたピンク色の革の7㎝ヒール。パーティー用にとのことでしたが、ウェディングにもお使いいただけるデザインでした。一生モノとなるように、心をこめておつくりしたいと考えています」

お客様にとっても、私たちにとっても非常にハッピーな1足に、台湾進出の手応えをつかみました。さらに展示会での未来の靴職人との思いがけない出会いもあったのです。

島倉「若い女性3人組が展示会にご来場くださり、『靴だけでなく靴型が欲しい』と言うんです。話を聞いてみると大学で靴の勉強をしている学生さんとのこと。素晴らしい向学心と行動力!と感動しました。

この話には続きがあって、彼女たちの大学の先生と、今回メーカー巡りなどで大きなサポートをしてくださった現地の靴職人の方が旧知の仲だったんです。

そこで、靴職人の方が大学の先生を急遽会場に呼んでくださり、そのご縁で『大学で講演をしてくれないか』と依頼をいただいたり、日本でのインターンシップの相談をいただいたりと、想定外のつながりができました。こういうサプライズも現地を訪問したからこそでした」

近くて遠い?遠くて近い?現地に行ってわかった台湾の靴事情

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▲未来の職人たちへ靴型のレクチャー。キラキラした瞳に職人島倉の語りも熱を帯びます。

台南では、3日間で女性靴メーカーを中心に6社を訪問し、3社と具体的な取り組みについて会話を進めることになりました。

島倉「突然の訪問にも関わらず、皆さんとても前向きに話を聞いてくださいました。なかでも女性靴メーカーの1社は、3Dスキャナおよび3D技術で製作する靴型に大変な興味を抱いていただきました。

サイズ展開が豊富で、パターンオーダーにも対応しているこの企業は、小ロットでこだわりの靴づくりをしており、フルオーダーメイドをすんなりと受け入れてくれました。
早速、社長夫人の足をスキャンし、そのまま靴づくりのトライアルに入ることになりました。

一方で、問題に直面することもありました。日本で良いとされる靴づくりが、土地の文化や趣向によっては受け入れられないこともあることを学んだと島倉は振り返ります。

島倉「私たちはパンプスづくりにおいて、『足を適度に締め付けることで足の動きをサポートする』という考えを大切にしています。そのため、かかとをホールドする部材にはそれなりに硬いものを使用しています。柔らかいものでは締め付けが弱く、型崩れしやすくなってしまうからです。「靴に足を締め付けられる」という感覚に慣れていない台湾人にとってはその締め付けや部材の足あたりが、とにかく硬いというのです。
台湾ではサンダルやスニーカーで過ごすことが多く、柔らかい靴を履く場合がほとんどです。パンプスにもふわふわとした履き心地が好まれます。中敷きには厚めのクッションが敷かれ、かかとを硬くする芯も入っていません。百貨店の店頭でも、先が丸く、クッション性が高いパンプスばかりが並んでいます」

この経験は、今後海外に展開していくうえでの課題の気付きとなりました。

島倉「世界共通だと思っていた『良い靴』の概念が地域によって異なる可能性があることがわかり、これは今後の海外展開を進めるうえでの大きな気付きになりました。そうでなくても、フィット感は、お客様1人ひとりの数値化できない『心地良いという感覚』に合わせる要素が大きいんです。靴を履く方の好みを理解できなければ、押しつけになってしまいます。

今の私たちが考える「良い靴」がすべてではないことを念頭に、どのような靴が好まれるのかという生の声を理解して、相手の国の文化を大切にしていくことも必要だと考えています」

目指すのは「世界中で」「コンビニのように身近な」靴のフルオーダーメイド

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▲現地メーカーとの商談の様子。左から井黒、島倉、台湾進出をサポートしてくれた(株)RINO・川内氏。

今後は、さらなる海外展開を進めていきます。目指しているのは、セブンイレブンのようなビジネスモデルです。

井黒「台湾にも街中にセブンイレブンがたくさんあります。コンビニの利用方法は日本と変わりないので、どの国に行っても安心して買い物ができます。しかし、そこで働く従業員はその国の人ですし、その国の好みに合わせた商品が陳列されていたりと、日本とは異なる面もあります。
足に合う靴を提供するという私たちのサービスも、コンビニと同様の方法で海外に広めていくのが適切なのではないか、と考えています。商品を売る仕組みは共通化することでサービスの質を担保し、お客様と接する人や商品はすべて現地仕様とするスタイルです。」

もともと、ミリメーターには「伝統技術と地域の雇用を未来に受け継ぐ」という理念があります。
台湾には世界的なスニーカーメーカーの生産工場があり、靴職人になりたいと考える若者もいる一方で、工程別に分断された中小零細規模の会社が多く、必ずしも魅力的な職業とは呼べない環境です。

井黒「『これまでと同じことを続けているだけでは価格だけの勝負になってしまい生き残ることはできない』という危機感を背景に、競争に生き残るための新たな武器を探し求めている現地企業とは協業できる可能性は高いと感じました。

もちろん、海外で注文いただいた靴を日本で製造したり、その逆をしても良いのですが、それでは輸送にかかるコストや時間がもったいないです。「足に靴を合わせる」というデジタルの仕組みはミリメーターが全世界で責任をもち、「質の高い靴をつくる」という職人技の領域については、日本の靴は日本の職人が、台湾の靴は台湾の職人や靴メーカーが責任をもつ。

そのような地産地消の生産モデルを実現することで、世界中で職人の雇用がうまれ、それが結果的にオーダーメイドの靴をどんな国でも『コンビニで買い物をするような手軽さ』で手に入れられるという夢につながるのではないか、そう思っています」
島倉「その点、協業パートナーとなる職人や靴メーカーのリアルな姿や悩みを知ることができた今回の訪問はいい経験でした。まさか、こんな早いタイミングで海外に行けるとは思ってもいませんでしたが、靴づくりという共通の言語をもつ職人同士のネットワークをつくり、お互いが切磋琢磨し、良い点を吸収し合える、そういう関係を築いていきたいと思います。」

海外への取り組みははじまったばかりのミリメーターだが、その先の大陸を視野に、確実な歩みを続けています。

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